第6話 最初にやるべきこと
「う、うぅ……」
意識が徐々にはっきりしてくる。
それと同時に引き継いだばかりの記憶がまだ整理できてなくて少し不快感が襲ってくる。昨日の段階で少しは慣れたつもりだったけど、やっぱりもう一人分の人生の記憶は膨大だったという事かな。
と言うか、今少し整理してみたらデータ化してからの記憶の方が多いじゃな。
「って、ティスはどこ行った?」
周囲を見回しても元居た部屋から移動したわけでもないようだが、ティスの姿だけが見当たらなかった。正直なところホログラムを姿って言っていいのかは分からないけどな。
なんてくだらない事を考えながら、一先ず起き上がって体の調子を確認する。
「よし!特に問題ないな。意識のないうちに身体強化処置とか、してそうで不安だったけど杞憂だったな」
気が付かないうちに改造されている。そんな展開が俺は一番怖かったがんだけど、ただの心配のしすぎだったようで一安心だ。
でも、同時にティスが『現在、何をしているのか?』という疑問は解消されていない。
引き継いだ記憶の中には幾つも不吉、と言うよりも実行されたら面倒なことになるような物がある。
そのどれもがデータ化していようと此処の設備を動かす事さえできるのなら、実行が可能だという事が問題なんだ。見えないところで、すでに何かの準備を始められていたら取り返しがつかない。
今回手に入れた知識を基に俺がやろうと何か考えた時、邪魔になるようなことをされたら困る。
『おや?想定よりも1分40秒ほど早い目覚めだね~』
俺が部屋から出て探そうとしていると、先ほどまで立っていた近くにティスが姿を現した。のんきに笑顔で楽しそうにしているティスの姿に苛立ちが募ってくる。
だが、何かを言う前に一度深呼吸して心を落ち着かせる。
「すぅ…ふぅ……で?なにをやっていたんだ?」
『私かい?ふっふっふっ!ちょっとしたモノの準備をしていたんだよ』
「安全な物だろうな?」
『安全性は保障するよ。きっと君の役に立つはずだよ!』
ものすごく自信満々に胸を張って言うティスに、かな~り不安を覚える。けれど追及したところで、目の前のご機嫌に笑顔を浮かべているティスが正直に教えてくるようには思えない。
という事で、考えても無駄なことは気にしないで本題に行こう。
「なら後での楽しみにしておくとして、俺の体に問題は現状なにもないんだな?」
『もちろんだとも!君の体は常時確認していたが何の変調もきたしていないよ』
「だったらいい。それで俺が知識を継承したのは良いとして、今後どうしていくのか簡単に話して協力もしてもらいたい」
『はははっ!そんな頼むような態度じゃなくて構わないよ。元々、私としても今の退屈な現代を変える事さえできればいいからね』
別に頼んでいるつもりはなかったが普段の習慣と言うべきか、自分より年上の相手に気軽に話すのは慣れないな。とにかく言質は取ったし無償で協力してもらおう。
正直ネットを自由に行き来して操作することのできるティスは味方なら最も心強い存在となる。
現代においてネット環境を使用しない組織なんてほとんど存在しない。重要な情報なんかは厳重なセキュリティで守られているか、紙かネットワークに接続しないで保存されているかだろう。
でも、引き継いだ知識の中にはネットに繋がっていない情報を調べるのにも向いている技術の数々を見つけている。
だが技術はあっても素材の用意も必要だし、なによりも一番の問題は俺の現在の立場『中学生』という事だ。
義務教育だし実家暮らしでは自由に何かを作ったりするような時間は確保できない。だから俺が動けない時に必要な物の制作などを行う事の出来るティスの協力の確約は必要だった。
「それじゃ、最初にやる事は簡単だ。会社を作ろう」
『会社?』
「あぁ、会社だ」
『えぇ~なんだか退屈そうだねぇ…』
なんとなく予想していたが、俺の発言にティスは嫌そうに顔を歪めていた。
正直、一々全部を説明するのは面倒なんだが納得してもらわないと進まないから説明する。
「現代において何をするにも信用だの立場だのが必要なんだよ。そして中学生や高校生は簡単には信用なんかを得られないし、大きな計画なんかを実行する事なんてできやしないんだよ。特に素材の生産施設やストックがあっても、知識にある技術全部を再現する事はできない。それを再現するのに必要な設備の素材や建築するための土地なんかを用意するのにもお金や等何やら必要になる」
『わかった。そう言う面倒なことの為の手続きなんかをするのに君ではできず、他の人間を雇ったとしても個人だとできる事には限界がある。だから『会社』と言うわかりやすい形が必要という事だね?』
「正解だ」
ようやく理解してもらえた。これで一安心と言ったところだな。
現代社会では特出した才能や成果を出しても評価はしてもらえるが、続けて実績を残すために必要な金も設備も行老いしてもらうにはスポンサーなどが必要になる。でも、俺達のやろうとしている事は下手をしなくても社会を大なり小なり混乱させることになる。
そんなものにスポンサーなどつくは訳もないっていう話だ。もっと言えば関係ない人間に話す事すらできない。
