第3夜:Bravo-熱き血潮に
私は夢を見ていた。
城未来を奪還した夢。またもう一度彼女と一緒に笑い合う夢。
しかめっ面してる時の方が多いけど、彼女もしっかり笑ってくれる。
私はそんな彼女の笑顔が好きだ。
初めての出会いは、自然な笑顔じゃなかったけど。
局の仕事を通して私達は心から笑い合える友になれた。
また、そんな日常が戻ることを切に願っている。
起床ラッパの音が鳴り響く。
飛び起き寝具を片付ける。
昨日同様、さすが元自衛官。動きに無駄がない。すぐさま制服に着替える。
私も遅れない様に支度をする。
急いで制服に着替える。
そうして廊下に整列する。
「名前と階級だけお願いします。私が締めますので。」
昨日と同じ。
「うむ、了解した。」
寮母さんが回ってくる。
「餘目遥曹長。」
「鐘倉美空3曹。以上2名、現在員2名。」
「今日はまた違うお客様なのね。よろしい。」
そうして次の部屋に移っていった。
「さて、では体操と朝食です。」
了解した、と外に出る。
餘目さんはかなりきびきび準備運動をする。
普段から真面目な人なんだな。それは見てればよくわかるけど。
お手本の様にきっちり正確に体操をしている。
私も負けじときびきび体操を始める。
あ、これ筋が伸びて気持ちいい。新しい発見だ。
今までなんとなくで体操してきた。これからはこれだな。
一通り体操が終わり食堂へ移動。
もちろんプレート大盛りのご飯。
餘目さんはパンを食べていた。
「その、足りますか?それ。」
「むしろ逆に多くないか?それ。」
いえ、平常運転です。これが私なのです。
寧ろおかわりまであるレベルです。
ぺろりと平らげ、ドリンクを取りに行く。
勿論寮な訳で同じクラスの人にあう。同じ整備科の人にも会う。
皆に言われる。
最近学校来られてないけど大丈夫なのか?と。
実際の所大丈夫ではない。なんせ親友が拉致されその奪還作戦中である。
局の人間ではないので相談も出来なければ、話す事も出来ない。
だから、局の仕事が忙しい。そう答えるしかないのである。
ドリンク片手に席に戻る。
「鐘倉さんも寮で苦労してるんだな。何も話せないのは辛いな。」
「まぁ、でも巻き込みたくないし、未来ほど仲良くないし。大丈夫ですよ。」
そうか、と一応納得してもらえた。
課業行進に向け慌ただしくなる。急いで食事を掻き込む子が増える。
そういえば久しく課業行進してないな。
まぁ学校に通えてないから仕方ない。
食事を終え自室で未来の懐中時計を持ち、学校へ向かう。
非常階段を降り本部地下基地へ移動する。
この作戦発動間は
夜でなくても場合によっては出撃する可能性がある。
私達は更衣室へ向かいパイロットスーツへと着替えた。
ロッカーに制服をかける。懐中時計をポケットから出し、手に持つ。
パイロットスーツにポケットがないから仕方ない。
そうして格納庫へと向かう。
一足先に準備を終わらせた噛崎さんがそこにいた。
「遅かったね〜。」
「ごめんなさい、朝ごはんたくさん食べてたら遅くなっちゃいました。」
さすがにちょっと欲張り過ぎてしまった。
「あの、ちょっとコックピット行ってきます。」
「はいよ〜。」
足早に訓練機に向かう。
丁度メンテナンス中だったらしく。メンテナンスブリッジがコックピットに伸びていた。
階段を駆け上がり、コックピットブロックへと近づき中に入る。
持ってきた懐中時計をくくりつける。
「今日もよろしくね、未来、蒼君。」
取り付け終わると外に出て階段を降る。
ベンチに移動し3人で座る。
即時待機。正直暇である。
作戦発動は夜7時。視聴率安定を図っての事である。
が、その時である。
館内放送が鳴った。
『昨日の作戦、及び本日の作戦会議の為
呼び出しがかかった。
「行きましょう。」
3人して走り出した。
――――――――――――――――――――
中央発令所CIC。
既に上官は揃っていた。
私達が揃うと局長が切り出す。
「昨日の目標体Alpha、作戦遂行お疲れ様でした。局にとって大きな1歩となりました。」
そうだ、未来奪還への1歩。それも大きな。
あの大きな参型
「しかし問題が発生しました。今まで相手にしてきた
昨日の作戦では確かに最初は苦戦した。
だって影が本体だとは思わない。それにいきなり質量を持ち影を守り始めた。
その上
持久戦、消耗戦。補給を受けながら、決してガスを切らさない様に。そして高機動。
