第13話 9イニング

 三月になりキャンプも沖縄から、本拠地に戻ってくる。

 直史はコンスタントに投げており、防御率は1前後。

 もちろん先発ピッチャーはおろかリリーフ陣を含めても、チーム内ではトップの数字である。

 また奪三振率が、球速の割にはずいぶんと高い。

 まさに球速だけが、三振をとる要素とは限らない、という例の典型とも言える。


 かつての直史の三振の取り方というと、チェンジアップでの空振りが多かった。

 もちろんストレートでの空振り三振もあったが、割合としては緩急を使ったものが、全体的には多くを占めていたのだ。

 スローカーブでバッターの体勢を崩させて、そのまま弱いスイングをさせる、というパターンもあった。

 だが今はストレートでの空振りが多い。


 以前の直史を知っている者からすると、かなり違和感がある。

 なにしろ球数が多くなっていて、フォアボールで歩かせることもあるからだ。

 それでも先発の平均と比べると、はるかに少ない球数ではある。

 しかし以前の、当たり前のように100球以内で試合を終わらせていた力を知っていれば、物足りなく感じるのも仕方がない。

 あちらが異常すぎる、という事実は理解していてもだ。


 その直史が、次の試合は完投を目標としてみる、と首脳陣に言ってきた。

 正確には、完投を目標として、ペースもそのつもりで投げるが、それでいいかと尋ねてきたのだ。

 選手の采配を握るのは、もちろん首脳陣であり監督である。

 選手起用は監督の領分であり、いくらスター選手であっても、それに異を唱えることがあってはいけない。

 大学時代の直史などは、完全に監督を上回る力を持っていたようにも思えるが。


 まあ、構わないか、というのが貞本の返答であった。

 ノンプロのチームを相手に完封しているというのは、スカウトから聞いている。

 そしてNPBでもMLBでも、基本は完投してしまうピッチャーであるということも。

 まだ開幕までは半月ほどあるこの時期に、その限界を見極めておきたいというベテランの気持ちは分かる。

 ……実際の直史は、プロ生活は七年しかないので、ベテランではないのだが。


 もちろんベンチの判断で、駄目だと思ったら代える。

 それは当たり前だな、と直史も納得した。

 対戦する相手は、今年の補強により優勝をライガースと争うのではと言われているタイタンズ。

 直史にとってさえ、かなり厄介なバッターがいるチームである。




 現在のセ・リーグはスターズが黄金期を終えて、タイタンズが一歩リードするような戦力となりかけていた。

 それに待ったをかけたのが、大介の帰還である。

 ライガースは世界最強のバッターを手に入れた。

 実際にオープン戦の成績でも、大介は打率で四割、OPSでも1.2を超える数字を残している。

 微妙な直史と違って、誰もが認める成績を残している大介。

 ただそれでも、内角を打つのに少し躊躇がある。

 ゾーンの違いが、戸惑いを生んでいるのだ。

 しかしそれが隙になるか、と言われるとならないだろうな、と思う直史である。


 大介は外の球を打つのが上手い。

 正確に言うと内角の球は、当たるようなコースでもない限り、しっかりバットが届くのだ。

 MLBでも相当に上手く、広角に打つことが出来ていた。

 三冠王が戻ってきて、成績を残せないはずがない。

 特に速球派投手にとっては、悪夢のような展開が待っているだろう。


 そんな大介を、ほぼ一回りスケールダウンさせた、それでも充分に歴史に残る成績を残しているのが、タイタンズの悟である。

 三つ年下の悟とは、高校でも同じチームになることはなかった。

 だがわずかな接触はあり、その時からずっと、大介に似ているなと思ってはいたのだ。

 MLBの大味なスラッガーよりも、よほど注意すべき相手。

 大介ほどではないが、トリプルスリーを何度も達成しているというのは、尋常なセンスとフィジカルではない。




 舞台はレックスの本拠地、神宮球場。

 三月半ばはまだまだ寒く、直史としては肩をしっかり作っていかなければいけない。

