第4夜:Charlie-阿鼻叫喚

 その日の朝は、まるで日常に戻ったかのようだった。

 その時刻寅の刻半朝4時半。手帳が鳴り響いた。

 私と、居室にいた局長の手帳だ。

 局長がすぐさまコールに応答する。

「ふぁい?なにどうしたの?副長」

 相手は副長のようである。

「こちらからのアクセス無しに空の傷ゲート開きました。事故局不明。電波体バグは現在発見に至らず。操縦者アクタ―2名は即時待機させています。」

「了解しました。鐘倉さんを連れ至急戻ります。対空対電警戒を厳となせ。何かあれば逐一報告するように。以上、通信終わり。」

 電話の内容が少し聞こえていた。私は急ぎ制服へと着替えていた。

 遅れて局長が制服へ着替え始める。

 シャツを着てボタンを閉める。私はブレザーは着ないタイプだからこれでいい。

 学生である為局の制服は支給されていない。

 学生服で局に詰めている。

 局長が着替え終わり、懐中時計を手に部屋を出る。

 途中管理人室に寄り、203号室不在、火急の用であることを伝え寮を出る。

 学校へ戻りエレベータに乗り込む。

 局長が居るので鍵がある。鍵を回し押せない釦を操作。地下基地へ向かう。

 ――――――――――――――――――――

 錦糸町地下発令所。

「事故局特定急げ!何としても閉じるんだ!」

「現在各局コンタクト中!発見に至らず!」

 発令所では被害を出さない為に急ぎ空の傷ゲート閉鎖作業が進んでいた。

 そこに局長が駆け込んでくる。

「状況は!?」

「はい、依然事故局発見に至らず。空の傷ゲート開放中!」

 状況は何も変わっていないらしい。

「であれば地上デジタル放送ではありませんね。FM波を調査しなさい。」

 局長からの指示、それはテレビではなくスカイツリー発信のラジオ波の調査だった。

「事故局特定!NHK-FM!緊急放送停止措置開始!」

 事故局の特定に至った。あとは傷が塞がるのを待つ。

 このまま敵が出現しないことを願うばかりだ。

 こちらは今守りを捨てている。攻める事に特化した。

 いざとなれば人型装機リンネは出せるが、その後のメンテナンスで予備日程を取られる。

 残された日数は今日含めあと5日。順調ではあるが、絶対にどこかで躓く。

 それを見据えて1週間の日程なのだ。

 連れてきた鐘倉さんは更衣室へ直行させた。すぐにパイロットスーツに着替えさせ即時待機させる。

 が、ほどなくして状況に変化が起こる。

空の傷ゲート閉じます!被害報告なし。地上員による目視でも電波体バグ発生無しです。」

 よかった、敵の侵攻はない。被害なしで閉鎖できた。

「即時待機を解除しましょう。操縦者アクタ―は来るべき時間に備えて仮眠を。」

操縦者アクタ―即時待機解除。各々休憩へ入ってください。』

 さて、この時間に起きてしまったものは仕方ない。

 目標体Charlieに対する作戦会議を始めよう。

「Charlieに関して分かったことは?些細な事でもいい。」

「はい、昨日の目標体Bravoを受け、Charlie本体をサーモグラフィーで確認。なんと本体温度。蒸気の様に発しているものに関しては、と推測できます。」

「これに対し、浸蝕対電弾を装備したドローンを特攻させましたが炸裂せず。埒が明かないでしょうが、5.56mm弾装備のドローンで射撃。効果無しでした。」

 うんだろうな。-200度。昨日とは真逆の性質をもった個体か。では水蒸気爆発も使えまい。

 いや、蒸気さえ出せれば勝ちか。その蒸気の温度次第だが、冷たい本体と反応して爆発もあり得る。しかし発するものが冷気の可能性がある。特異個体だ。侮れない。

 これは今回も噛崎さんは格闘戦お預けだな。凍ってしまう。

 さて今回はどう出るか。考えてはやめるを繰り返す。案は浮かぶだが、操縦者アクタ―を危険には晒せない。

 だから可能な限り、危険のない方法で倒したい。

「最後の一体となったので、錦糸町からの援護射撃も可能と思われます。が、おそらく炸裂しないでしょう。」

 それもそうだ。錦糸町から最大限バックアップ出来る。

 でも効果がなければ意味がない。

 また、作戦開始までに案は間に合わないだろうか。どうして現場にばかり負担をかけてしまうのかな。

 作戦開始まであと12時間。外も明るくなるころである。

 ――――――――――――――――――――

 『操縦者アクタ―即時待機解除。各々休憩へ入ってください。』

 放送が流れる。

 格納庫ベンチに待機していた3人はほっとする。

 よかった、電波体バグは出現しなかった。作戦に遅れはない。

 休憩と言っていた。仮眠を取ろう。流石にまだ眠い。

 寮に戻るべきかな。それとも衛生室のベッドを借りようか。

「鐘倉さん眠そうだね。ボクの部屋空いてるからベッド使いなよ~。」

 うれしい申し出である。

「いいんですか?」

「いいもなにも1人部屋だしベッド余ってるし。案内するね。ボクも眠いし。」

 促され居住区へ向かう。

 餘目さんはなにかあるのかコックピットブロックへ入っていった。

 初めての局の居住区。寮よりはるかに狭い。無機質。ベッドと机それからクローゼット。

「そっちのベッドどうぞ~。」

 案内される通りベッドへ向かう。

 シーツを敷き、少し寝づらいがパイロットスーツのまま寝てしまおう。

 首のエアバッグがいい感じに枕になる。

 一応目覚ましをセットする。

 それにしても居室も独占化している。

 机にはぬいぐるみ。レースの天蓋。

