第12話 フラットなストレート

 直史は以前から、フラットと区別して、平行に投げるストレートを使っていた。

 今はこれをさらに進化させているというか、より原理を明確にしているのである。

 MLB時代のデータについては、自分のものだけではなく、他の多くのピッチャーのものも分析の対象としてきた。

 そこで判明するのが、ボールのコースの高さの重要性などだ。

 統計で野球をするMLBは、年間を通算して成績を出すなら、確かに優れている。

 ただ問題なのは、それがどうしても勝たなければいけない一戦でまで、通用するかどうかということだ。


 現在のレックスには、少なくとも一軍帯同の選手には、直史の駆け引きを助けてくれるリードの出来るキャッチャーがいない。

 そのため全てを直史が考える必要があるが、あまり脳を使いすぎると、それもまた疲労がたまる。

 あまり考えずに、問答無用で空振りが奪えるボールがほしい。

 正確には空振りが奪えるコンビネーションであったが。


 単純なフラットストレートでは、かなりフォームに差があった。

 もちろん見分けられないようにはしていたが、大介などであれば気づいていた。

 今はそれを考慮してでも、まだ抑えられるボールがほしい。

 確実に、内野フライまでに抑えられるボールだ。


 内野ゴロは内野安打につながる。

 三振か内野フライが取れる、高めのストレート。

 ただこのデータはMLBのもので、NPBでは実際は高めはそれなりに打たれているというデータがある。

 なので何事も、一方的に信じてしまうのはいけないのだ。




 チーム内の紅白戦において直史は、18イニングを投げた。

 打たれたヒットは七本で、与四球は二個。

 引退前の数字と比べると、フォアボールが増えている。

 ただ18イニングも投げて、自責点は二点だけである。

 直史もさすがに苛立ったのは、エラーがらみの自責点ではない失点が二点もあったことであるが。


 センターラインの守備力が、かなり低くなってしまっている。

 これはチーム内の戦力バランスが、悪く偏っていることが原因であろう。

 若手を主体としたチームを作っていると、一つのポジションに打てるバッターが偏ったりする。

 それを上手くコンバートできればいいのだが、バッティングに全振りという選手は少なくないのだ。


 これがMLBであれば、すぐにトレードでチームのバランスを取っていただろう。

 だが日本の野球と言うよりは、日本の野球ファンは、選手の頻繁な移籍を嫌う傾向がある。

 もちろんFAなどは権利であるのだが、一度自分のファンのチームに入った選手には、過剰に期待してしまうところがあるのだろうか。

 そんな日本的な空気を、フロントも感じてしまうというところか。

 ファンの感情を優先するのは、確かに日本人らしいところだろう。


 ただ現在の日本の育成は、ドラフト主体になっているというのもある。

 戦力強化はドラフトの他に、FA、トレード、外国人であるが、このうちFAはもう今年はないようであるし、トレードについてはフロントが積極的ではない。

 あとは外国人であるが、これはピッチャーとバッターで、既に席が埋まってしまっている。

 育てながら勝つという、最も難しい方法。

 貞本監督では無理だろうな、と直史は冷静に悲観的だ。


 ただ、話に聞くと二軍の方は、このキャンプでもかなり若手が伸びているらしい。

 一軍のキャンプにおいても、若手が粗いながらもいいところを見せたりはしている。

 直史の目から見ると、最高値は確かに高いが、それが安定していないのが問題であるのだが。




 そしていよいよ、他球団との対戦も始まる。

 ここにおいて直史は事前に、実験をするので成績には期待しないでくれ、と豊田には伝えてある。

 今の球速がない直史にとって一番嫌なのは、分析する材料を相手に与えること。

 むしろ侮っていてくれた方がいいとまで思っている。


 ローテーションから外されない程度にはしっかりと投げる。

 だが全ての試合で全力を出すつもりはない。

 盤外戦術として、相手に誤った情報を与えるのだ。

 別にこれは悪いことでもなんでもない。


 特に直史が気にしているのは、レギュラーシーズン最初のカードである。

 対戦相手はいきなり、大阪ライガース。

 大介との対戦は、おそらく避けられない。

 三連戦なので直史が、四試合目以降に投げるというなら別なのだが。

 もっとも開幕カードが大阪ドームで行われるので、地元開幕戦に直史を持っていくということも考えられる。


(案外ありなのか?)

 興行的にはおそらく、地元で直史の復帰戦をする方が、チケットは売れるだろう。

 ただ世間一般の層を考えるなら、直史と大介の対決を、一度でも多く見たいと思っているだろう。

 そのあたり選手の起用については、監督の判断と言うか価値観が重要になってくる。


 直史は大介とは対戦したくない。

 単純に衰えてもなお、一番恐ろしいバッターだからだ。

 今はもう力の差は、逆転していると思っている。

 敬遠をしてもいいなら、やりようはあるが。

(ライガースは大介を何番で使うつもりだ?)

 気になることは多いが、今日も直史は先発である。

 



 他球団とのオープン戦、まだ舞台は沖縄。

 東北との対戦で、直史は先発として起用される。

 責任イニングは一応5イニング。

 だが調子がよければもう少し投げるし、悪ければ投げない。  

 ここには同じチームには被らなかったものの、白富東の後輩である悠木がまだ現役でいる。

 今年で35歳のシーズンだが、まだそれほどの衰えは見せていない。


 パはDHがあるが、悠木はライトのレギュラーで、打順も五番というクリーンナップだ。

 ここまで生き残って、しかも主力であるということは、素直に誉めてもいいだろう。

 もっとも直史との関係は、わずかに大学時代、OBとして関わった程度。

 ただ細身でありながら、長打をしっかりと打つ能力がある。

 今はもう、完全にただの敵でしかない。


 沖縄なのでさほど関係もないが、アウェイでの試合となる。

 一回の表、レックスは無得点。

 そしてマウンドに直史が登る。

(ここらあたりで、さすがに負けるかな)

 ただ東北はリーグが違うので、実験台としては適した相手ではある。

 無理をしない程度に、試していくのがいいだろう。


 今日のバッテリーを組むのは、新人の迫水。

 ただキャッチング技術は高いし、それに直史のコンビネーションに対する理解力もそれなりにある。

 このままならルーキーながら、一軍ロースター枠に入るのは充分にありうる。

 今までのプロのキャッチャーと比べると、それでもまだ不満は残るところだが。


 


 今の直史は、左打者に弱い。

 シュートとシンカーを使うようになったが、それをコンビネーションに活かしきれていない。

 シンカーはスピードがないので、これは緩急を使うのに利用はしている。

 だが凡打を誘うのはいいが、見逃されて普通にボール球と判定されることも多い。

 また狙われていたら、踏み込んで打たれる可能性もある。

 なので基本的には見せ球だ。


 シュートにしてもツーシームとほぼ変わらない変化で、そしてスピードは出ない。

 見極められたら、対応されてしまう。

 だが先頭打者は、インローにスライダーを投げて引っ掛けさせた。

 そして二番、ここには右打者が入っている

 これに対してはスライダーも有効であろうが、あえて内角を攻めていく。


 NPBとMLBの差を、ちゃんと埋めていかなければいけない。

 それはストライクゾーンの違いだ。

 MLBは内角が狭く、外のストライクゾーンは広い。

 この微調整をしておかないと、アウトローの出し入れが上手くいかなくなる。

 内角を厳しく攻めても、MLBよりはストライクになりやすい。

 条件がわずかに違うだけで、配球は大きく変わっていく。

 