 正直なところこの試合は、完全に実験となる。

 果たしてプロの一軍相手に、フルイニング投げぬく体力が戻っているのか。

 ただでさえアップのために、スタミナはある程度使っている。

 また悟のコンタクト率は、いまだにNPBのバッターの中ではトップなのだ。


 MLBに行ってくれていたらな、と直史は思う。そうすればもっと楽に対戦出来たであろう。

 大介のようなタイプで、ポジションはショート。

 現在はさすがに走力は落ちているようだが、自分たちよりも三つも若いのだ。

 それなのにMLBに挑戦しなかったのは、人生のタイミングが悪かったからだ、とは言われている。

 もっとも大介が戻ってくるまでは、上杉に次ぐ年俸を稼いでいたほどのバッターではあるのだ。


 これが試金石となるであろう。

 大介を相手にするにしろ、他の誰かを相手にするにしろ、果たしてパーフェクトが狙えるほど、今の自分に力は戻っているのか。

 一度達成したら、パーフェクトはもう必要ない。

 なんならそこからは、大介との勝負のために、壊れるぐらいの勢いで投げていってもいいのである。




 タイタンズにおいて悟は、今は四番を打っている。

 この数年は盗塁が減ってきているので、走力が落ちていると見る向きもある。

 実際は走塁時における足腰への負担が、若い頃よりもリスクとなっているので、盗塁を控えめにしてはいるのだ。

 三割30本をほぼ毎年のように達成している。

 そして必要なときは、しっかりと外野へ犠牲フライを打つほど、状況に応じたバッティングも出来る。


 ただランナーが三塁にいる時などは、別に外野フライにしなくても、普通に野手のいないところに落とせる。

 そのあたりが大介とは違うところであろうか。

 大介であればそういう場合は、ツーランホームランを狙っていく。

 自分に期待されているのは、そういうことだと分かっているのだ。

 そもそも塁が空いていたら、申告敬遠されるのがオチであったりもする。


 直史としては悟が四番というのは、むしろありがたいことである。

 ライガースが戻ってきた大介を、二番から四番までに置いて、打順を試行錯誤しているのとは全く逆だ。

 30本のホームランに加えて、打点も100を超えてくることがある悟。

 惜しくも三冠王に届かなかった、というシーズンは何度もある。


 やってきたタイタンズの面子に対して、直史は特に思うことはない。

 この試合に投げることによって、次にあるライガースとのオープン戦では、自分が投げる可能性は減る。

 今のうちに大介と戦う実感を持っておくべきか、それとも手の内を完全に隠しておくべきか、それは迷うところである。

(とりあえず今日は、110球以内の完投が出来たらそれでいいか)

 失点するのも織り込み済みで、オープン戦は開始された。




 悟にとって直史は、ある意味恩人とも言える。

 高いレベルのピッチングを、最初に体験させてくれたのが直史だ。

 今更ながら復帰というのは驚いたものである。

 だがこれでようやく、直史と多くの対戦が出来る、とも思っている。


 直史がまだNPBにいた頃、悟はパ・リーグに所属していた。

 その一年目は交流戦で蓮池と投げあい、壮絶な試合となったものである。

 延長11回までを投げて、完封勝利された。

 そして日本シリーズでも対決し、ほぼ完全に敗北している。

 なにしろ直史が一人で四勝したため、日本一が決定したのだから。


 二年目は交流戦での対決はなく、そして日本シリーズに進出することも出来なかった。

 直史は三年目からはMLBに行ったので、それを追いかけるという選択肢もあったはずなのだ。

 ただ本当に、人間関係のタイミングが悪かった。

 FA権を使って東京の球団に移籍し、プライベートは充実した。

 しかし野球選手としては、もっと直史との対決する機会を、大切にすべきであったと思う。

 あんなに早くMLBに行くとは思っていなかったが、それでもタイミングが悪かった。


 今、ようやく対決の時。

 しかし自分も直史も、全盛期からは衰えている。

(スタイルが変わってるな)

