第2話 入学騒動②
廻が祓魔学園への入学を決めた次に日。
屋根のある住処として借りているアパートの一室に書類の束が届いた。その中から必要そうな紙だけを手に取ると、入学試験のことが分かった。
入学試験と言っても。不合格なら入学できないと言うものでは無い。ただ、入学者の実力の把握をするために毎年行われているイベントなのだと。
「ちょっと楽しそうだな」
内容は簡単だ。
指定の建造物に辿り着き、そこに捕まっている人質を救出しろというもの。
ヒントとしてかは知らないが、試験内容の他にも紙があった。地図と、暗号。地図の方はどっこかの地区が縮小コピーされたもの。
問題はA4用紙の真ん中に大きく書かれた暗号だ。訳の分からない文字が幾つも並んでいる。感覚で古代の文字っぽいな〜とは思ったが、それ以上何も分からない。
「解かせる気……あるかこれ?」
地図は何処の地図かわからない、暗号も何を書いてるか分からない。
情報を地図に書き落とし、人質が連れて行かれそうな場所を割り出す。
だったら、
俺は書類を丸めてゴミ箱にぶち込む。
「ムクムク、出てこい」
そういうと、俺の目の前に小さな黒い毛玉が現れる。テニスボールぐらいの毛玉は体を震わせ、目を開ける。前脚、後脚を伸ばして猫みたいに毛繕いをする。短い脚じゃ届かないだろ………。
これが俺の術式。名前はムクムク。伸縮自在のヘンテコ生物だ。
「臭いわかるか? 案内してくれ」
ムクムクが書類に近づき、臭いを嗅ぐ仕草をする。鼻はあるのか知らないが、多分あるんだろう。
臭いを覚えたのか、ムクムクはトテトテと歩き出し、俺の体をよじ登る。そして、頭の上で落ち着き、前脚でペシペシと叩いてくる。早く進めと言うことだろう。
「分かったから、暴れるな。落ちるぞ」
部屋を出て外に行く。ムクムクが右脚をで叩けば右方向に進み、左で叩けば左へ向かった。
道中、バスや電車はなるべく避けた。一般人にはムクムクは見えないから別にそこはどうでもいいんだが、お金が………。昨日の件で金は入ってくるのは確定してるが、入金はしばらく先だと。はあ、早く学園行ってただ飯食いたい。
どれくらい経っただろうか、と言う具合で。
「お、ここか?」
ムクムクが両脚で叩き始めた。止まれと言うサインだ。
そこは廃ビルだった。三階建のビルは既に取り壊す用意が進んでいるのか、周辺が柵や防音シートで覆われている。ただ、まだ大型機械などがない。最近取り壊しが決まったのかな。
ムクムクが地面に降りて、廃ビルに入ろうとする。
数歩だけ歩き、振り返る。何だ来ないのか、とその目が言っているように感じた。
「はあ、めんどくさいな〜」
ムクムクの後について行く……つもりだったが、ビルに入る前に追い抜いてしまった。ムクムクは頑張って脚を動かしているが、なにせ歩幅が違う。ムクムクの60歩が俺の一歩なんだ。
ごめんよ、そう不機嫌になるな。
ムクムクを手で持って、肩に乗せる。
痛い痛い、ほっぺを引っ掻くな。
ムクムクさんは不機嫌なようだ。
とまあ、そんな感じでビルの中に侵入。中は予想通り、荒れていた。壁の一部が崩れていたり、窓ガラスが飛び散っていたりと。学園ものホラー映画の撮影として使えるんじゃないか?
「ムクムクさん、ムクムクさん。敵はどこですか?」
コックリさんを呼ぶ時みたいに話しかける。多少の敬意を込めないと、不機嫌なムクムクはさらに不機嫌になってしまうから。
ピッ、とムクムクが前脚で階段を指した。
「なるほど、上か」
そうと分かれば話は早い。早速上に向おう。
俺は階段に行って、その段数を一段ずつ昇ろうとする。
何の警戒もなく、敵が2、3階にいると思い込んで。
「え?」
階段を昇ろうとした時。
ムクムクが俺の顔に噛み付いた。
敵の攻撃がくる、というサイン。
次の瞬間、階段を突き破って酷く鋭利なものが飛び出してきた。
敵は上階ではなく、階段にいたんだ。ムクムクがは、上に行けと言うことではなくて、階段そのものを指してたんだな。
ムクムク噛み付いてくれたおかげで、咄嗟に脚を引いて避けることが出来た。しかし、さっきからムクムクのジト目が痛い。こいつ分かってなかったのかよ、と言う視線が痛い。
「って、あれを倒すのか?」
階段の下から出てきたのは、何とも言えない怪異。肌色と腐った紫を混ぜたような皮膚を持ち、頭には大きい一個の目玉と口。頭と比べると小さな胴体には細いトカゲのような手が2本。脚はなく、ヘビのような下半身がある。
全体の大きさは、小6ぐらいの女子ってとこ。
「ムクムク、槍」
俺がそう言うと、ムクムクの身体が徐々に毛玉の形を崩して伸縮する。
そして、槍の形を成して手に収まる。
『おがじ、いじめな、、、いで!!』
怪異が突進してくる。
俺はそれを真正面から迎え、槍の先を目玉に向ける。そして、ムクムクの最大の強みである自由な伸縮を使おうとした時。
ムクムクが俺の手を噛んだ。
横へ身体をずらす。何かが槍へ当たり、金属同士がぶつかったような音が響く。見れば、怪異の口から銀色の刃物が飛び出していた。
それは、階段を突き破って、不意打ちに使われた鋭利な刃物だった。どうやら口の中に物を隠せるようだ。
槍のムクムクがその刃物を弾き、遠くに落下する。
唯一の武器だったのか、怪異が一瞬怯む。
「じゃあね、ばーいばい」
怪異の目を一突き。貫き抉る。
怪異が倒れ、痙攣する。
「お疲れムクムク」
ムクムクが元の毛玉に戻る。俺の方に乗るのは、もうそこが定位置だと認識しているかなのか?