 どっから持って来たのか気になる。

 でも今は眠い。目をつむり眠りに落ちる。

 ――――――――――――――――――――

 地下格納庫。

 実戦壱番機コックピット内。

「シミュレーター接続。遠距離狙撃モード。」

『シミュレート開始』

 折り畳み式スナイパーライフルを展開する。

 アンカーを地面に刺し、機体を安定させる。

 スコープをのぞき込む。

 実際の《シモ・ヘイヘ》は反射を気にしてスコープを使わなかった。

 流石に現代戦においてスコープ無しは命中精度が悪すぎる。

 ターゲットスコープが踊り、重なる。

 射撃。

 中心を捉える。次。

 動く的。

 予測射撃。

 同じく中心を捉える。

 私と私のAIにかかればこんなものレベルだ。

 焦る。焦りが私を支配する。

 この2日間。私は何の成果もあげられなかった。

 初日は鐘倉3曹の機転から。

 昨日は局長の作戦から。

 決して手柄が欲しい訳では無い。

 ただ、何の役にもたてなくて焦る。

 トドメをさした訳でもない。

 本当にバックアップに徹しているのみだ。

 2人に負担をかけ過ぎていないだろうか。

 その事実がただただ、私を焦らせる。

 無心になれない。ただひたすらに的に気持ちをぶつける。

 私は、どうすればいいんだ。教えてくれ城1曹。

 的に、的にぶつける。答えは得られない。的にぶつける。

 答えを手に入れる為には城1曹を救い出さなければならない。

 矛盾する。助ける為の答えが欲しい。

 きっと答えは局長が持っているだろう。でも決めたんだ。私は私を貫き通すと。

「シミュレーター終了。」

『了解。シミュレーター終了。』

 コックピットハッチを開く。外の風が流れ込む。

 汗をかいていた。涼しい。体を風が拭う。

 壁を殴りつける。

「だめだ、私には見えない。活路が見出せない。頼りっきりだ。」

 情けない。これで小隊長。務まっているのだろうか。

 私も休もう。居室へと向かう。

 そこには既に局長が座っていた。

「あら、遥も休憩?私も朝早かったから少し仮眠。」

「はい。シミュレーターで疲れまして。軽く寝ようかと。」

「あなたはいつも頑張りすぎなのよ。もうすこし力を抜きなさい?」

 どうしても入ってしまうんだ。力が。

 局長にはバレている。隠し通せないな。

 布団に入り、目を瞑る。

 即時待機に向けパイロットスーツできたが、流石に脱いだ方がよかっただろうか。

 いまから更衣室に戻るのはめんどくさい。

 このまま寝てしまおう。

 ――――――――――――――――――――

 作戦開始まで1時間。

 格納庫は忙しくなる。

 操縦者アクターは登場し、無線にてブリーフィングを受ける。

「各員搭乗ありがとう。ブリーフィングを始めます。今回相手にする目標体Charlieは−200度の超低温個体です。昨日同様噛崎さんは近接格闘術CQC対応不可の為、今回もライフル装備をお願いしています。」

 まぁそうなるよな。噛崎さんは不本意かも知れないが仕方ない。

 昨日はライデンフロスト現象で弾は弾かれた。今日は通用するのだろうか?

「ラスト1体になった為錦糸町より火力支援を行う事が出来る様になりましたが、果たして効果があるか不明です。結果現場判断となります。連日申し訳ありません。」

 それは仕方がない事だ。ドローンでの威力偵察にも限界がある。

 寧ろ無策で突っ込む事にならなくてよかったと思える。

 突っ込んでたら間違いなく凍りついてしまっているだろう。

「作戦開始後も、こちらは案を練り続けます。各機は被害のない様十分注意する事。懸念点はありますが、突っついてみましょう。以上ブリーフィング終わり。Knight of Träumereiナイツオブトロイメライ本日3戦目となります。その魂魄を賭し尽くす様に、各機オンステージ!」

 錦糸公園前交差点のブザーがなり、床面が迫り上がる。

観測特異点ノイズ発生!空の傷ゲート開通!視聴率安定。」

「侵入ルート形成!2083から2102ふたまるはちさん-ふたひとまるふたを階段状に隆起!」

「人型装機各機オンステージ完了。所定位置へ。発進タイミングを譲渡!」

「鐘倉美空、人型装機リンネ訓練機。」

「餘目遥、人型装機リンネ実戦壱番機。」

「噛崎熾織、人型装機リンネ実戦弐番機。」

「「「オン・エア」」」

 腰部背面外部電源充電コネクタが外れる。

 用意された階段を駆け上り、空の傷ゲートをくぐり、虚数空間へを降り立つ。

『相互リンク開始。意味沈着。存在定義。』

 システムは正常。

 裏スカイツリーに向け走り出す。

 3回目の道。仄暗い月明かりに照らされた道を行く。

 Unknownからの充電電波正常に受信。

 今日も裏スカイツリーは問題なく稼働中。

 程なくして裏スカイツリーへ到着。

 目標体Charlieと対峙する。

「まず突っつくぞ。AP弾徹甲弾ファイア!」

 3人して斉射する。その弾道は特異電波体バグスター直前で屈折した。

「ダメか!。次、HE弾榴弾ファイア!」

 これはなぜか爆発しなかった。

 現場では一切原因不明。

「またライデンフロスト現象か!?」

 そこに局長からの無線が入る。

「いいえ違います。あれは高温に対する現象です。まずHE弾榴弾ですが、これは信管凍結により不発となったものです。次いでAP弾徹甲弾。これは超低温による超伝導が原因です。懸念点はこれです。でしょう。」

