第18話 最初の一週間

 二つのカードが終わり、最初の一週間が過ぎた。

 レックスはここまで、三勝三敗と五割の勝率を維持している。

 次のカードはホームでスターズとの三連戦。

 あちらの先発は上杉である。


 レックスは開幕戦を落とした三島が、今季初勝利を目指して投げる。

 開幕戦、六回を二失点に抑えながら、味方の援護がわずかで、追いつくことが出来なかった。

 リリーフ陣が四点も取られたのが、結局は痛かったと言える。

(今の上杉さんなら、勝ててもおかしくないか)

 三年前には16勝4敗で通算15回目の沢村賞。

 もう名前を上杉賞に変えろ、などとはよく言われていたものである。

 それ以降も二桁勝利は続けているが、完全に全盛期は過ぎたと言えるし、この二年は本当に衰えている。

 勝ち星よりも投球イニング数が、落ちてきているのがその証明である。


 上杉もまた引退後は、セカンドキャリアが決定している人間だ。

 ただ父の地盤を受け継いでというルートは、先に引退した弟の正也に譲ってしまった。

 彼が地元である上越市の有力者の娘と結婚していたのも、その理由であるだろう。

 上杉はこの神奈川から、一気に国会に行くのでは、と思われている。

 20年以上もスターズでプレイした上杉は、数多くのタニマチを持っている。

 そこから票を集めれば、無所属でも当選は確実だろう。


 父親の後を継いで、市議会の議員になるというルートは、上杉には必要のないものだ。

 確かに上杉の影響力やカリスマ性は、地方の議会に納まるものではないだろう。

 今年あたりで引退し、政界入りするというのは自然なルートのように思える。

 そもそも通算勝ち星の新記録を作った一昨年で、引退していてもおかしくないだろうという流れであった。


 強すぎる鉄人も、さすがに衰えた。

 だが最後まで、チームを勝たせるために投げていくのか。

 直史も地域に密着した行動をしているが、上杉ほどに多くの期待を背負ってはいない。

 さすがにあんな人生は送りたくないなと思う直史であるが、実のところ地域の名士として、政権与党への支持はしている。




 直史と上杉は、性格もピッチャーとしてのスタイルも、全く違うものである。

 チームに対する責任感なども、かなり隔たりがある。

 直史は壁を作るのに対し、上杉は孤高でありながらも、そこに登る選手たちの手を引く。

 まさにチームを強くするエースであったが、この二人には共通しているところがはっきりとある。

 それは本質的には、保守的な人間であることだ。


 高校時代に既に数多の勧誘を受けながら、地元の高校へ進学して、後に新潟勢初の全国制覇への道を作った。

 彼は周囲の期待に応える人間であり、プロの世界でもエースという形をこれぞとばかりに示し、ちょっと己を通したところなどは、伴侶を自ら選んだところぐらいであるだろう。

 家父長的な権威主義者であり、まさに男という存在を示しているのが上杉だ。

 ただこれもまた、直史と共通しているところが多い。


 直史もまた、田舎の長男であった。

 周囲の期待に応えるタイプであることは確かであったが、選別なく全ての期待に応えるわけではなく、好みがはっきりしているあたり、清濁併せ呑む上杉とはタイプが違う。

 だが家父長的な価値観は持っていて、支持する政党は保守系であることも間違いない。

 あまりないことであるが、オールスターのベンチにおいて、日本の昨今の政策について樋口も一緒に語り合ったことなど、周りからは変な目で見られたものだ。




 直史はこの日ようやく、上杉についてある程度分析する。

 これまでしてこなかったのは、そんな余裕がなかったということと、もうそれほど特別に注意するほど、上杉が隔絶した存在ではないからである。

 先発として投げた試合も、この二年は20試合を切っている。

 伝説の一つの終わりなのだな、ともう一度伝説を作ろうとしている直史が、醒めた目で上杉のピッチングを見る。


 上杉は日本に復帰した年に、カムバック賞を獲得している。

 そこからまた沢村賞を五年連続で取ったあたり、本当にピッチャーとしての実績がおかしい。

 だがさすがにもう、沢村賞を争う相手ではない。

 そんな事実が、内心ではそこそこ感傷的になる直史には、悲しい事実である。


 直史としてもここから、沢村賞を狙っていくのは、本当に苦しいなと思っている。

 トップクラスのピッチャーはどんどんとMLBに挑戦していくが、ボールが合わなかったり、文化的な問題で帰ってくる選手も、それなりにいるのだ。

 たとえば小川などは、飛行機の移動が苦手という理由で、MLBに挑戦はしていない。

 他にも引退したが、真田などもボールとの相性が指摘されていた。

 単純に過密スケジュールなため、基礎体力が不充分であれば、それだけで通用しないのがMLBという世界である。

 ただそこで完全な覇権を打ち立てた直史としては、もうどうでもいいことである。


 20代前半の、若さ真っ盛りの選手たち。

 怖いもの知らずのピッチャーたちと、直史は競っていく必要がある。

 それが思ったよりもしんどいな、とはキャンプの時からずっと感じていたことであるのだ。




 時間の流れをより強く感じているのは大介であった。

 MLBで通算12年プレイし、ほとんどの記録を塗り替えまくった。

 最年少記録はおおよそ無理であったものの、デビュー後最速の記録は多くを更新した。

 NPB時代もそうであり、そのNPBからMLBに挑戦しに来る選手は、毎年のようにいた。


 だが技術が充分であっても、単純に体力が足りなくて、戦力とならなかった選手も大勢いる。

 野球などは毎日のようにプレイするスポーツであるが、アメリカの場合はとにかく連戦が多く移動が長すぎた。

 また言語が通じないことのプレッシャーも、そのパフォーマンスを低下させていたであろう。

 大介は気にしなかったが。


 大介も開幕から四試合、ホームランが出なかった。 

 これは自分でも不思議なことで、フリーバッティングなら普通にスタンド入りを連発していたのだ。

 NPBでのピッチングに、上手く適応できていないのか、と思ったこともある。

 ただ打率はしっかりと残せていたので、気にしすぎるのもよくないだろうと思ったりもしたのだが。


 直史が開幕戦で出てこずに、勝負が成立しなかったのが原因かな、と思えたのは第五戦になってからである。

 前日のタイタンズ戦で、直史は完投勝利を飾っていた。

 ただ悟にホームランを打たれていたので、そこになんだかもやもやしたものを感じたのは確かだ。

 そしてそのもやを吹き飛ばすように、バットを振った。

 するとボールは見事にスタンド入りし、第五戦は二本のホームランを放っていたのであった。




 六試合目でも一本のホームランを追加したため、六試合で三本。

 つまり二試合で一本のペースに、あっという間にしていった。

 だが大介は、さすがにもう選手として終わりかけている、などと書いていたマスコミは完全に無視し、直史の投げた試合を分析などしていた。

 何よりも重要なのはそこなのだ。


 直史がスタイルを変えたことは、もちろん大介は知っている。

 オープン戦を完封したのも、ちゃんと映像で確認した。

 だがしょせんはオープン戦であるので、大介の必要な情報量が、その映像に入っていたわけもない。

 そもそもストレート主体のピッチングというのは、あの東京ドームでの引退試合に、既に使っていた。

 それをさらに洗練させたもの、と言っていいのだろうか。


 直史が本拠地の開幕戦での先発に回されたので、おそらく大介との対決は、五月まではない。

 その間にさらに、調子を取り戻しているかもしれない。

 キャンプに入るまでの直史なら、大介が打てないピッチャーではない。

 だが直史は過去にもずっと、大介の想定を超えたピッチングをしてきたのだ。

 

 勝てないと思われる対決であっても、どうにか抑えてしまう。

 それが大介の知る直史である。

 あのピッチングの非常識さは、長く身近で見てきてもなお、理解が完全に及ぶものではない。

 だがそれでも、今の直史相手ならば、勝つのは自分だ。

 実戦の中で、どれだけ戻してこれるのか。

 悟と正面から対決したのは、それを確認するためであったと思うのだ。


 大介さえも、勘違いしている。

 直史はこのシーズン、完全に目的の優先度を定めて、ピッチングをしている。

 その優先度において、大介との勝負は低く、さらに目の前の勝利さえも、さほど重要視はしていない。

 NPB時代とMLB時代、また高校や大学に国際大会と、直史は多くの大会で優勝をしている。

 活動期間が短いため総数ではかなわないが、日本一や全米一を、そして世界一を何度も達成している。

 そんなピッチャーが、己のためではなくチームのためでもなく、一つの目的のためだけに投げればどうなるのか。

 この時点での大介は、まだそこが分かっていなかったと言えるだろう。




 最初の2カードが終わった時点では、まだこのシーズンがどうなるかなど、誰も断言は出来ないであろう。

 ただライガースはトップに立ち、続いて4チームが勝率五割で並び、最下位がフェニックスという並びにはなった。

 たったの六試合では、シーズンを占うことなど出来ない。

 オープン戦の成績を加味すれば、ライガースとタイタンズの二強というのが、今シーズンの展望であったのだ。


 上杉にはさすがにかつてほどの支配力はなく、直史もそこまでの期待はされていなかった。

 正確にはレックス全体が、戦力は低いと思われていたのだ。

 また差し当たっては関係ないが、パ・リーグでは福岡がスタートダッシュに成功。

 しかしこちらも、圧倒的な蹂躙を見せるほど、チーム状態が完成しているわけではない。


 直史と大介が戻ってきたこの年は、多くのチームが衰退期か、戦力の再編期に入っていたのだ。

 圧倒的なチームの力を見ることはなかったが、新しい戦力がその息吹を上げつつある。

 この本命が不在であるというのも、これはこれで面白いものだ。

 チーム状態がどうであっても、大介が一人活躍すれば、近畿圏は好景気になる。

 それだけは以前から、変わらない事実であるのは確かである。

 このペースでホームランを打っていくなら、またもシーズン70本に到達するかもしれない。

 無茶な期待をされても、プレッシャーのかからないのが大介であった。




 スターズにおける上杉の影響力というのは、この20年間のNPBにおいて、最も大きなものであったと言えるだろう。

 直史は二年しかNPBにいなかったし、他人を引き上げるような、そういうタイプの人間ではなかった。

 九年間いた大介も、自分が楽しむことが第一で、チーム全体のことを考えるのは首脳陣の役目であると割り切っていた。

 しかし上杉は、故障離脱の二年間を除くと、ほぼ全てのシーズンをスターズをAクラスに引き上げた。

 単なるプレイヤーではなく、キャプテンあるいはリーダーとして。

 その存在感はこの20年間のNPBの中では、もっとも巨大なものであったろう。


 その影響力は、いまだに健在ではある。

 だが上杉自身の力が失われてきては、チームもそれに引きずられる。

 チームのために投げる上杉は、おそらくそれに気づいているだろう。

 自分の存在が枷になっていると分かれば、潔く引退する。

 それが上杉の美学と言うか、信念とでも言うべきものであろう。

 いや、それならば逆に、自分が壊れるまで、ずっと投げ続けるだろうか。


 上杉のピッチングスタイルは、直史と全く違う。

 だが今、その精神性が同じ方向を向いている。

 自分のためではなく、誰かのために。

 背負っているものは、期待ではあるだろう。そこまでは直史も経験がある。

 しかし今度は、ただ一人のために、直史は投げるのだ。


 チームの状態などは考えない。

 とにかく自分が勝てば、それでいいのだ。

 最低限の援護で、あとは自分が0に封じる。

 それだけを積み重ねていけば、目的地にたどり着く。




 今のNPBには防御率が1を切る先発ピッチャーは存在しない。

 おおよそ2を切っていれば相当にすごいと言えるのだが、直史はかつて0.1を切っていた。

 それでも味方が一点も取れず、相手に一点を許してしまえば、それで試合には負ける。

 タイミングの悪さによって、試合に負けることはあるのだ。

 

