第七話 まさかの事実…あと、みんなとお別れします
あっという間に決着がつき、私が呆然としているとき、
「可愛いウサギちゃん、ちょっといい?」
私はザイートに抱きかかえられ、問答無用で誰もいない部屋へ連れていかれた。
もしかして私食べられる……?
かすかな不安を押し込めて私はザイートを見上げる。
「何ですか?」
「……冷静になって聞いてほしい。」
「……はい。」
あれ……。この声ってもしかして……現実世界の…「りり」の声?
「私はあなたで、あなたは私なの。」
「……はい?」
「つまり、私は現実世界ではウサギなの。そしてあなたは人間。でもお互いに触れあっている状態で異世界に飛ばされたから、入れ替わってしまったの。」
……なるほど。全然理解してないけど、わかった気がする。
現実世界の私は魔王に転生する予定だった。そして今ここにいる魔王は現実世界ではウサギで私のポジションに転生する予定だった。
(なんで私、魔王予定だったんだろう……)
「どうするんですか……?」
「今から、また私とあなたが入れ替わり、現実世界に戻る。」
「……どうやって?」
「……もう入れ替わってしまっても良い?」
「……はい。」
正直、寂しい気持ちもあるけど、きっと現実を見ないと人間は生きていけない。
現実逃避だけでは何も世界は変わらない。変えれない。
だから私はまっすぐに目を見て言った。
「元に戻してください。」
「わかったわ。……。」
魔王は私の手を握った。
電流が流れたように体中に痛みが走り、一瞬の意識がなくなる。
痛みがおさまり、自分の姿を見るとさっきまで見ていた「魔王」の姿になっていた。
「……!ありがとう。ウサギさん。」
私は小さく言う。
ザイート…ウサギさんは耳をかすかに動かしながら「うん。」とつぶやくように言った。
「まずは勇者さんたちに帰ってもらいましょう。私はとりあえず勇者さんたちの後をついていくわ。……私たちが帰った後「モトノセカイヘカエリタイ」と言って。そう言ったら今までの記憶は忘れて、元の世界に戻るわ。」
「今までの記憶は忘れる」という言葉に引っかかったが、気付かないふりをして首を縦に振った。そして、一言。
「……わかった。ありがとう。」
私はウサギさんを抱きかかえて、マルクたちが待つ部屋へ戻る。
「勇者さんたち、お待たせしました。」
私はできるだけ魔王らしく言う。
「そろそろお帰りになられたら?」
「……そうだね。」
マルクは小さく頷いて玄関へ移動する。
もうマルクたちともお別れ。
短い間だったし、すごく不安だったけど、楽しかった。
彼らにとって、私と過ごした時間はほんの一瞬だ。
あまり大したことのない時間だろう。
でも、私にとっては、記憶が抜かれてもいつか思い出すであろう素晴らしい記憶と経験だ。
私は心を込めてゆっくりと言葉を発した。
「さよなら。勇者さんたち。」
「……ザイート…また、会おうね。」
マルクは代表して言う。
そして、私の心を見ぬいたように安心させるような笑みを見せた。
本当は別れたくない。「さよなら」なんて大嫌いだ。
でも、最後は笑顔でいたいから流れる涙はあくびのせいにして、精いっぱいの笑顔で別れた。
「ええ。また会いましょう。」
マルクたちが帰り、一人になった私。
この世界を離れるのは寂しい。
この経験を忘れたくない。
また、みんなに会いたい。
みんなのことをずっと覚えていたい。
でも、異世界の彼らも、現実世界の私も、きっといつか会える日が来る。
そう遠くないであろう未来を信じて私はつぶやいた。
「モトノセカイヘカエリタイ。」
異世界らびっと! 飛鳥部あかり @asukabe
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