 マイスナー効果。また別の現象が出てきた。

 凍れば凍ったで厄介な事に変わりない。

「正確には《マイスナー・オクセンフェルト効果》。磁場を超伝導体の中から外に押し出す現象です……って言っても難しいですね。中心の電波特異点バグスターこれを磁場とします。その周辺では、内向きだった超伝導体が外向きに反発する様になってしまった。銃弾を弾く壁になっているという訳です。」

 うん難しい。これは流石に習わなかった。マイスナー・オクセンフェルト効果。

 ではどうしたらいい?信管凍結の為HE弾榴弾は使用不可。

 頼みのAP弾徹甲弾は現象により屈折。レポートでは浸蝕対電弾も凍結炸裂せず。

 またしても発令所に助けを求めるしかないか。

「くそ……まただ、また私じゃ何もできなかった。」

「曹長?焦っちゃダメです。結局私にもわかりません。発令所に聞きましょう。」

「…………発令所。指示を乞う。」

 餘目曹長が焦っている。一体何があったんだろう。

 あの曹長が焦る程の事。相当なんだろう。

「撤退しましょう。目標体Charlieをそのまま残し、Knight of Träumereiナイツオブトロイメライは至急錦糸町本部基地まで撤退してください。」

 なに?撤退?未来を諦めるの?それは許せない。

 私達は未来奪還の為にここ迄来た。それを撤退?

「なぜですか!また水蒸気爆発みたいに出来ませんか!?未来は、未来は目の前なんですよ!」

 今度は私が冷静ではなくなる。

 未来から遠ざかるなんて今更できない。できやしない。

 やっと届きそうな所まで来たんだ。

「落ち着きましょう。何も無策で引けと言っているのではありません。」

 作戦がある?戦術的撤退と言う事か?

「現在使用しているAP弾はタングステンという金属を使用して作成しています。これが超伝導に引っ掛かります。よって、超伝導に引っ張られない素材で弾頭を作り直します。今考えうる最善の作戦です。問題は量産、輸送に早くて2日かかる事。こればかりは待つしかありません。」

 なるほど、屈折しない弾頭を使い目標を射撃するのか。

 で、待機2日。これが長い。でも仕方ない。未来を助けうる最大限の作戦。

「了解だ、撤退する。」

 私達は来た道を戻る。

 太平4丁目交差点。空の傷ゲートを潜る。

 錦糸町へと戻る。そのまま錦糸公園前交差点より地下格納庫へ降りる。

 格納庫ではメンテナンスブリッジが待ち受けていた。

 ライフルを格納し、所定の位置へ片膝立ちとなる。

 順にライフルからAP弾徹甲弾が抜かれて行く。

 機体を整備課に任せ、私達は発令所へ走った。

「いらっしゃい。第1次作戦お疲れ様でした。戦術的撤退。断腸の思いでしたが指示に従っていただきありがとうございます。概要は先ほど話した通り。タングステン弾頭では効果ありませんので、超伝導を起こさない。《鉄》で弾頭を作成します。至急日本工機株式会社へ急造指示を。」

「了解。会社を通し、白河製造所へ急造指示を出します。」

 日本工機株式会社。日本で銃弾の製造を行なっている民間会社だ。

 現在対電波放送局で使用する9mm、20式5.56mm、リコイルライフルの弾の製造を行なっている。

「東海林副長。申し訳ありませんが、急造指示の為、白河製造所へ向かってもらえますか?その後は参式の為に福岡へ。忙しくてごめんなさい。」

「まぁそれが俺の仕事だしな。行ってくる。玄月、兼坂。局長を任せたぞ。」

 急ぎ東海林副長は発令所を後にした。

「さてでは急造を待つ間、戦術作戦課はドローンによる威力偵察と敵のいない方角から裏スカイツリーの偵察を。CICは常に空の傷ゲートの監視を。操縦者アクターは来るべき決戦に向けて休息を。」

 私たちだけ休むのはなんとも言い難い。

 他の皆が頑張っているのに休んでいていいんだろうか。

「あの、局長。鉄弾頭に変更した場合のシミュレートできませんか?」

「そうね、事象を作らせましょう。空いている整備課と戦術作戦課の局員は至急プログラム作りを。申し訳ないけど1日待って欲しいな。」

 そうだ、プログラムもそんなすぐに走らせられる訳じゃない。やっぱり待つしかないか。

 そうだ、スカイツリーを登る練習でもしようかな。ワイヤーだけで登り切れるだろうか?

 未来を助けた後はどうしよう。コックピットブロックには1人が限界だ。

 羽田事変では小柄な局長を乗せ2人で動かしたらしいけど。

 私と未来だと入らないかな?厳しいかな?