 右打者には高めにストレートを外してから、次に外れないストレートを投げる、というのがやはり効果的だ。

 見逃し三振を取れて、最も安全なアウトとなる。

 抜いたストレートを、打てないほどの高めに投げる。

 それから抜いていないストレートをゾーン内に入れると、どうもバッターは錯覚しやすいらしい。

 こういったテクニックは、シートバッティングでは直史のボールを打てるのに、紅白戦では打てなかったバッターには、なかなか分からないものであろう。

 コントロール、緩急、そして錯覚。

 ピッチトンネルを上手く使えば、そういうピッチングも効果的であるらしい。




 5イニングを投げて、被安打3、与四球2、無失点。

 オープン戦なので意味はないが、勝ち投手の権利を持ったところで降板する。

 あと1イニングぐらいは楽に投げられるな、とは思っている。

 だが100球で完封するのは、かなり難しいぐらいには球数を使った。


 先発ピッチャーが完投する割合は、本当にどんどんと減っている。

 その流行に真っ向から逆らったのが、まずは上杉であり、そして直史であった。

 上杉の場合は無尽蔵のスタミナと、強靭な肉体によって、故障がしにくかったというものだ。結局は無理をして、一年を棒に振ったが。

 そして直史は、そもそも省エネで試合を支配していた。


 全力を出さなくても、どうにか相手の打線を抑えられるとかではなく、全力を出さなくても運さえよければパーフェクトになってしまう。

 これだけの技術の持ち主は、世界中のどこを見てもいない。

 ただそれも、やはり過去のことか。

 わずか5イニングを投げてヒットを打たれ、またフォアボールでランナーも出している。

 これは明らかな衰えだ、と誰もが思っただろう。


 直史の残している成績は、充分以上にローテーションピッチャーとしては合格点だ。

 ただどうしても、本人の過去と比べると、見劣りするだけで。

 直史自身も、もちろん満足はしていない。

 フォアボールを出すのは、完全にピッチャーの責任なのだ。

 色々と試してはいるのだが、明らかにフォアボールの数が多い。


 過去の直史の成績の平均を、落とすことにつながるだろう。

 ある程度は通用するとは言っても、それで輝けるピッチングの通算成績を落としてしまう可能性が高い。

 もちろん戦力になるのは間違いないのだが、幻想のままでいてほしかった、という人間は多いであろう。

 豊田もまた、自分の中にそういう感情があるのは認めざるをえない。

 だがとりあえず、試合には勝った。

 オープン戦は参考にならないが、ある程度のレベルを保証する内容ではあった。




 オープン戦が始まってからも、基本的に直史のトレーニングは毎日続けられる。

 どうしても心配になってくるのが、指先の感覚が戻らないことだ。

 スライダーは指先の感覚が重要になるボールだが、一応は投げられるようになった。

 だが無理やり力を入れて、スピンをかけて変化させているという意識がある。

 昔はもっと自然に、スライダーも投げられたはずだ。

 他にもトラッキングシステムで計測したところ、ストレートのスピン量がまだ低い。

 ピッチャー平均と比べれば、かなりの上位に位置するのだが。


 空振りはそれなりに取れる。

 だがホームランを打たれる場面もあった。

 心配していた高めではなく、低めを実験的に投げていた場合だ。

 おそらく高めにストレートを投げる時は、意識してコンビネーションを組み立てているからであろう。

 それに対して低めは、とりあえず低めに投げておくか、という意識がある。


 ソロホームランを二本打たれたのは、現在の日本のバッティングのトレンドを把握するという目的があった。

 かつては高めが危険と言われていて、今もそれは変わらない。

 だがMLBなどでは、ピッチャーの球質によるが、高めこそ空振りを奪えるボールであったりする。

 既にデータで分かっていることもあるが、それが事実であるのかは検証の必要がある。

 

 高めは上手くボール球を混ぜれば、むしろ空振りは取りやすい。

 ただ直史らしくもなく、球数が増えていってしまう。

 速くて落ちる球があれば、もっとピッチングは楽になる。

 だがその最大の武器であるスルーが使えない。

 あれは落ちると言うより、下に伸びるのだが。




 かつてのレックスの黄金時代を知っている者は少ない。

 だがこのオープン戦が始まってから、その時代の空気を思い出している人間はそれなりに多いだろう。

 六年連続リーグ優勝、そして三年連続を含む四度は日本一。

 ただあれは、直史が入る前に、樋口が入って武史が入ってからだ。

 チームの空気を作り出したのは、直史ではなくむしろ樋口であったろう。


 その樋口が戻ってきたわけではない。

 しかし直史一人がいるだけで、チーム内の緊張感はいい方向に変わったと言える。

 直史の徹底した自己管理は、キャンプ中は他の選手にもよく分かった。

 完全に人生を、野球をするためだけに時間を使っている。

 もちろんこれは、それぐらいしないと求めるレベルに達しない、と直史が判断しているからである。

 最初のプロ入りの時よりも、ずっと厳しいのだが、それを口にする者はいない。


 この10年、最後に優勝してからレックスは、Aクラス入り出来たのが精一杯で、日本シリーズにも到達していない。

 ただ上杉の時代と言われた、神奈川の黄金期も終わろうとしている。

 一つの時代が終わろうとしている、と古くからの野球ファンなら感じていたところに、直史と大介の日本野球界への復帰である。

 また夢が見られるのか、と期待している人間は、しかし不安も抱いてはいるであろう。


 大介はともかく直史は、ブランクが長すぎる。

 そしてオープン戦の成績も、悪くはないが明らかにかつてよりは見劣りする。

 まだ調整中である、と見えなくもない。

 だがかつての直史は、オープン戦の中盤ぐらいになれば、もう完全に仕上げていることが多かったのだ。

 仕上がるのに時間がかかる。

 当たり前のことではあるが、直史をよく知る者からすれば、物足りないのも確かであろう。




 【投神】 新生! 佐藤直史総合スレ part11 【復活?】


101 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 さて、本日のオープン戦で黒星がついてしまいましたが


102 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 6イニング投げてヒット3本なのに2点取られて負け投手は草


103 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 自責点1だからな

 無援護はそりゃきついわ


104 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 さすがにもう年齢の衰えとブランクがきついわな


105 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 6イニング投げて三振8つ奪ってる方に注目だろ

 明らかに昔とは投球スタイル違うと言うか、どうして三振奪えてるの?


106 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 MLBとかでもオープン戦は負けてることけっこうあったぞ

 3イニングだけ投げて一応敗戦とか


107 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 他のピッチャーの調整もあるし個人成績には関係ないし

 ただフォアボール多いな


108 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 年間無四球完投の記録持ちだったよな?

 MLBの記録はどうだったか知らんが


109 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 前のキャリアでは二年しかNPBにいなかったからな

 一年目は完投した試合が19で無四球完投が19www

 こんなん草生えるわ!

 ただ無四球試合数自体は二年目の方が多くて21試合


110 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 これはどうして?


111 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 単純に球速が落ちたからやろ

 ボール球を見極められてる


112 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 駿馬も衰えば駄馬にも劣る、だっけか?

 寂しいなあ……


113 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 防御率1を切ってるんだが?w

 エラー絡みの失点が多くてな


114 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 これチーム全体の問題だろ

 大サトーの責任じゃないぞ


115 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 あきらめろん

 もはや神は神でなくなったのだ


116 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 切り替えていこう

 果たして開幕に指名されるかどうか!


117 名前:代打名無し@実況は野球ch板で

 いやこれ無理やろ




 直史のピッチングに対する見方は、一般的には厳しい。

 だが球界内部からは、冷静な意見が多い。

 単純にピッチングの内容が、一軍の試合で充分に通用しているからだ。

 それにまだ直史が、変化球のいくつかを封印しているというのも理由の一つであるだろう。

 六回三失点で先発としては充分な働き。

 それが現在の基準であるのだ。

 

