第7話

 トナカイを連れて、神社の鳥居の前まで来ると、内野とたっちゃんが待っていた。

「見つけたんだな。よかったよ」

 内野は自分が見つけられなかったことを、ちょっと悔しそうに、

「最後は俺が見つけるつもりだったんだけどな」

 と言った。

「うそだろ? それ、本物じゃん。どこから連れて来たのさ」

 たっちゃんは目を大きく見開いて、驚いた表情をした。

「本当にいるなんて、思ってもみなかった。お前たちの空想遊びか何かだと……」

 あっけにとられて、口をあんぐりしたままトナカイに見入っている。

「まあ、その気持ちは分かるよ」

 たっちゃんは信じると言ってくれていたが、本物のトナカイを目の前にしたら、こんな顔にもなるだろう。

「本当にどこから連れて来たんだ? そんなの連れて歩いて大丈夫か?」

 大きなトナカイに怯えたわけではなさそうだが、この状況についてゆけないようだ。

「あのさ、考えたんだけど、これを連れて三丁目まで行くのってさ、目立つよな?」

 たっちゃんは不安そうに言った。

「この子は、サンタのトナカイでね、連れて帰らなくちゃならない。それが、今回のミッションだ」

「サンタって……。本気か? 俺は揶揄からかわれるのは好きじゃないんだ。冗談を言って、はめようとしていないか?」

 たっちゃんの言葉を聞いて、内野はわざとらしく大きなため息をついた。そして、たっちゃんの肩に手を置くと、

「残念だよ。お前がサンタを信じられないことがさ」

「うん、悪かったよ。お前らの空想に付き合えなくて。俺、家に帰ってゲームの続きをやろうかな? 現実の世界に面白いことって、ないもんな。ゲームの中なら俺は勇者にもなれる。仲間を助けてやるんだ」

 たっちゃんは、じゃあなと言って帰って行った。

「彼はバーチャルの世界にはまっているらしい」

「ああ。現実の世界だって、結構おもしろいと思うけどな」

 僕と内野は自転車を押して歩いた。トナカイは僕らのあとを大人しくついて来る。

「そういえば山田はどうした?」

「あっ、忘れてた」

 噂をすれば影。山田が後方から自転車を走らせてきて、僕らに追いついた。

「僕を置いて行かないでよ。ねえ、さっきいたのって、たっちゃんじゃない?」

 そう山田が聞いて、僕が答えた。

「そうだよ。トナカイ探しを手伝ってくれたんだ」

「話したの? サンタのこと」

 山田はサンタのことをたっちゃんに話したことを責めているわけではなく、たっちゃんがサンタを信じるはずがないと分かっているから、トナカイ探しに協力してくれたことを不思議に思っているようだ。

「ああ、信じなかったけどな。トナカイのことも見つけるまでは信じていなかったらしい。こいつを見て驚いていた」

 内野はトナカイの身体をポンと軽く叩いた。

「そうか……。残念だったね。せっかくサンタに会えるチャンスだったのに。あっ、そうだ、さっきね。『みやまん』の前を通ったら、おじさんがあん無しのまんじゅうをくれたんだ」

 白い紙袋の中に、手のひらサイズのまんじゅうが六個入っていた。

「ラッキーだったね」

 『みやまん』というのは、まんじゅう屋。サブネームがみやまんで、看板には大きく『三四郎』と書かれている。冬はまんじゅう、夏はかき氷を売っている。どちらかというと、夏の方が繁盛している。おじさんは子供好きで時々、試し焼のあんこが入っていないまんじゅうをくれるのだ。

 まんじゅうを食べながら、トナカイを連れて歩いていると、誰もが振り返る。藤ヶ丘と違って、ここには、たくさんの人が行き来しているのだ。

「ちょっと目立ってるよね」

「裏道はないから仕方しかたないよ。もう少しすれば、人通りも少なくなるさ」


 繁華街を抜けると、藤ヶ丘五丁目になる。そこまで来ると、人目を気にすることなく歩けた。町を歩いている人たちは、僕らをどう思っただろうか? クリスマスのイベントでもあると思ったかもしれない。まさか、本物のサンタのトナカイだなんて、きっと考えもしないに違いない。基地までの道のりは結構歩きでがあった。

「いい運動になったな」

 内野は体力があるからいいが、山田はちょっと疲れたようだ。約五十分のウォーキングを終えて、やっと、基地にたどり着いたのだ。

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