「さらば我が灰色の青春」3


「清水さんの連絡先?」

「持ってるなら教えてくれないかな」

「持ってないなあ。けど友達のなら持ってるから、連絡してみるね」


 宮守が訪れたのは杉浦の元だった。教師から課題の回収を頼まれていた宮守だが、いざ頼まれてみると連絡手段がないことに気づいた。


「助かるよ。多分カラオケに行くとか話してたから、そういう人を当たってほしいな」

「さっき掃除を手伝ってもらったからお互い様だよ。あ、もしもし、ユイちゃん?」


 人気の少なくなった玄関で杉浦の声が響く。手持ち無沙汰の宮守は玄関に並ぶ下駄箱の段数を数えるなどしていた。


「うーん、ダメっぽい、ごめんね。力になれなくて」


 数度の電話とメッセージのやりとりを経て、杉浦は首を横に振った。


「ダメだった?」

「うん。カラオケに行ってる人たちに聞いたけど、なんか急用? とかで断られちゃったみたいで」

「宮守、何やってんの」


 二人の間に声を投げ掛けたのは、教室で級友の帰りを待っていたはずの早瀬だった。その手には宮守の鞄が下がっている。


「あれ、早瀬」

「課題は? 出せたの」

「ああ、出せたよ」

「じゃあ帰ろうぜ。昨日買ったばっかのラノベなのにもう読み終わっちまった」


 宮守の鞄が放物線を描く。宮守の胸にぶつかって止まったそれは、夏の熱気にあてられてほんのりと熱を帯びていた。


「それが、美山先生に清水さんの課題の回収を頼まれて」

「別に明日とかでよくね?」

「いいわけないだろ。成績とかに関わってくる話だし」

「人のよりも先に自分の成績を気にしろよ」

「気にするほどの元値がないのさ」

「……なあ宮守、ところでこの子は? お前の彼女?」


 早瀬の言葉にやや距離を置いていた杉浦が肩を震わせる。


「かの━━」

「そういうのは冗談でも言わない方がいいよ。彼女が傷つくかもしれないし、もし傷ついたとしたら私だって傷つく。彼女はそんなんじゃなくて、小学生以来ずっと同じ学校の知り合いなんだ」

「そんなマジになんなって。ええと、俺、早瀬。今年からこいつのダチやってる。気分を悪くしたなら謝るよ。ええと」

「す、杉浦です」

「よろしく。で、ここで何やってたの?」

「ここで掃除をしてて、それで宮守くんに手伝ってもらったから、そのお返しに清水さんと連絡を取ろうとしてるんだけど、どうも繋がらなくて」

「あ、何。清水探してんの? それならさっき見たぜ。アイツ電車勢だから今から走んないとやばいかも」

「マジか。助かったよ早瀬。杉浦さんもありがとう」


 宮守は踵を返して駆け出した。


「邪魔しちゃった?」


 早瀬は杉浦に問いかけた。その手は無意識のうちに彼の方へと上がっていた。


「邪魔って、何がですか」


 杉浦はその手を隠すようにして早瀬に向き直る。


「いいや、心当たりがないなら別にいいんだけどさ

「あの」

「なに」

「彼の連絡先、知りませんか」

「うーん、ごめん。持ってないんだ」

「そう、ですか……」


 杉浦は目に見えて落胆した。


「いや、連絡先を持ってないというか、連絡する先をアイツが持ってないんだよ。家がキビシイとかでさ。今時珍しいけど。だから、呼び出したいなら、アナログな手段しかないんだよ」

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