第1話 入学騒動①
祓魔学園。
政府に協力する組織である祓魔師が創立した学園。外部や祓魔師の家系から術者をスカウトし、教育を施すための場だ。
学年は1から3年まであり、卒業すれば祓魔師として活動することができる。
入学条件は単純。術式の所持と、ある一定の実績。そして、陰陽師と関わりがないこと。これらの条件を満たせば入学することができる。
最近は術者の数に対して怪異の出現が非常に多い。
なので、祓魔学園は野良の術者も積極的に取り入れようとしている。
「え、入学? 俺が?」
野良の術者である
術式を持ってはいないが、怪異が見える人はある一定数存在する。その人たちは、主に術者のサポートなんかを任されているらしい。
「はい、是非とも我が学園に」
「祓魔師ね〜」
なぜ波座間が祓魔師に渋っているかと言うと、それは祓魔師と陰陽師の件に繋がる。
術式所持者の世界では、その二つの組織の争いは有名な話だ。おそらくこの先も、祓魔師と陰陽師が手を取り合うことは無いだろうと言われるほどに。
祓魔師側に入ると言うことは、陰陽師を敵に回すと言うこと。
これまで、フリーで過ごしていた波座間にとってこの問題はそう簡単に出来ることではない。
「めんどくさいんだよ、そう言うの。組織とか」
「あなたを是非味方にしたいと言うのが上層部の意見です」
なぜこうも男は波座間を祓魔師に引き入れたいのか。上層部からの命令だから、と言うものあるが一番の要因は目の前にある。
(これは、想像以上でしたね)
男の目の前には無数の怪異の死体が積まれている。
それらは最近問題になっていたものだ。数が多く厄介で、祓魔師からも人材を投入していたが、解決できなかった怪異の群れだ。
その怪異の群れが、目の前で積まれている。男がここに来た時には既にこうなっていた。
「もしこの話に頷くなら、相応の保証はしましょう」
「保証か……う〜ん」
後何が足りないのか。
波座間廻が求めているものは一体何なのか。
「それよりさ、報奨金ちょうだい」
「分かりました。まずは、死体の状態を確認させて頂きます」
男は死体の山の前に立ち、一体一体確認していく。
恐ろしいな。
男はそう感じた。
まず、この怪異だが四足歩行や牙、爪が鋭いことは情報通り。問題は皮膚の硬さだ。触れて分かったが、おそらく皮膚のすぐ下に骨がある。背中にも腹にも。骨で覆われていて刃物を刺しても内臓に届くことはないだろう。
体長は2メートルを超え、腕や首の太さは人の胴体ぐらいある。そんな怪異が8匹もここに積まれている。
数匹は頭を何かが貫通している。その他の死体は、首から血が溢れているものもあれば、体の至る所に穴があるものがある。
この全てが波座間廻がやったことだ。
恐ろしいのは、この怪異か波座間廻か。
………おそらく、両方だろう。私みたいな見えるだけの人にとっては、どちらともお手上げだ。
「あ、しまった」
波座間廻が私を見て呟いた。
「え?」
何事かと思って視線の先……怪異の遺体を見ると一匹だけ目が開いていた。それは、私を見ている。
怪異が口を開ける———
私が叫ぶ———
———より先に、黒い何かが怪異に突き刺さる。
形状から見て槍だと思ったが分からない。さっきまでそんなものは何処にもなかった。
頭を刺された怪異は一瞬体を震わせ、動かなくなった。
「いやあ、ごめんごめん。まだ生きてたみたい」
「た、助かりました」
ありがとうございます、と続けて波座間廻の手を借り立ち上がる。
汚れた服を軽く払い、鞄からとある書類を取り出す。
「こちらが討伐の件の書類です。それでこちらが———」
二枚目の紙。当然、祓魔学園への入学の件が書かれた契約書だ。
逃すわけにはいかない。今月の生活費のためにも。
「学園に入ったところで、俺にメリットないんだよな〜。このまま適当に狩るだけで生活できるだろうし」
「同業者からのいざこざが無くなりますよ」
「力で黙らせてるからモーマンタイ」
「友達ができます」
「俺に友達がいないと?」
ダメだ。思いつかない。
波座間廻を引き入れるのには、何が足りないんだ。
金か。権力か。
私個人の決定ではそこまで大きな決断はできない。私が出来ることで、波座間廻を納得させるカードはあるのか?
「……なあ、ここに書いてあることは本当か?」
波座間廻が指差したのは入学に関する契約書の一文。
『本校に入学する者の衣住食を全て負担する』
そう書かれている。
「———くよ」
「え?」
「行くよ、祓魔学園」
や、安いな。
そう思った男は、波座間のサインを貰った書類を上司に届けに車で向かった。
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