第4話 蠢動
どれだけ超人と言われた人間であっても、絶頂期に引退しなければ、いずれは衰えて敗れていくものだ。
野球などは基本的に、衰えが見えるまでは引退はしない。
故障によって引退を余儀なくされるケースはあるが、よほどのものでない限りは衰えることによってようやく、引退を決断する。
モチベーションの低下などのメンタル面で二回、明らかに衰えが見えて一回の引退を経験したマイケル・ジョーダンなどは例外と言っていい。
野球であればロジャー・クレメンスなどもいるが、あれは引退をほのめかすだけほのめかして、本当に引退したのは薬物関連が原因とも言われている。
もっとも野球はピッチャーの場合、禁止薬物の効果は弱いとも言われていたりして、42歳のシーズンでサイ・ヤング賞を獲得しているあたり、やはり化物ではあろう。
ブランクが大きい。
どれだけの名投手であっても、五年以上のブランクである。
それでも取る価値だけならば、充分にあった。
たとえ戦力としては通用しなくても、宣伝効果がとてつもない。
客寄せパンダという以外にも、現役時代の直史のストイックな体調管理は、若手の見本ともなるものであろう。
また直史はもしも復帰すれば、おそらく今後は二度と現れないであろう、奇妙な記録というか経歴の持ち主となる。
それは野球殿堂入りを果たしていながら、再び現役に復帰した選手、というくくりである。
直史はNPBでプレイした期間は、たったの二年である。
そしてMLBでプレイしたのが、たったの五年。
MLBの野球殿堂入り資格というのは、メジャーで10年以上プレイし、引退後五年を経過すれば、その選考にかけられることになる。
基準を正しく守れば、直史はこれに選ばれることはない。
だがこれは例外もあり、1911年に31歳で急死したアディ・ジョスが現役生活九年で殿堂入りしている。
彼は現役時代を通算して、防御率が一点台という、メジャーではただ二人の投手のうちの一人であり、パーフェクトを一回にノーヒットノーランを二回達成している。
これと比較して、直史も例外にするべきではないのか、という話が当然のように湧き上がったのである。
直史はMLBの通算五年間で、レギュラーシーズンで一度も負けていない。
防御率は一点台どころか0点台である。
一つのシーズンだけ、そしてクローザーならばともかく、通算五年を主に先発として投げてだ。
パーフェクトやノーヒットノーランの達成記録は、今後も絶対に破られないであろうと言われているし、それは事実でもあるだろう。
ならば殿堂入りを検討しようか。
MLBではなく全米野球記者協会が、これを本格的に論じ始めた。
それを聞いて日本球界もまた動くことになる。
そもそも日本の場合は選手生活10年間以上という縛りはない。
またアマチュアの関係者に対しても、この対象となっている。
高校野球での夏の二大会連続実質パーフェクトや、大学での不滅の勝利記録。
また国際大会での活躍などを加味すれば、充分に対象としてもいいだろうというのが日本球界を包む判断であった。
日本人選手が母国よりも先に、アメリカで殿堂入りするということに、抵抗があったとでも言おうか。
ともかくそんなこともあって、直史は先に日本で殿堂入りの話が上がったのだ。
日本の場合は過去を遡れば、32歳で死去した津田恒実が後年ではあるが殿堂入りしている。
またさらに遡れば、戦死した沢村栄治は、選ばれたのはずっと後年であるが、27歳までの間に五年しかプレイしていない。
そんな沢村は、その生涯において投手五冠を達成し、ノーヒットノーランも三回達成している。
直史と比較するのに、この二人は丁度良かったと言えるかもしれない。
まだ生きている人間に、この年齢で殿堂入りを許すのかということは、反対意見もかなり多かった。
ただ引退後の最初の二年ほどは復帰するかもと思われていたが、学生野球の指導資格を回復し、また完全にコーチとしても関わることがなくなったため、結局は普通に選出されてしまったのだ。
生きている人間としては、最年少での野球殿堂入り。
権威の強さを知っている直史としては、普通にありがたく選出を受けた。
