フラン・クラビアとして
創造主と名乗った存在が指示した方向に向かうと、風景は溶けて無になる。かと思えば暗転、そして…唐突に液体感が襲いかかる。真夜中の水中に投げ出されたようだ。少しもがくと、一筋の光が見えてきた。それに向かって進むことを意識すると体が流れる感覚を覚えて…
と言う感じで新たな出生と相成りました。
さて。新たな人生と言うことで、始まりは赤子からだ。2回目の新生児で、確固たる自意識を確立したうえでの赤子は初体験となる。
誕生直後は声を上げた。というより、それ以外にできない。唯一許されたコミュニケーションを取る方法が、泣き声をけたたましく鳴らすことしか無いのだ。
出生して少し経つと、専用の寝台に寝かせられる日々となった。
乳母に侍女が入れ代わり立ち代わり身の回りを世話するのを、横になり目で追っていく。なにか要望があれば泣き声を上げる。赤子に課せられた立派な日課だ。
そうそう、私の名前だが、フランと言うらしい。フルネームはフラン・クラビア。
…これは女性名ではないか?もしや今の私は、女?
創造主は何も言っていないが、伝え忘れだろうか…
しかしなにはともあれ…あれだ。赤子とはできることがないのでやることがない。つまり暇だ。体が成長するまでは、交渉で手に入れた様々な能力を試すことも後回しになってしまう。これはどうなのだろう。本当に何かできることがないのか…
そうだ。獲得した能力の中に、神の眼があった。物事の真贋を見通す能力だ。察するにこれは、目にしたものの情報を察知できる能力ではないかと思う。視線と多少の首振りくらいはできるから、これは確認できるだろう。
そこで、丁度召し物を取り換えに来た侍女が目に入った。丁度いい、彼女に神の眼を使用してみよう。使い方は…対象に意識を集中してみるか?
…ん?なんだこの感覚は…情報が頭の中に、流れ込んでくる?
名前はエヴァ、歳は19、家族は父母姉弟、ここには2年前に来て…
いや、情報が多い。多すぎる。頭がくらくらしてきた。思わず泣き出してしまう。すぐに侍女と乳母が来て、抱き上げてあやしてくれる。少々のぐずりは赤子なので許してほしい。
少しして落ち着いて…
改めて、神の眼を使用することに意識を集中する。今度は対象は乳母の一人だ。
ただ、今回は情報を少しずつ取り出すような意識を足してみた。そうだな…コンピュータにデータが表示されるように、必要な情報毎に段落や改行を付けて…おお、認識しやすくなった。
頭の中に入ってくる情報を洗い出してみるが、名前に生年月日、家族構成に経歴思想信条に能力と…本当に全ての情報と言う情報が認識できる。これは有用な能力だ。交渉を頑張ってよかった。
その他に寝台や壁、天井も神の眼を使い観察。材質や原産地、果ては生産者表示まで出てきた。品質に想定市場価格まであり、商人からしたら垂涎ものだ。
しばらくは、神の眼で審美眼を鍛えまくった。
そういえば、情報の処理と記憶もすんなり行えるが、明らかに前世より調子がいい。もしや、情報を処理できる能力というのがこれか…良いじゃないか。
他にも能力を試そう。例えば、前世の記憶と知識。記憶は意識があるので問題ないことはわかっていたが、思わぬ収穫が知識だ。これ、前世の”全ての”知識が、想像しただけで脳内に展開できてしまう。それはさながらの
とにもかくにも、成長に従ってできる行動も増えて、活動範囲も広がった。
そうそう。初めての言葉をしゃべるという”イベント”も開催した。大体生後半年の頃だ。赤子は口腔と呼吸器の発達具合で、この頃くらいまでは上手くしゃべれないのだ。
ちなみに、最初は月並みにこう言った。
「…ととさま、かかさま」
「なっ…あ、アデル!!フランが喋ったぞ!!」
「まぁっ!本当に!?…ほら、私にも見せてごらんなさい!」
「…ととさま、かかさま」
「なんということだ、私たちをしっかりと認識している!!」
「本当ね!あぁ、私たちの娘は才女になるに違いないわ…」
そりゃあ、父親と母親は見ていれば自ずとわかってくる。あとはそれを指さしながら、先の言葉を紡ぐだけでこの高評価だ。実に気分が良い。
その後は時と共に、自分ができることを大いに見せていった。例えば、話しかけてもらえればオウム返し。さらには簡単な会話。1歳未満で単語ではなく文章を話し始めたのは、周りを大いに沸かせた。
この頃になると、自身が生物学的に女性であるというのも…”確認”した。よって、ある考えが頭の中に湧き出てくるようになった。当初はそれを念頭に置きつつ、自分と言う価値を高めるために、周りに早熟の子として認識されるように振舞った。
特に効果があったのは…乳母が持ってきた絵本。これを1回読んでもらっただけで理解して、黙読して、読誦して、暗記して、両親の前で夜に披露。これがかなりの反応だった…
「…ふ、フラン?それはいったい…」
「うばさまにご本を読んでいただいた。それを覚えたの。」
「お、覚えた?覚えてしまうほど、何回も読んでもらったのかい?」
国王である父は、ふと乳母に目線をやる。それに乳母は少し緊張した面持ちで答えた。私が本を読んで暗記するところを間近で見てるものね。見たままを話すといいさ。
「…いえ、陛下。フラン殿下は、私が最初に読んだ時点で話をご理解なさいました。その後、本を手渡すように申されその通りにすると、しばらくの間黙して読み始めたのです。かと思えば、声に出しはじめて、しまいには本の内容を完全に覚えてしまいました。」
「な、なんという…」
いいぞ。両親が目を潤ませて絶句している。そして、傍らにいた金髪碧眼の男児が、私に目を輝かせながら話しかけてきた。
「すごいねフラン!僕よりずっとすごいよ!」
「ありがとございます、にいさま。」
この子はジークと言い、私フランの3歳上の兄だ。国王の長子男児なので、次期国王でもある。
先に生まれた子は、後に生まれた子に嫉妬すると言われているが、ジークにそんなことはない。むしろシスコンの気さえあるほどに私を溺愛してくれている。よって、家族関係は良好だ。
「ああ、フラン。私の自慢の娘よ…」
王妃である母が私をそっと抱きしめる。
こうして私は、1歳児とは思えない頭脳明晰さをアピールして、自身の価値を大いに高めたのである。それ以降、父や母は欲するだけの書物を見せてくれるようになり、私は大いに学んだ。利用できる知識は前世のモノが主で、この世界の知識はこれからつけていくしかない。それでも、創造主のくれた脳みそは大いに使えた。
そしてそしてさらに時がたち、私は2歳になって、父にお願いをするのだった。
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