国王のお仕事

あれからと言うもの。


数学では、私の書籍の初歩的な部分の質問が結局来ていて、それに対応する形で見識を深めている。理解度の高い人は中学から高校程度、低い人は小学校高学年程度と言ったところ。そもそも、新しい数字と計算法というとんでも概念が誕生しているので、そこを使いこなす人がまだ多くないかな…という印象。でも、着実に浸透しているらしくてなにより。


一方で魔法は、まだまだ。と言うのも、新理論の公表がまだ差し控えられているため。その代わり、魔法教育の名のもとに魔法士団長ことハリーが加わって…というより、魔法士団の”特別班”に実質ねじこまれて…新しい理論を限られた範囲で深化させている段階。団長曰く、予想通り法国が新理論をどうとらえるかと言うのを慎重に見極めている段階らしいとのこと。まあ、これは相応に問題が複雑なので、王国が優位に立てれば問題ないかな…というのが、今のところの所感。


イイ感じだと思うでしょう?でも問題があるのだよ。

忙しい!!幼子の日常とは言えないぞこれは!?


一段落付いているとは言え、教育が終わっているわけではない。特に、作法や芸術と言ったところは、日々の積み重ねが大事と言う方針で削られる気配はない。問題なくこなせていたとしても。


方や、数学や魔法と言ったところは、私に対応が集中している状態。魔法に至っては、研究活動に従事させられているし…もちろん、書物に書き記すのも私。よって、空き時間はだいたい机に向かっている…


この歳にして、自分の時間と言うものはほとんどなく。馬車馬のように働いている。全て自分の蒔いた種だけどね!


…とにかく。これらの行動は、王国をより良くしたいという信念に基づくものであることは、忘れていないし変わらない。それが私の新しい人生により良い影響を及ぼすことを確信しているのだ。


そんなこんなで。5歳になりました。フラン・クラビアです。

今日の予定は…なんと、父である国王のお仕事を見学します!


なぜそんなことを?

少し前。私はある事が気になっていた。

それは、王国の最新情報を手に入れられないという事。これまでの積み重ねてきた歴史や記録と言うのは、書庫通いや教育を通して培うことができた。ただ、王国が今現在何をしていて、どういう方向に向かっているのか。それを問題なく判断できる最新の情報は、手に入れる手段がことごとく限られていた。


そこで私は頭をひねる。最新の情報が集まるのはどこだ?王宮だ。

王宮のどこだ?国王だ。国王の仕事を手伝う?いや、それは流石に許可されない。

ならどうする?…見学だ。仕事を見学させてほしいとお願いし、問題ない範囲の書類を見せてもらって、素朴な疑問として父に聞く。


完璧な計画だ。さっそく実行に移そう。ということで、ある日の夕食時。


「…父上、お願いがございますの。」

「おや、珍しい。なんだい?」

「父上のお仕事を、見学させていただきたいのです。」


私は末子としての魅力をいかんなく発揮して、切り出した。

そうそう、私の今の見た目は平均よりかなり上だ。直毛で赤毛なロングヘアーは艶やかで、目は奇麗な焦げ茶色。瞳の大きさも申し分ない。鼻筋も通っていて、口元はすっきり。つまるところ、私は美少女なのだ。自惚れではなく。


つまり、私がその武器を振りかざせば、頷かない大人はいないのだよ!


「…そ、それは、どうしてだい?」


…あれ?なんか歯切れが悪い。父は引きつった微笑みで私にその真意を問いてきた。ちょっと予想と違うな…まあ、いいか。


「はい。私は様々な教育を受けさせていただいて、見識を深めることが出来ました。そして、現在の王国がどう動いているのかに興味が出たのです。そこで、父上の執務室での様子を見させていただいて、さらなる研鑽を積みたいと思いまして…」


うん、問題ない返答だと思う。さあ、父の返答は…


「そっ…それは良い心がけだ。問題ない日取りを探そう。あと、そうだな…見学の日は、ジークも一緒に来ると良い。なにせ、ジークは次期国王候補だからな?」

「父上、よろしいのですか?」

「ああ。この提案がフランからと言うのは驚きがあったが…フランが来ても問題ないのだから、ジークが来ても問題が無いのは道理だ。一緒に来なさい。」

「ありがとうございます、父上!フランもありがとう!」

「いえ、お構いなく、兄上。」


おや。ジークが付いてくることになった。ただ、父の言う通りジークは第一子の長男で王位継承権第一位。次期国王となる予定だ。そんなジークを差し置いてはいけないというのは、もっともな理由だな。


…あれ?先ほどから父の表情が強張っているのは、私に王位継承の意志ありとみなしたから?

まさか。私まだ5歳よ?さすがにそんなこと考えないですわよ。



…という流れで、見学当日となったのだった。よし。


見学の流れはこうだ。まず執務室に入り、中央ほどに置かれているカウチに座る。そこで国王が執務する姿を…ただ、見る。時頼訪れる来訪者…例えば宰相とか、文官とか、役職持ち貴族とかが来るときは、簡単な挨拶だけして仕事を続けてもらう。ただし、人払いが必要な案件が出たらそこで見学終了となる。


こうして見学が開始された。まずは様子見だ。ジークと一緒にカウチに腰かけ、父が執務机に向かうのを黙って見る。見る…見る…


うん。見るだけでは何も情報が降ってこない。と言うより、父の動きも少ないな?

…これはさては、裁可や協議が必要な仕事を調整して、今日にあまり集中しないようにしたな?まあ、国政に関わらない事実上の部外者である子供に対する配慮としてはさもありなんと言ったところ。でも、私の計画は狂ってしまう。


さて、どうしたものか…と思案していると。丁度宰相が部屋に入ってきた。その傍らには羊皮紙の書類を複数持っている。これは期待できそうだ。


「国王陛下。諸侯からの収穫報告書が参りました。」

「お、来たか。どれ、目を通そうか。」


収穫報告書…どうやら、農作物の生産に関する報告書らしい。

…この国の主要産業は農業と畜産。つまり、その報告書は、王国の基幹産業の今を写すものだ。見たい、すごく見たい。でもそれを言いだすにはまだ様子を見ないと…まずは、父と宰相の会話に集中だ。


「ふむ…今期も増収となったな。」

「はい。天候にも恵まれ、不作となっているところは、今のところ聞いておりません。」

「順調で何よりだ。四圃栽培法の広まりはどうだ?」

「王家派閥から中心に広まっています。東方と西方も、王家領に近いところから導入が進んでいるようです。北方は…」

「あそこはまだ難しいだろう。王国南側とは土壌の性質が少し違うからな。土壌改良の研究は進んでいるか?」

「ええ。実験農場を契約し、土壌改善の施策を専農家が行っています。」

「それ次第と言ったところだな…引き続き頼む。ああ、資本は問題ないか?」

「はい、そちらも抜かりなく。増収分の収益で補える予定です。」

「大いに結構。引き続き励め。」

「御意。」


会話が終わると、宰相が退室しようとする。よし、今が好機だ。


「はいはい!四圃栽培法とはなんですか?どういう栽培農法なんでしょうか!?」


質問ははっきりと元気よく。この原則に従ったけど…なぜか沈黙で受け入れられてしまった。


あれ?

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