 沢村賞はサイ・ヤング賞と違って、両リーグを通じて最も相応しいピッチャーに送られる。

 そしてこれまたサイ・ヤング賞と違って、先発ピッチャーのみが対象となる。

 これまた違う点は、ピッチングの内容ではなく、ピッチングの成績によって決定する。

 試合結果だけで評価されるなら、デグロムさんは泣いてしまうだろう。

 もちろん試合でも結果を残し、ピッチング内容も素晴らしい、かつての直史であれば文句はなかったろうか。


 完投から中二日の直史は、この日もベンチ入りメンバーに入っていない。

 だがクラブハウスで、試合の様子はチェックしていた。

 自分の肉体のコントロールはある程度出来ても、回復力のコントロールなどは出来ない。

 そのあたりは食事とサプリメント、あとは休養などが重要となる。

 前回の轍を踏まえて、酸素カプセルにも入ったりした。

 翌日はまだ少し体が重かったが、二日目にはほぼ完全に戻っていた。

 

 タイタンズとの第二戦、青砥が七回三失点で勝ち投手になったのも、普通に祝うべきことであった。

 そして第三戦では、リリーフ陣を継投的に使うというのが、上手く機能しなかった。

 かつてのレックスの、傑出した投手陣はもういない。

 残っている中継ぎだった青砥が、今では先発の一角を占めている。

 だがそもそもプロのシーズンは、五割をちょっと上回るほどの勝率で、クライマックスシリーズ進出は果たせるのだ。

 それすらも直史の目的ではないが。




 開幕戦を落としたエースの三島は、試合に向けてミーティングに入っていた。

 なぜか首脳陣とバッテリーがいる中に、直史も混じっていたりする。

 求められているのは効果的なアドバイス。

 いや、俺は一介のピッチャーであって、コーチではないのだが、と内心では思っていても、沈黙して参加する直史。

 他のコーチ陣が今のスターズ打線をどう評価しているかなど、気になることではあるのだ。


 半年間にもなるレギュラーシーズンの中で、必ずローテーションは崩れることがある。

 MLBとNPBの大きな違いの一つは、そこにもあった。

 MLBはとにかくスケジュールがタイトであるので、よほどの悪天候でもない限りは試合が成立する。

 予備日をいうのがあまりないのだ。

 しかしNPBは雨の多い日本列島で行われる。

 ドーム球場があると言っても、野天の球場では中止になることが多い。


 当初のスケジュールだと、九月の半ばには全てのカードが終了する。

 だが早くもこの三連戦の三日目は、天気の崩れで延期になる可能性がありそうなのだ。

 その場合にローテーションは、飛ばされるのかそれともずれるのか、それも首脳陣の判断次第だ。

 だがどうやら今のレックス首脳陣は、三島にオーガス、そして直史の三人では、勝ち星を計算しているらしい。


 三連戦の三日目が休みになれば、当然ながらリリーフ陣も休める。

 フェニックス相手ならば、ピッチャーはそれほど強い必要はない。

 完投数を稼ぎたいが、無理ならせめて勝ち星を稼ぎたい。

 上手く球数を減らすピッチングを、今のフェニックス打線相手なら出来ると思うのだ。

 最下位が定位置のフェニックス。

 今年もオープン戦からこっち、多くの指標で最下位になっているチームは、対戦自体がボーナスステージのようなものである、などと認識されていた。




 スターズとレックスの第一戦は、お互いのチームのエース対決となる。

 だがスターズはいったい、何年上杉を絶対的エースとして頼りにしているのか。

 この二年は、先発した試合数も20試合を切っている。

 細かい故障などは、もうかなり多くなっているのだ。

 自慢のストレートも、160km/hを記録することが少なくなっている。

 150km/h台の後半が出るという時点で、年齢からすればたいしたものではあるのだが。


 やはりあの、肩の怪我が痛かった。

 あれさえなければ、ずっと長く投げられたであろうに。

 そんな声は今でも少なくないし、上杉の最盛期を見たかった、という若いファンは少なくない。

 間違いなく今の、プロの第一線に立つ選手たちは、幼い頃に上杉をピッチングを目にしているのだから。

 直史はあまり参考にはならない。NPBでの活躍期間が短かったので。


 だがプロ入りしてから今まで、チーム状態がいくら悪くなっても、負け越したシーズンが一つもないというのは、誰でも分かる脅威ではあるだろう。

 上杉が投げれば負けないというチームではなく、上杉が投げるなら勝たなくてはいけない。

 スターズはそういうチームに変化していっている。

 かつてはスターズを引っ張っていたのが上杉であったが、今は引っ張るのと同じぐらい、後ろから押してくる力が強い。

 だから勝ち星がついて、貯金が出来るのだ。


 そんな上杉は、今年が最後のシーズンになるだろうな、と予感していた。

 故障離脱した一年とMLBでプレイした期間を除けば、プロ入り後全てのシーズン、21年間で全て二桁勝利を続けてきた上杉。

 だが今年は、大介が戻ってきて、直史が復帰した。

 上杉の目から見ても、二人は円熟味を増してはいるかもしれないが、単純なパワーだけであれば、もう全盛期を終えている。

 新しい力に敗北し、世代交代を促す。

 そんな役目はあの二人にも回ってくるのかもしれない。




 レックスと対戦するなら、直史と投げあいたいか、というのも微妙な考えである。

 オープン戦とシーズン復帰後の初戦を見れば、直史は衰えたなりに、違うピッチングを模索している。

 ブランクがあるため、まだ本調子ではないというのは、フィジカルではなくインスピレーションの部分だと感じる。

 上杉はセ・リーグのピッチャーであったため、直史とバッターとして対戦した経験もそれなりにある。

 およそバッターとしては、まるで打てそうになかった。


 今だから言うが、自分はあれを取り入れるべきではなかったのか。

 上杉はいまだに本格派のピッチャーと思われているが、ストレートやムービングの速球で、ゾーンの隅を狙うのが今のスタイルになっている。

 コントロールの良さが売りであって、150km/h台後半でコントロールよく投げ込めるのが、現在のストロングポイントだ。

 しかし肉体的な限界は、小さな不調を何度も訴えてくる。


 上杉が取り入れるべきであったと思うのは、直史のストイックさでもあった。

 上杉は昔から、タニマチとの付き合いも大切にして、それがスターズの人気で地元を潤すこととなった。

 ただ直史は、特にMLBでの様子を知る限りでは、完全に野球のことだけに全てを優先させている。

 NPB時代からまるで酒を飲まないことや、食生活での節制、それに運動前のストレッチなどの入念さは有名であったのだ。


 プロとしての姿なら、上杉のような人付き合いも、一つの姿ではあったのかもしれない。

 周囲の期待に応えるということを、上杉は喜びと感じていた。

 だが直史は完全に、自分のパフォーマンスを最大化させることだけを、考えているような振る舞いをしていた。

 実際にそうでもしなければ、MLBでは潰れていたであろう。これは上杉も短期間だがMLBでプレイしていたので分かっている。


 20年以上もプレイしてきた上杉に対して、直史は七年しかプロとしてはプレイしていない。

 もちろん長くプレイすることは、プロの選手としては重用なことである。

 だが短い選手生活であったがゆえに、逆に輝くということもあるのだ。

 入団時からオールドルーキーなどと呼ばれていた直史。

 しかしそのうち立てた記録は、上杉をも上回るものであり、ピッチング内容がその名前を冠して呼ばれることさえある。

 それを羨ましいと感じるには、上杉も充分に恵まれた人生を送ってきたものなのであるが。


 この日の試合は、両方の先発が上手く調整し、失点を許さないまま終盤を迎えた。

 そこでレックスの方は、球数が多くなっていたので三島を降板させる。

 またスターズの方も、同じく球数が増えていた、上杉を降板させることとなった。

 かつての上杉であれば、完投にこだわったであろう。

 だがもう、抜いて投げたストレートでも、簡単に三振を取れるような、そんな力は失われているのだ。

 自分一人で勝とうと思ってはいけない。

 チームで勝つのが野球なのだ。


 この日、先発のピッチャーにはどちらも、勝ち負けが付くことはなかった。

 だがスターズは、優秀なはずのレックスリリーフ陣から、見事に先制することに成功する。

 そのまま試合はスターズ有利に展開し、レックスはエース三島に勝ち星がつかず。

 苦しいとまでは言わないが、好調とも言えない序盤戦が続いていくのであった。

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