 かつての直史は、ストレートの割合は20%ほどであったと思う。

 だが今は40%ほどと、40歳を前にして、本格派に転身しているようにさえ思える。

 なんという奇妙で歪んだピッチャーなのだろうか。

 本当の意味での怪物というのは、こういうものを言うのだろう。

 一回の表は三者凡退。

 悟の前でタイタンズの攻撃は終わった。




 試合の前に、ミーティングは行っていた。

 そこで迫水が直史から言われたのは、常軌を逸した内容である。

 この人はそれで通用するのか、と同じチームになった改めて思う。

 直史は一巡目、ストレートとカーブだけで、タイタンズ打線を抑えると言ったのだ。


 相手を舐めすぎている、とは迫水は思わない。

 オープン戦において直史は、試合ごとに何か違うテーマを持って投げていたのが分かる。

 それを説明してくれる時もあれば、してくれない時もある。

 だが今の直史は、ほぼキャッチャーに迫水を指名してくれている。

 そして色々と指導はしてくれるのだが、どうにもこれまでの野球の常識とは、観点の違う知識が多いのだ。


 直史の高校時代から大学時代ぐらいまでは、さすがに迫水も幼すぎた。

 だが当時の出来事というのが、今はネットで普通に調べられる時代である。

 その基盤にあるのは、高校時代の白富東。

 セイバー・メトリクスの活用と、最新技術の活用による選手たちの能力の基礎的な向上。

 そして統計と確率を元としながらも、戦術はまさに高校野球とでも言うべき奇襲と基本を重視していた。


 一般的にピッチャーとバッターは、対戦回数が増えるほど、バッターに有利になっていくと言われる。

 ピッチャーの投げるボールについて、データが実感として蓄積されていくからだ。

 だが直史の場合はほとんど、一度打たれた相手には二度と打たれない、というのが実績となっている。

 しかし今の直史は、球種が少ないためコンビネーションが限られている。

 一試合を投げきるためには、球種をある程度隠しておいて、試合が進むにつれてそれを解放していく。

 発想が違う。

 ナチュラルにバッターを支配できるという、傲慢とも言える自信を感じる。

(でも本人には自覚はないんだろうな)

 完敗した経験のある迫水はそう思った。

 


