第4話

 翌朝、僕らはサンタの待つ、第二秘密基地へと集合した。山田は早起きしたせいで顔が青白い。

「サンタ、まだいるかなぁ?」

 山田が心配そうに言った。

「どうかな? 中に入れば分かるよ」

 小屋を隠す竹のゲートを開けて、小屋の戸を開けると、サンタはコタツに足を入れて、じっと座っていた。

「おはよう。夕べは寒かったけど、眠れた?」

 山田がサンタに話しかけた。

「おはよう。君たちのおかげで、ぐっすり眠れたよ。今日も会えて嬉しいよ」

 目を細めて笑うと、サンタの目は眉毛と髭の間に埋もれてしまう。

「よかった。昨日より元気になったみたいだね」

 山田はうれしそうに言った。

「ところで、サンタさん。あなたが本物のサンタさんなら、クリスマスよりちょっと早く来てしまったようだね。今日はまだ十二月二十三日だよ」

 僕はそう言って、サンタの目を覗き込んだ。青い目が、子供のように澄んでいて吸い込まれそうな感じがした。

「ほっほっ、そうじゃな。まだ、プレゼントを渡すには早い。夕べは、子供たちの欲しい物を聞いて回っていたのじゃ。しかし、あの黒い風のせいで……」

 サンタは深いため息をついて、初めて会った時のように、がっくりとうなだれた。

「黒い風って? 聞いたこともないよ。風には色なんて付いていないよ」

 僕が言うとサンタは、

「いや、風にはいろんな色がある。白やピンクや緑、どれもみんなやさしくてあたたかい。じゃが、黒い風はいじわるで冷たい。あれが吹くとわしは元気がなくなるのじゃ」

 うつむいて、悲しそうに言った。

「サンタさん、僕に何かできないかなぁ?」

 山田はサンタの手を取り、真剣な顔でそう言った。彼はこの人が本物のサンタだと信じているのかもしれない。僕はまだそんなこと信じられなかった。ちらりと内野を見ると、呆れ顔で肩をすくめてみせた。

「君は本当に親切な子だ。わしの頼みを聞いてくれるかね?」

「喜んで。でも、僕にできないことを頼まれても困るけど」

「頼みと言うのは、わしのかわいいトナカイたちを探してほしいのじゃ。できるかね?」

「なんだ、そんなこと。簡単さ、まかせてよ。僕ら三人で探せばすぐ見つかるよ。ねえ?」

 山田は僕と内野の方を振り返り、同意を求めた。

「お前がそうしたいなら、協力するぜ。なあ吉田」

 内野は何を考えているのか。いるはずもないトナカイを探すなんて。それとも、サンタの言っていることを信じているんじゃないだろうな? 僕が返事をしかねていると、

「ねえ、探してあげようよ」

 山田がせがむように言った。彼はどうしても、サンタの頼みを聞いてやりたいようだ。

「いいよ。三人で探そう。でも、トナカイはどこにいるのさ」

 風で飛ばさたとサンタは言ったが、あてもなく探すなんて、見つかるか分からない。

「方向は分かっておる。この辺りの地図はあるかね?」

 地図なんて持っていなかったが、この辺りの地理なら把握している。小屋の入り口の棚には広告の裏が白いやつと、コピー用紙と、いろいろなペンが雑多に置かれてある。その中から紙を一枚と、黒いサインペンを持ってきた。

「ちょっと待ってね。今、地図を描くから」

 藤ヶ丘町のおおまかな地図を描いた。三丁目と四丁目は、東側に繋がった山がある。三丁目と四丁目の境には藤ヶ丘小学校。そこから西の方に行くと、一丁目、二丁目があって、藤ヶ丘商店街の西の外れに藤ヶ丘スーパー。そのとなりに藤ヶ丘町唯一のガソリンスタンド。藤ヶ丘商店街の北側には、藤ヶ丘中央公園で、その東側にゴローさんのいる駐在所。ゴローさんというのは、この町のただ一人のおまわりさん。そして中央公園の西側が五丁目だ。地図の中で、これは書き忘れてはいけない。八幡さんだ。これは愛称で、正式には青山八幡宮。こんもりとした小さな山のてっぺんにある。遠くから見ると、それはお椀で造った砂山のような半球の形をしている。八幡さんは僕の住む三丁目の南の端にある。これで、地図は完成だ。

「どう? こんな感じで」

 サンタに見せると、

「なかなか上手に描くものじゃな」

 と褒めてくれた。それからしばらく、それをじっと見つめてから、軽くうなずいた。

「他の色のペンはないかね?」

 僕は緑色のペンを持ってきてサンタに渡した。サンタはそれで地図に四か所に印をつけた。

「わしのトナカイが落ちた場所は大体この辺りじゃ。四頭おるのだが、お願いできるかな?」

「まかせてよ」

 山田は快く引き受けた。印のついた場所は、四丁目と三丁目の山の南と北の両端。それと中央公園の辺り。もう一か所は五丁目だった。

「あの子たちには地上に落ちたとき、人に見つからないよう隠れるようにと言ってある。だから、隠れられるようなところを探すといい」

 サンタはそう言った。しかし、落ちたところから移動されては、探すのに骨が折れる。

「もしかしたら、怪我をしておるかもしれない。だから、落ちたところからそう遠くに移動したとは思えんが」

 僕の心を読んだように、サンタはその疑問に答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る