戦略的な人生を

半年間ほど。書庫に通う生活を続けておりました。今日も日課を終えて、自室にてくつろぎの時間を過ごしております。


さてさて、大分必要な知識教養も溜まってきた。ここでおさらいしてみよう。


王国は大陸南東部に位置する大陸第三の国家。我が母国である。主要産業は農業畜産で、王国の食糧庫と言われるほど生産高は多い。それに山岳地帯も存在しているので、鉱業といった他の産業もある。ただ金銀の産出はないため、経済的には外貨収入が重要になる。武力も相応にあるものの、農業主体の構造上大規模な徴兵は出来ず、武力拡充は結構難しい。エデア教信仰が相応に盛ん。といった理由で、帝国や法国に強く出れない。


帝国は大陸東部を中心に位置する国。王国から見て北東側に位置する。国力としては総合的にみて法国と匹敵する大国。特に山岳地帯を生かした鉱業とそれに付随する鉄鋼業と軍事産業が盛んで、武器防具職人が大陸で一番多い。皇帝を頂点とする国家は軍事強国を標榜し、それを国力の柱ととらえる。弱点は食糧生産で、少なくない割合を王国からの輸入に頼っているが、そこは軍事力を盾に強気に交渉を行っている。


法国は大陸の西半分を国土に持つ大陸最大の国家。人口は最大である。産業も盛んで、各種産業が相応の規模で営まれている。さらに、大陸の一大宗教であるエデア教の聖都であり、大陸に存在する全ての国家の思想信条の精神的基盤となっている。法国は帝国ほどは王国に対して猛々しい要求を行わないが、エデア教始まりの地という点から、王国が一歩引いた立場になることが多い。


他には、法国と帝国の北側の間には、大山脈麓一帯に存在する小国地帯と言うのがある。領地が2つか3つの小王国や都市国家レベルの大公国が治める国が多数集まっている。この地帯も王国と同じ、帝国と法国の緩衝地帯であるが、平原で直接相対する王国の存在する南側とは違い、北側はムーグ大山脈という天然の長壁があるので、直接的な衝突や新勢力跋扈の舞台にはなっていない。ただ、交通アクセスのしやすさから、法国の庭のような状態らしい。


「大陸はすでに何らかの支配層が勢力を築いている…未開の地みたいなところはないと…」


私はつぶやく。大陸は全体としては安定している。よって、第一条件はクリアだ。

私はこの世界にはない知識と能力を持ち合わせている。それらを生かすには、安定した情勢と言うのが第一条件だ。せっかく築いた技術基盤や文明も、不安定な土地では根付くことはない。例えどんなに優れた産業や文化を栄えさせたとしても、それを壊されては元も子もない。


「となると次は…私の身の置き所だなぁ…」


第二条件。それはどこを拠点とするかだ。これには私の現在の立ち位置が大いに関係する。


まず、王家の末子という点。王位継承権は持っているらしいが、高位の継承者はすでにいる。私が王位を継ぐ可能性は低いだろう。その気もないし。


そもそもでは、王国という国が安寧の地としてふさわしいかどうかというところもポイントだ。その点は合格と言える。他国に若干の引け目を感じる精神性はマイナスだが、それ以外の国家基盤は盤石。私の能力も大いに生かせるだろう。


ただ、一つ想定外だったのが…私が女であるということ。高位な血族とはいえ、女は政略の駒として家を出されるではないか…


これで他国に嫁がされては状況は困難になる。さらに、嫁ぎ先が法国か帝国になると、精神的に優位に立っている国家へ属するというのはどんな苦難が待ち受けているか堪ったもんじゃない。


そこで1歳頃から心がけていた、”相当に早熟な子供”というアピールが肝になる。


今は学習という面においてその能力を発揮する程度だが、そのうちあらゆる知識を総動員して王国の発展に寄与していく。自分が王国と言う組織において、非常に有用な人材であるという評価を得るためだ。


「まだ貴族の情報はないけど…王国にフランありという状況を作り出し、動きやすい高位貴族に嫁げれば、道は明るい…だろう?」


そう。私の戦略は、”王国に軸を置いてその発展に、大いに寄与する”ということだった。


稀代の天才をわざわざ放出するような組織があるだろうか?いや無い。

…いや、とてつもなくどうしようもない能力の頭領が治める組織だと、そうともいかないが…王国はそうではない。他国の干渉を受けながらも、大陸で一勢力を築いているのだ。


「うん、滑り出しは上々。あとは王位継承権も程よいところで放棄して、次代の国王である兄を取り立てる有力者というポジションに就ければ…」


私は思わず笑みがこぼれる。自分の計画が順調に進んでいるときは、非常に気分が良いのだ。

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