 レックスとタイタンズの対決。

 オープン戦においてどういう結果になるかは、さほど重要なことではない。

 同じ東京にあるチームであり、それなりに試合の外の情報収集もしやすい。

 また親会社の資金力が違うことでも有名だ。

 もっともレックスの場合は、少ない資金力でもしっかりと若手を育成している。


 毎年のように強いチームを作るというのは、プロ野球においては難しい。

 ただ資金力があれば、話は別である。

 単純にFAや外国人でいい選手を取ってくることが出来る。

 またドラフトについても育成契約で、ごっそり青田買いしてくることが出来る。

 札束でぶっ叩くという方法は、この資本主義社会の中では、効果的なのはもちろんであるのだ。


 だがタイタンズも当初は迷走していたものだ。

 いや、ドラフトで指名するタイタンズもであるが、指名される選手の方も理解しきれていなかった。

 一軍の選手を見ていれば分かるように、選手よりもそれを支える人間の方がはるかに多い。

 ならばまだこれから育成していかなければいけない育成契約も、同じ程度には人間が必要であるということを。

 むしろ素質だけで取っている場合があるので、こちらにこそコーチが必要だったのだ。

 それなのに数を取って、上がれる者だけ上がって来いというのでは、それはもう現在の市場を甘く見すぎである。


 野球というスポーツは、今の日本ではもう、絶対的な人気ではない。

 サッカーに人気を取られたというのもあるが、古い体質がいまだに残っているスポーツは、現代的な子供たちには選ばれにくい。

 なので才能というのは、本当にしっかり伸ばしてやるべきなのだ。

 それなのに育成契約まで目が届かないというのは、才能を殺す罪である。




 日本人はある意味、小賢しくなっている。

 よく言われるように保守的、あるいは積極性に欠けると言うべきか。

 野球でもそうだが他の分野でも、トップの一部しか食べていけないものはリスクが高いとして、無難なところを選ぼうという傾向がある。

 これは当たり前のことで、戦後の焼け跡から立ち上がった人間などには、もう失敗を恐れるなどという余裕さえなかったのだ。

 条件が最初から違うのに、ハングリーさが足りないなどというのは間違っている。

 スポーツにしろ芸術にしろ、確かに将来は見えにくい。

 だがそういったものに挑戦したという経験が、実は重要なものであるのだが。


 直史のやっていることは、紛れもない挑戦である。

 しかも負けられない戦いだ。

 ただし、と言うべきかだからこそ、と言うべきか、このオープン戦で勝負勘を取り戻さないといけない。

 二回の表、タイタンズの攻撃。

 先頭打者の悟に対して、直史はアウトローストレートから入る。

 ゾーンぎりぎりのボールを悟は見逃し、ワンストライク。

 余裕をもって逆に、直史を観察しにきている。


 ゾーンぎりぎりに入れるコマンド能力。

 引退前と変わらない、ボール半分のコントロールだ。

 二球目は高めにストレートを外してきた。

 これはちょっと打っても、長打にはならない。

 タイタンズもスコアラーなどが、他のチームのデータ収集はしている。

 そしてそれを分析し、選手にも伝えてあるのだ。


 だが直史の分析は、かなり難しい。

 気づいていないと分からないものであるからだ。

(ストレート二つの後は、変化球で緩急をつけるのが常道)

 しかしそんな当たり前のコンビネーションを、この人がしてくるだろうか。

 悟は直史を、今でも脅威だと思っている。

 



 カーブを投げる。

 まずこうだろうな、と悟も分かってはいた。

 だがそのカーブのスピードが、想像していたよりもずっと遅かった。

 たっぷりと懐に呼び込んで、そこからバットを合わせる。

 飛んでいったボールは、ライト方向に切れていく。

 

 大きな当たりでも、ファールはファール。

 しかしあれだけバランスを崩させておいて、それでも大きな当たりを打たれる。

 昔ならあのカーブで内野フライを打たせることが出来たかもしれない。

 だが直史は微調整が出来ていない。

(もっと遅くしないといけなかった)

 緩急差がありすぎて、スイングさえ出来ないようなスローカーブ。

 それが直史の理想である。


 ともあれこれで、ツーストライクへと追い込んだ。

 直史はストレートで三振を奪うつもりである。

 悟も直史がストレートを投げてくるだろうな、というのは感じている。

 オープン戦でのピッチングの内容を考えれば、決め球はストレート。

 チェンジアップを投げてくるなら、次から対処を考えればいいだけの話だ。

 ストレートが通用することを、直史は確認したい。

 それを悟の方も分かっているのだ。


 投げられたボールは、やはりストレート。

 悟も全力でスイングにいくが、途中で気づく。

(当たらない!)