 裏世界は実証されれば機体から降りられるのだろうか?

 であれば歩いて登るのか?どうなるのだろうか。

 それはこの作戦が終わればわかるだろう。

「では、解散。それぞれの持ち場につくように。」

 私達は行先をなくした為格納庫のベンチへ戻る。

 即時待機の定位置。いつものベンチ。

 3人並んで肩を落とす。

「だめだったねぇ。ボク達の戦力に通用しないのがこんなに歯痒いなんて。」

「私もだ。2人にばかり押し付けるようで悪い。」

 ?どういう意味だろうか。

「私は活路も見いだせず、ただただ結果を眺めるだけだった。鐘倉さんは機転を利かせ敵の弱点を見つけた。噛崎さんはその技術で、敵を木っ端微塵に切り裂いた。そして局長はあの頭脳で水蒸気爆発という結末に導いた。私は、私だけだ見てるだけなんだ。」

 そうか、だからあのときあんなに焦ってたのか。

「餘目さん、あの時声掛けてくれたでしょう?だからボク達は敵の攻撃。マイクロウェーブを避けられた。」 

「それに、スティールワイヤーで私をマイクロウェーブから救い出してくれたじゃないですか。あれがなかったら私今頃死んでましたよ。だから気負いすぎです。気持ちは分かりますけど私達はチームです。今は相互リンクもある。もっとお互いがお互いに頼りましょう?」

 そうか、そうだなと、曹長。

 分かってもらえたかな。

「ありがとう2人とも。そうだな私は焦りすぎたのかもしれない。少し冷静になるよ。顔洗ってくる。」

 そう言って格納庫から出ていった。

 心配だけどきっと餘目さんなら大丈夫。

 なんせ私達の隊長だから。

 私は信じてる。私達は信じてる。

 帰ってきたらきっと皆で陣形再確認しようとか言い出すはずだ。

 私達の得意なシミュレーター籠もり。

 ふふ、きっとそうだ。

「どうしたの?笑って」

「私達の隊長様はある意味わかりやすいかなって思って。」

 言えてる。そう言い笑いあった。

 作戦決行まであと2日。

 私達の決意は揺るがない

 ――――――――――――――――――――

 決行まであと1日。

 シミュレーターのプログラムが完成する。

 私達はそのシミュレーターを使用し本番再現をしていた。

 結果は是。鉄の弾はマイスナー効果を相殺し、ほぼ直線的に敵へと向かった。

 これが実戦で得られればいい。

 そのままバリアを割り、コアへとアクセス。

 これを砕き、状況終了。

 幾度試しても同じ結果に辿り着く。

 そう、これこそが求めていたものだ。

 あとは量産が進むこと。マガジン1つではバリアは割り切れないだろう。補給用マガジンが必要である。

 日本工機が何処まで対応してくれるかにもよる大切な条件だ。

 補給が無ければ確実に弾は足りない。

 こればかりは願うのみである。

 それから判明した新事実。

 城未来奪還作戦の大詰めはやはり徒歩らしい。

 人型装機リンネで登れる場所には限界がある。

 展望台までワイヤーで登り、天望回廊へはエレベーターを使うことになるらしい。そこで人型装機リンネから降りた状態での戦闘訓練が始まった。

 9mm拳銃は携行しているが、20式5.56mm小銃は初めて持った。重い。約3.5kg。ただ持つだけならまだしもこれを持って走り回るのはかなり堪える。

 その上弾倉嚢に予備弾倉を抱える。背嚢がなくてもかなりキツイ。

 そしてネックなのは存在証明。これが出来ないと意味消失。存在そのものが虚数空間に否定されてしまう。

 人型装機リンネに乗った状態では慣れたので当たり前の様に存在証明が行えた。

 それが初体験の地上戦。初めての装備ときた。

 あと1日しかない。シミュレーターも使えない。

 格納庫に障害物を設置し、訓練に励む。

 餘目さんと噛崎さんは慣れている。さすが元陸上自衛隊。

 ハンドサインで分かり合っている。

 わからない。何を意味しているのかさっぱりわからない。

 置いてけぼりを喰らう。でもついていかないと。

「違う!突入ではない!手榴弾のサインだ!死にたいか!」

「す、すいません!」

 だめだサインが多すぎる。覚えきれない。

 食らいつけ、未来が待っているんだ。こんな事で挫けてられない。

「もう一度……お願いします!」

 20式5.56mm小銃が、体力を奪う。

 パイロットスーツも決して軽くは無い。

 ましてや今は弾倉囊に予備弾倉を詰めている。

 テッパチまでもが全て重たい。

 電波体バグが発生し人型装機リンネ開発以降白兵戦による作戦は行われていない。

 その危険性と効率を考えた結果である。

 もし裏スカイツリーを登った先に、数多の電波体バグが待ち受けていたら、ジ・エンドである。

 しかし現在スカイツリーがもたらすパッシブ・アクティブの感は3。

 それは目標体Charlieと他2つ。

 上の決定ではかの猫と、城未来だと結論づけた。

 餘目さんと噛崎さんについて行く。

 障害物に身を隠し鏡で偵察をする。

 レーザー光線で生死を判別する模擬銃で訓練をする。

 私は既に12回死んでいる。

 死にすぎだ。

 手の空いた整備課局員に敵役を演じてもらう。

 とはいえ同じ自衛官。向こうも上手い。

 いとも簡単にkillされる。

 訓練は夜遅くまで続いた。

 ――――――――――――――――――――

 作戦決行当日。

 私達は人型装機リンネに搭乗しブリーフィングを受けていた。

「待たせて申し訳なかったね。日本工機より鉄製AP弾徹甲弾の納入がありました。その数141マガジン。かなり頑張ってくれたものです。これより各機は特製AP弾徹甲弾を装備し再度目標体Charlieに対峙してもらいます。補給分はドローンで随時運ばせますので受け取りをお願いします。」