「さてと、囚われのお子様はどちらかな?」
2階へと向かう。もう同じミスはしないと周囲を警戒するが……、何かあったらムクムクが教えてくれるので、別に俺が警戒する必要はないなと気がついた。
「何だあれ?」
廊下の先。さっきと同じような怪異が二匹いた。
よし、早速。
「ムクムク、いけ」
槍の形を成し、飛んでった。怪異目掛けて。
見事に片方の目玉を貫き、一体を倒す。
「あとは、お前だ!」
残った一匹を倒そうと近づく……が、それより早く怪異は逃げた。蛇のような下半身を滑らせ、窓から外に出て上階に向かった。あいつ、壁に貼り付けるんだな。
感心しつつも槍型のムクムクを持って後を追う。もちろん階段で。
3階には部屋はなかった。一つの大きな部屋だけがあった。
その部屋には、俺と怪異。そして、怪異に刃物を向けられている女子がいた。
その藤色髪の女子は両手両脚を縄で縛られていて、眠っているようだ。その女子に怪異は刃物を向けていた。
「人質のつもりか?」
『だー、だー!』
うん、会話が成り立たない。まあいいや。
槍を引いて投げる体勢に入る。一撃で貫けば大丈夫だろうと思って。
すると、怪異は震えながら刃を女子に突き刺した。女子の腕から血が滲んでいる。
あ、これやばいな。
「分かった、武器は離す」
槍から手を離してその場に落とす。
それを見た怪異は、ゆっくりと女子を持って窓に近づく。
逃げる気だ。人質を連れたまま。
やばいなー、どうしようかなー。
あれでいくか?
けど、あれはなー。今制限してるしなー。
案は幾つか浮かぶが、どれもやりたくない。
こんな時、あいつならどうするのか。
あの商売敵の術者ならこう言う時はどうするのだろうか。
幾百の怪異を従えるあの憎い商売敵。次会ったら梅干しを死ぬほど食わすと決めた相手。
そうこうしてるうちに、怪異が窓から飛び出す。
「待てよ」
仕方ない、あれ使うか。
そう俺が決めた時。
「喰らえ、
巨大な蛭が陽の光を遮った。
巨大な蛭は怪異と女子を飲み込み、咀嚼する。そして、この3階に女子だけ吐き出してどこかへと消えた。
「やあ、久しぶりだね廻。 腕落ちた?」
「うるせぇ、相変わらずキモい奴使ってるんだな」
後ろから声をかけてきたのは、まさかのあの憎っくき商売敵。
黒髪を後ろで結び、気に入らない薄笑いを浮かべた男、
「ここにいるって事は、もしかして君も祓魔師に?」
「って事は、まさかお前も?」
「そのようだね、これからよろしく」
「まじかぁ、よりにもよってお前かよ……」
この詐欺師のような奴と同級生だって?最悪だ。
「まあまあ、仲良くしようよ」
「はあ? 誰がお前と」
「よろしくね」
俺の話など聞かず、
「………」
俺は何も言わずにその手を取った。こいつの事は気に入らないが、別に握手を断る程じゃないからな。
「ああ、ごめんごめん。この子達、人の血が好物みたいでね。使った後は血をあげないと大人しく帰ってくれないんだよ」
俺を噛んでいたのは蛭だった。さっき、外で怪異を食った蛭の小さいサイズだ。
「協力、ありがとう」
蛭を消した甌が俺の肩を叩く。
ほう、俺をここまでコケにするとは。
「ムクムク、やるぞ」
「いいよ、来なよ」
ムクムクを手に持ち、甌をぶち殴る体勢に。
甌も術式を使って、後ろに黒い渦を展開させる。あそこから何が飛び出してくるか。
一触即発の空気が流れる。
そこに———、
「いやあ、ごめんごめん。遅くなっちゃった!!メンゴね!」
空気に合わない男が現れた。
その男はどこか黒に赤が混ざったような髪に、それとは逆の黒が混ざったような赤目。髪留めとして使われている黒めの赤の装飾品を着けている。服装には、黒を基調とし、赤い糸で装飾を施した羽織を羽織っていた。
「えーっと、これはどう言う状況?」
睨み合う学生二人に、腕から血が出て(もう止まっているが)倒れている女子。
確かに状況が分からないのも無理はないか。
甌と目をが合い、とりあえずこの場を収めることに。
だから、まずは男に説明を甌にさせようとしたら———、
不意に倒れていた女子が立ち上がった。
女子はそのまま俺たちを睨んでいた。なんで?
「紫乃ちゃん、二人は何点だった?」
「二人とも…0点」
「「え?」」
訳のわからないまま、0点を言い渡された俺たちだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます