第94話 パーフェクトピッチング

 大介が二打席連続で三振となった。

 それはひょっとしたら、二打席連続でホームランを打たれた、この間の意趣返しであったのかもしれない。

 大介は一試合に二打席の三振を喫したのは、今シーズンは二度目。

 もっともその一度目も、相手は直史であったのだが。

 フルスイングの後は、バランスを崩してその場で膝をつく。

 そこに迫水が、バウンドしてから捕球したボールでタッチしたのだ。


 マウンド上の直史は、大きく息を吐いた。

 これで大きな山場を終えた。

 もしランナーが出たとしても、それが九回でなければ、大介に同点の場面では回らない。

 だからこれからするのは、最終回までの道筋を、どうやってつけていくかだ。

(このイニング、最悪ランナーは出てもいい)

 しかしそう思いながら投げると、案外ランナーなど出たりはしないものである。

 二番を三振、三番を内野フライと、ストレートでしっかりと打ち取っている。

 ほぼ計算どおりである。


 だがベンチに戻ってきた直史は、想像以上に疲労している自分に気づく。

 おそらく脳を酷使しているが、元々脳は多大なエネルギーを必要とする器官である。

 それが普段の数倍のカロリーを消費している。

(脳細胞がスポンジになるのはなんの病気だったかな)

 そんなことを考えながら、水分を補給する。


 ラムネをかりかりとかじるのは、もう随分と長い習慣だ。

 アメリカにいた頃も、これだけはしっかりと確保していた。

 そして思考力が回復してきたのを実感する。

(あと2イニングか)

 直史の視界は、今はとてもクリアになっている。

 あと六人でパーフェクト達成。

 今日はそこまでの道筋が、比較的はっきりと見えている。

 それでも何が起こるのか分からないのが、野球というものであろう。




 

 七回の裏、レックスは追加点を獲得。

 これで何かが起こっても、少なくとも負けることはない。

 直史は八回の表のマウンドに登る。

 そのわずかな距離が、ひどく整地されているような気がした。

(不思議だな……)

 何がと言われても、ただそう思っただけである。

 ベンチの中が見えて、そこから大介の視線を感じる。

 なるほど、ようやくここでこうなるのか。


 直史がこれまでパーフェクトをしてこなかったのは、一つには安全装置という名の枷がはめられていたからだ。

 そしてもう一つは、野球の神様だかなんだかが、運命付けていたからだと思っていた。

 だからもう沢村賞が確定した今なら、果たせるかもしれないなどとも思った。

 完全に勘違いであり、我ながら随分とスピリチュアルなことを考えていたものだな、と自分でも思う。

 しかし大介を二度目の三振で打ち取ったあたりから、直史には分かった。

 

 安全装置のせいで全力のピッチングが出来ないというなら、沢村賞を確定させたような22勝あたりから、どうして安全装置が外れなかったのか。

 あそこぐらいまではともかく、あそこまで選考基準を満たせば、もう問題はなかったはずなのに。

 そう、つまるところは逆なのだ。

 直史の潜在意識は、もう壊れてでも投げていいという、本当のタイミングを待っていただけである。

 それがこのライガース戦だ。


 明日の二戦目、これもレックスは落とすわけにはいかない。

 そのために必要なのは、まずこの試合でライガースの牙を完全に砕いておくこと。

 そう、ここが一番、パーフェクトをするのに相応しいタイミングだ。

 序盤では下手に全力を出そうとしても、まだ試合勘が戻っていなかた。

 中盤でもパーフェクトを下手に目指すのと、故障の可能性が釣り合っていなかった。

 終盤はもう、ほとんど沢村賞が確定していたから、さほど時期がずれても意味はなかった。

 だからこそ、ここなのだ。




 見ればライガースベンチは、絶望的な顔ばかりが並んでいる。

 ほとんど唯一の例外は大介と、あとは大原ぐらいであろうか。

 直史の脅威に関して、とっくの昔から散々に知っている二人。

 明日の試合までに、ライガースのメンタルを立て直すことが出来るか?

