第14話
「やあ、来てくれたね。待っていたんだよ」
小屋の中で、サンタがコタツに足を突っ込みくつろいでいた。
「今日は、クリスマス会に行っていたんだ」
僕が言うと、サンタは目を細めて言った。
「そうか、楽しかったかね?」
「うん、それがね、不思議なことがあったんだ。僕らのことを物語として、神父さんがみんなに話して聞かせてくれた。それって、偶然なの?」
山田はそのことを話したくて仕方がなかったようで、少々、興奮気味に言うと、
「ほっほっ。それもまた、クリスマスマジックじゃな」
サンタはたっぷりとした髭を撫でながらそう言った。
「クリスマスマジック?」
僕ら三人はその魅力的な言葉を聞いて、同時にそれを復唱した。
「クリスマスには不思議なことが起こるものじゃよ。特に君たちのような子供にはね」
そう言って、サンタはにっこりと微笑んだ。
「そうだったのか」
内野は早くも納得したようだ。サンタが言うと不思議なことも普通に思えてくる。
「クリスマスマジック」
山田はその言葉を繰り返して、空想しているようだ。
「今夜はクリスマスイブじゃ。子供たちにプレゼントを配る。君たちが手伝ってくれると助かるのじゃが」
「ほんと? 僕たち、サンタさんのお手伝いができるの?」
「今夜かぁ。夕べも母さんに叱られちゃったしな。もちろん、サンタさんのお手伝いはしたいんだけど……」
「吉田、無理をしなくてもいいんだぞ。俺と山田で手伝うからさ」
「そんなのずるいよ。僕だって手伝いたいんだ」
「まあまあ、お二人さん。クリスマスマジックを信じようよ。きっと、今度は叱られないさ」
山田はそう言って僕らの肩に手を置いた。
「そうだとも。今夜は特別な夜じゃからな」
それでも、僕は少し不安な気持ちを抱いたまま夜を迎えた。
クリスマスイブといっても、いつもと変わらない食事が用意された。
「ねえ、ママ。今日はクリスマスイブなのよ。これはないんじゃない?」
麻里が言うのも、もっともだ。なんたって、食卓に並んでいるのは中華だ。
「あら、そう? でも、あたしは中華の気分だったのよ」
そう言う問題ではないと僕は思った。
「仕方ないのよ。クリスマスケーキもチキンも予約でいっぱいだったんだもの。だから、明日でもいいって……」
母さんは、一ヶ月も前に、ケーキとチキンを予約しに行ったのだが、二十四日は、もう予約が受け付けられないと言われ、仕方なく二十五日にした、というわけだ。それは僕も納得済みだが、今日がなぜ中華なのか?
食事のあと、僕は父さんにサンタとの約束のことを話した。
「そうか、それは行くべきだな。しかし、外は寒いぞ。暖かな格好で行きなさい。母さんには父さんから言っておくから。心配しなくてもいいさ」
もう夜はふけて、九時を回った頃、出かけることを母さんに言った。父さんはどんな理由を考えてくれたのか分からないが、母さんは快く送り出してくれた。なんだか、怖いくらいだ。
「行ってらっしゃい」
その言葉を背に玄関を飛び出した。外は肌を切るほどの冷たい風が吹いていた。僕なりに完全防寒してきたつもりだが、それでもまだ寒い。
「サンタさんお待たせ」
基地に着くと、サンタはソリをつけたトナカイの傍らで立っていた。
「僕も待っていたんだけどな」
その隣には、山田が自転車を支えて立っている。
「早いじゃない」
「当然。だって、サンタさんのお手伝いだよ。わくわくするじゃない」
残るは内野。彼は支度に時間がかかっているのだろう。
「おーい」
内野が自転車でこちらに向かって走って来た。
「おまたせ!」
今度はサンタ服ではなかった。けれど、白い大きな袋は持参してきたようだ。
「袋はさ、これくらいでいいかな? もっと大きなものを探したんだけど、なくってさ」
「僕は袋を持ってきていないよ」
「僕も、そんなことを考えもしなかったよ。サンタさん、どうしよう?」
僕らが不安げに言うと、サンタは優しく微笑み、
「心配はいらんよ。ソリを見ていてごらん。そろそろプレゼントが届くから」
そう言い終わったとき、ソリいっぱいに、プレゼントの入った白い袋が現れた。まるで魔法のようだ。それと同時に、内野の白い袋も膨れ上がった。
「すっげー!」
「クリスマスマジックだ!」
「どこから出てきたの?」
僕の質問は、答えを求めて言ったわけじゃない。これはクリスマスマジックなのだから……。
「さあ、どの袋でもいいから持って行きなさい」
「ねえ、サンタさん。僕らは、どうやってプレゼントを配るのさ」
僕がサンタに聞くと、
「わしにはソリがある。君たちにはその乗り物があるじゃないか」
「自転車? まさかこれで町を回るの?」
予想外だった。自転車で配るなんて。
「それで空を飛べばよいのじゃ」
「これで空を飛ぶって?」
「もちろん、できるよ。さあ、飛んでごらんよ」
サンタに言われるまま、僕らは白い袋を背負い、自転車にまたがった。僕の袋は、中で何かがもぞもぞと動いている気がした。
「飛べ!」
最初にそれを試したのは内野だった。信じられないことに、内野を乗せた自転車は地面を離れ僕の目の高さまで浮いていた。
「どうだ。俺もクリスマスマジックを起こしたぜ。先に行っちゃうぞ」
内野に先を越されて、僕と山田は競うように、
「飛べ!」
と同時に叫んだ。ぐらりと自転車が傾き、僕はバランスを崩した。
「吉田、信じる気持ちが足りないんじゃないか?」
内野に言われ、もっと強く『飛べ』と念じた。すると、自転車はまっすぐ上昇した。山田と内野はすでに、コツを掴んだらしく、自由に空を走っている。
「準備は出来たようじゃな? では、行くとするか」
「ちょっと待って。サンタさん、僕らは誰にプレゼントを配ればいいの?」
僕の質問にサンタが答えた。
「その乗り物が子供の家に向かって走るじゃろう。プレゼントも、どれをあげればいいかその時に分かる」
サンタがそう言うのなら、そうなのだろう。山田も内野も理解したと、うなずいて見せた。
「では、出発じゃ」
四人は四つの方向に分かれて、夜の空を走った。シャンシャンとトナカイの鈴の音が遠ざかっていく。
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