 もっとも一番納得していないのは、やはり直史本人である。

 他人のせいにするつもりはないが、今のレックスの守備の衰えは、かなりピッチャーにとっては難しいものがある。

 緒方は未だに、いいショートではあるのだろう。

 だがかつてのような、素晴らしいショートとは言えないようになっている。


 外部からの雑音に関しては、直史はほぼシャットアウトしている。

 彼はエゴサはしないのである。

 課題は既に分かっているのだから、素人には何を言われてもどうでもいい。

 ピッチングコーチでさえも、直史には何も言わない。

 それなりに気安い関係の豊田は、調子はどうかと尋ねるぐらいはするが。


「良くはないな」

 直史は変に強がることはない。

「スプリットを習得するべきかもしれない」

「あれ? 投げてなかったか?」

「投げ方を忘れた」

 豊田は現役時代、フォークを決め球としていた。

 フォークもスプリットも落ちる球であり、何が違うのかというと実は原理は同じである。

 実際にMLBであれば、同じ理屈で落ちる球は全てスプリッターと分類されている。

 ボールの回転が少ないため、ホップ効果があまりなく、落ちる球がスプリッターである。

 ただ雑な理解をするなら、フォークはより深く握り、落差が大きく、スピードが出ない、というものになるか。

 実際のところスプリットは、スプリットフィンガーファストボールとして、速球扱いされていたりする。




 直史は普通に、スプリットもフォークも使えた。

 ただ比較的コントロールが難しかったのと、同じ速くて落ちる球ならスルーの方が効果的であったので、使う機会がなかったと言える。

 またスプリットは比較的、肘に負担がかかるとも言われる。

 実際にはフォークの原理とはかなり違うので、その負担は抑えられるとも言われているが。

 変化球の扱いに、正解というものはない。


 今の直史は、ストレートを決め球としている。

 このストレートが二種類あることは、いずれ分かってしまうだろう。

 分かっていても打てない球、というのは確かにある。

 だが直史のストレートを活かすには、落ちる球が確かにほしいのだ。


 ブルペンコーチの豊田としては、もちろん何かアドバイスを求められたら、それに対応するつもりではある。

 しかしここでの直史は、落ちる球を増やすべきかどうか、というテーマを持っていて、それがフォークである必要はない。

 チェンジアップは既に使えているのだから、比較的球速があって、落ちるタイプのチェンジアップを使うようにしてもいいだろう。

 直史のスタイル的には、そちらの方がおそらく効果的だ。


 首脳陣の話し合いで、直史が先発のローテーションに入ることは、実は既に決定している。

 正式な発表はまだであるが、それは先発を狙うピッチャーの発奮を狙うためである。

 だが豊田は直史だけは、ちょっと特別扱いしている。

 直史との関係性や、過去の実績からのエコヒイキなどではなく、そうすることがよりよい結果をもたらすと判断してのことだ。




 チームの実績が残らないと、シーズンMVPを取ることは難しい。

 もちろん大介のような、ずっと怪物的な成績で、MVPを与えざるをえないという選手はいないではない。

 だが今の直史が、大介の残すバッティング成績を上回るパフォーマンスを発揮するかというと、直接対決で完全に封じるぐらいはしないと、難しいと思うのだ。

 そして今の大介相手に、勝てるとは思っていない直史である。


 沢村賞を狙うべきだ。

 ただ沢村賞も内容ではなく、結果に与えられる賞である。

 MLBはサイ・ヤング賞を、10勝とか11勝とかしていないピッチャー相手でも、ちゃんと投球内容を確認して与える。

 だがNPBはいまだに、見た目の結果を重要視する。

 防御率が1を切っていても、15勝ぐらいはしていないと、沢村賞に選ばれるのは難しい。

 選考基準は七つの項目があり、全てを満たしている必要はないが、現代のプロ野球では達成するのは難しいのだ。


 登板、完投、勝ち星、勝率、イニング、奪三振、防御率。

 これらの項目のほとんどは、チーム事情のためにピッチャーに許されないものがある。

 25登板、10完投、15勝、6割、200イニング、150奪三振、防御率2.5以下。

 この中で直史が達成できそうなのは登板、イニング、奪三振、防御率といったところか。

 他の要素は全て、チーム力が関係してくる。

 レックスはリリーフ陣はそれなりなので、ピッチャーの打席で代打を出される可能性が高い。

 勝ち星や勝率は、援護がないと達成できない。

 近年はこれにクオリティスタートも基準となっているが、いまだに完投信仰は大きなものである。

 もっともこれに関しては直史も、競った試合は後ろに任せるつもりなどなかったりする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る