ただその時はさすがに、復帰など全く考えていなかったのだ。
誕生日を迎える前であったため、38歳での殿堂入りとなった直史。
普段とさほども変わらない様子で、セレモニーに参加したものだ。
今更ながら、自分でもちょっとアレではないかな、と思わないでもない。
もっとも、前例のないことというのは、直史にとっては特に特別なものではない。
本当に復帰などさせていいのだろうか、という空気はあったはずである。
だがそういうところでは、ちゃんと空気を読まない人間が、純粋に戦力として評価していた。
直史は基本的に、まずレックスに話を持っていった。
それから次に、地元の千葉に話を持っていくか、という準備まではしていたのだ。
試合に出る。それも先発で。
この二球団の現状は、直史の要望を満たす状況にあったからだ。
かつてレックスは、投手王国と言われた。
直史に加えて武史に、金原と佐竹という四人の先発が、強力なローテを組んでいたからだ。
またリリーフ陣も充実しており、何よりその投手陣をリードする樋口が、最強のキャッチャーとして存在していた。
投手力に比べれば打線は弱かったが、それでも連覇をはじめとして、強い期間が続いた。
しかしそれもさすがに、今は昔のこと。
当時のピッチャーで今もレックスにいる選手というのは、一人もいない。
ごく平均的に、先発が不足しているチーム。
それが今のレックスである。
またマーリンズの方も、事情は似たようなものである。
リーグ優勝から日本一を決めた栄華は昔、絶対的なエースであった黒崎は、海を渡って現在はMLBにいる。
その空いた穴を埋めることが出来ずに、今年もクライマックスシリーズ進出はならなかった。
それこそ広告塔としてでも、直史のことはほしがるだろう。
高卒時はそれほどでもなかったが、大卒時にはかなり監督にも接触していたのだ。
地元の千葉から生まれた、間違いない世界的なスター選手。
もしも獲得出来るなら、それだけでも大きな宣伝効果がある。
この時点ではまだ、話がいっていない。
直史が義理として、レックスに話を先に持っていったからだ。
ただし直史も、ドラフト終了後もレックスが決められないのなら、他のチームに話を持っていくつもりではある。
まずは地元の千葉に、それが無理ならスターズに。
スターズも上杉がかつてのような、中五日で平然と完投するというような状態ではない。
それでもまだスターズは、上杉のチームと言えるだろう。
色々なしがらみが多いタイタンズよりは、スターズの方がいいかなと直史は思っている。
ただタイタンズならばあそこには、高校の後輩である悟がいたりする。
もっともタイタンズは、FAなどで有力選手をどっさりと取ってくる。
固定観念から直史に興味を示さない可能性も高い。
レックスの選手を見ていると、直史より年上の選手で、当時から続いて現役という選手はもういない。
同年の選手でさえ、もういないのだ。
しっかり顔を知っている選手と言えば、緒方や青砥から下になるだろう。
この二人ももう、全盛期は過ぎていると言っていい。
むしろコーチ陣の中にこそ、知っている顔の割合は多かったりする。
MLBほどの異常な代謝速度ではないが、やはり日本のプロ野球も、新陳代謝は激しい。
引退の平均年齢が29歳というのも、納得してしまうのが選手のラインナップだ。
ただそれでも、知っている選手はそこそこいる。
(打線が弱いな)
それは直史がいた頃から変わらない、レックスの慢性的な傾向であろうか。
選手も入れ替わっているのだが、完全なパワーヒッターというのは少ないと思う。
現在のレックスは、守備力が高い。
打撃はやや弱く、ピッチャーは平均的。
こういったチームであると、直史は投げやすい。
また打撃やピッチャーについても、細かく見ていけばいい。
先発陣よりも、リリーフの方が強い。
これはかつてレックスのクローザーとして活躍した鴨池が、ブルペンコーチを務めているかららしい。
プロ入り直後の直史は、リリーフの要らないピッチャーであった。
一年目は23先発し19完投。
二年目は27先発し23完投。
完投しなかった試合は大量点差がついていて、他のピッチャーを試したいという試合であった。
しかし今の直史は、まだ完投するところまで体力が戻ってきていない。
(けれどパーフェクトの達成までは、完投が必要条件になるんだよな)
やはりもっと、試合で投げておく必要がある。
またもクラブチームに頼み込み、試合に投げさせてもらう。
あちらはあちらで、直史の技術を学ぶことが出来るので、一方的なものではない。
今回の相手は、社会人野球の強豪。
東京の向こうの持っているグラウンドまで、遠征して試合となる。
もっともそれほどの距離でもない。
この時期はプロのスカウトも、ドラフト前の最終チェックを行う。
ほとんどは夏までには決めているのだが、大学生が秋のリーグ戦で大活躍したり、逆に故障が判明してしまい、リストから外すこともあるのだ。
この試合では対戦相手のチームに、プロ注目のバッターがいた。
無名校から大学野球へ進み、そこでもドラフトにピックアップされることはなく、しかし社会人野球へ進む。
ここでようやく注目度が集まり、打てるキャッチャーとしてドラフト上位候補に名を連ねているのだ。
直史としてはこの試合に、勝とうというつもりはない。
重要なのは自分がどれぐらい、試合をコントロール出来るか知ることだ。
出来れば完投もしたいのだが、果たして球数が節約出来るか。
またこんな強豪相手であれば、クラブチームも他のピッチャーを試したくはなるのだ。
(今回の目標は七回あたりか)
これを見ている、プロのスカウトが存在する。
もちろんクラブチームの選手などを見に来ているわけではなく、対戦相手のキャッチャーに注目しているのだ。
打てるキャッチャーというのは年々減ってきていて、そこに現れたのがこの苦労人の社会人。
直史にとっては自分の今のレベルを測る、丁度いい相手になるかもしれない。
千葉マーリンズの補強ポイントはキャッチャーである。
そのため即戦力レベルと呼ばれる社会人キャッチャーは、当然のようにスカウトが見に来ている。
ドラフトの候補者について、かなりもう絞れてきている。
ただその評価をどうするかは、つまり指名順位をどうするかは、また難しいところなのだ。
現在の千葉は正捕手が流動的で、主に二人を使ってどちらが上かを確認しようとしている。
だがそれを上回る選手がいるなら、それは獲得しにいって当然だ。
都市対抗でもバッティングでは鮮烈な印象を残した。
また経験的にも社会人野球まで進んだため、多くのピッチャーには接している。
大卒の時点でドラフトにかからなかったのは、そのバッティングに長打が少なかったからだ。
しかし社会人の二年で、それは強化されている。
担当スカウトに加えて、スカウト部長までも含めた最終チェック。
主に評価しているバッティングについて、変なところなどがあっては困る。
もちろんキャッチャーとしても、評価の対象にはなっている。
それも都市対抗の試合を見る限りでは、問題ないと思われていた。
そんなスカウトが、観客席に見つけるのは、他球団のスカウト。
見知った顔が三人ほど、こんなクラブチームとの練習試合を見に来たのだ。
そして意外な顔も、ここで発見することとなった。
「鬼塚?」
「どーも」
引退した元千葉の人気選手が、こんな東京の片隅の練習試合を見に来ていたのだ。
鬼塚に対しては、たとえ選手としては引退しても、球団職員として残ってほしいという慰留の意向があった。
しかし鬼塚の考えていたのは、もっと野球界全体を見た、気の長いものであったのだ。
アマチュア選手の指導。これが上手くいっていなければ、当然ながら野球の裾野も小さくなってしまう。
地元の千葉のアマチュアのレベルを上げたい。
出来れば将来、その子供たちが千葉に入団を希望するようになれば、遠大な計画ではあるがありがたいことである。
そんな鬼塚が、この休日に東京のグラウンドにやってきているということ。
確かに社会人野球の強豪チームではあるが、彼には全く関係ないように思える。
しかし考えてみれば、対戦相手は千葉のクラブチームである。
千葉県出身で今も千葉に住んでいる鬼塚が、関係者であっても全くおかしくない。
なので対応としては、別に邪険にするわけもない。
