第17話
僕らは基地までの道の途中にある、はげ山の前を通りかかった。はげ山、それはその山の斜面が削り取られ、土がむき出しになっている。見ての通り、そこだけがはげて見えるのだ。その前の空き地で、キャッチボールをしている子供が……。
「なんだ、たっちゃんじゃない。君が外で遊ぶなんて珍しいな」
彼は僕にそう言われて、照れるようにこちらに手を振った。たっちゃんと一緒にいるのは、僕の知らない子だ。誰だろう?
「外で遊ぶのも楽しいな。今日、新しい友達ができたんだ」
僕らは自転車を降りて、彼らのそばに行くと、
「こんにちは。僕は斎藤隆です。これから藤ヶ丘小学校に通うことになります。よろしくお願いします」
少年はぺこりとおじぎをした。
「こちらこそ、よろしく。君は何年生なの?」
「五年です」
「隆はさ、俺んちのとなりに引っ越してきたばかりだ。学校を案内したあと、ここで遊んでいたんだ」
「そっか……。そのグローブ新品じゃない? 買ったの?」
山田が聞くと、たっちゃんは首を振った。
「違うよ。サンタからのプレゼントさ。お前らサンタに会ったんだよな? 俺、信じるよサンタのこと。お前たちのこともね。グローブが二つとボールが二つ。まるで、キャッチボールする友達ができることを知っていたみたいじゃないか。そんな不思議な事、サンタにしかできないだろう? それに隆は、前の学校で野球部だったんだ。偶然にしてはでき過ぎている」
「そうだね。君もまた、クリスマスマジックにかかったんだ」
僕の言葉に、彼はきょとんとした顔をした。
「何?」
「クリスマスには不思議なことが起こるものだってことだ」
内野が嚙み砕いた言葉で言うと、たっちゃんも分かったようでうなずいた。
はげ山からちょっと奥へ行くと基地に着く。
「おもしろいな。みんなが魔法にかかっているみたいだ。俺が思うに、あの、光の粒が町全体に降ったとき、不思議な魔法がかけられたんだ」
内野にも魔法がかかったんだろう。そうでなきゃ、彼がこんなメルヘンチックなことを言うはずがない。僕らは運んできたソリを、何とか小屋の中に入れた。
「僕らのプレゼントもここへ置こう」
ソリの中にプレゼントでもらった鈴と、光の粒の入ったカプセルを入れた。それらは、僕ら三人の宝物だ。
「今頃、サンタさんは何してるんだろう?」
山田がふと、そんなことを言った。すると、シャンシャンと鈴の音が鳴った。
「まさか、サンタさんまだいるの?」
「違うよ。今のは、ピットの鈴だ」
僕が箱を開けると、鈴がシャンシャンと勝手になっている。
「不思議だ。どうなってんだよ、これ?」
「鈴にも魔法がかかってるんだよ。きっと」
外は強い風が吹いたらしく、ドアがガタガタと鳴った。
「外、寒そうだね」
山田が言うと、内野は外に飛び出した。
「見てみろよ! 白い風だ」
表に出ると、風に白いものが混じっていた。
「雪だ! 珍しいね」
山田は寒さを忘れて、はしゃいでいる。このあたりでは、雪なんてめったに振らない。僕が生まれてから、たぶん、二回目の雪だ。
「ホワイトクリスマスだ」
内野の言うとおり、白い風になっている。 雪の混じった風が、不思議なことに冷たいとは思わなかった。サンタの言ったように、優しい風だ。
「この雪、積もるかな?」
「どうだろうか。雪が降ることも珍しいのに、積もるなんてことあるかな?」
山田と僕が、そんな話をしていると、
「何言ってんだよ。積もるに決まってんじゃん。だって、これもまた、クリスマスマジックなんだぜ。あのソリは、ただの飾りじゃない。俺らがあれに乗るんだ。はげ山なんかちょうどいいじゃん。あそこならよく滑るぜ」
はげ山で僕らはよく滑って遊ぶ。いい感じの坂になっているから。普段は木の板に乗って滑る。かなり急な坂だが、それがかえって、スリル満点なのだ。せっかく、苦労して運んだそりを小屋から出して、はげ山に行った。鈴とカプセルも持って。
「なんだ、みんな考えることはおんなじだな」
近所の子供が、すでに木の板を持ってに三人遊んでいた。まだ、雪の下に山肌が見えているが、おかまいなしだ。
「たっちゃん、いないね。帰ったのかなぁ?」
「そうだろう。あいつが長い時間、外で遊ぶなんてないもんな」
「そり、まだ使えないよね」
僕が言うと、
「使えるようにするさ」
そう言って内野は、何を思ったか、ピットの鈴を手に持ち空に掲げた。
「もっと雪を!」
すると、鈴がシャンシャンと鳴り響いた。遊んでいた子供たちも、その音に気付いたようでこちら向いた。鈴はしばらく鳴り続き、そのうちに、白い風がたくさんの雪を、このはげ山にだけ降らせた。
「な、これでソリが使えるだろう?」
「お前。魔法使いみただな」
この不思議な出来事を目の当たりにしてしまった子たちは、目が点になっている。けれどまさか内野が降らせたとは思っていないだろう。
「おっ、すごいじゃん。何が起こったんだ? ここだけ大雪が降ったみたいだ」
後ろから元気な声が聞こえた。振り返ると、たっちゃんがあの転校生と二人で、こちらへ向かって自転車を走らせていた。
「あれ? 帰ったんじゃないの?」
僕が言うと、
「まさか。数年ぶりの雪だぞ。このときに遊ばなくてどうするよ」
とたっちゃんは、雪遊びができることに、少々興奮しているようだった。
「よかった。もしかしたら、雪が止んじゃうんじゃないかと思ったよ」
隆はプラスチック製のソリを持って、雪遊び用の靴に手袋と、準備万端だ。
「お前らのソリ、すごくいいねぇ。まるで、サンタのソリみたいだ」
たっちゃんが僕らのソリを見てそう言った。
「そうさ、サンタさんからのプレゼントなんだ。お手伝いのお礼にね」
僕がそう答えると、たっちゃんは笑顔で言った。
「そうか、よかったな」
その言葉は、僕らを信じていると言ってくれているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます