探していた人々

王国が数百年の時を飛躍する起爆剤としてぶち上げた肥料工業の開始。

そのプレゼン中です。


私は思わぬ存在に驚く。そういえばいないなと思っていた錬金術師だ。


「錬金術師…いたのですか…」

「れん…なに?」

「あ、いえ。」


思わず呟いてしまうが、錬金術師という呼称はこちらのものではない。うかつだった。


呼び名は違えど、やろうとしていることは同じだ。

王国は金銀が産出されないことを常に憂いていた。なので、金を作り出す技術を求めたのは必然と言える。聞けば、王国が成立してから200年後くらいに、国策として研究が始まったらしい。ただ、成果は全く出ず。金属の加工に関する見識は多少役にたったが、肝心の金が作れるめどは案の定でなかった。


そうこうしている間に大飢饉が発生し、王国が大被害を被る。そして、その立て直しの中で成果の出ない国策は方針転換により打ち切りとなった。


だが、その後も金を欲する貴族家が入れ代わり立ち代わり出資者になり、今日まで存在自体は細々と続いているらしい。


「…鉄を溶かす薬剤…金を扱うのであれば、持っている可能性が高そうですね。」

「だろうな。だが…」

「だが?」

「今の王族は金創士に伝手が無い。国策を打ち切った時に怒らせてしまって、以来折り合いが悪い。」

「えぇ…」


すごいしょうもない理由。頼まれたから研究を始めたのに、そっちの都合で打ち切るとは何事かと、金創士一族は激怒したらしい。その後、王族と対立する派閥の貴族が出資者になっていたりしたこともあり、王族とは距離が生まれたままだということだ。


いや、大災害による緊急時対応なんだから致し方ないじゃん…と、前世で災害大国育ちの私は思う。


ただ、ここで必要性が出てきてはどうこう言ってられない。何とかしてコミュニケーションを取らなければいけない。父や宰相もその必要を認識してくれていた。


「うむ…現在の出資貴族に仲立ちを頼むか?今はどこなんだ?」

「それが、現在の有用な情報はないですな。いかんせん、出資者がころころと変わるもので。」

「それは難儀なことだ。よく今まで存続していたな…」


これは難航しそうだ…いや、今までの自分の経験を動員しろ。

伝手が無い相手にどうアポを取るか?実は簡単な方法がある。

そこで私は手を上げる。


「あの…」

「うん?なんだ、フラン。」

「直接伺ってはいけませんか?」

「どこに?」

「金創士のもとへ。」


伝手が無いなら作ればいい。どう作るか?直接行って面識を作ればいいのだよ。

重要事業でどうしても話をしたいキーマンには、あの手この手で連絡を取り、行動を把握して、偶然を装ってでも話をしに行く。愚直で単純だが、確実な方法だ。


顔を覚えられれば目的達成、話が弾めばなおもよし。商社での新人時代に叩き込まれた。


この提案に、父は私のことを黙って見据えた。そして、言葉少なに問いてきた。

提案自体は否定していないものの、その場合の次の問題に関してだ。


「…誰が?」

「…私が?」

「だめだよ?」


やっぱりそうなるか。でもここは推してみるか。


「父上、恐らくですが、私であれば金創士に話ができると思います。」

「それは、なぜ?」

「金創士とは、聞けば金を無から作り出そうとした者です。つまり、この世の理を紡ぎだそうとしたのです。その過程で、真理と言うものを会得しているかもしれません。それは、私が以前考えたことでもあります。」

「…あれか。」


魔法の新理論はまだ公表されていないので、具体的な言及は避けた。ただ、父もその骨子を知っているからか、すぐに理解した。魔法も錬金もその土台は似たようなものだろう。


私が推してみた理由。それは、金創士とは、恐らく科学者の走りであるからだ。


前世でも、錬金術の存在がのちの化学へと繋がった。であれば、この世界のそれも、そうなれる可能性を秘めている。彼らが時代の中に埋もれていた理由は、国と言う大きなスポンサーを失ったからだ。成果を出すことも広めることもできない状態に追い込まれたのだ。


支援打ち切りに激怒したというのだから、相応に尊厳のある人々であることが解る。つまり、自分たちの研究には意味を見出しているということだ。


私はそんな彼らの話を聞ける。

なぜか?前世の科学により成り立った世界で生まれ育ったからだ。


教養主義者よ、今その欲望を解き放て!


…って感じで話をすれば、いちころなんじゃないかと踏んでいる。


父は思案をしばらく続けた。そののち、一先ず話始める。


「検討はする。だが期待はするな。フランはまだお披露目会も終えていない5歳だ。公衆の面前に出すにはまだ早すぎる。」

「…ご寛大な判断をお願いいたします。」


私は短く礼をした。望み薄だが、どうでるか…

ここで協議は一区切りがついた。思わぬ要素が出てきたが、悪い話では決してない。肥料として効果の高い過リン酸石灰を作れる可能性が出てきただけでも上出来だし、”後に控える事業”では、化学の基本でも理解している人が居るのは心強いからだ。


「…では、話を元に戻しましょう。」


協議はまだ続く。長丁場になりそうだ。

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