非常に難しい操作を要求された。
さらには表皮上のバリアが復活しない様に撃ち続ける必要があった。本体の攻撃に備えながら。
最後は噛崎さんの型で影を切り刻み。本体を駆逐した。
しかし代償もあった。
カーボングラファイトに被せていた追加装甲板が溶けきったのである。
勿論機体本体の装甲板、カーボングラファイトは耐熱400度の為、持ち堪えた。
蒸気の量が、質が、密度が通常の比ではなかった。
融解は耐えたがその放射熱は内部まで熱した。
パイロットスーツも機体も、冷却全開でなんとか耐え凌いだ。
「本日は目標体Bravoになります。目視では高温の蒸気を常に発し続けています。周辺2〜30mの建造物は溶け落ちています。浸蝕対電弾を抱えたドローンの特攻は効果なし。威力偵察は効果なし。本当にごめんなさい。分かった事は、サーモカメラにより敵の温度が600度を超えている事。
驚いた、超高温の個体が次の相手か。
また影が弱点ではないだろうな。
どこかに弱点を見つけないといけない。
そもそも
昨日の個体とは比べられない程の蒸気なのだろう。
結論が見える。
でも、
きっと上が作戦を考え尽くすだろう。
私達には考えつかない何かを。
「以上の事から、今回噛崎さんはバックアップに回って貰います。
そうだ、噛崎さんでは分が悪い。適切な判断だと思う。
近づいて溶けましたでは言い訳にもならない。
「それではこれから私達は、考えうる最善の作戦を模索します。が、恐らく時間には間に合わないでしょう。危険に晒してしまう事、本当に謝ることしかできません。では、
了解と私達は格納庫へ戻る。
途中噛崎さんはこう漏らした。
「射撃……ボク本当に苦手だよ。間に合うかな。」
「大丈夫ですよ!私も苦手でしたし何より射撃の名手がいますから!」
射撃の名手。そう餘目さんだ。《シモ・ヘイヘ》を英霊AIにする機体の
「そうだな、私もできる限りフォローしよう。」
格納庫に到着。
3人してシミュレーターに乗り込む。
ふと思う、宮本武蔵が射撃する。ちょっと面白い。
訓練フィールドで事象再現。
シミュレーションスタート。
ターゲットが次々現れる。
噛崎さんは
射撃を開始する。
私達は少し離れた位置で見学する。
的には……あたっている。決して下手ではない。
あたってはいるが、本人が気にする事があるとすれば、
AI補助ありでも中心を狙えない事だろう。
やはり格闘戦主体のAI。予測射撃等はしてくれないか。
だからと言って今回だけAIを載せ替える事はしないだろう。
あとは噛崎さんのセンス次第。
「ねぇ〜真芯に当たらない〜。」
「止まってる的は行けるだろう?問題は動いてる的だが、私達のAIは射撃に精通しているから弾道予測をし、敵の行動を先回りし射撃する。それがお前にはないんだ。だから当たらない。自ら先読みし射撃するしかない。」
それがいかに難しいか、よくわかる。私のAIも汎用だから予測してくる。
それでも正確にコアを狙うのは難しい。
頑張ってほしい。時間はまだある。無理しない程度に。
――――――――――――――――――――
2時間後。
シミュレーターが開く。
私達はほぼ見てるだけだった。
噛崎さんはすごい頑張ってた。
汗だくである。ドリンクを差し出す。
「ありとう〜。予想よりきっついわ〜。」
「お疲れ様です。でも順調に出来てるじゃないですか!」
「さすが天才剣士だな。噂は聞き及んでいる。銃の道もアリじゃないか。」
かなり飲み込みが早い。予測射撃がなくても、真芯を捉えられるようになっている。2時間で。
最低限のバックアップは可能だろう。
才能は恐ろしいものである。努力を蹴散らしてしまう。
私の努力が、いとも簡単に抜かされた。
負けてられない。
私に出来る事は、未来と同じ。近すぎず離れすぎず。
射撃も
どちらに敵が偏っても対応出来るようにする。
それを常に意識するんだ。
「ボクは訓練これくらいにしとくよ。本番に響きそうだし〜。」
「うむ、それがいいだろう。お疲れ様だ。」
とりあえずパイロットスーツを着替えてくると、格納庫を飛び出した噛崎さん。
作戦開始が迫ってくる。
この時間がとても緊張する。
今回は、敵の事前情報がある。
とはいえその情報は絶望的なものだった。
なにか糸口を見付けなければ攻略できない。
どうにか
でも高温が、温度が高すぎて近づけない。
射撃でどうにかなるレベルなのだろうか?