 発進シークエンスが淡々と進む。

観測特異点ノイズ発生。空の傷ゲート生成。視聴率安定。」

「侵入ルート形成!空の傷ゲートに向け階段上に隆起。」

 3機とも昇降機で待機する。

 今日はまだ白兵戦はない。今日が無事終了した場合、明日の本作戦で実際に銃を扱う。

 ブザーがなり錦糸公園前交差点が昇降する。

 3機が並び準備する。

「各機発進位置。オンステージ。発進タイミングを操縦者アクターに譲渡。」

 「「「Knight of Träumereiナイツオブトロイメライオン・エア」」」

 外部充電コネクタが外れる。大地を蹴り階段を駆け上る。

 空の傷ゲートに向かい道路を走る。

『相互リンク開始。意味沈着。存在定義。』

 虚数空間へ落ちる。

 今日も変わらず仄暗い裏世界。

 月明かりを頼りに裏スカイツリーまで行く。

「AI暗視カメラ」

『了解暗視カメラ』

 カシャリとメインカメラが緑に変わる。

 現状異変なし。

 追加の感もなし。

 よし、安全にたどり着ける。

 前作戦で吹き飛んだ北十間川を飛び越える。

 そうして、目標体Charlieと再び対峙する。

「2日ぶりだな。デカブツ。」

「借りてないけど、あの時の借り返させてもらうよ〜。」

 私達は特製AP弾徹甲弾を装填する。

「行くぞ2人とも。決着をつける!」

 シミュレーターでの弾の直進率は99.894%ほぼ間違いなく直撃できる。

 ライフルを敵に向ける、トリガーに指をかける。

 ……その時である。

 Charlieが

 機体の中でも耳をつんざくほどのけたたましい声。

 世界が、画面が揺れる。モニターにノイズが走る。

 より絶望的な状況が発令所より伝えられる。

「スカイツリーより追加の感あり!CIC指示の目標。目標群Deltaデルタトラックナンバー1001から1020ひとまるまるひと-ひとまるふたまる!目標群Echoエコートラックナンバー1031から1052ひとまるさんいち-ひとまるごふた出現!」

「さらに視聴率不安定!……まずいです!空の傷ゲート閉じます!」

 新たな敵群体に空の傷ゲートの閉鎖。

 危険が重なる。

「3人とも気をつけて!なんとかすぐに空の傷ゲートを開き直します!存在証明を決して怠らないように!たのみm……。」

 通信が途絶した。ここからは局の存在証明が行えない。

 今いる私たちの意識が途切れればそこで意味消失。

 私達の存在を定義する物が無くなり、消滅する。

 相互リンクを確認する。

 大丈夫現在証明中。互いが互いを意識できてる。

 であれば問題は電波群体バグズだ。

 最後の通信で分かったのは2編隊。各20体程度。

 包囲されていると考える。いや機体のアラートがそれを告げる。

「総員浸蝕対電弾に変更。陣形を組め!」

「「了解」」

 すぐさま弾を切り替える。

 3機互いを背に陣形を組む。

「リロードのタイミングに気をつけろ決して重ねるな。互いをフォローし合うんだ!」

 すぐさま射撃に移る。

 1体また1体とコアを抉り取る。

 浸蝕対電弾の強さを実感する。

 量産体制が整い、この弾もキーポイント以外でも射撃することが出来るようになった。

 バリアごとコアを抉り取る、振動で事象を捻じ曲げる。

 こんなに強力だったのか。

 リロードのタイミングが来る。……2人はまだ射撃中残弾有り、今だ!

 弾倉を落とし、予備を差し込む。

 そうして射撃を再開する。

「次!どうぞ!」

 声には出すが、出さなくても意識を共有している。

 餘目曹長がリロードに入る。

 その視界に電波体バグが映る。

 脳波を共有しているので、餘目曹長の視界は私の視界。

 すぐさまライフルを向け撃ち落とす。

「ナイスだ鐘倉3曹!助かった!」

「次ボク行くよ〜。」

 噛崎1曹がリロードに入る。

 同じように死角を読む。餘目曹長がフォローに入る。

 大丈夫、チームとして機能している。

 順調に対象を駆逐していく。

 近寄ってくる対象が減ってきた。

 やがて沈黙。Delta、Echo共に殲滅。

 そうしてCharlieにむかい立ち直る。

「全員鉄製AP弾徹甲弾へ再変更。砕くぞ!」

 空の傷ゲート封鎖によって信号が途絶し落下したドローンから弾倉を抜き取りリロードする。

 餘目曹長はスナイパーライフルを展開する。

 専用弾も追加生産していたのか。

 脚から出したアンカーで地面に機体を固定。

 スコープを覗き、コアと思しき箇所に狙いをつける。

 ターゲットサイトが重なる。

「んっ!」

 一筋の軌跡を描きながらCharlieを撃ち貫く。

 真っ直ぐに弾が飛んだ!マイスナー効果を打ち消した!