 だからこそ、するならこの試合しかなかったのだ。


 連戦の最初の試合で木っ端微塵に倒して、次の試合にまで響くメンタルダメージを与えること。

 今こそがまさに、それを与えるに相応しい。

 八回の表の直史のピッチングは、もう完全に三振を狙っている。

 スルーとストレート、そしてカーブだけで緩急と変化を作り出している。

 連続三振の後に、ピッチャーゴロでスリーアウト。

 三者凡退で最後のイニングに向う。


 悪魔に率いられた軍団が、その本性を発揮する。

 士気を失いつつあるライガースは、ピッチャーだけは自分に関係ないと、言い聞かせることが出来るだろう。

 打線が点を取れなくても、自分たちが好投することは、自分の評価につながると。

 だが本当に、そこまで割り切れるものではない。


 直史の蹂躙するピッチングを見て、同じピッチャーが何も思わないわけがない。

 そこをレックス打線が攻める。

 もう点を取らなくても勝てるとは、なんとなく思っているだろう。

 だが萎縮した敵を相手にしては、叩く機会であるのは間違いないのだ。




 八回の裏、レックスは一気に五点を奪取。

 ライガースはここで、リリーフ陣を投入したが、もう勢いが止まらない。

 そしてこの一挙大量得点は、打線陣にまで影響を与える。

 勝利は間違いない。

 あとはパーフェクトが成立するかどうか。

 ただこの試合、バックを守る野手にも、不思議なほどプレッシャーがかかっていない。

 ほどよい緊張感だけがあり、そのまま守備に散っていく。

 そして直史が、マウンドに立つ。


 直史は絶対的なピッチャーである。

 それはもう、充分に分かっているはずのライガースであった。

 これまでもノーヒットノーランを、たったの1シーズンで何度も達成し、かつては年間に複数回のパーフェクトも達成していた。

 それに比べれば衰えていると言えたし、また以前には大介に特大のホームランも打たれていた。

 とてつもないピッチャーではあるが、完全に隙がないわけではない。特にライガースを相手にしては。

 そう思ってしまった。


 大介が手も足も出なかった。

 一試合に二度も三振を奪われるなど、これまで大介は直史にのみ許している。

 それでも二人の間にある実力差は、とてつもない高いレベルでの僅差であると思っていたのだ。

 それが今、これはいったいなんだというのだ。

 二人の間にある差は、もっと圧倒的なものではないのか。


 ただチームメイトや首脳陣から視線を向けられても、大介は笑っていた。

 直史のピッチングを見ても、全く悲観的になどはならずに。

「白石、何か策はないのか?」

 だからそんな問いを、発してしまう者もいた。

 それに対して大介は、完全に天真爛漫とした笑顔を向けた。

「そんなもん、あるわけないでしょ」

 そして呟くのだ。

「そうだよな。そうこなくっちゃな。単に沢村賞を取って勝ち逃げとか、勝負に負けて試合に勝ったとか、そんな温いことは言わないよな」

 好敵手でさえないのかもしれない。

 確かに一度は、決定的な勝利を手にしたことはあったが。

 それでも大介は笑うのだ。




 最終回のライガースの攻撃が始まる。

 もはややけくそのように投入される、ライガースの打撃に期待された代打陣。

 だがそれに対して、直史は翻弄するように変化球を使ってくる。

 まるでこちらの狙いが分かっているかのように、絞った変化球だけは投げずに、またストレート狙いのバッターにはストレートをボール球としてしか使わずに。

 内野ゴロのアウトの次には、三振でのアウト。

「21個目か……」

 その数を、大介は数えていた。


 かつての直史は、もっととんでもない奪三振の記録を持っている。

 しかし今シーズンは、安定した奪三振率が、シーズン中盤から上昇していた。

 それでもここまでの圧倒的なものではなかったが。

 本気を出してしまったら、こういうことも可能になるということだ。

(安定したスルーにスルーチェンジ、カーブの種類に速いスライダーとツーシーム)

 かつて持っていた武器は、もう全て取り戻したのではないか。

(いやむしろ、ストレートの種類が増えているか)

 あの33歳のシーズン、直史は圧倒的であった。

 だが、今日のピッチング内容から、間違いなく言える。

 直史は今が全盛期だ。


 最後の一人へのピッチング。

 スタジアムが一部を除き、ほぼ静まり返っている。

(でもまあ、まだ安定はしてないのかな?)

