創造主の恨み節

うぬ…甘く見ていた。今回呼び出した、再利用される命の種。


ああ、私は…なんと言えばいいかな。俗名のようなものをあいにく持ち合わせていない。強いて言うなら、ある世界を創りし創造主と言ったところだ。


さて、目下の問題は、目の前の命の種だ。ある世界で急な終わりを迎えた命。規定通りに能力を授けて新たに送るが、そこで私の世界の起爆剤にと目を付けた。前の世界ではまあまあ優秀な部類に入る命だったらしいから、それなりの能力を与えれば期待する効果を発揮してくれるだろう。


私が用意した新たな命の場は、私の世界で相応の勢力を誇る…国家と言ったかな?…たしか、王国と言われるものの支配者。ああ、王家だ。その末子。

権力と財力にも問題はなく、国家も大陸である程度の大きさをほこるため、生まれてすぐに亡国の危機ということもない。相応に好待遇だ。


新たな命の…面倒だ。転生と言おう。転生する生命の詳細説明のあとは、改めて世界の説明に、そして授ける能力についての説明と協議へと移ったが…


「では、貴方に授ける能力ですが…」

「はい。要望があります。」

「ええ、いいでしょう。お伺いいたします。」

「貴方と同じか、それに準ずるものを。全て。」

「…は?」


開いた口がふさがらんとはこのことだ。この命の種は、何を言ってきた?

私と同じかそれに準ずる能力?それを寄越せと?

いかん。平常心だ。


「…すいません。それは少々…」

「いえ、一番わかりやすいではないですか?これから赴く世界は貴方の世界。貴方と同じ能力を貰えれば、ご期待通りの働きができると思ったのですがね?」

「いや、限度というものが…」

「そうですか…ちなみに、貴方と同じかそれに準ずる能力は、具体的にどういったものがありますかね?」

「え?…いや、それは…」


とりあえず、命の種に説明を施す。私と同じかそれに準ずるものと言えば、天地創造、万物把握、森羅万象の全てをつかさどる絶対的な知能、あらゆるものを見通す神の眼、命に新たな能力を授ける神授付与、そして飢えを知らず、老いることもなければ病も知らない朽ちぬ肉体…

うん。説明を行いながら判断したが、やはりこれは授けられない。私は次にそれを告げようとしたが…


「そうですね。では…天地創造、神授付与…あとは不老不死ですか?それは要りません。」

「ほう…?」

「あらゆるものを見通す神の眼は欲しいですね…物事や人物の真贋を見抜くことは重要です。あと全知全能も捨てがたい。知恵はいくらあっても困ることはありませんし、それを処理する能力も欲しいところですな。あ、不老不死はいりませんが、無病は頂けると嬉しいですね?」

「ふ、ふむ…い、いやいや!」


いかん。この私が呑まれておった。一部の能力は要らないと言われたが、欲しいと言われた能力もおいそれと授けられるものではない。相手は命の種。威圧をしないように、断りをいれなければ。


「私の能力を授けるというのは、世界に対する影響がいささか大きすぎるのですよ。よって、欲しいと言われて授けられるかと言うと、難しいとしか…」

「そうですか…」


何とか断れた…だが、命の種は思案顔を続けている。この沈黙が重い。この命、想像以上に難物ではないか?


「では、条件をさらに変えましょう。全知は要りません。ただ、これまでの世界で培われた知識と積んだ経験、さらにこれからの世界で吸収する見識を問題なく、そして高度に処理できる、全能に準ずる能力を頂きたく思います。」

「全能に準ずる…?」

「あとは…身体能力なども強化していただきたいところですね。」

「…具体的には?」

「そうですね…言ってみれば、剣術や体術…あ、あと魔法。これも重要ですね。そういった技能に特効を頂戴できればなと。」

「どの程度の能力が?」

「貴方と同程度は無理のようですから…元の世界の時間間隔で、万年に一人程度あれば、十分お役に立てるかと。」


ふむ。今度は条件を大分下げられたようだ。全能に準ずる能力とはいえ、世の理全てを解き放てという内容よりは遥かにマシで、身体的な能力も人の枠は若干外れるが、私のような創造主足る存在には届かない程度…


「うーん…ある程度受け入れられる条件にはなりましたが…」

「ああ、神の眼は頂きたいです。天地創造、神授付与、全知、不老不死を条件から外したので、それらを勘案していただければ。」

「むむ…」


おかしい。条件を下げられたことにより、これでも受け入れられるのではないかと言う気分になってきた。恐らくは気の迷いなのであるが、その確証が得られない。もしや私、疲労しているのか?創造主が疲労?なんの間違いだろうか?


「現在の条件を承諾いただければ、主の加護を持つ新たな命として、必ずやお役に立てると断言できます。どうか、考慮の上を。」


…わかった。それでいい。なんと投げやりな結論だろうか。しかし、突飛もない要求に比べれば…いや、これはもしや交渉の業か?最初に無理難題を押し付けて、本来の要求程度まで引き下げるという…なんという…


「条件を…呑みましょう。物事の真贋を見抜く神の眼、前世の知識知略と来世の見識を高度に活用できる頭脳、武術や魔法の非凡なる才能、そして無病。これでいいですな?」

「はい。問題ありません。ご判断ありがとうございます。」


そうか。これが疲労か。思わず溜息をついてしまう。まあ、これだけの便宜を図った上に命自身からの言及もある。悪いようにはならないはず…

ここでふと疑問が沸く。聞いてみるか…


「そういえば、天地創造と神授付与、それに不老不死を最初に省いたのはなぜだ?特に不老不死は、普通の命なら欲しがるものだと思っていた…が…」

「えー…天地創造は有用になる場面が思いつかないからですね。生きる一つの命としては過分な力だと。神授付与も同様です。そして、不老不死ですが…それは呪いですよ。」

「呪い?」

「一つの命にとって、終わりが無いことは呪いですよ。恐ろしい。」


ほうほう…命の渇望たる不死を呪いと評すか。この命、やはり少々癖があるようだ。


「まあいい…いや、いいでしょう。では、あちらに向かってください。通り抜ければ新たな生命として生まれ変わります。」

「はい。この御恩は忘れません。」


命の種は立ち上がると、私の指示した方向に歩を進めた。

私はその後ろ姿を見やりながら、俗で邪な気持ちが芽生えた。創造主たる存在が、命の種に言い負かされるなどという…この邪な感情が、命の欲というものか。


私は一計を案じる。あの命の種に一泡吹かせたい。

…ふむ。では能力を授けよう。天地創造は…行使されると世界への影響が大きすぎる。神授付与と不老不死だな。特に不老不死は、奴が”呪い”と評している。それを認識したときにはさぞ驚くだろうな。


後ろ姿にふっと指を振れば全て完了。奴が気づく暇もない。

これでいささか溜飲が下がった気がする。さて、世界の管理に戻ろう…


…うん?何か言い忘れているな…

ああ、奴の転生後の性別を伝えていない。前の世界では男というやつだったか。

次は”女”だ。命の種がどういう性であるかまでは気が回らなんだ。


まあ、これも癖の多い命の種への餞別としよう。せいぜい、達者でな。

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