第7話 激動のオフシーズン
この年のNPBは、シーズンが終わってからが本番であった、などと後世に伝えられることになるかもしれない。
直史と大介のNPB復帰というのは、それだけのインパクトがあった。
投打の両方における、世界史上最高の才能。
直史自身は自分のことを、活躍期間が短すぎるだろう、と思っていたりしたが。
ここでちょっと問題になったのが、直史の野球殿堂入りの件である。
別に直史は、何も悪いことはしていない。
ただ野球殿堂入りというのは、引退した選手がやっと、その栄光を賞されるような舞台であるのだ。
そこに入ってしまってからやっぱり復帰というのは、いかがなものであろうか。
直史は本当に、何も悪いことはしていない。
実際に今年の年初の時点では、復帰のことなど何も考えていなかったのだ。
だが今は復帰する理由について、本当のことを言うつもりもない。
明史に対して、いかなる形のものであっても、プレッシャーがかかってはいけないと思っているからだ。
全ては己の責任である。
大人というのは、親というのは、男というのはそういうものであろう。
ただそれとは別に、ちょっと世間を騒がせすぎたな、という反省もあったりする。
今必要なのは、とにかく時間である。
まだ復調と言うには遠く、そして大介は復調してきた。
いや、そもそもモチベーションの問題であって、肉体的には衰え知らずではないのか。
さすがに盗塁の数などは減っているのだが。
関西に挨拶に行っていた、大介が帰ってきた。
そう、帰ってきたというのは、もう千葉のことを示す。
一応母親には顔を見せたらしいが、千葉に到着してすぐに、直史をSBCに引っ張り出す。
「バッターボックスに誰か立ってた方が、練習になるだろ」
そう言いつつ、反射で打ってしまわないように、逆手で右打席に入ってはくれているのだが。
来年、大介はライガースに戻ってくる。
直史はレックスに対して、年俸の話はいっさいしなかった。
ブランクのあるロートルに対して、拾ってくれるだけマシだと考えていたのだ。
だがここでありがたいと言うか、日本らしさとでも言うのだろうか、最低年俸保証はそのままであったが、インセンティブを色々とつけてくれることとなった。
対して大介は、一年契約の12億円である。
これでもMLBに比べれば、格安の年俸であることは間違いない。
MLBの人間からすれば、エージェントだけではなく選手からも、正気を疑われるであろう。
ただ大介は、彼らが考えるよりも、ずっと欲張りなのである。
金で買えるものなどには、もう価値を見出せない。
世界最高峰の舞台、などと言われるリーグにも興味はない。
求めるのは、己を熱くさせる対決だけ。
ある意味においてはもっとも、贅沢な人間であるのだ。
大介の子供たちは、ついに野球チームが作れる九人にまで増えている。
実際のところは、女の子が多いので、それは難しいであろう。
ただ二人の母親によって、留守がちな父親の分もしっかり育てられているらしい。
それにこの数年、アメリカに残ってはキャンプなどを満喫していた、大介の長男の昇馬も戻ってきた。
大介は特に考えていないが、ツインズたちは彼を白富東に帰国子女枠で入れるつもりらしい。
ここで直史は、白石家の歪さを思い出した。
公立高校は基本的に、その地域の子供しか入学できない。
そして大介は兵庫県に住民票を置く予定である。
ただツインズのどちらかは、戸籍の上では大介とは離婚しているので、それがこちらに住めば公立高校に通える。
なんとも複雑なものである。
SBCに連れ出された直史は、みっちりとストレッチや柔軟を行い、肩を暖めた。
「さ~来~い」
マスクを被ってキャッチャーをするのは、桜であったりする。
正直なところ今の自分の球なら、余裕でキャッチするだろうな、という卑屈な信頼感を妹たちには持っている直史だ。
そして確かに、ブルペンキャッチャーとしては充分なのが桜であるのだ。
椿ももう、あの事件の後遺症は、ほぼ残っていない。
だが長年の動きの結果、車はATしか運転しないようにしているし、素早い動きが必要なことは、出来るだけしないようにしている。
子供たちと共に兵庫に向かうのは、桜となる。
こちらでも子供たちの面倒を見てくれそうなのは佐藤家にいるのだが、それは明史などの面倒を見るので手一杯となっている。
大介はバッターボックスで、直史の投げるボールを確認する。
思っていたよりはずっと、戻してきているなというのが印象だった。
ただストレートの球速もだが、それ以上に変化球が曲がってこない。
あのスピードのあるスライダーやツーシームなど、速球やムービング系が使えていない。
特に代名詞ともなった、魔球のスルーがまだ復活していない。
事前には聞いていたが、目にした大介もショックだった。
自分が衰えてきたな、と大介は思っていた。
しかし直史のそれは、明らかに衰えとも違う、ブランクからなる感覚の欠如とも言うべきものだ。
(シーズンまでに間に合うのか?)
大介は直史との勝負のために戻ってきた。
そしてそこで自分が負けることも想定している。
(勝ってもいいのか?)
そんな迷いが、大介には浮かんできたのだった。
【投神】 新生! 佐藤直史総合スレ part2 【復活!】
21 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
保守乙
22 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
捕手乙 野球スレだけに
23 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
ここでいいんか? なんか乱立してるけど
24 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
総合スレだからここでいいやろ
アンチスレもう出来てるしwww
25 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
立て乙
しかし総合スレが立てられるまでの混沌さよ
26 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
1600万え~ん
70億円稼いでいたピッチャーが1600万え~ん
27 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
乙 スレ多すぎ問題
28 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
レックススレ混沌と化してて草
29 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
ここ5スレぐらいはレックススレ、大サトースレやったしなwww
30 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
ニュー速とかでもスレ立てられてたしなあ
31 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
復活! 大サトー復活!
32 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
しかしどういう経緯で復帰になったんや
33 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
キャンプ始まる前から、大きなことは言えん
いくらなんでもブランクが長すぎる
まあ20勝ぐらいしか出来んと思うぞ(白目
34 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
勝てなければ1600万円でも高いからなあ
35 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
多くは望まない
まあ貯金15個ぐらい作ってくれれば充分だ(白目
36 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
15勝20セーブぐらいしてくれればいいでw
37 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
練習試合で完封されたから、迫水低いところまで残ってたんやな
……これもうレックスと大サトー、完全に狙ってたやろ
38 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
順番がよく分からんよな
練習試合でいいピッチングが出来て復帰を決断したのか
それとも復帰を考えて練習試合に参加したのか
39 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
誰かSNSとかで呟いてる人おらんのか?
クラブチームとノンプロチーム、40人ぐらいはおったやろ?
40 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
練習試合の情報が洩れてないってことは、口止めされてるんやろ
ノンプロのチームはそのへんコンプラとかもしっかりしてると思われ
41 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
契約決めたってことはレックスのスカウトか編成は確実に見てたはずだけどな
試合とか録画してなかったんかな?
42 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
情報洩らしたら分かるやろ
ちょっとでいいから 先っぽだけでいいから
43 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
しかし夢みたいだ……
またあの対決が日本で見られるんだ……
44 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
MLB時代はワールドシリーズまで進まない限りほとんど見れなかったからな
ほんとMLBのシステムはクソすぎる
45 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
ノンプロチームを一試合完封したぐらいで復活とは言えん
パーフェクトサトーぐらいしてくれないと
46 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
白石はともかく大サトーの投げてる姿はもうずっと見てないからなあ
キャリアの最後にMLBのSTに参加するNPB選手もいるし
レックスとまた結びつきをつけてピッチングコーチとかになる伏線じゃない?
47 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
迫水のいるチーム、都市対抗で準決勝まで進んだんだっけ?