また昨夜同様ドローンで補給しつつありったけ撃ちまくる戦法か?
局の弾薬事情が気になるが、常に仕入れ続けているんだろう。
これまでは
仕入れ先はやはり福岡重工なのだろうか?
それとも災害対策で別拠点での製造を行っているのだろうか?
まぁ1
何事もなくお昼を過ぎ、作戦開始まで8時間を切った。
局の食堂でカツを食べる。局総出でゲン担ぎ。
みんなそれぞれの持ち場で戦っている。
戦っているのは前線の私達
局一丸となって戦っているのだ。
どれ1つ欠けてはいけない。みんなにみんな意味があるんだ。
時間は沢山ある、ゆっくりと食事をとり格納庫へ戻る。
ベンチに座り、持って来たノートPCを開く。今日の作戦会議の議事録を見返す。
何度見ても変わらない。超高温の敵。これに対してドローンによる威力偵察は無力。
実際に対峙してみないとわからない。
もう1体。蒸気らしき物を発する敵。Charlieがいる。
らしきものである。それが蒸気か不明だ。
もし同じなら面倒な事この上ない。
Bravo1体でこんなに悩まされているんだ。
きっと今でも発令所では作戦が練り続けられている。
解決が先か、突入が先か。
前者であってほしいと願うばかりである。
途中、餘目さんと噛崎さんもPCを覗いてきた。
やはりBravoに関する情報が少しでも欲しいのだろう。
「発令所行きますか?」
私は投げかける。直接聞きに行ったほうがいいのかと。
「いや、上の考える事はわからん。それも局長の頭脳ともなればなおさらだ。邪魔するだけだろう。きっとなにかあれば召集なりかかるはずだ。私たちは待とう。」
それもそうだ。邪魔しちゃ悪い。
せっかく対応策を考えてくれているんだから。
私たちに今出来る事。それは待つ事だけである。
そんな傍ら、昨日溶けた実戦弐番機の修復作業が進められていた。
溶けたのは追加装甲板。本体には影響がなかった。
軽くて丈夫な、カーボングラファイトじゃなければ危険だったんだろうな。
即時待機の時間は過ぎる。作戦開始が近づいてくる。
各々各機に乗り込み準備を始める。
メンテナンスブリッジが下げられる。
コックピットブロックを閉鎖し、機に籠る。
懐中時計を見る。まもなく7時。発令所から連絡はなし。決定的な案は出なかったと考える。
であれば現場で見極めるしかない。
仕方のない事だ。行こう。
無線が入り始める。慌ただしい発令所が伺える。
「視聴率安定。
「侵入ルート形成。階段状に隆起。」
作戦開始のシークエンスが始まる。
やはりこの時が一番鼓動が高鳴る。
危険が待っている。でも親友が待っている。
「
了解。そうして私達は昇降機へ乗り込む。
錦糸公園前交差点。ブザーが鳴り。交差点が切り替わる。
交差点が開き下から台座がせりあがってくる。
そして準備は完了する。
「鐘倉美空、
「餘目遥、
「噛崎熾織、
「「「オン・エア」」」
掛け声とともにバシュっと腰部バッテリーパックから外部充電コネクタが外れる。
昨日同様準備された階段状の道路を駆け上っていく。
眼前に迫る
「さぁ行くぞ。今日も勝鬨をあげる。続け!」
「了解!」
「さぁ~いってみよ~。」
『相互リンク開始。意義証明。存在定義。』
インターフェースが光りだす。
モニターには証明中の文字。今日も正常稼働。