 そして……コアが……露出した!

「行け!鐘倉!噛崎!」

「了解!」

「そいやっさぁっ!」

 バーニアで飛び上がり、上からコアを射撃する。

 砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ砕けろ!

 しかし現実は痛い程残酷である。

 である。

 本来ならばドローンから絶えず補給を受け取り射撃する。

 が、ドローンが失墜している為あるのはライフルに付いていた1マガジンのみ。

 仕留めきれなかった。

 今からドローンを探してもコアが再生してしまう。

 なんで!どうしていつも詰めで躓く!

 残酷すぎる運命を嘆く2人とは別に、1人の兵士がいた。

 餘目曹長である。

「諦めるな!まだ私が残っているぞ!」

 スナイパーライフルを微調整しこちらに向け構える曹長の姿があった。

「排莢の為、モノリスライフルは連射が効かない。都度排莢して装填している。それが一連の流れ。でも、今はそれすらも断ち切る! AI安全装置解除!」

『サー!安全装置解除。排莢噛みジャムにご注意を。』

 ターゲットサイトが重なると同時に射撃。

 コアに直撃する。

 ここからが凄かった。

 継ぎ矢状態である。

 撃ち込んだ弾に次の弾が撃ち込まれ、押し込む。

 さらに次の弾がぶつかりより深く押し込まれる。

 そうしてコアが次第に割れていく。

 正確無比の腕前である。

 英霊AIがあってもこれは本人の腕前だ。すごすぎる。

 最後の弾を打ち切りコアが完全に割れた。

「離脱しろ、蒸気か冷気が来るぞ!」

 忘れていた。すぐさま飛び退く。

 強烈な蒸気を発してその身を自ら砕き散っていった。

 倒した。やった。Charlieを倒した!