社会人ナンバーワンバッターとか言われてたのに
妙に指名順位が低い理由は分かったな
48 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
迫水が本当に即戦力なら大サトーとバッテリー組むわけか
複雑だな
49 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
そもそも迫水は知ってて試合したんかいね?
どんな試合だったのか情報が全然出てこない
みずきたんコラムか記事で書いてくれ~
50 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
ノンプロの名門相手だから相当に戻してはいるはず
せやけど都市対抗はリーグ戦とは違うからなあ
51 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
今は自主トレ期間中かな?
マスコミ追ってるかな?
大サトー秘密主義だからなあ
52 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
結局のところ、通用するかどうか
53 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
すると思う
54 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
そもそも先発なんか?
55 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
大サトーはレギュラーシーズンでは先発、ポストシーズンはなんでも
それが一番の効果的な扱いであるw
56 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
とにかく投げてるとこ見ないと分からんよ
変化球とか投げてないと投げ方忘れるとか言われてるし
57 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
大サトーがこれまでに不可能を可能にしてきた実績を考えろ
復帰初戦でいきなりパーフェクトに俺は賭ける
58 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
いやいやいやw
59 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
実際こんだけブランクあって復帰した例なんてないやろ?
あったとしても通用してないケースしかないんちゃうか?
60 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
殿堂入りした選手の復帰というまたもありえない実績を残したなw
61 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
白石とか上杉ニキは?
62 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
殿堂入りの資格ぐらい調べろ
63 名前:代打名無し@実況は野球ch板で
めっちゃ期待していると共に、期待しすぎてはいけないと思う俺がいるw
伝説は伝説のままでいてほしかったとか、それでもまた見たかったとか
広大なネット空間により、人間の距離は縮まったようにも広まったようにも思える現代。
一つのニュースがこれだけ大きく報じられ、そして勢いを失わないというのは、かなり稀なことであった。
これは単に野球という枠ではなく、それに興味がない人間にとってさえ、話題が拡散していったからである。
コンテンツが消費されていく時代。
しかし直史に関しては、この五年間のブランクによって、新たな興味を示す層が出てきていたりもしたのだ。
直史の積み上げた高校時代と大学時代の実績。
そして空白の後の、プロ入りしてからの圧倒的な成績。
今のNPBはおろかMLBの投手成績の、多くを直史が持っているという事実。
生きながらにレジェンドとなり、そして突然の故障による引退。
その引退試合には、海を越えてアメリカから、現役のメジャーリーガーのトップクラスバッターが対戦しに来た。
一つ一つの事実を積み上げていくと、とにかく規格外という言葉しか思い浮かばない。
ただそれでも、怪我は治癒したとは言っても、ブランクのある40歳なのだ。
いくらなんでも無理だろう、と思うのは比較的年齢の若い、10代の現役で野球をしている少年たち。
しかし直史と同年代や、さらにその上の年代であれば、何が起こるか、何を起こしてくれるか、全く分からないと思う。
そんな存在が同時代にいて、その活躍を見ることが出来る。
さらにそこに大介の復帰である。
大介はMLB史上最強のバッターである。
それこそ時代の違う、四割を打てた時代のシーズン打率こそ更新できなかったものの、他の成績は軒並更新している。
世界各国に色々なプロの野球リーグはあるものだが、その生涯を通して1000本以上のホームランを公式戦で打っているのは大介だけである。
……確認不可能の記録を含めれば別だが。
もっとも人間の常識を考えれば、大介を上回る者などいないだろう、ということは普通に想像がつくことだ。
超人とか怪物とか言われるのは伊達ではない。
超人とも怪物とも言われない直史は、大介に加え武史も共に千葉のSBCに通う。
ただ武史はシーズン中に会えなかった、家族との時間を大切にする。
そのため実家ではなく、妻の実家の方に主に泊まっている。
大介も長女の花音を預けている関係で、何度か訪れてはいるのだが。
基本的にはマスコミも入れない、屋内練習場。
そこで直史は、週に二日の休養を入れて、それ以外は肉体に負荷をかけていく。
目標はキャンプまでに、球速を150km/hまで戻す。
ただ実際にやっていっても、最大限の負荷に栄養に休養を揃えても、思ったほどには結果が出てこない。
このぐらいの年齢になると普通は、維持するのが精一杯であるのだろう。
そしてある程度まではそれなりに簡単に戻せても、直史が目指すのは全盛期の自分だ。
その全盛期の自分というのは、試合を支配して、リーグを支配していた自分。
グラウンドにいるありとあらゆる存在の中で、もっとも高いとことに立つ神。
要求する水準が高すぎるのは分かっている。
別にこれは直史に限ったことではなく、30代の半ばからは、ほとんどの選手が衰えていくものだ。
直史もそれが分かっているからこそ、新しいスタイルを模索している。
そして理想ではなくとも、一つの美しいスタイルは想像できている。
その想像に自分の肉体が届かないのが、なんとももどかしい。
理想を修正していく必要がある。
修正と言うよりは、妥協と言うべきだろうか。
それに直史には目の前に、今の自分の理想に近い存在がいた。
武史のことではない。
本当に時々だが、一緒にSBCに付き合ってくる、大介の長男の昇馬である。
この時点で昇馬は、まだ中学二年生の年齢である。
成長期の真っ最中でありながら、既にそれなりにしっかりと筋肉がついている。
今は成長期には無理をさせない、というのが当たり前のように言われていて、確かにそれは一般的には正しい。
ただ佐藤家と白石家の遺伝子をミックスした存在は、一般的とは言いがたいだろう。
サウスポーで150km/hを超えてくる。
球種らしい球種は、ストレートの他にはツーシームとチェンジアップ。
だがそのストレートの軌道は、空振りではなく見逃し三振を取れる軌道だ。
直史のほしがっている、ストレートの軌道である。
(これが通用しないのか)
下手をしなくても、既にそれなりにプロで通用するだろう昇馬のストレートを、大介は気持ち良さそうにボコボコに打っている。
これを超えなければ、大介は抑えられないということだ。
昇馬は高校二年生ぐらいの時の武史に、かなり似ている。
既に身長はほぼ同じなので、ここから筋肉をどれだけ付けていくかが重要になるだろう。
これまでの昇馬は特にウエイトなどはせず、自然と体を動かすことでのみ、筋肉を作ってきていた。
それでこのスピードなのだ。
明らかにこれは、野生的なものと言うか、天性の素質に由来するものであろう。
これに対して細かいアドバイスなどをしつつ、直史は彼のピッチングを分析する。
(スピード自体は、ちょっと勝てないな)
だが目の前にあるのは、負けるわけにはいかない戦いであるのだ。
他人に教えることが、自分の成長につながることもある。
だが10代半ばの少年に、下手に変化球を教えるのは怖い。
それに直史は、自分を成長させたいわけではない。
過去の感覚を取り戻したいのだ。
単純にボールの力だけではない。
駆け引きや、クイックを使ったタイミングの外し方。
またリリースの瞬間の、わずかに押し込む感じなど。
フォームが変わったな、というのは感じている。
ストレートの軌道を考えると、そうならざるをえないのだ。
おそらくピッチャーとして、技術の極地に立ったのは、あの引退試合。
復帰するのだから、一度目の引退試合、と呼ばなければいけなくなるだろうが。
