エヴァ・ニーヴは目撃者
私はエヴァ。エヴァ・ニーヴ。男爵家の三女で、王宮侍女として働いています。
現在の担当は…王家の末娘である、フラン王女殿下のお世話全般になります。
それこそ、王女殿下がお生まれになった頃から乳母役と共に数年を過ごしております。
さて、その王女殿下ですが…不敬ながら感想を申し上げれば、天才です。
私がそれを認識させられたのは、やはり2歳で書庫通いを始められたときでしょう。一心不乱に書籍を読み込み、それを理解して私に簡単な質問をしてくるのです。おもわず父母である国王、王妃両陛下相談し、ご両人もその才媛には驚愕されていました。
私は王女殿下のお側に仕え続けるので、その早熟すぎる才覚を間近で見ることが出来ました。
そして思います。この才能は、王国を始めとした世界に必ずや多大なる影響を与えると。
将来的には、相応に位の高い貴族家か、他国へ嫁がれる王女殿下。恐らくは、その先でもこの才能をいかんなく発揮されるでしょう。確信しています。
そんなある日。私は空が白み始める早朝に、王女殿下の部屋へ向かいました。側仕えとしては、仕える対象が動き始める前に、そのお側についていないといけません。特に、王女殿下の場合は、幼年ながら徹夜で机に向かわれることもあり気が抜けません。
もうじき王女殿下のお部屋の前です…そこで、違和感を覚えました。
まだ日の出するかしないかと言う時間ですから、廊下はやや薄暗いはずです。
ただ今日は違います。廊下に光が差し込んでいます。
それも、その光は筋を作り、どこからか廊下の暗闇を照らしています。
一体どこから…?
その光を注意深く見ていると…発生源がわかりました。
私が向かおうとしていた場所。王女殿下の部屋です。
扉の前に立つと、その現象はよくわかりました。
扉の隙間から、白い光が出ては消え、出ては消えを繰り返します。
私は激しい緊張を覚えました。王女殿下の部屋で何か起きている。
本来であれば、王族の私室棟に詰めている近衛兵団や騎士団を呼びにいかなければならないのでしょう。ただ、私はこの数年で王女殿下に畏敬の念を抱くほどお慕いを覚えているのです。
結果、仕える主の身を案じて、扉を開けました。
そこで飛び込んできたのは、まず吹き抜ける風。そして眩い光の…渦です。
光が尾を引きながら渦を巻き、部屋を所狭しと動き回っています。
王女殿下がよく書かれている書付などは、光が通り過ぎる度に巻き上げられ、その流れに乗り部屋に舞い散ります。
部屋に入ろうとしましたが、あまりの光景に息を呑み、足が進みません。
ここでようやく、私は人を呼ぶという決断をしました。
「だ、誰か!!誰か!?」
その声に、王女殿下の部屋の前にある廊下に繋がる扉横にいた近衛が反応したようでした。甲冑を擦らせながら走る音が聞こえてきます。
近衛兵団の兵士が私の傍までやってきました。彼は部屋に近づくに従い、異変を察知して硬い表情をしています。
「どうした!?なんなのだこれは!?」
「わかりません!…お部屋に近づいたらこの状況に!」
「これは魔法なのか!?誰が発動している?」
「いえ、こんな魔法は…」
そこで私はふと気づきます。王女殿下はご無事なのか?
すぐに部屋中を見やり…いらっしゃいました。寝台の上で横になっています。ここから見る限り、お体に傷などはなさそうです。
ただ、この光の渦と巻き起こる風に、誰も部屋に踏み入ろうという気になれません。
直に騒動は大きくなりました。様子を見に来た侍従や侍女、それに他の近衛兵団や騎士団も集まってきます。しかし、眩い光の渦は一向に収まる気配はありません。
そして、騒ぎを聞きつけた国王陛下までお越しになりました。
陛下は様相を見て驚愕の表情を見せます。
「何が起こった!?誰か説明を!」
「は、はい!王女殿下のお部屋に向かったところ、このような現象が…」
「な、なんということだ…フランは…?」
国王陛下が王女殿下の様子を気にされたところで、状況に変化が出てきました。
部屋の中を回るだけだった光の渦が、王女殿下を中心にし始めたのです。
「な!?光の渦が!」
誰かが声を上げます。渦は漏斗状になり、王女殿下のお体の上に鎮座しました。
そして…王女殿下の中へと吸い込まれるように消えていきます。
光の筋が一つ、二つと消えていき…しばらくして、ようやくその姿を消しました。
光の渦の余波か、まだ数枚の紙が舞っています。そして十数人は部屋の前にいるというのに、静寂に一帯は包まれていました。
少しすると。王女殿下がお目覚めになったようです。ゆっくりと体を起こされました。その様子を見た国王陛下が、思わずと言った感じで近寄ります。それに私も続きました。
「フラン!!」
「王女殿下!」
王女殿下の傍まで来た国王陛下は、そのまま殿下の体を支えます。
私は側に付き、様子を見ていました。
「…父上?どうされましたか?」
「フラン。体に何かおかしなところはないかい?痛いところや、気持ち悪いとか?」
「いえ、ありません…?」
「そうか…」
王女殿下は何も問題ないように、受け答えされました。
外見上でも、何も異常はないようです。
この状況をどうしたものかと、ここにいるほとんどの人間が考えあぐねているだろう中。王女殿下が話し始めました。
「父上。私、夢を見たのです。」
「夢かい?」
「はい。どのような姿見だったのかは思い出せないのですが…聡明そうな印象のお方とお話ししました。」
「…うん、それで?」
「そのお方は、私に知識を授けるとおっしゃいました。この知識を生かすことができれば、王国はさらなる飛躍を遂げると…そして、実際に今、触れたことのない知識が、私の中にあるようです…」
「…なっ…?」
そのやり取りを見ていた私は絶句しました。国王陛下も絶句しています。
今の話が聞こえていた者は、ある話が頭に浮かんでいるはずです。それは、創世記の一説です。この世を作りたもうた創造主は、知を与えた命に英知を授けた。それは安眠の中で行われ、眠りから覚めた命は、英知を生かし繁栄の祖を築いた…と。
「…創造主の英知授与…」
誰かが呟きます。その後はしばらくの間、また沈黙が場を支配しました。
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