 これで裏スカイツリーを守る3体の番人は倒しきった。

 あとは空の柱。裏スカイツリーを登るだけ。

 そして、空の傷ゲートが開くのを待つばかりである。

 ――――――――――――――――――――

 錦糸町中央発令所。

 メインモニターには証明不可の文字とノイズが入ったコックピットの映像。

 モニター不可。空の傷ゲートが閉じてしまったのである。

「視聴率の安定している局に変更!開通急いで!」

 操縦者アクタ―の存在証明が急務である。

 そして追加で出現した目標群。これも心配である。

「安定局発見……しましたが、空の傷ゲートのサイズが小さくなりかねません!」

「それでも存在証明が送れて、人型装機リンネが帰還するほどの大きさであれば構いません。」

観測特異点ノイズ収束。空の傷ゲート再開通します。」

 それは確かに小さな傷だった。人型装機リンネがやっと通れるほどの。

 存在証明送れ。モニター上のステータスが証明中に切り替わる。成功だ。

 やがてコックピット内の映像も送られてくる。

「3人とも無事ですか!?」

「こちらKnight of Träumereiナイツオブトロイメライ。追加群体を殲滅し、目標体Charlieの撃破に成功。完全決着!」

 発令所内が沸いた。沸き上がった。ついに3体の障害を排除したことは機関にとってさらなる1歩となった。

「よくやりました。これにて残りは城未来奪還の本作戦のみとなります。気を付けて帰ってきてください。」

「了解です。」

 来た道を帰る。全3日に及ぶCharlie掃討作戦が完了した。予備日も使い折り返しとなってしまった。

 未来奪還本作戦は決して遅れが許されない。白兵戦。何としてもものにするんだ。

 異様に小さい空の傷ゲートが見える。局が必死に探し開いてくれたものなのだろう。

 ジャンプで信号機を飛び越え空の傷ゲートをくぐる。

 凱旋、には1日早いが、目標体完全消滅の記念すべき帰還である。

 この作戦で失ったのは訓練機の左脚のみ。

 結果はほぼ損害無し。窮地はいくつもあったがそのすべてを解決できた。

 1体は本体への攻撃無効。その実態は影。転写コピーする程脆くなる個体。

 1体は超高温。ライデンフロスト現象により弾はそれ、最後は水蒸気爆発にて処理。

 1体は超低温。マイスナー効果により弾道は屈折。効果を受けにくい鉄弾頭にて処理。

 それぞれ今まで戦った電波体バグとは違った性質を持ち合わせていた。

 それ故、実戦慣れしている餘目曹長や嚙崎1曹ですら苦戦した。局長の考えがあって初めて解決した作戦であった。

 考えているうちに錦糸公園前交差点に到着。ブザーと共に機体は地下へ収容される。

 所定位置に機体を固定する。メンテナンスブリッジが移動してくる。

 整備課局員に盛大に迎えられた。まだ最後の詰めが残ってるんだけどな。

 私達は一息つくためベンチに移動する。

「曹長、ありがとうございました。わたしすぐ諦めちゃうんです。でも曹長は最後まで撃ち貫いた。曹長のおかげで今日は勝てました。」

「よしてくれ、生き急いだ結果だ。それでも私は城1曹に伝えないといけない感謝があるからな。負けられないんだよ。」

 それにしてもすごかった。あの継ぎ矢状態の弾頭。正確に前の弾を押し進めていた。

 システムに任せて撃っている私とは違う。生粋のスナイパーだ。

 最高最善のバックアップ。それに最強の剣士によるフォワード。

 崩れるとすれば私を狙われた時だ。強くならなければ。

「鐘倉さん今日も白兵戦練習するの?結構いい時間だけど。」

「そう……なんですよね。でもまだ全然だし。ものにしないと。」

 焦りが今度は私を支配する。

 発令所が感じる感は2つなので脅威ではない筈である。が。猫の存在がそれを揺るがせる。

 伍型特異電波体バグスターを自称した。それは異質だ。おそらく20式小銃ではバリアなんて破れないだろう。コアもどこにあるかわからない。

 あの時、猫は攻撃を仕掛けては来なかった。

 それは偶然か?それとも?

 未来を拉致する為に攻撃できなかっただけか?

 それが分からない。

 生身ではマイクロ波を喰らえば即蒸発だろう。

 対峙するにはそれなりの覚悟がいる。

 全ては明日決する。

 私は私の命をかけて未来を助ける。

 魂魄を賭し尽くす時は明日その時だ。

 今日は休もう。

 私達はできる限りの事はした。

 更衣室に向かい歩き始める。

 すれ違う局員からはおめでとうと声をかけられる。

 更衣室へ着くとまず、汗だくのスーツを脱ぎ制服に着替える。

 既に明日のスーツが用意されていた。ここに明日、弾倉や手榴弾を装備する。

 模擬体で、手榴弾は投げたが女子高生の私が投げることになるなんて。

 それから発煙弾に閃光弾。音響弾。

 できる限りの装備をして行く。

 今日は……泊まってみようかな。

「あの、私ちょっと発令所行ってきます。」

「どうした?」

「局長に直訴が。」

 何事だと2人に詰め寄られる。

 大丈夫です、大したことありませんと押しのけ発令所へ走り出す。

 今思えば手帳でも良かったかな。でも上官をそう簡単に呼び出せないし。

 これで良かったのかなと足を進める。

 ――――――――――――――――――――

 錦糸町中央発令所。

 そこでは明日の登頂作戦について議論されていた。

 玄月2尉は眉間に皺を寄せモニターを注視する。

「存在証明が行えれば機体の外へ出ても安全か。大気成分も現世コチラガワと相違なし。呼吸器も必要ないだろう。」

 そこへ兼坂砲雷長。

「CICからの援護はほぼ無理だな。間違いなく操縦者アクターを巻き込む。電波体バグのみ相手には出来ない。当然CIWSは届かないからな。今回我々砲雷課は無力だ。済まない。」

 そして局長。

「この作戦1番の危険なポイントですね。絶えずドローンの監視は行いましょう。20式を装備したドローンも、多めに投入しましょう。出来うる限り負担を減らすのです。武装ドローンは最大限投入です。信号が切れぬ限り追走させましょう。」

 セクション長達が話し合っている。

 明日の作戦に向けて。

 限りなく0の被害の為に。

 そこに鐘倉3曹が走り込んでくる。

 まず目に付いた玄月2尉に局長の所在を確かめる。

 にこやかに笑って上を指さす。

 局長席だ。

 すぐ席に駆け寄る。

「あらあら、どうしたの?こんな所で。帰寮の時間でしょう?それとも訓練するの?」

「あ、あの!私。今日局の居住区に泊まってもよろしいでしょうか?部屋が空いていればいいので噛崎さんの部屋で大丈夫です!だめ……ですか?」

 局長は驚いていた。まさか鐘倉さんからの申し出があるとは。

 しかも局に泊まりたい?