勢いそのまま虚数空間へ落ちていく。
「みなさん、本日の相手、目標体Bravoは裏東京スカイツリー西交差点付近に鎮座しています。昨日より少し奥に入った位置です。残念ながら近づけませんが。」
裏スカイツリーに向け走り始める。
Unknownからの充電電波受信を確認。こちらも昨日同様問題なし。
順調に足を進める。
遠方に蒸気が見え始めた。暗視カメラ越しでもわかる。異常だ。
徐々に近づいて来る。50m超えの躯体。
その周囲は溶け切っていた。
立てなくなるからだろう、接地面。足の裏は温度が高くないらしい。
「AIサーモカメラ」
『了解サーモカメラ』
うわ。真っ赤だ。推定温度600度超え。
ダメだ近寄れない。
「とりあえず撃ってみますか?」
「そうだな、眺めていても埒が明かない。2人とも構えろ。」
兵装選択。
「斉射する、ファイア!」
3人で一斉に射撃する。
弾は……当たっていない。あたる前に蒸発?煙を出してそれている。
「次、
これは、熱で弾頭が爆発してしまっている。火薬の発火温度より高いからだ。
しかし、なぜか弾がそれてしまう。
そこに局長から無線が入る。
「敵が高温すぎるんだ。あれは……。」
そこに兼坂砲雷長が割って入る。
「局長あの現象、おそらく。」
「ええ、その通りでしょう。」
「「
ライデ?なんて?弾が弾かれて居る事についてだろうか。
局長が続ける。
「あれは
蒸気が、温度が高すぎて弾が弾かれる。そんな現象って事か。
じゃあ結局攻撃効果なし。
「しかし、敵からの何らかのアクションがあれば温度が下がる可能性があります。昨日
了解。はいいものの。ほぼ沈黙している。ただそこに立っているだけ。
相手は何もしなければ裏スカイツリーを確実に守れる。
下手にアクションなど起こさないだろう。
ましてや弱体化するアクションなど。
それが攻撃だというなら話が別だがそんな都合のいい話が2日連続で続くか?
普通に考えてあり得ない。ならやはりそこに鎮座するのみだ。
「とりあえず突っついてみます。」
補給もあるので1マガジン撃ち尽くしてみる。
……まぁ、予想通り効果なし。敵からのアクションも……なし。
ドローンから補給弾倉を受け取りリロード。次に備える。
ドローンは錦糸町基地へ戻っていく。次の物資を運んでくるのだ。
下手に飛び回っても効果は無いだろう。
おとなしく、川を挟み対峙する。
何も起こらない。何もできない時間が過ぎる。
悔しい。未来のいる空の柱は目の前なのに、こいつが対処できない。
上も現在進行形で作戦を考え中だろう。
それを待つか?どうする。
その時である。
『Enemy Attack。正面。』
アラート!?攻撃が来る!
「全員散開!」
餘目曹長の掛け声で急いでワイヤー、バーニアを使いその場を離れる。
「目標内部に超高エネルギー反応!収束!来ます!」
刹那、先ほどまで立って居た場所が直線状に抉れた。いやあれは溶かされた?
目に見えなかった。目に見えない何かが通り過ぎたのだ。
「観測的にマイクロ波だねあれ。電子レンジで使われてるやつだよ。当たったらお陀仏。沸騰して終わりだね。」
さらっと怖いことを言う局長。
当たればゲームオーバー。というわけか。
あ……、敵から攻撃が来た。温度は下がっただろうか?
しかし突きつけられるのは絶望だった。
「攻撃後ドローン測定結果。推定650度。温度上昇しています!」
逆だった。攻撃をすればするほど上昇するタイプらしい。
ワイヤーを使いビルに登る。蒸気が若干濃くなっている。やっぱり測定結果は間違ってない。
温度は上昇している。もとより近づけないが、より近づけなくなった。
その後も攻撃は間隔をあけて続き、推定800度まで上昇した。
より広範囲の建造物が溶け始めた。
急がないと裏スカイツリー迄溶けてしまう。それじゃ遅いんだ。
ビルの上から眺め続けるしかできない。物陰に隠れてもマイクロ波が抉り取る。
『Enemy Attack。正面。』
また来た!立ち退かないと。
焦りが……ミスを犯した。ジャンプの為にふんばった。
ビルが、耐えきれず崩壊。巻き込まれてしまった。
逃げられない。当たってしまう。
ごめん未来。失敗した。
私は失敗した。
迎えに行くどころか、会えるかもわからない場所で未来を待つ事になってしまう。
「目標超高エネルギー反応!間に合いません!」
あぁ、頑張ったのにな。
どうして報われないんだろう。
「諦めは許さんぞ!鐘倉!」
機体を衝撃が襲った。
アンカーをビルに突き刺し機体を固定した餘目機が、スティールワイヤーを訓練機に巻き付け引き寄せたのだ。
ジュっという音とともに左脚が蒸発した。
でもコックピットブロック含む上半身は無事射程から外れ餘目曹長に回収された。
「無事か!?鐘倉!」
「は……はい。流石に死んだと思いました。ありがとうございます。」
良かったと安堵の息を漏らす。
『左脚部
足だけで助かった。片足じゃ立って居られないけど。
心臓の鼓動が収まらない。死に直面していたから。
餘目機に肩を借り立って居る。次に攻撃が来たらさすがに避けられないな。
「すいません。私の所為で。一度撤退しますか?」
「そうだな、動けない状態であのマイクロ波が来たら終わりだ。発令所、指示を乞う。」
しばしの沈黙の後局長から無線が入る。
「実は1つだけ敵を倒す可能性が無い訳ではない作戦があります。欠点は、裏スカイツリーをも吹き飛ばしかねないこと。現場を実際に見たわけではないので確証には至りませんが。どうでしょう、賭けてみますか?」
とびっきりの大博打だ。裏スカイツリーの破壊、それは城未来奪還作戦の失敗を意味する。
それに随分と煮え切らない言い方だ。
しかし、目の前のこいつを倒さないと作戦は進まない。秤にかけるしかない。
「曹長、私は賭けてみようと思います。私達では埒があきませんから。」
「ボクもそうするよ。近づけないんじゃ活躍できないし。」
曹長も考える。が結論は同じだ。目の前の障害を排除しなければ進めない。
「発令所。指示に従う。どうすればいい。」
「では敵の攻撃が来ないうちに昨日の作戦場所、東京メトロ半蔵門線・押上駅迄後退してください。」
2機の
「CIC、錦糸町1番から106番までの発射管を浸蝕短SAMから通常短SAMへ変更。大至急。」
「局長指示。1番から106番までの発射管を通常弾頭に。」
地下発射管では換装工程が進んでいく。
「目標35度42分ノース、139度48分イースト!火薬の発火点に達しない為に、敵の温度の低い、足元低空を狙います。この爆撃によって足場全てを消し飛ばします。」
いったい何が始まるんだろう。超人頭脳が考えた作戦。私達は押上駅に到着する。
「押上駅に到着。準備よし。」
「これから敵を
爆発させる?火薬の発火点は約300度。ミサイルをぶつけても届く前に悉く爆発してしまう。
でも足元を狙うと言ってた。足場を崩す。するとどうなるっていうんだ?