 投げた球数が、直史にしては多すぎる。

 大介はそれが、自分が直史の球数を増やしていたことに、なぜか気づいていなかった。


 最後はスライダーを空振りさせて、22個目の三振を奪った。

 バッター27人に対して106球。

 無安打無四球無失策。

 パーフェクト達成である。




 音が戻ってくる。

 どっと襲ってきた疲労に対して、直史は握った右拳を振り上げる。

「おおおおおっ!」

 その叫びに対して、大介は思わず呟く。

「そりゃ、叫びたくもなるか」

 やっとこれで直史は、自分に課せられた使命を本当に果たしたのだ。

 パーフェクト、沢村賞、シーズンMVP。

 これらのうちの、どれか一つ。

 長いシーズンだったろう。


 レックスの守備陣がマウンドに集まり、ベンチからまで選手が飛び出してくるその様子は、まるで優勝を決めたかのよう。

 だがこの試合が後に与える影響を考えれば、それぐらいの反応をしてもおかしくはないだろう。

 直史はもう疲れた顔で、迫水に抱き上げられている。

 果たしてルーキーシーズンで、ここまで記録に立ち会ったキャッチャーが、どれだけいるだろう。


 これで勢いは間違いなくついた。

 そしてライガースは、完全に勢いを止められた。

 四日前のカップス戦で負けたのとは、事情は全く違う。

 ペナントレースの勝者を争っているチームに、完膚なきまでに負けたのである。


 それでも試合数などを考えると、レックスが完全に有利とも言えない。

 ただ負け星の数は並んだ。

 そして最後の直接対決は、おそらくまた直史が投げてくる。

 中四日になってしまうが、これは間違いないであろう。

 それまでにレックスは、一度は負けることが出来る。

 ライガースとの最終戦にさえ、勝てばそれでいいのだ。

 そう考えると、勝てそうだと思えるのが、今のレックスであった。




 とりあえず、一度目の決戦は終わった。

 明日はもう、自分の力の及ぶところではないと直史は考える。

 重要なのは、中四日で投げるライガース戦。

 そこで勝てば、おそらくペナントレースの勝者が決まる。

 確実なことが言えないのは、明日までにライガースが立て直してくる可能性と、レックスにもこの終盤に調子がいいカップスとの試合が残っていること。

 そしてシーズン最終戦に、スターズとの試合が残っているからだ。


 スターズもぎりぎりのところで戦っている。

 最終戦にまで、クライマックスシリーズ進出がもつれ込むかもしれない。

 そしてスターズは、そこで上杉を使ってくるかもしれない登板間隔で投げさせている。

 レックスはその前日に直史にライガースに投げてもらうため、もしそうなったら他のピッチャーで上杉に対抗しなければいけない。

 そういう時の上杉は、本当に強い。


 国際大会無敗は、直史の専売特許ではない。

 大一番や負けてはいけない試合では、凄まじいピッチングをする。

 かつて直史と投げ合って、両者一人のランナーも許さなかったというように。

 今年にしても直史が、負け星はつかなかったものの、勝ち星もつかなかった試合の相手は上杉だ。

 もちろんそこまでにスターズが、三位か四位と決まってしまえば、そもそも短い登板間隔では投げてこないかもしれないが。


 ライガース戦の残る試合を勝ってしまうなら、そしてカップス戦にも勝ってしまうなら、スターズ戦に負けてもいい。

 ただそこまで都合のいい試合が続くものだろうか。

 その前のライガース戦では、直史を使わなくてはいけなくなる可能性が高い。

 カップスはライガースに負けをつけてくれて、レックスにとってはありがたい働きをしてくれた。

 だがレックスに対しても、伸び伸びと試合をしてくるだろう。

 しかしまずは目の前の試合をどうにかしないといけない。




 直史はインタビューを受けている。

 試合の中盤からは、まさに圧倒的なピッチングであった。

「役目を……権利を果たしました」

 その言葉の意味が、果たしてどの程度の人間に理解出来ただろう。

 元々直史は、抽象的な言い方というか、しばらくしてから考えて納得することや、完全に散文的に理路整然と述べることの、両方をする。

 今回のそれは、比較的どちらとも取れる、分かりやすいものであった。


 エースがチームを鼓舞するピッチングをした。

 ライガースに有利と思われていたこの終盤、まさにそれをひっくり返すような、切り札としての役割。

 エースがエースとしての、いやそれ以上の働きをした。

 本人としては意識も朦朧として、言わなくもいいことを言わないように、かなり必死であったのだが。

「このピッチングが、勇気を与えていることを望みます」

 随分と抒情的な物言いだな、とこれも思われた。

 真意が明らかになるのは、ずっと先のことである。


 沈鬱なライガースの中で、大介だけは上機嫌だった。

「よく前向きでいられるな」

 小声で大原がそう言うが、彼の方が正しい。

 このボロボロにされたチームで、明日の第二戦を戦う。

 とても勝てそうにないと思うのだが、大介としてはそちらはどうでもいいのだ。

「だってこれで、やっと本気のあいつと戦えるんだからな」

 チームの優勝とか、今日の敗北とか、そういうことがどうでもいいわけではないのだろうが、それよりも重要なのは、この先の未来の話だ。


 直史と戦える。

 自分が二本もホームランを打ててしまった直史と違い、完全にリミッターを外した直史と。

 パーフェクトを達成した直史は、もう自分の体を気遣ってピッチングをする必要がない。

 だが同時に、勝利のためには全力を尽くすことも出来る。

 これが最後の戦いになる可能性が高い。




 直史は疲れた体でホテルにまで戻ってきたが、瑞希との連絡は当然ながら行っている。

「そうか、見てたのか」

『興奮しすぎて、心臓の発作が起こらないか心配だったの』

 瑞希の言葉は、冗談にしても際どいものだ。

 そして、明史はパーフェクトを見た。

 父が約束を果たしたのだ。権利、義務、使命、その他諸々を合わせて。


 明史は無言であったが、その瞳は生命力に溢れた輝きで満たされていたという。

「明日、試合の前にそちらに行くよ」

『うん』

 自分のなすべきことは終わった。

 あとはこの件で無茶をさせてしまった、チームをはじめとした周囲に、どう返していくかだ。

 チームに対しては、とにかく勝利で応えるしかない。

 だが、セイバーはどうであるのか。


 彼女が直史を援助するのは、ほとんど趣味だと自分でも言っていた。

 もちろん莫大な富を、直史や大介を使って生み出すことには成功した。

 だが彼女が直史や大介にしたそれは、投資と言うよりは投機である。

 ほとんどどかろか完全にギャンブルであり、それに対しては間違いなく恩がある。

 それにこのタイミングでパーフェクトを達成したので、予定を前倒し出来るかもしれない。

 彼女にもやはり、会わなければいけないであろう。

 明日の試合、直史が投げないと分かっているからこそ、こんなスケジュールが立てられる。




 【完全試合!】 神聖! 佐藤直史総合スレ part421 【神話完成!】


211 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 落ち着いてきたな

 どんだけ進んだんだ


212 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 達成の瞬間、サーバー落ちてなかったか?

 いや、今はもうそんなことないはずなんだけど


213 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 ここじゃなくても、どこかのサーバーは落ちたのかもな

 通じにくくなっていたのは間違いない


214 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 おい待て!w スレタイ変わってるwww


215 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 神聖ってw ネタにしても……いやマジでネタにならんわ


216 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 ザ・グレートが叫ぶところなんて初めて見たわ

 もう昨日からあの場面だけ100回ぐらい見てる


217 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 大サトーも試合後へろへろやったな

 さすがに相手が相手だった


218 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 意外と球数は多かったのよな

 白石に粘られた以外にも


219 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 106球で球数多いってなんのギャグ?www

 とか他のピッチャーなら言われるんだろうな


220 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 まあ確かに完封したらほとんど100球以内の気はするな


221 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 ちょっと調べてみたら完投した試合で最多は106球だわ

 それが全部ライガース戦であったりする

 なんじゃこれ? 106って何か特別な数字なんか?


222 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 試合展開が圧倒的になって途中で代わった試合もあったけどな


223 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 煩悩と同じ数までしか投げられないとか?w


224 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 途中交代だけど110球投げてる試合はあるけどな


225 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 球数よりも奪三振がやばいわ

 22個ってキャリア最多とかでないの?


226 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 古参ぶっていい?

 NPB二年目に25奪三振してるぞ

 もちろん延長とかではなく


227 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 ファッ!?

 25個ってなんなの? 死ぬの?


228 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 MLBじゃ逆方向におかしなこともしてるしな

 奪三振三つで完封とか


229 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 大学時代なんか24奪三振でパーフェクトとかしてるしな


230 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 えええ……

 大サトーマジ大サトー


231 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 全国の佐藤さんの希望の星やな


232 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 おまwww

 佐藤姓どんだけいると思ってるねんwww


233 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 球速も今季最速って言われてたな

 既に検証が始まってるんだがw


234 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 もう頭がポルナレフよ!


235 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 今は映像媒体が残ってるけど、これが100年前なら絶対に信じられないだろうな


236 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 いや~この映像も合成だ! とか言われるんでない?

 まあその気持ちは分かる


237 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 ライガーススレもおかしなテンションだったよな

 直後はお通夜だったのに、今はやべーw


238 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 これでどうなったのよ?

 今日の二戦目含めて、ライガースはレックスとの直接対決二つで終わりだろ


239 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 そのへんの計算はもう30スレぐらい前で終わってるw

 早すぎたんだ!


240 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 カップスとスターズ次第、ではあるのかな

 ライガースとの最終戦は中四日だけど間違いなく大サトーが投げてくるだろうし


241 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 負け星が並んだから直接対決二試合が一勝一敗でレックスが他の三試合全部に勝ったら直接対決の差でレックスの優勝が決定


242 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 ライガースが二つ勝ったら問答無用でライガース優勝

 問題はレックスがライガースに二つとも勝っても他で負けたら困る


243 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 今日の三島でどうにか勝ったら、多分レックス

 逆に三島が負けたらレックスはもう一つも負けられない


244 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 ややこしいな

 もう大サトーを讃えようぜ

 讃えよ 讃えよ サトーを讃えよ


245 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 進撃の巨人ネタやめろw

 何年前の話になるんや


246 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 懐かしいなあ

 応援曲で紅蓮の弓矢が甲子園で流れてたなあ


247 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 今でも流れてるぞ

 つかむしろあれ流してたの大阪光陰だろw

 白富東はアニソンでもロボットアニメが多かったはず


248 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 話題がずれるのはやっと落ち着いてきたからでもある、か。




 翌日、直史は早朝から千葉のマンションに戻ってきていた。

 平日ではあるが、明史は学校を休んでいる。

 真琴はしっかりと通学している。直史としては娘にも会いたかったのだが、あと少しだけの辛抱だ。

 己の役割は、まだ一応は終わっていない。

 帰宅した父に対して、明史は一対一、向かい合って座る。


 なんだか、こうやって改まって話すのは、随分と久しぶりのような気がする。

「明史、ここからは、お前の戦いだ」

 病気に蝕まれた人間は、しばしばその年齢よりも、ずっと大人びてしまうことがあるという。

 明史にもまた、どこか悟ったような感じと、諦念を感じる。

 だが今はそこに、覚悟も感じている。

「すまないが、ここからお父さんは、何もお前にしてやれない」

 分かっているのだ。直史がパーフェクトをしようが、本当に戦うのは明史と、その手術をする医師団であるということは。


 無言のまま、明史は頷く。

 それに対して直史は、セイバーとの打ち合わせについて話す。

「これからアメリカに行って、各種検査もした上で、準備には一ヶ月ほどがかかるとセイバーさんは言ってる」

「お父さんは?」

「お父さんはまだ投げないといけないからな。まあ手術の当日には、アメリカに行くさ」

「けれど、まだ日本シリーズの最中じゃないの?」

「そこまで勝ちあがれたら、だけどな」

 実際、日本シリーズ進出がまだ難しいというのは、直史には分かっているのだ。


 最善の道は、シーズン開始直後にでも、パーフェクトを達成してしまうことであったろう。

 だが直史は衰えとブランクから、それが難しいと分かった。

 それに何より恐ろしかったのは、耐久力の低下だ。

 若さのみが持っている、肉体の頑強さ。

 それはさすがにもう、ないと思っていたのだ。




 パーフェクト達成の翌日にも関わらず、直史の肉体には極端な疲労などは残っていなかった。

 投げた球数は少し多めではあったが、肩肘や足腰に背中など、問題は感じなかった。

 おそらく一番疲労したのが、脳であったろう。

 車の運転に支障が出るかと、タクシーを使ったのは正しかったと思う。

 もっとも思ったよりも思考は明晰であったが。


 何かを削りながら投げているという気であったのだ。

 ただ今のところ、後遺症らしきものは出ていない。

 限界を超えたピッチングをしたつもりであった。

 限界を超えたならば、なんらかのダメージが来ると思っていたのだ。

 だが直史は無事である。

 明日以降に、筋肉痛のように出てくるのかもしれないが。


 東京に戻った直史は、セイバーのオフィスを訪れた。

 彼女は今もまた何か事業はしているようではある。

 だが何をしているのかは、正直に言って分からない。

 農業法人の成立や、投資に関しては話を聞いてくれたものだが。

 忙しい彼女であったが、この日は時間を取ってくれた。


 直史は条件を満たした。

 セイバーも当然ながら、それを知っている。

 彼女は直史の登板する試合を、全て把握している。

 大介の方はさすがに、全てをリアルタイムでは見ていないようだが。




 40歳での完全試合達成は、NPBの記録を大きく塗り替えた。

 いつの間にかそんな年齢になってしまったんだな、と直史は哀愁を感じたりもする。

 ただ年齢の方はともかく、期待されていたのは確かだ。

 なにせ今シーズン、既に五回もノーヒットノーランは達成していたのだから。

「てっきりポストシーズンに入ってから達成すると思っていました」

 どうやらセイバーも、達成自体にはそれほど驚いていなかったらしい。

「日程をぎりぎりまで早めます。何か起こった時でも、アメリカならば対処はしやすいでしょうし」

 そのあたりアメリカと日本の医療格差である。

 この場合はそれに救われるのが、なんとも言いがたいのが直史である。

 本来なら彼は、日本の保健医療制度を肯定する側なのだ。


 結局直史に出来るのは、明史にも言ったとおり、パーフェクトを達成するところまで。

 実際に力になるのは、セイバーであり医師団だ。

 もっともそのセイバーとのつながりを作ったこと自体、直史の実績ではあるが。

 ただ直史は昔から、不思議ではあったのだ。

 どうしてセイバーは、ここまで自分たちに、特に自分に肩入れするのかを。


 セイバーとしては、本当に単なる趣味である。

 単に資産総額が上昇していくだけでは、生きている価値を感じられない人間。

「たとえば私が未来からのチャンネルを受信して、明史君を助けることが、世界人類を救うことにつながるとしたら……」

「それは因果関係が逆でしょう」

 セイバーの冗談にも、あっさりと返してしまうのが直史である。

 そもそもセイバーがいたことにより、明史が生まれたのだとさえ言える。

 人間の運命というのは、簡単に変えられるものではないが、遠いところからの影響が、大きく未来を変えることもある。


 セイバーとしては、別に冗談でもよかった。

 ただ彼女はイリヤが好きで、直史のことが好きで、自分自身が好きだと思うことに対しては、援助を惜しまなかっただけだ。

「ただの運命……いや、使命感とでも言うのかしら?」

 一番しっくりくるのは、その言葉であった。



×××



 次話「一夜明けて」

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