「あのね、一応言っとくけど寮の方が格段にいい待遇よ?ベッドは固い狭い。油臭い格納庫で朝の体操。それでもいいなら私から寮母さんに連絡してあげる。」

 はい!と二つ返事だった。

 ありがとうございます!そう言うと私は格納庫へと走った。

「よろしいのですか?局長。あくまで学生ですよ?局に泊まらせるなんて。」

「彼女が望んだんです。良いではありませんか。彼女達はこの戦いで変わろうとしている。それを見届けましょう。」

 格納庫へとたどり着く。

 そこでは作戦報告書を作成する2人の姿がベンチにあった。

「あの、噛崎さん。今日、噛崎さんの、居室に泊まれるように局長に許可もらってきました。よろしくお願いします!」

 驚いた。寮ではなく局に泊まると。

 局で生活してれば寮が羨ましく思える程なのに。

「ボクは構わないけど、体験したろ?寮の方が余程いい生活だよ?お風呂だってあんな立派なものじゃないんだよ?」

 それでも構わない。私は将来の生活を今試してみたい。

 きっとこのまま卒業すれば局付きになる。

 階級……は私には飾りだけど。上がるのかなぁ。

 そういえば未来は1曹だ。待遇に違いとか出てるのかな。

 ううん、違う違う。今は噛崎さんだ。

「構いません!もう少し皆さんとの時間が取りたいんです!」

 2人は顔を見合わせる。

 ふふっと笑い私の肩に肩を重ねる。

「ならば大歓迎だ、私も噛崎さんも、局全体がだ。」

「ようこそ、ディストピアへ!」

 その後は食堂で食事、これは補給課の腕もありかなり美味しい。

 そして待望のお風呂……である。

 イージス艦の中かなにかだろうか。

 4人入れるかどうかくらいのステンレスの浴槽。

 せ、狭い。3人で肩を寄せ合い湯船に浸かる。

「順番に入ればいいのに〜」

「いいんだよ。鐘倉さんが望んでるんだから。」

 いいなぁ、暖かいなぁ。心まで暖かくなる。

 配属初日はギクシャクしてたけど、今となれば背を預け合うチームだ。

 ここに未来が入れば4人体制。Knight of Träumereiナイツオブトロイメライはより万全なチームになる。

 バックアップ1人、フォワード1人。そしてどちらもこなせる者が2人。

 未来驚くかな。私が人型装機リンネなんか操縦してたら。

 ふと壁を見る。スローガンかな。張り紙がしてあった。

 《真水の一滴、血の一滴》

 ……海自、それも船の中の話だよねそれ。

 確かに節約は局として大切だろうけどここまでか。

 お湯掛け流しの寮が異常なのか。

 2人に遅れて湯船から出て体を洗う。そして洗髪。

 今日も沢山汗をかいた。気持ちいい。シャワーを浴び浴場から出る。

 身体を伝う水滴を拭き取り髪を乾かす。

 脱衣所も狭い。基地あんなに広いのに、こんなに狭い。

 まぁ、その基地にも私が入ったことがない部屋もある。

 機関室とか、なんの機関だろうとかは思ってた。

 最重要機密だったりするのかな。鍵が電子キーだったし。

 そんなことを思いながら髪を乾かし終わる。

 さて、あとは居室へ向かうのみ。

「すまない、その前に私の部屋に寄ってくれないか?2人とも。」

 ?なんだろう。言われるがまま餘目さんの居室へ向かう。

 ということは局長の居室でもあると。

 しかも噛崎さんも呼ばれた。

 居室に着きドアを開け中に入る。

「失礼します……。」

「まぁ固くならずに、そっちのベッド局長のだが座ってくれ。」

 なんて難易度の高い。局長のベッドに座るだなんて……。

 でも。促された。座ろう。

 噛崎さんと並んで、座る。

「さて、本題だ。今日まで私と共に戦い抜いてくれてありがとう。不器用な私によく着いてきてくれた。明日は機体を降りて、白兵戦となる。経験のある私と噛崎さんで可能な限りバックアップする。鐘倉さんは保守自己防衛に徹してくれ。」

 私の身を案じてくれている。助かる。

 結局サインは覚えきれず。命に係わりそうな物だけを詰め込んだ。いや。全てが関わるんだが。

 そこで餘目さんが、スカイツリーの地図を広げた。

「過去私は災害派遣で1度スカイツリーを登っている。幽世アチラガワとはいえ構造は同じだろう。最後だ。この地図を頭に叩き込め。途中展望台までは人型装機リンネで、そこから上展望回廊へはエレベーターもしくは階段でアクセスする。」

 覚えるんだ、細部に至るまで。地図を睨み付ける。

 非常階段の位置、カウンター、エレベーター。

 その全てを。

 集中しているその時居室のドアが開いた。

 局長が帰ってきたのだ。

「遥ぁ疲れたぁ……ええ!?みんないるの!?」

 オフの局長。完全に餘目さん依存。あれこれ、餘目さんも局長依存。Win-Winなのでは?

 顔を赤らめる局長。流石に恥ずかしかったらしい。

 局長お嫁に行けないってこの前浴場で言ってたな……。

 いいこと思いついた。

 私はあのとき餘目さんがもらうから大丈夫と言った。

 局長に耳打ちする。

「ええ!?私が?嫌じゃないけどそれ大丈夫?」

 サムズアップ。

「は、遥……。」

 局長が餘目さんの隣へ座る。

 依然顔は赤い。

「に、にゃんでしょうきょくちょう!?」

 こっちはこっちでえらいこっちゃ。

「お嫁に貰ってくれますか……?」

 そう言い局長は餘目曹長の頬にキスをする。

「●●✕●□■✕◆!?!?!?」

 煙を上げが出しい状況か。

 餘目さんはベッドに倒れ込んだ。

 追いかけるようにその胸に局長も倒れ込む。

 噛崎さんと眺める。

 これはもとより確信犯だったな。

 幸せそうで何よりだ。お幸せに。

 声は……届いていないだろう。

 私達は地図を借り、居室をあとにする。

「ボクも相思相愛だと思ったよ。」

「ですよね。見ててそんな気がしたんでちょっと押し込んでみました。」

 そして噛崎さんの居室へ入る。

 その日は夜遅くまで地図とにらめっこをしていた。

 夜が更けていく。

 ――――――――――――――――――――

『完全撃破おめでとう。君達の力は証明された。残す所は君の奪還だろう。』

「鐘倉さんはきっと来る。私達を迎えに。そして託すんだ。私達の未来を。」

『戦おう。それがやつがれ達の意志だ。』

 ――――――――――――――――――――

 遂に決着となった目標体Charlie。

 明日は待ち望んだ城未来奪還作戦その本作戦である。

 裏東京スカイツリーで待つは希望か絶望か。

 運命を翻弄された少女達はついに邂逅する。

 次回、《Zulu-邂逅、終わりの始まり》

 ようやく手が届く。お待たせ未来。私は来たよ!

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