3.亮の家族
インターホンを押し、亮を呼ぶ。
「多少はマシな格好してきたか」
などと言われたが、ここで怯むのも嫌なので胸を張って言ってやった。
「美少女が来てやったんだから感謝しろよな」
「美少女なら見慣れてるがな、だけどま、お前は特別だ、いらっしゃい」
なんか一応特別扱いらしいが惚気も入ってる気がする。
この惚気ってのは亮の妹の奈江ちゃんの事だ、とても美人さんでオレの初恋の娘なのだ。
つまり、妹が美人で美少女なので見慣れてると、どんだけシスコンなんだよ、今更だけど。
家に上がってリビングに通してもらった、亮の父親である義道おじさんはおらず、マヤさんと奈江ちゃんが居て自分合わせて4人だ。
ここで亮の家族構成を紹介しよう。
上野 亮(りょう)高校2年生
オレの親友で茶髪イケメン、身長182cm、行動力がある、友達と家族思いでやさしい、モテる、シスコン、勉強の成績はオレが亮に勝てる数少ないポイントだ
上野 奈江(なえ)高校1年生
亮の妹でめっちゃ銀髪美人、オレが可愛い系に対し正統派美人とそんな感じ、髪は長く背中真ん中くらいまで届いてる、当然モテる、おっぱいは普通ぽい、オレの見える範囲だと只のブラコン
上野 真矢(まや)主婦
亮の母親でこの人もめっちゃ銀髪美人、髪は肩に届くくらい、おっぱいでっかい、優しい、面倒見が良い、料理と家事は右に出るものなしだと思う
上野 義道(よしみち) たぶん会社員
亮の父親 イケオジ、優しい
以上の4名、家族ぐるみの付き合いで小さい事からお邪魔したりお邪魔されたりして、奈江ちゃんとは義理の兄妹みたいな感じで”塁にい”と呼んでくれている。
しっかり亮が説明していてくれたのか、オレの姿を見て2人とも驚いてはいるがちゃんと塁だと認識してくれている様子。
「塁くん、大変だったでしょう?朝起きたら女の子になっちゃってて、でも大丈夫だからね♡」
「塁にい、前から可愛かった気がするけどメチャクチャ凄く可愛くなったね!、髪もさらさらな金髪なんだ~いいな~」
マヤさんは艶のある声でオレの心配と安心させてくれようとしているが、奈江ちゃんは凛とした声で見た目を羨ましがってる、いや奈江ちゃんも相当な銀髪美少女だからね。
それぞれ反応が違って面白い、嫌悪感や疎外感を感じなくて安心できていいな~この雰囲気。
そんな雰囲気のまま、雑談を交えて和やかに進んだ。
さてそろそろ本題を、という所でマヤさんが切り出した。
「実はね、私もTS症の発症者なのよ」
「エッ!?……本当ですか!?」
「今から19年ほど前に発症しちゃってね、その頃はまだ法整備や周りの環境なんかも整ってなくて色々と大変だったのよ~、その時にこんな美人になっちゃって~って、ここは笑う所よ?」
全然笑えない、本当に美人だし、むしろそういう事なら納得が行く。
なんでマヤさんと奈江ちゃんが銀髪という本当に珍しい髪色なのか。
「名前もね、本当は”真矢”で”シンヤ”だったのよ、今じゃ”マヤ”で通してるけど、当時はまだ男のつもりでいたから”シンヤ”呼びするように親友の義道さんに話したものね、だけど半年もしないうちに”マヤ”呼びになっちゃったけど♡」
確かに真矢はマヤとも読める、なるほどそういう事か、と言ってもマヤさんの漢字を見たことないので”シンヤ”呼びのほうに違和感しか感じないけど。
それより名前の呼び方で気になるのは、少なくとも半年で女と自認して、もしかして付き合うようになっちゃったってこと?そして親友?