また重要なのは、単純に一試合で高いパフォーマンスを示すことではない。
シーズンを通じて投げることが出来なければ、二つの条件を満たすことが難しい。
特にシーズンMVPの方は、本当に大介がいらんことをしてくれた。
これでは現実的に、沢村賞を取りに行くしかないではないか。
それも大介との勝負があるだけに、ライガース相手の試合では、数字を落とすことが考えられる。
そんな苦心する直史を見ていても、大介は平然としていた。
甥っ子に対してそんなに冷たくていいのか、と中途半端にしか知らない人間は言うかもしれない。
だが、大介は分かっているというか信じている。
佐藤直史が、佐藤直史であることをだ。
実際に復帰を決めてから三ヶ月とちょっとで、ここまで戻してきている。
もし自分が引退してから復帰、などということを考えたとしても、それは不可能だろうと思うのだ。
直史は故障し、そして長くマウンドに立っていないながらも、ノンプロの強豪チームを完封するぐらいには、もう戻してきている。
これは絶対に自分には出来ないし、他の誰にも不可能であると思うのだ。
二人の直接対決に関わらない武史としては、直史の単純にスピードや変化球に対する不満というのが、考えすぎだと思える。
スピードはもちろん、変化球でさえも、ピッチャー直史の根底を支えるものではない。
兄の最大のストロングポイントは、そのバリエーションの広さとコンビネーションだ。
変化球が少なければ、それもかなり狭められるのかもしれないが、そこに駆け引きや緩急が加わってくる。
それにどうして変化球がある程度以上は戻らないか、武史は同じピッチャーとして、なんとなく分かるのだ。
直史は故障することを恐れている。
下手にトミージョンをしていないために、肘の故障を恐れているので、捻る動作があまり出来ていないのだ。
もちろんこれは勇気がないとか、直史らしくないとかいう話ではない。
過去の直史は、いつ引退してもいいという気持ちで投げていた。
故障して引退し、セカンドキャリアというのは、むしろ望ましいこととさえ思っていたのだ。
だが今の直史は、絶対に故障するわけにはいかない。
セーブをかけているのだと、自分で気がついているだろうか。
それを問われた直史は、かなり苦い表情をした。
ある程度は気づいていたのか、それとも気づいていてもどうしようもないのか。
目的を考えれば、気づいていてもどうしようもないだろう。
これがパーフェクトを一度達成するなり、沢村賞が確定した後ならば、もっと思い切って投げることは出来るだろう。
それこそ千切れるぐらいの勢いで、腕を振ればいいのだ。
誰かのために、絶対に勝たなくてはいけない。
直史は基本的に、そういう意識は高校時代しか持っていなかったはずだ。
あの一発勝負のトーナメントは、負けたチームをある程度背負うことにもなるし、地元の期待を背負って甲子園で戦うことになる。
しかしこの復帰後の試合は、そういうものよりもさらに重い。
一度目のプロ入りは、大介に金を出してもらうためのものであった。
その大介の目的は、直史と勝負すること。
大介に勝つためには、無理をして故障しても、それは仕方がないというもの。
目的の変化によって、直史は全力が出せなくなっている。
(でも、それでも兄貴なら……)
きっとなんとかしてしまうのだろうな、と武史は信じていた。
武史の言葉に、今更ながら気づいた直史である。
そう、自分は故障するわけにはいかない。
もちろんトレーナーの助言などを聞いて、限界ぎりぎりのトレーニングはしているのだ。
しかし中学時代の直史などは、明らかにオーバーワークをしていながら、それでいて故障もすることはなかった。
直史の肉体的素質は、無茶をしなければ超人たちには敵わないものだ。
だからここでフィジカルだけではなく、テクニックやコンビネーション、心理戦なども取り入れていく。
そうやって直史は、プロの七年間をレギュラーシーズン無敗で過ごした。
だがこの復帰後は、さすがに無敗は無理だ、と自己評価している。
大介のいるライガースだけではなく、他のチームも新しい才能があふれている。
そんな中で直史は、果たしてどれだけ完投することが出来るのか。
そう、パーフェクトは完投して初めて、それが達成条件の一つになる。
衰えたとはいえ、上杉がいる。
他にも新たなエースたちと、競い合っていかなければいけない。
条件を見れば見るほど、直史の戦いは厳しいものであると言うしかなかった。
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