 高めに外したあのストレートを基準にしたら、これは当たらない。

 左手を押し込んで、無理やりスイングを変えていく。


 当たった。

 ボールは高く上がり、センター方向へと飛んでいく。

 少し前で守っていたセンターが後退し追いかけ、しかし追いつけない。

 フェンス直撃の打球が、強く跳ね返る。

 それをキャッチしてからセカンドで投げるが、俊足の悟は無事に二塁へ到達。

 一打席目の勝負は、悟の勝ちであったと言えよう。




 ランナーを出しても、点さえ取られなければいい。

 それが直史のピッチングの基本にして極意である。

 当たり前のことを言っているのだが、当たり前のように出来る者はいない。

 直史も苦労して、この当たり前のことをやっている。


 二回の悟はランナー残塁で、五番打者を内野フライに打ち取る。

 そしてそこからは、毎回奪三振のショータイムが始まった。

 だが以前の直史を知っている記者からすれば、それは地味な復活に見えたであろう。

 今日はどこまで投げるのかな、というのが注目点であった。


 先制したのはレックスであり、追加点も取れた。

 二点が先に入れば、直史としてもかなり楽になる。

 気がつけば三回が終わって、タイタンズはまだ悟のツーベース一本。

 ヒットなのでノーヒットノーランもないが、他にはフォアボールのランナーも出していない。

 そして球数はほどほどである。


 二打席目の悟はセンターフライに抑えて、五回までが終了する。

 たかがオープン戦ではあるが、ざわめきが大きくなり始めたのはこのあたりからであろうか。

 打たれたヒットはたったの一本。

 それ以降は一人のランナーも出していない。

 投げている直史本人も、それを意識していた。

 二巡目以降はチェンジアップを解禁。

 悟をセンターフライに打ち取ったのも、このチェンジアップである。




 直史のやっていることは、コンビネーションを試合の進行に合わせて増やしていくことだ。

 ストレートとカーブの二球種に、次にチェンジアップ。

 それからスライダーを加えていった。

 ストレートのMAXはわずかに144km/h。

 だがそれで、空振り三振をいくつも奪っている。


 異常に伸びのあるストレートだ、と悟は感じていた。

 チェンジアップを活かすための、質のいいストレート。

 バックスピンの回転数など、調べてみたら面白いことになりそうだ。

 だが今はまず、レギュラーシーズンに備えて、少しでも情報を得ていかなければいけない。

 それなのに直史の、球数が増えていかない。

 一人の打者に対して、平均で投げている球数は四球以下。

 このペースだと100球以内完投が見えてくる。


 打たせて取る、というスタイルではない。

 だが三振を奪うために、無理をしているという感じでもない。

 効率のいいピッチングを、ただ続けているかのよう。

 カーブなどは上手く打たせて、凡退を誘っている。

(ムービング系がないのか?)

 打たせて取るためには、手元で小さく変化する球が必要になる。

 ただこれは変化量ごと、パワーで掬い上げることが出来ると思うのだ。


 タイタンズが二人目のランナーを出したのは、八回にレックスの守備のエラーによる。

 直史はそこから、三振を連続して取っていった。

 ストレートを決め球にして、空振りが取れている。

 打てなくもなさそうな球なのに、空振りをしている。

 ボールの下を振ってばかりなので、完全に伸びに対応できていないのだ。


 悟の三打席目は、内角の懐に入ってくるスライダーを、空振りしたものであった。

 ここまでずっと、ゾーン内の球は外であったので、内角の球を意識から外してしまっていたのだ。

 こういった駆け引きに関しては、実は悟の方が、経験値は多いはずなのである。

 直史にはなんといっても、プロ入りが遅かったことと、ブランクがあったので。




 直史のピッチングを見ていると、その頭脳的な配球が目立つ。

 しかしそれは、過去のスタイルである。

 この試合にしても、またオープン戦のピッチングにしても、むしろオーソドックスな配球の方が目立つ。

 史上最高の技巧派であり、史上最高の頭脳派。

 だが今のスタイルは、本格派に近い。


 取れる時には三振を、しっかりと奪っていくというスタイル。

 確かに引退以前も、ツーストライクまで追い込めば、そこからは三振の数が増えていた。

 ただ以前は、変化球が圧倒的に多かった。

 今はストレートを主体としている。

(四打席目は、来ないかな)

 レックスは三点目を奪い、そして試合は九回。

 ここまで直史が許したランナーは、ヒットとエラーでわずか二人のみである。


 マウンド上の神が復活した。

 ただしその姿を変えて。

 どうしてこのスタイルで、ここまで三振が奪えるかというのは、遅いストレートで三振を奪える、過去のピッチャーを参考にしたら分かるだろう。

 サウスポーに限らず右でも、しっかりと140km/h台前半で、空振りをたくさん取っているピッチャーはいるのだ。

 その分析をするのは、球団のスコアラーからデータを手に入れた分析班になるのだろうが。


 九番から始まる攻撃には、タイタンズは代打を出していった。

 しかしそこで、直史は今日12個目の三振を奪う。

 これであと二人、ということになった。

 だがここで球数は100球に達する。

 交代するか、とわずかに空気が変わった。

 もちろんここは続投する。

 レックスの首脳陣としては、直史の投げているカーブが、かなり力を抜いたものであるというのが分かっている。


 ボール球になるストレートは、最初から力を抜いている。

 今更だが悟は、あのボール球のストレートを狙うべきだな、と攻略を考えたりしていた。

 だが試合にはもう遅い。

 シーズンが始まる前だと考えると、このタイミングで知ったのはよかったのかもしれないが。


 九回107球被安打一、失策一、無四球。

 オープン戦ながら、今季初完封での勝利。

 ガッツポーズはしない直史であったが、最後に軽く迫水とはハイタッチを決めた。

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