一大プロジェクトのプレゼンである
今日の私は些か高揚している。なぜかって?
5日前に実行した”創造主の天啓を受けし幼女”作戦が功を奏したのか、父をはじめとした王政のお歴々がたに受け入れてもらう土壌が整ったのだ。
そこから私は頑張った。睡眠時間を削り、事業計画書の作成に勤しんだ。
そして今日、計画書が完成したのだ。生産量が少なく高価な植物紙では量が足りず、羊皮紙を大量に貰って書き上げた、総ページ数十枚の超大作だ。
今の私は言ってみればランナーズハイ。一種の興奮状態だ。
何せ5歳でありながら、この数日程は3時間しか寝てないのだから。
しかし、不思議と疲労感はない。もしやこれは、授けられた能力の一つだろうか?
まだ成長しきっていない体にとって、休息や睡眠がない状態が耐えられるはずない。そう考えるのが合点がいく。
…疲労知らずの体なんて、前世でも欲しかったわ。
さておき。
人数分の冊子にまとめた計画書を、自分と侍女2人に持ってもらいながら、国王執務室へと足を運んだ。そして扉の前に付くと、ノックをする。
「フランです。」
「入れ。」
私は扉を侍女に開けてもらい、入室する。そこには国王と宰相、そして初老の男性一人が居た。初老の男性は赤ら顔で日焼けしている。恐らく、”外仕事”が主なのだろう。つまり…
「よく来たね、フラン。紹介しよう。王宮で農業技術研究を担当している主任農夫のフレディだ。」
「初めまして王女殿下。フレディ・パールと申します。以後お見知りおきを。」
思った通り、お抱え農夫だった。話を聞けば、四圃栽培法を開発したのは彼の父に当たるらしい。その功績を認められ、準男爵に召し上げられたとか。領地や恩給はないが、農業と言う技術で一旗揚げた実力者の一族だ。
「よろしくお願いします、フレディ様。私が授けられた英知がお役に立つことを願います。」
「はい、私もです。国民が飢えることのない国となることが、私たちの願いですから。」
うん、良い心がけだ。飢えを知らない国は最強だからな。
執務室には、事前に依頼していた黒板が2式入れられていた。計画書に大筋はまとめてあるが、詳細は口頭で説明する。分かりやすいプレゼン資料の鉄則、文字は最小限に、だ。
「父上、ご準備いただきありがとうございます。では、さっそく始めましょう…エヴァ、ニーナ?冊子をお配りして。」
私は全員に向き直って言った。これはすでにプレゼンが始まっていることを意味する。私が開始の合図を取ることで、場の主導権を握るのだ。
侍女たちが各々に冊子を配る。受け取ったものは表紙を眺めるなり、数ページめくるなりと様々な反応だ。
冊子を配り終えたのを見た私は、黒板の前に陣取り話し始めた。
「さて。本日はお時間を頂いて誠にありがとうございます。これより、私が主より授けられた英知。その全容と、王国の取るべき行動の計画。それをご説明いたします。」
父に目線を送る。小さく頷いてくれた。話を続ける。
最初はこうだ。植物の育成に何が必要か?それを化学の知識をかなり薄めながら説明していく。窒素、リン、カリウム。この3つの元素が作用することで、葉が大きくなったり、根が強くなったり、実のなりが良くなったりする。
そして、これらは土の中に含まれているが、作物を育成すると枯渇していく。いわゆる土地が痩せるという状態だ。それを回復するには、作物の育成をしばらく止めるか、元素を供給するかになる。
元素を供給する手段。それが肥料だ。家畜の糞尿には、育成に必要な元素が含まれている。それを藁を含めた堆肥と混ぜて土を作ることで、肥沃な土地へと変えることができる。
ただ、この方法では限度がある。糞尿に含まれる元素は多量なわけではない。必要な元素は、直接的に混ぜるのが一番効果が大きい。
そこで、本題となる。化学肥料を作る。
そして、現在の堆肥事業を発展させた、”肥料工業”が産声をあげる。
「…と言うわけで、次項にて必要な事業計画を提示致します。次頁をご覧ください。」
「…これは?」
「骨?…骨とは?」
「骨です。家畜などを処分した後に出る。」
「その骨で…実のなりがよくなる?」
父と宰相はまさかと言った表情を浮かべていた。今まで捨てるしかなかった骨に、植物の育成に役立つ可能性がある。想像が至らないのは仕方ない。前世の地球でも、骨にその効果があると発見されたは偶然だからだ。
ただ、この世界では偶然ではない。何せ知っている私がいるのだからね!
それはそうと、フレディは口元に手を当ててずっと思案している。何か思い当たる節があるようだ。
「…陛下、宰相。よろしいですか?」
「うむ、なんだ?」
「堆肥の効果を見つけた曽祖父の記録帖にあったのですが…骨を細かくしたものを蒔いた畑は、実りが良かったとありました。ただ、堆肥の製造過程構築を優先したため、継続した調査は行えなかったようです。」
「…効果が認められていたのか。」
「陛下。これは王政の失敗ですな。」
「うむ。」
なんと。先人は骨に効果がある可能性を見出していたらしい。だが、国家と言う組織の取捨選択によって、それは見逃された。父と宰相が歯を噛むのも無理はなかった。
ただこれは好材料。私の提案が受け入れられる確度がまた上がった。
そこで気を引き締め、”骨粉事業”の説明に入る。
「そこでまず提案させていただくのが、廃棄される骨の回収・買い上げと、処理場の建設です。処理場では、骨の煮沸と乾燥、破砕を行ってください。」
「ふむ…今まで捨てるしかなかった骨に二束三文でも値が付けば驚きをもって受け止められるな。」
「それに、回収に処理場の建設と稼働で雇用も生まれます。」
国王と宰相は頷いた。好感触だ。今まで価値のなかったものに価値が出れば、経済が動く。公共事業の開始となれば、雇用も増える。そしてその事業は新たな利益を生む。国家としては良いことだらけだ。
ここで、私は念押しでこの事業の次の段階を上申する。
「それでこの骨粉なのですが…ある薬剤を使用すると、より効果の高い粉末に変化するのです。」
「そうなのか?」
「はい。鉄を溶かす薬剤を骨粉に混ぜます。そのようなものに、心当たりはございますか?」
「ふむ…」
父は考えているが、思いつかなそうだ。そこで宰相が手を上げた。心当たりがあるようだ。
「陛下。鉄のことならあそこに聞いてみるのは?」
「あそこ…あぁ、金創士か。しかしな…」
「金創士とは?」
私は初めて聞く言葉に疑問を示した。それに父は説明してくれる。
「金創士とはね、国策で金を作ることを目的としていた職人集団だよ。金創工房ともいうね。」
…えっ?錬金術師じゃん。
いたの?
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