「理解してもらえたようだし、ティスに頼みたいのは会社を作るうえで必要な手続きを任せたいんだよ。中学生でも企業とかは聞いたことはあるけど、必要以上に目立っても困るからな」
『なるほど、任せておきたまえ!そういう事なら少しデータをいくつか改竄したりする程度で大丈夫だろうしね』
「問題は土地の契約とか、建物の建設だけど…そっちはどうするべきかな」
正直ここまで話を進めておいてなんだけど、今回の一番の問題はこの『書類を必要とする契約』だ。最近は電子契約書なんかもあるらしいけど、基本的には重要な契約なんかは書面形式が多いだろう。
そして会社の設立も今回は無理やりデータの改ざんなどを挟むが、こちらも本来は書類として書かないといけない事が存在する…とは思う。まだ中学生の俺がそんなこと詳しっているはずないだろう。
ここまでの話もにわか知識を総動員して何とかティスに面倒な調べ事なんかを押し付けているだけだ。
『あぁ~そういう手続きという事なら。私が用意したモノが役に立つはずだ!』
「用意した?…さっき言っていたやつか?」
『そうだよ。きっと役に立つはずさ』
そう言ってティスは姿を消した。
おそらく用意した何かを持ってくるつもりなんだろうけど……言いようのない不安が猛烈に襲い掛かってくるのはなぜだろう。特に問題になるような事は何も言っていなかったはずなんだけど、この話の流れで役に立つって今にして思えばおかしな言葉だったと気が付いた。
その時、部屋の扉が開いて同時にティスが戻ってきた。
『さぁ~!これが私の用意した【人造生命:ver.人間】だ‼ま、ようするに人造人間だね!』
「………………は?」
自信満々に言われても俺の頭は混乱していた。
確かに知識の中には人造的に作る生命についての物は多いが、アレには1月に1千度作れるかどうかと言うほどの素材と時間を必要とするはずだ。まだ記憶を全部整理できたわけではないけど、時間などを短縮する技術など確認できない。
「どうやって造った?」
『?時間なんかの事を気にしているのならちょっとした裏技があってね。君の私の知識をちゃんと紐解けば、すぐにわかるはずだよ~?』
「っ少し待ってろ‼」
なんだか馬鹿にされているようでむかついたのでむきになってしまった。
でも、我慢できないので目の前の事はひとまず置いておいて記憶の整理を優先させてもらう!床に腰を下ろして目を閉じ、意識を自分の頭へと集中して沈むように……イメージは図書館…………
「……くはっ⁉」
集中しすぎて息をすることを忘れ少し咽た。
「はぁ…はぁ…原理はわかった。元から素体を用意してあったのか」
『正解!そうすると体を成長させる過程ので消費する時間を大幅に減らせるんだよ』
方法としては単純な事だった。
ある程度まで成長させた体の素となる物を途中まで成長させた状態で劣化しないように保存する。それを必要な時に取り出して外見や性格などの必要な要素を追加して一気に成長させる。
それだけの事で実際に造り出すときに1から造る時の必要時間の何百分の一にも短縮する事が出来るようになるのだ。
『もっとも用意していた素体は、後1個しか残ってないけどね』
「もう1個残っているだけで十分だろ」
『そうかい?ならいいんだけどね。私としてはもう少しストックがあった方がいいと思っていたんだけど』
ティスの言うように幾らあっても困ることのない物ではあるけど、製造するために必要な素材を用意するのは途方もなく大変だ。簡単に素材を用意することのできない現状では1個でもすっとくがある事を喜ぶべきだろう。
なんて考えていて1つ忘れていた事を思い出した。
「それで造ったのが彼女か?」
そこに立っていたのは身長165~6㎝ほどで顔は可愛いと綺麗の中間と言った感じで、目は赤茶で大きく、髪は少し明るめの茶髪でポニーテール?とかいう形に結んである。
それに体全体が程よく筋肉があって引き締まっていてスポーツ選手のような感じだ。服は入院患者の服って感じで少し残念だが普通に綺麗な女性だった。
『どうだい!結構頑張ったんだよ‼君の好みの女性のタイプを調べて、合わせて造ってみたんだよ‼』
「っ!?」
『いや~喜んでもらいたくて頑張ったんだよ。私なんて見た目興味なかったから全員髪の色以外は適当に最初に造った個体と同じ見た目にしていたからね~』
「おい、ちょっと話があるから別の部屋に行こうか?」
『え?』
なんかまだ自慢げに話しているティスだったが、そんなことは関係ない。
人の趣味趣向を勝手に見て、勝手に判断して使用するとかふざけるんじゃない。まだ状況ができていない様子のティスだが、気にせずに俺はこの部屋の装置を使用してほらグラムを強制的に別の部屋へと移動させた。
「ちょっと外す、しばらくすれば戻るから。そしたら話そう」
短く入り口で立っていた彼女にそう言って俺はティスを移動させた実験室へと向かう。そこの部屋にはちょっとした装置があってホログラムに触れることができるんだ。
それから数分ほどお・は・な・しをさせてもらったとだけ言っておこう。
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