「体自体が男から女に変わってるって事は脳も女に、つまり心が肉体に引っ張られるというか、女というフィルターを通して心に伝わるのよ、甘いものなんかは分かりやすいほどに好きになってるし、ちゃんと異性に興奮するようになるから。
あとはいつ心がそれを認めるかだけね♡」
なんだかとても恐ろしい事を言ってる気がする、まだ成り立てで全く自覚出来ないけど、段々と肉体に引っ張られて心が変わっていくのか、それともすでに変わっているのを心が認めるのか、のどちらかだろうか。
「でもね、突然男から女になっちゃうから精神状態はとても不安定になっちゃうの、当時はまだ世間の理解が少ないって事もあって、今より多くの自殺者なんかも出てたみたい、その点私は義道さんがいたから支えてもらって、親友から恋人になって、結婚して子供2人も出来たのよ♡」
自殺の件は偶に聞くので分かる、実際に自分がなっているのでなおさらだ。
亮がいなければ自分もどうなっていたか分からない、もっと不安になって引きこもりや自殺もありえたのだろうか。
親友というか仲の良い家族や友達がいればなんとかなる、という風に考えよう。
今は亮に結びつけるのはダメな気がする。
そこで気になった事が一つあったので聞いてみた。
「支えるのって恋人じゃダメなんですか?」
「恋人はねー、あまり上手く行かないパターンが多いみたいね、付き合う時と違う性別になっちゃうから、家族は性別関係なく家族だし、親友なら異性になった事でより上手くいくと思うのよ、これは経験談なんだけどね♡」
なるほど、TS症は男→女と女→男だ、つまり女と元男の女となる訳だ、逆に男と元女の男で考えたらオレにも分かりやすいが、男だった時の感覚だとオレには無理だ、無理、そりゃ別れる。
「今振り返るとTS症になって良かったなーって思う、色々苦労もしたけど普通に男として生きて女の人と付き合って結婚だと、ここまで幸せを感じられなかった気がする。やっぱりね、同性の親友っていうのは異性になったら最高の相性になると思うのよ、親友だからお互いが分かってるし、異性になっても繋がりを感じられる、最高よ♡」
あれ、これもしかして、相談にかこつけて亮とくっつけようとしてる?
亮も居心地悪そうにしてるし。
告白した事と一旦保留になった事は流石に伝えてないよなあ、そこは仕方がない。
でもマヤさんは本心から言ってそうな雰囲気を感じる、本当に幸せなんだろうな、今も夫婦仲凄く良いみたいだし。
「ちょっと脱線しちゃったわね、そういう訳だから大丈夫、どんな手続きが必要かとか気を付ける事なんかは分かってるから、病院に行ったり役所に手続きを出したり、塁くんは学生だから学校に説明して制服を新調したりする必要があるから、後は…女の子用の服なんかも買わないとね♡」
「あ、それなら私も付き合う!ていうか塁にいは女の子の服とか分かんないだろうから私とお母さんで選ぶよ!」
「まだ午前中だし学校はこの後行くとして、服も今日の内に買いに行っちゃいましょ、奈江は今日大丈夫?」
「大丈夫!」
「塁くんも大丈夫?」
「あ、大丈夫です」
「亮はお留守番ね、楽しみにしてなさい♡」
「期待してるよ、母さん」
マヤさんは亮にサムズアップしてウィンクしていた。
なんの楽しみになんの期待だろう、怖い、着せ替え人形みたいにされそうだし可愛いの着させられそう。
「塁くん、お父さんには連絡した?早く伝えないとダメよ♡」
「あ、そういえばまだだった、今から掛けてもいいですか?」
「いいですよ、何か問題あったら直ぐに言ってね♡」
直ぐに親父に電話して、TS症の事、亮の家族に相談した事を伝えたら、マヤさんに変わってもらって色々話をされていた。これでいいのかな?
「学校いくなら服もちゃんとしたの着ていかないとね、服準備するから着てね」
奈江ちゃんが服を準備するという、ドキリとする、だって初恋の娘で今だって別に嫌いじゃないむしろ好きだけど、そんな人の服を着られるのだ、複雑な気持ちではあるが嬉しい。
「奈江~、パンツも貸してあげなさーい、ブラは私が貸すからねー♡」
「ブラは私が昔付けてた少し小さめのを貸すわね♡」
「え!、ブラなんてそんないいですよ」
「おっぱいそんなに大きいんだからノーブラなんてダーメ♡」
またしても心臓が跳ね上がりそうだ、恋心でないにしても好意を抱いている人達の下着を借りるなんて、そんな、とても悪いと思うし気持ち悪がられないだろうか。
「いいですよ、下着まで借りる訳には、オレが着けるなんて気持ち悪いでしょう?」
思わず言ってしまった、でもこれは言っておかないと行けない気がした、女性の下着をすんなり受け取って着けるなんて変態的な事を自分が進んでやりたいとは思わないからだ。
「大丈夫よ、それに私はTS症よ?塁くんの気持ちはよく分かってるし、我が家でTS症の人が女性の服を着る事に対してネガティブな感情や気持ち悪いなんて全く思わないから、ちゃ~んと私がエリート教育を施してるんだから♡」
「でもそんな悪いです…」
「それなら服や下着は返さなくていい、あげるわ、これならいいかしら?
私がTS症だったからTS症の苦労や気を使う事や気をつける事なんかはしっかり教え込んであるの、塁くんを見た時の亮の反応はどうだった?変な事言ってなかったと思うけど、もし言ってたら1から教育し直さなきゃダメね♡」
ここまで言われてまだ反論するようならそれは逆に失礼だ、それくらいは弁えてるつもりだ。
亮の反応に関しては告白だったのでちょっと行き過ぎな気がするけど、今思えばあれはTS症の人に対する教育がしっかりしてたからマヤさんの成功例(マヤさんはTS症の人は親友とくっつくのが一番だと思ってるみたい)や先の事まで考えての事だったんじゃないかと思える。不勉強なのは自分のほうで。
だからと言ってまだ受け入れられる訳じゃないけど。
「分かりました、服と下着ありがとうございます。
あの、それでお願いなんですけどブラの着け方も教えてください…」
「大丈夫大丈夫!ちゃん教えてあげるから、じゃあ部屋に行きましょうか♡」
「!…はい、お願いします」
ドキリ、今日は朝から驚かされてばかりだ、マヤさんの部屋、多分寝室なんだろうけど入るのは初めてで緊張する。
ブラの着け方を教えて貰って、着けてみたけど確かにサイズが合わない、少し大きいみたいだ。
だけど問題はそこじゃない、マヤさんの匂いだ、心臓がバクバクと鳴っていて落ち着かない。
「とっても綺麗な肌ね、嫉妬しちゃいそうで羨ましいわ♡」
「本当に綺麗だよね、でも私も負けてないよ!」
次に奈江ちゃんの部屋に入り、ショーツを履いている。
うう…いいのかな…流石にショーツは不味いんじゃ、なんて考えが浮かぶけどさっきのマヤさんとの話があるのでそれは言えない。
奈江ちゃんも気にした様子はないけど。
奈江ちゃんの部屋は凄くいい匂いがする、なんだかイメージしていた女の子の匂いって感じだ。
「次は上着だね、この後買い物にも行くんだから脱いだり着たりしやすいワンピースかな?
これなんかいいかも」
奈江ちゃんから受け取ったものはシンプルな白地に黒のラインが入っているワンピースだった。
着てみたら少しスカート丈が短く、膝上丈くらいの短さで…凄く…凄く…股下が心許ないし恥ずかしい。でも文句は言えない雰囲気だったので大人しくしていた。
うう…完全にこの2人に呑まれてるなあ…
「あ、ありがとう、どうかな?変じゃない?」
「凄く似合ってる!金髪美人卑怯だなー!」
銀髪美人の奈江ちゃんがそれを言うのかー
「塁くん…ううん、もう塁ちゃんね!、とても清楚な感じで良く似合ってるわよ、早くうちの子にならない?」
「そうだねもう塁ねえだね!今から塁ねえって呼ぶね!」
「あ、ありがとう…」
清楚って、動いたら男の動きですぐにメッキが剥がれそうなんですけど。
それに”くん”から”ちゃん”に、”にい”から”ねえ”に、か…こうして自認していくのかなー。
という感じで3人とも着替え終わったのでマヤさんの運転でまずは学校に向かう事に。
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