「なんだ、知り合いでもいるのか?」
「そうっすね。社会人野球でもトップレベルのチームとの試合なんて、そうそう見られるものでもないですし」
鬼塚はこの対戦チームについて、ある程度は知っている。
普通にコロコロと後にプロになる選手が所属していたからだ。
高校野球と大学野球と社会人野球。
それぞれアマチュアではあるが、一番レベルが高いのは、当然ながら社会人野球である。
ただしどれも、上澄みのレベルはほぼ一緒か、高校生でも大学生を相手に無双したりはする。
なぜなら既に完成された選手であれば、高卒後にそのままプロ入りするからだ。
それでも基本的には、高卒よりは大卒、大卒よりは社会人出身の方が、即戦力であることを求められるが。
極端に言えば、上杉は高卒時点で既にトップレベルであったし、直史はそのスペックが完成形にほぼ近くなったのは大学時代である。
ただ上に行ってまで野球をガチでやるというのは、それだけ純度は高くなっていくし、社会人野球などは給料をもらって野球をやっている、別名ノンプロである。
少なくとも下手はいない。
そんな相手に、直史はどれだけのピッチングが出来るのか。
とても大切な試金石になるだろうな、と鬼塚は思っていた。
対戦相手の社会人野球チームは、監督だけが直史のことを知らされていた。
それを餌に練習試合を組んでもらったからだ。
そして社会人野球チームにとっては、ドラフト上位指名確実であり、打てるキャッチャーで四番でもある迫水が、その程度のレベルにあるのか。
もちろん直史が長いブランクを抱えているのは知っているが、それでも。
結局は監督であっても、その前にただの野球馬鹿であるのだ。
先攻したクラブチームの攻撃を、社会人チームは抑える。
やはりここには、明らかなレベル差というものが存在した。
そしてクラブチームの守備。
サングラスをした直史がマウンドに登る。
こういった練習試合においては、相手の情報がほとんどないことは珍しくない。
それでも圧倒しなければいけないのが、ノンプロとしての意地である。
投球練習を見る限り、かなりいいボールを投げているのは分かる。
ただクラブチームならばともかく、ノンプロの名門であれば、普通にいる程度のピッチャーであろう。
直史は昔から、その実力が分かりにくいのだ。
プロ注目の選手は四番の迫水であるが、実は先頭の一番ショート左右田も、監督からは推せる選手の一人である。
守備力は高いし、そして何より三振が少なく出塁率が高い。
長打力はさほどないが、出塁率が高くて足も速いショートなど、とてもお買い得だと思うのだ。
この試合でもプロのスカウトが見に来ている。
アピール次第では支配下契約での指名もありうるぞ、と思っている。
だが育成、テメーは駄目だ。
直史の対戦するバッターのレベルは、確実に上がってきている。
クラブチームにもいいピッチャーはいるんだな、というのが先頭打者の左右田の感想である。
完全に上から目線なのは、球速自体はそれほどでもないか、と感じているからだ。
バッターボックスに入って、そして実際にバッターに投げる場合は、もちろんボールは変わってくる。
直史としてはある程度、対戦相手について調べている。
すぐに調べられるほどには、有名な選手であるからだ。
この先頭打者の左右田というのは、味方にいるなら直史にとっては好みのタイプのバッターだ。
ただし敵として向かい合うなら、ランナーには出したくない。
まず初球から、インハイへストレートを投げ込む。
大げさに避けるでもなく、わずかに身を反らして、最後までボールを見ていた。
コールはボールであり、それは直史も分かっている。
今のを打たれていたら、むしろ困っていただろう。
パワーだけはそれほどないバッターだ。
それでも体格からして、全く長打がないというわけでもないだろう。
二球目の直史のボールは、コンビネーションのお手本的に、対角線上へのアウトロー。
それに左右田は手を出してきたが、ほんのわずかにシュート回転がかかっている。
左打者の左右田の打った打球は、三塁線のほぼ真上から、左に曲がってファールゾーンに着地。
とりあえずこれでファーストストライクは手に入れた。
三球目、直史の投げたのはカーブ。
緩急差のあるこのボールを、左右田は見送ってストライク。
データのないピッチャーに対する一番バッターという、いわゆる高校野球的な一番の役割をしたりしている。
(さて、しかしこれでツーストライクまでは追い詰めたわけだ)
直史はキャッチャーからのサインに、二度首を振った。
そしてピッチャーが首を振るというのは、たいがいがストレートを投げたい時だ。
四球目、直史の投げたのはまさにそのストレート。
左右田は高めのこのボールを、待ち構えていたようにスイングした。
しかし快音が響くことはなく、ボールはそのままミットへ。
先頭打者を三振で抑えて、悪くないスタートを切る直史であった。
初回の守りは、三者凡退。
名門社会人チームを相手に、上々の滑り出しと言えよう。
今のところおそらく、相手はストレートとカーブの緩急差に注意しているだろう。
だが本質は、先頭の左右田への四球目のストレートだ。
ほんのわずかな工夫で、ストレートで三振が取れるのだ。
直史も直球より変化球の方が割合としてはずっと多かったが、ストレートを投げる割合はやはりそれなりに多い。
変化球投手でもそれは、当たり前のことだったりする。
もちろん中には、スタンダードに投げるのがツーシームやカッターであるピッチャーもいるのだが。
二回の攻撃も、さっさと終わってしまった。
しかし練習とは違い、試合はこうやって味方の攻撃の間、ある程度休んでおくことが出来る。
水分を補給して、自分の体力の消耗に、肩肘の疲労を感じ取る。
特に問題はないな、とマウンドにまた登る直史である。
この回も鬼門は、先頭打者である。
四番の迫水は、長打も打てるスラッガータイプ。
下手に小さく曲げていっても、それごとスタンドに運んでしまうタイプだ。
なので直史としては、ムービング系には頼らない。
そもそもムービング系の変化が、引退前の状態には全く戻っていないのだ。
初球からアウトローにストレートを投げる。
これに手を出されたが、右打者の迫水に対しては、少し左右の角度をつけていった。
ファールとはなったが、それでもスタンドまでは飛ばされた。
アウトローいっぱいであったのに、そんなものは関係ないという打球である。
(こいつ相手に苦戦しているようじゃ……)
プロでも通用するレベルのバッターだ、と言われている迫水である。
しかしプロの中には、プロでも特別に頭一つ抜けた選手というのが存在するのだ。
大きなファールを打たれはしたが、それでもこれでストライクカウントが一つ。
直史は呼吸を意識して、セットポジションから二球目を投げる。
そのボールはチェンジアップであり、緩急と共に変化量もあるタイプのチェンジアップであった。
迫水はこれを、体勢をやや崩しながらも、どうにか持ちこたえてスイングする。
ボールは今度は、左方向のファールスタンドへと飛んでいった。
ファール二つでツーストライク。
とても理想的な展開と言っていいだろう。
一般にツーナッシングからでは、バッターの打率というのは相当に下がる。
それはどんなバッターでも同じだが、樋口などはあえて悪いカウントを作り、ピッチャーのボールを誘導したりしていたものだ。
だからこそ勝負強い、などという評価があったのだ。
ここから直史は、アウトローへボール一個を外して投げた。
迫水は見逃さず、しかし明らかにカットをしてくる。
そこまでの選球眼はないのかな、と直史は次にカーブを外してみる。
すると悠々と見逃したので、アウトローへの警戒が大きいのだと判断する。
カウントワンツーからの五球目。
直史は一度だけ首を振り、そしてセットポジションから投げる。
そのボールは、しっかりと高めにコントロールされたストレートである。
日本の野球であれば、危険と言われる高めのボール。
それに迫水は手を出した。
快音が聞こえることはなく、ボールはキャッチャーのミットへ収まる。
この日二つ目の三振を、チーム一の強打者から奪った直史であった。
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