「短SAM発射準備よろし。」
「よろしいですね?局長。」
「ええ、あれを倒さねば未来はありません。
階段状に隆起した道路が元に戻り道路になされていた蓋が開く。
多数のミサイル発射管が現れる。
そこから暗闇を切り裂くほどの炎を上げてミサイルが飛び出す。
そのすべてが
高速で目標に対し飛行する。
目標に接近すると低空飛行となり足元を狙う。
その時である。
「再度目標内部に超高エネルギー反応!マイクロ波来ます!」
それでも局長は笑っていた。
「大丈夫こちらの方が先に到達する。」
106発のミサイルが順に足場を崩していく。
敵の足元に次々と突っ込んでいく。
「間髪入れない!次装填!
1撃目ではすべて砕ききれなかった。熱にやられたミサイルがあったのだ。
2撃目が
あれで奴が倒せるのだろうか?疑問しかない。
ただ足場を崩しているだけだ。それがなぜ決着に繋がる?
第2波が目標に到達する。
再度足場を崩していく。
敵の体勢が……崩れた!
敵が落ちていく。
刹那、巨大な爆発が起こった。地面が、空気が揺れる。何が起こったかわからない。
そして虚数空間に
「え?雨?」
天候の概念は無いと思われていたが雨が確かに降った。
「遥、噛崎さん、戦闘効果確認よろしく。」
「了解!(はいよ~。)」
2人は交差点に戻ていった。
私もAIを使い索敵をする。
『目標体Bravoと思しき感なし。』
「目標を視認できない。爆心地には何もない。発令所!」
そこで勝利を確信する。
「であれば我々の勝利です。スカイツリーからの感も消失。目視発見に至らず。」
「
来た。2つ目の完全決着。が、未だに何が起こったかわからない。
聞いてみることにした。
「あ、あの局長。敵はなぜ消滅したのでしょうか?」
ああねと局長。
「
科学で習った。水蒸気爆発。そうだその手があったか。
確かに目の前には川が流れていた。
それに落とそうなんて考えもしなかった。
でも確かにこの爆発だと裏スカイツリーを破壊しかねない。だから出し渋っていたのか。
望遠で確認する。
裏スカイツリーは……無事だ。傾きもしていない。
本当に作戦完了だ。
2機が押上駅に帰ってくる。
2機に支えられ帰路につく。
「あの、ご面倒お掛けして申し訳ありません。」
「何気にするな。生きてるだけ儲けものだ。」
「それにボクら、実際突っついただけで何もしてないしね。」
程なくして
また帰ってこれた。私たちの世界に。
錦糸公園前交差点昇降機で地下格納庫へ降りる。
整備課局員が待ってくれていた。
オープン回線で呼びかける。
「ごめんなさい。脚壊しちゃいました。」
すると局員たちは手で大きな丸を作り笑っていた。
片膝立ちになれないため、仰向けで置かれる。
コックピットから飛び出し、整備課に謝る。
「なに、壊れたのを直すのが俺たちの仕事なんだ。明日までには元に戻しとくよ。」
「お疲れ様。手帳で見てたけどハラハラだったね。倒せてよかった。」
いつも通りの整備課局員だった。誰一人破損について咎める事はしなかった。
ありがとうございますとお礼を言うと局員は忙しく作業に取り掛かっていった。
残り2人も降りてきた。
「今日は助かりました。本当ありがとうございます。」
「お前が死んだんじゃ城1曹に怒られるんでな。」
「流石に焦ったよ~。この、この~。」
つつかないでくれ。まだ心臓がバコバコしてるんだから。
今日も局長はお出迎えしてくれた。
「やぁ乙女達お疲れ様。今日も勝てたみたいで何よりだよ。」
実際局長のおかげではある。私達は本当に逃げながら突っついていただけなんだから。
さて、今日君達を迎えた理由だが。
と言うと軍人手帳を取り出し、誰かにコールする。
「あ、副長?」
相手は東海林副長のようである。
「うーんとね、全館指揮を明日迄委譲。今日は私が鐘倉さんの部屋に泊まってきます。ええ、もちろん。回線は常に開いておくわ。何かあったらすぐ連絡頂戴。それとCharlieについても何か考えておいてね。それじゃ。」
きょ、今日は局長が部屋に。なかなか休まらない。上官が連日部屋に泊まる。
説教かな。怖いな。
「あ、噛崎さん、私の居室使っていいから。遥と仲良くね。」
みんなの仲を取り持とうとしているのだろうか。
ってか局長の布団なんて緊張して私なら寝られないわ。
「了解~。おっじゃましま~す。」
「嘘ですよね、局長。私がこいつと!?」
「あら、作戦は終わっているわよ?噛崎さん。でしょ?」
いよいよ餘目さんが可哀そうである。
頑張って明日元気で待っててくださいね、曹長。
「じゃあ、いつも通り報告書作成後談話室集合で、はい解散!」
い、忙しい!大急ぎで作戦報告書に取り掛かる。
とはいえ今回の作戦は噛崎さんのいうとおり突っついただけなのである。
殆ど書く事はなく、その後の戦闘効果の確認など、餘目さん噛崎さんが殆ど仕上げた。
みんなで更衣室に向かう。パイロットスーツを脱ぐ。死線を体感した冷や汗と、緊迫からくる汗で、下着は濡れていた。
「うえ、気持ち悪い、早くお風呂。」
制服に着替える。パイロットスーツを回収してくれる衛生課に感謝である。
じゃあ私行きますと言い残し、非常階段をダッシュ。寮へ戻り準備を済ませ談話室でみんなを待つ。
今日も寮母さんが来た。
「2つ目ねおめでとう。折り返し。がんばって。」
「ありがとうございます!」
「今日もお客さん?」
「はい、皆さんいらっしゃいます!」
みんな。局長も来るのだろうかと寮母さん。
すいません。今日泊まります。
程なくして
全員集合。浴場へと向かう。
脱衣所を過ぎ、大浴場へ。
「ん〜やっぱ作った甲斐あったわ〜。上に稟議通すの大変だったけど。」
一番楽しみにしていたのは局長なのだろうか。
一直線に湯船へと向かっていった。
私たちも追いかけるように向かう。
汗だくの体を流し、湯船に浸かる。
これこれ〜。気持ちい。作戦の緊張感がほぐれていく。
あと2回出撃がある。その2回で取り戻すんだ。
近づいてきた。未来が。その手に。
さて、と今日は流石に私が誰かの頭を洗おう。
助けてくれた餘目さん、噛崎さんか?それとも結果敵を殲滅した局長か?
と考えていた所に餘目さんが声を上げた。
「小隊長命令である。本日活躍した局長殿を洗い尽くせ!」
「「さ、サー!」」
「待って待って!私はいいから!いいから〜あ!」
華奢な局長が屈強な餘目さんに勝てるとは思えない。
そのまま洗い場に連れていかれる。
「噛崎は御御足を、鐘倉は頭を、私は体を洗う!かかれ!」
一斉に洗い始める。
「局長暴れると目に入りますよ……。」
「で、でもくすぐったいってば……ちょっと!」
「局長肌スベスベだね〜、ボクも見習わないと。」
そこで餘目さんが黙り始める。そして、
「ちょっと胸触ったの誰!遥でしょ!」
「いえ、まさか私がそんな事!」
顔が真っ赤だ。蒸気なのか本気なのか。
いや本気だろうな。餘目さんもそんなことするんだ。
ちょっと触ってみたい。私にはないものだから。えい。
「次は誰だ!やめてくれえええ。」
なるほど、きっと私もこれから育つ。大丈夫。イソフラボンを取ろう。
これだけ騒げば注目の的である。
少し抑えよう。
そうしてようやく全身洗い終わる。
「お嫁に行けない。もう無理。」
「大丈夫ですよ局長。最悪餘目さんが貰ってくれます。」
やりすぎたかな。ちょっと涙目である。
ほら局長お風呂ですよと、浴槽に促す。
こじんまりとした子供の様になってしまった。
若干の罪悪感があるが、楽しかった。
お風呂から上がり髪を乾かす。
4人並んでドライヤーを使う。
戦闘は嫌だけどこんな日常が続けばいいのにな。
「今日も持ってくるけど4人分でいいかな?」
「うむ頼んだ。」
噛崎さんは冷蔵庫へ向かう。
そこからフルーツ牛乳を4本持ってくる。
ドライヤーを一度置き、飲み始める。これこれ。お風呂上がりの至福。
その後は服に着替え食事をとり解散した。
話題には決して作戦行動の事はあげられない。何気ない日常の会話を済ませた。
部屋に案内する。203号室。
「そちらのベッドどうぞ。」
ありがとうと、ベッドを整え座る。
私は懐中時計を返す。
「ふーんそれが報告書にあった懐中時計か。あなた正直に何でも書くからね。いい事だけど。」
そう、Alphaの報告書に書いていた。これが解決の鍵だったと。
それは置いておいて。今日はなぜ局長が来たのか。それが気になる。
「今日はなぜ、局長がこちらに?」
「そんなに改まらなくていいわよ。ただ神崎さん、遥が楽しそうだったから。私もと思っただけ。あとは、2人と仲良くしてくれてありがとうね。話を聞いてるか知らないけど。それぞれ過去があるから。しがらみが。それを断ち切れるのは今は鐘倉さんとの交流だと思ったの。」
そんな大役、務まっただろうか。
確かに過去の話は聞いた。
1人は孤独、1人は命の尊さ。それぞれ背負っていた。
「私が話す事は特にないわ?説教なんてないよ。あるとすれば得体の知れない敵に対して勇敢に立ち向かってくれている3人への激励かしらね。あー布団が柔らかい。いいなぁ。」
今頃局長の居室は地獄なんだろうか。
喧嘩してないといいけど。
「明日が最後の目標Charlie。発令所でも可能な限りバックアップするわ。だから全力で臨んで欲しい。」
「もちろんです!私は私の願いの為に未来を救うって決めたんです。使えるものはなんでも使います!」
ふふ頼もしい。そういうと局長は私を抱きしめた。
「親友の拉致。その存在の証明。急遽、操縦課への転向。1ヶ月過密の訓練。そして初めての実戦が
頭を撫でられた。いつ以来だろう。こんなふうに抱擁され、撫でられるのは。
暖かい。癒される。いい匂いがする。
私も局長を抱き返す。流石に予想外だったのか局長が跳ねる。
「いつもその頭脳で私たちを助けてくれてありがとうございます。貴女のおかげで救われた命もありました。私だけではありません。」
そう聞いていたのね。そういい局長はさらに頭を撫でる。
私は何を思ったのかベッドに局長を押し倒した。
「きゃっ!なになに〜。」
「それでも私は戦います。私達の戦いの意味が報われるまで。城未来の存在を証明するまで。私達は戦います!それが
「そうかそうか。立派になったね。入学した時はあんなにおどおどしてたのに。私は全員見てたからね。知ってるよ。」
恥ずかしい。局長の頭は記憶力までずば抜けてるのか。
それに追い打ちをかける様に現状が見えてきた。
局長を……押し倒してる!?
「ごごごご、ごめんなさい!何してるの私〜……今どきます、すいません!」
局長から降りる。そうして、床に正座する。
「そんなにしなくていいよ。遙かにもされた事……ってする訳無いか。怒ってない。女子と仲良くなれて私は嬉しいな。」
局長は優しい。女子だから、否自身が立ち上げた局全てに優しいのだ。
だからみんな局長について行く。従い働くのだ。
「さぁさほら、そんなとこ座ってないで、ベッドに戻ろう。」
促されベッドに戻る。
局長も未来のベッドに。
「さて、寝ましょうか。本当に今日はお疲れ様。おやすみ。」
「はいおやすみなさい。」
まだ恥ずかしい、でも私達は眠りについた。
――――――――――――――――――――
『
「そう言えばあなたをなんて呼べば?」
『
「目標体
――――――――――――――――――――
裏スカイツリー倒壊の危険を冒しながらも
決行した作戦。解決の鍵は水蒸気爆発。
肢体爆散した目標体Bravo。私達はまた1つ勝利を手にした。
時を同じくして議論される目標体Charlie。
それはまた、これまでの常識の通用しない相手だった。
次回、《Charlie-阿鼻叫喚》
残された時間は約半分。急ぎたい気持ちを抑えろ。私。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます