第3話
それは、僕らがまだ三年生の頃、学校の裏山へ探検ごっこに行った時のこと。僕らはとても素敵な物を見つけたのだ。それは一人掛けのソファーのような形の低木で、そこに腰を掛けると、しっかりと身体を支えて、とても良い座り心地だった。これは僕らが見つけた物だから、他の人に見つからないように隠そうと思った。けれど、移動できるものじゃない。そこで考えた。三匹の子ブタの長男が
ある日、第一秘密基地へ行くと、あの低木のソファーに柴田が王様気分で座っているではないか。傍らには柴田と同学年の鈴木がいて、子分の二人も揃っている。子分は五年生で柴田のいいなりだ。僕らは子分たちに突き飛ばされたが、三年の僕ら三人と、六年と五年の男子四人を相手に勝てるはずもない。泣く泣く明け渡した。しかし、僕らのあのソファーは生きた木だから、形が変わってしまって、柴田もそれに興味が無くなり、そのまま放置されてしまった。僕らはそのソファーだった低木を時々見に行く。もしかしたら、今度はまた違う形になっているかもしれないと。そんなわけで、無くなってしまった第一秘密基地は僕らの心の中に残っている。だから、次に秘密基地にした小屋を第二秘密基地としたのだった。
秘密基地に着くと、竹のゲートを上げた。ゲートの向こうに、木でできた古い小屋を隠してある。この竹のゲートは切ったものではなく、土から生えた生きた竹を使っている。ふさふさとした葉がよく茂り、上の方に紐を括り付けていて、それを下に引っ張り、隣の竹に括り付けている。竹はよくしなるので、こういう時は便利だ。
この小屋は、僕らが作ったものじゃなくて、もともとここにあった。それを勝手に借りているだけだ。誰も使っていないし、これから使う予定がない。だから、ここへは人が来ない。それで、僕らが基地として使うことにした。表から見ると、すすけた板壁に傾いた屋根、今にも壊れそうだ。誰かが使っているなんて思わないだろう。だから、あえて外はそのままにしてある。内装は少し手を入れて、使いやすくした。
「さあ、中に入ろう」
小屋に四人で入ったが、外とあまり変わらないほど寒かった。中は暗くてほとんど目が利かない。
「今、電気をつけるよ」
僕は入って右の棚に置いてある懐中電灯をつけた。これは、この小屋唯一の照明だ。それに白い紙袋を被せて、部屋の真中の天井にぶら下げる。天井までは手が届かないが、部屋の真ん中にはコタツがあって、それにのった。白い紙袋が、電気の傘の役目をはたして、部屋全体を明るく照らす。床は板張りで、そこへ段ボールを二重に敷いて、その上にうちで使わなくなった絨毯を敷いてある。真ん中にあるコタツは、残念ながら壊れている。たとえ使えたとしても、ここには電気はきていない。コタツは粗大ゴミとして捨てられていた。もちろん布団はついていないから、それに代わるものとして、山田が持ってきたキルトケットを使っている。
「ここには、ストーブとかの暖房器具はない。このコタツも見せかけなんだ。でも、ないよりはましだよ」
僕が言うと、
「これで十分だよ。ありがとう。君たちはとても親切だね」
サンタはそう言って、にっこりと微笑んだ。
「僕たちもう帰らないと叱られちゃうよ」
山田が腕時計を見ながら言った。
「それはすまなかったのぅ。わしは大丈夫じゃ。さあ、帰りなさい」
「また明日来るよ。今夜は冷えるっていうから、これ、あげるよ」
僕はポケットにしまっていたカイロをサンタに渡した。
「おお、これはあったかい。不思議な袋じゃの」
「それ、カイロっていうんだ。知らないの?」
サンタはきょとんとした顔をした。カイロを知らないなんて、おかしな人だ。
「その袋は開けちゃダメだよ。中には黒い砂みたいのが入っているんだ」
「俺のもやるよ」
サンタの無知さに内野も呆れたようだが、自分のカイロをサンタに差し出した。
「僕のもあげるよ」
こうして、サンタは三つのカイロと、あたたかくならないコタツで、一晩過ごすことになった。
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