売れないアーティストを支え続けていたのに、裏切られた私は全力で復讐する
maricaみかん
第1話
私の恋心は伝わっているはずなのに、彼は全然応えてくれない。
だから、私は決めたんだ。もうこの人を好きでいる理由はないから。
最高の形で、彼に全部の恨みを叩きつけてやろう。それが、私の答え。
彼はずっと歌手を目指していると口にしていた。今の私から見れば、叶わない夢を追いかけているだけ。
でも、昔の私には、夢を追いかける素敵な人に思えていた。一生懸命な人なんだなって。
だから、傍で支えてあげようと決めて。彼がライブに出たい時には、お金を渡してあげたりもした。
それで、これで最高の曲を伝えられるって喜ぶ笑顔を見て、報われたって感じていたんだ。
だから、曲作りに悩む彼にご飯を作ってあげたり、家賃が払えない彼を家に入れてあげたり。
そして、彼は何度もライブをこなしていった。
だけど、彼はあまり人気者では無いようで。何度もバンドは解散していた。
ボーカルを務める彼の歌は上手だと信じていたから、頑張って慰めていたのだけれど。
次はきっといいメンバーが見つかる。そして、もっと売れることができるはずだよって。
私も彼も、2人とも夢が叶うと信じていたはずなんだ。
だって、私は本気で彼を支えていたし、彼だって、ずっと音楽にのめり込んでいた。
だけど、今思えば私だけ別のところを見ていたのかもしれない。
彼は音楽だけを見ていて、私は彼を見ていたから。
でも、私の思いにいつか彼が応えてくれるって信じて、それだけを胸に彼を支え続けていた。
なのに、彼はずっと音楽のことばかり。でも、そんなところも魅力的だと感じているうちは良かったんだ。
私の心が変わり始めたきっかけは、多分他の女と仲良さそうに歩いている彼を見た瞬間。
ずっと彼を支えていたのは私だったはずなのに、私が見たこともない笑顔で話していて。
だから、はじめて暗い心が浮かんできたんだ。なぜ私じゃないのか、どうしても理解できなくて。
それでも、私は彼のことを支え続けていた。夢が叶えば、寄り道なんてしなくなるんじゃないかと思えたから。
彼の作る曲をほめて、歌をほめて、ライブの準備を手伝ったりもして。
だけど、彼は私にまったく振り向いてくれない。それどころか、他の女によりのめり込んでいっているようで。
だから、私の中の暗いものがだんだん膨れ上がっていった。
そんなある日、彼に誕生日のお祝いのパーティの準備をして。
彼が喜んでくれるかなって思いながら誘ったら、そんな事をしてる暇があるのかなんてなじられて。
私は震えながら、準備をしたパーティ会場を1人で片付けていた。
誰も食べてくれなかった料理は、冷たかったな。そんな事、きっと彼は想像もしていなかった。
今なら分かる。彼は私のことを都合の良い道具だと思っていたんだって。でも、当時の私は本気で彼を信じていたんだ。
それから、彼の夢は一向に叶う気配を見せなくて。だんだん彼は乱暴になっていった。
私に金を出せって詰め寄ってきたり、うまくいかないことを私のせいにしてきたり。
そして、私はだんだん彼が嫌いになっていることを自覚した。
だから、せめて円満なうちに遠ざかろうとしたら、自分の立場をわかっているのかなんて言われて。
彼こそ、自分の立場をわかっていたのだろうか。私がいなければ、ライブすら開けないのに。
他の女と過ごしても見過ごしている、私の献身があってのことなのに。
そして、彼を決定的に見限る瞬間がやってきた。
あるライブでブーイングを受けていた彼は、ライブが終わった後、私の料理がまずいからだなんて言って私をぶった。
それで、ああ、この人は暴力を振るう上に責任転嫁する人なんだなって感じて。
その上、私が彼を好きだと知っていて、平気で他の女と付き合うような人だから。
もういいや。この人と一緒にいるメリットなんて私にはない。そんな言葉が浮かんだんだ。
でも、単に別れるだけじゃ私の気が済まない。
これまで彼に尽くしてきたのに、思いっきり仇で返されたんだから。
その分を絶対に思い知らせてやる。そう決意したんだ。
それで、とある計画が思い浮かんだ。単に彼を見捨てるだけでも、きっと彼は落ちぶれていくだろうけれど。
でも、私は満足できないから。無駄にした時間の恨みは、そんな程度じゃないから。
まずは、彼がよく通うライブハウスに、お金を出して彼を出禁にするように頼んだ。
そして、私は電話番号を変えて引っ越して。だけど、彼の状況が逐一伝わるように頼んでいた。
結局、彼は別のライブハウスに拠点を移すことに決めたみたい。
だけど、私はまったく満足できていなかった。だから、次は彼のバイト先に手を出すことに決めた。
バイト先の店長に、彼がこれまで起こしてきた悪行を伝える。
それだけで、簡単にクビになっていたのはとても胸がすいた。
だから、彼は音楽活動なんて全くできないようになっていったんだ。
なんとか必死に周囲にすがって、それでギリギリの生活ができるくらい。
それで、私はもう十分かなって思っていたけれど。
たまたま私を見つけた彼が、私を見て金をよこせって言ってきて。断ったら殴りかかってきた。
ガリガリに痩せた彼の拳は簡単に避けられたけれど。もうこの人は許せないって思いが強まった。
だから、彼を支援する周囲の人間に、お金で釣って彼から遠ざかるように言い含めた。
すると、彼の周囲からは面白いように人が居なくなって。それで、しばらく彼を観察していたんだけど。
ある日突然彼を見かけなくなった。それからもしばらく何も見当たらなくて。
だから、彼の過ごしていたアパートの大家さんに連絡してみたんだ。
すると、彼は自殺していたみたいだった。
正直、心がすっとするような感覚と、仄暗い喜びが浮かんできた。
ああ、ようやく私の復讐はかなったんだって。1人になって笑っていたら、何故か涙がこぼれていた。
そっか。結局私は彼が好きって思いが消しきれなかったんだな。
今思えば当然か。あれが初恋で、私は2度目の恋すら経験していない。
間違いなく、彼は私にとって唯一の人だった。だけど、サヨナラだね。
これから私は、新しい幸せを見つけてみせるから。あなたがくれなかった幸せを。
だから、あの世で見守っていてくれると嬉しいな。
売れないアーティストを支え続けていたのに、裏切られた私は全力で復讐する maricaみかん @marica284
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます