第一章11  『黒と灰』

車に乗って復帰した3人。 戦闘による疲労や侵食者への負担、死体など多くの要素が彼らを疲れさせた。 宮脇は愛待とリョウタに比べて経歴と経験が多いが、それでも依然として死体を見るのは大変だった。 リョウタは人々を救ったという事実と、戦いによる衝撃が共存していた。 3人はニコラスの部屋に入った。


「みんな、お疲れ様。 けがはないのか?」


「俺と愛待は軽い傷があり、それ以外はありません」


「そうか、それはよかった。 すでに事前にある程度報告は受けたが、今回の作戦はどうだったか?」


「侵食者が多かったですが、大きな問題はありませんでした。 ただ、俺たちが現場に到着した時、すでに犠牲者が出たのが残念でした」


「そうだなぁ…、それは本当に残念な話だ。 【クリスマスの悪夢】以来、むしろ侵食者の活動が増えている。 大きな事件に刺激を受けたのだろうか? なんだか気兼ねなくなったって感じがする。 もしかして今回の事件も何の関係があるだろうか? 愛待の意見はどうだ?」


「クリスマス事件は一つの起爆剤だと思います。 社会的に混乱を引き起こし、侵食者がタイミングに合わせてより多くの事件を引き起こします。 結果として、数多くの侵食者を生み出すための組織的な動きだと考えます」


「組織的な動き…、 そう、やっぱり愛待だ。 俺もそう思う。これは決して偶然ではない。 たぶん【Electioエレクティオ】が関与していたのだろう」


「エレ…、クティオ…?」


愛待とリョウタは初めて聞いた名前だった。 反面、宮脇は驚いた。


「大将!それを言ってもいいんですか?」


「まあ、いいじゃん、愛待と長谷川も新入だけど確かな隊員だから」


「それでもまだ話すには早すぎませんか。 特に長谷川は侵食者です」


リョウタは少し寂しがった。


「原則的に3年以上勤めた隊員だけに話すのが正しいだろう。 どうやらセキュリティのためだからさ。 でも俺は愛待と長谷川はこれからもずっと立派な隊員として活躍してくれると信じて言っているんだ」


秘密を共有することで結束を固めるというニコラスの意図もあった。 リョウタが口を開いた。


「あの…その組織は一体何なんですか?」


「エレクティオ、ラテン語で選択という意味だ。 彼らは「侵食」現象に深く関わっている。 一体いつから彼らが活動したのかは全く分からない。 聞いたところではとても遠い昔からだというが、それさえはっきりしない。 確かなのは、彼らの影響は世界中に及んでいるんだ」


ニコラスの話を聞いて愛待は口を開いた。


「影響というのはどのように及ぼすのですか?」


「彼らは単なる組織ではない。 世界各国の政界、財界と深く関わっているという噂がある。 文字通り、世界を後ろで操れる力があるんだ」


リョウタは彼の言うことを聞いて理解できなかった。


「それなら一体何のために侵食化を…」


「正直に言うと、俺もそれ以上は分からない。 情報があまりにも制限的だ。 多分それ以上は上層部か灰色の教団だけが知っているだろう。 ただ、彼らの行動は変則的だという事実だけが知られている」


「…灰色の教団って何ですか?」


「灰色の教団は白光騎士団の上位機関だと考えればいい。 本拠地はドイツにあり、聞いたところでは1000年近い歴史があるそうだ。 しかし残念ながらそれ以上は俺も知らない。 何の仕事をしているのか、またどうやって人を募集しているのかも。1000年という歴史の間に知られていることが少ないのを見れば、徹底的に管理していると思える」


「はぁ…、隊長、今日全部言っちゃうんですね。大丈夫ですか」


「ハハハハ、大丈夫、大丈夫。 どうせ俺も知っていることが少ないから。 君たちと同じだよ。 だから愛待、長谷川。 これからももっと頑張って活躍してくれ。 君たちを信じて機密を言ってあげたんだ。 そして君たちがいつかエレクティオの実体を明らかにしてくれ」


「はい!分かりました!」


機密を共有したという事実は、彼と彼女に責任感と結束力を植え付けた。 特に長谷川は信頼されていることがとてもうれしかった。


「でも、君たちも疲れているはずなのに、こんなふうにつかまえてすまんな。 3日間ゆっくり休めよ。特に長谷川は初めての任務だったから」


「はい!分かりました。ところでニコラス隊長、僕はどこで休めばいいですか?」


「そうでなくてもそれは考えていた。 もう長谷川も隊員なのにいつまでも隔離室で過ごせないよなぁ。でも、君はもう帰るところがないし」


「はい…、そうです」


「今は本部の寮で過ごしてくれ。 どうせ利用している人はほとんどいないから自由に利用してもいいぞ。 もちろん外に一人で出かけるのはダメだ。 君を信じてるけど、それでも侵食者だからさ」


隊員だが、依然として侵食者という壁が残っていることを感じたリョウタ。


「…分かりました」


「そしてこれをもらって」


「何ですか?」


ニコラスは服から封筒を取り出した。 リョウタは近づいてそれを受け取った。 その中にはかなりの金額のお金が入っていた。 そしてリョウタのネックレスも一緒に入っていた。


「大、大将、これは一体? それに僕のネックレスまで」


「俺が個人的に用意したお金だ。 そのネックレスを除けば孤児院と一緒に物が全部なくなったじゃないか? だから必要なものをそれで買えばいい。まだ初日だから給料日も遠いから」


リョウタは彼の思いやりに心から感謝した。 特に、彼は初日から侵食者である自分に親切にしてくれた。 リョウタにとって騎士団のメンバーの中で一番大切な人だ。


「あ、ありがとうございます ニコラス大将。 本当にありがとうございます!」


「じゃ、話聞くので苦労した! もう本当に休みに行けばいいぞ」





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





廊下を歩く三人。 戦闘による疲労、エレクティオ、灰色の教団など数多くの要素が彼らの頭を複雑にした。 しかし同時に早く休みたいと感じていた。 また、リョウタは何を買うか悩んでいた。 宮脇が静寂を破るように先に口を開いた。


「お前ら、明日何するのか?」


愛待が先に答えた。


「私は疲れて家で休みます」


その後、リョウタが答えた。


「僕は必要な物を買う予定です」


宮脇は彼の言葉を聞いてため息をつきながら言った。


「おい、長谷川。 隊長の言葉を忘れたのか? まだ単独行動は禁止だ。 お前はまず侵食者だ」


そのことを忘れていたリョウタ。 品物を買うことにうきうきしていて考えられなかった。 それでは品物をどう買えばいいか悩んだ。 立ち上がりから難関に巻き込まれたリョウタ。 思いもよらなかった変数が彼を邪魔した。 宮脇が口を開き続けた。


「だから、愛待。お前が明日長谷川と一緒に付き合ってくれ」


愛待は彼の話を聞いて心から当惑した。 まるで信じられないように当惑と若干の苛立ちが込められた声で答えた。


「はあー? どうして私が行かなければならないんですか! 宮脇先輩が代わりに行ってください」


「新入が先輩に言えないことがないんだな」


「あはは…」


自分のために作られた雰囲気が不便で申し訳なかったリョウタ。 彼も気持ちとしては一人で外出したかった。 一人が楽でもあり、彼らに迷惑をかけたくなかったからだ。 愛待が口を開いた。


「どうせ先輩も明日家でゆっくり過ごす予定じゃないですか?」


「そうだ。家で甘いものを食べながら休もうと思う。不満あるか?」


退く気が全くなさそうな宮脇。


「はあ…、とても堂々としてむしろ言うことが思いつかない…」


「お前たち同い年で、しかも同じ学校を出たじゃん。俺が行っても世代が合わないんだぞ」


「先輩もせいぜい20代前半なのに、そんなに差はありません」


宮脇はため息をついてポケットから財布を取り出し、その中にあったクレジットカードを愛待に渡す。


「おい、これでお前たちが必要なものがあれば買え。これでいいだろ? だからって、沢山買うなよ」


愛待は彼の言葉を聞いて一瞬戸惑ったが、再び普段の態度に戻って口を開いた。


「先輩が驚くほどたくさん買います。 長谷川くん、君も分かった? 先輩が後悔するくらい買うんだよ」


「あ、ああ…、そうだな」


あまり乗り気でなかったリョウタ。 他人に迷惑をかけることを嫌ったため、他人の物やお金をむやみに使えない性格だ。 それでいくら宮脇がカードを渡したとしても、それを使ってもいいのかずっと悩んでいた。


「金額がどれくらい出るのかスマホで見ているぞ。 そして長谷川、お前も突発行動するなよ」


「分かりました」


宮脇が遠ざかっていった。 愛待は短いため息をついて口を開いた。


「長谷川くん。仕方なくこうなったけど、 どうせ行かないといけないなら明日は完全に効率的な一日を過ごすんだよ。分かった?」


「わ、分かった」


「明日の朝10時に本部の前で会うのよ。 すぐ前なのに遅刻したら、徒では済まないからね」


「うん。遅れないよ」





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※






シャワーを浴びて隔離室に戻ったリョウタ。 荷物は本と患者服、制服以外にはなかった。 一つずつ寮に移したリョウタ。 最後の荷物を運んで隔離室を見た。 何もなくて退屈な空間。 それでも3ヵ月以上一緒に過ごしたので、少しは情が湧いた。 リョウタは何か物足りなさを感じた。


「もうここもさよならか」


寮で物の片付けを終えたリョウタ。 物とはベッドと机。 隔離室とあまり差がなかったが、今は透明ガラスでなかった。 自分だけの個人空間が保障された事実が一番嬉しかった。 リョウタは今後どんなことが起こるか楽しみで心配になった。


「僕はこれからどうなるんだろう…、 今日相手した侵食者、 本当に強かったよなぁ..。 それに3階では僕は何もできなかったし」


侵食者と戦った記憶が浮かんだリョウタ。 普通の人なら死んだはずの傷を何度も負った。 思い出すだけでもその時の苦痛と恐怖が再び蘇る気分だった。 呼吸が速くなり、体が震えるリョウタ。 冷や汗も出ていた。


「はぁ…はぁ…、 大丈夫だ。僕は大丈夫」


ゆっくり息をして安静にしようとするリョウタ。 その時、ふと侵食者の言葉が浮かんだ。


「意志と行動、そしてそれを成し遂げる力も必要なんだ」


命がけで戦った相手。 人を躊躇なく殺せる悪人。 そんな悪人の言った言葉から悟りを得た事実がリョウタは戸惑ったが、それでも納得した。


「その通りだ。 強くならないと。 僕が強くなってこそ、もっと多くの人を守ることができる。 力があってこそ意志が強くなれる」


リョウタは自分の力と精神がまだ足りないことを知っていた。 いくら覚悟を決めても、冷たい現実の壁は彼を何度も崩す。 彼は高度な訓練を受けた騎士団員とは違うことを知っている。 そのため、彼らと並ぶためには凄い努力が必要だと感じていた。 その上、疑問の組織であるエレクティオはどんな存在なのか見当さえつかなかった。


「はぁ…、まだまだ先は遠いなぁ… エレクティオ、灰色の教団。 どんな人たちだろう…? エレクティオは悪いやつらで、灰色の教団は······ 騎士団の上位機関だからいい人たちだよなぁ…?」


考え込んで頭が複雑になったリョウタ。 とりあえず、今はただ何も考えずにベッドに横になっていたくなった。 暖かいベッドの感触を感じながら横になっていた時、ふと愛待が言った言葉が思い浮かぶ。


「明日の朝10時に本部の前で会うのよ。 すぐ前なのに遅刻したら、徒では済まないからね」


「そうだった…、明日愛待と服を買いに行くんだった」


侵食者で単独行動ができないリョウタ。 外に出るためには誰かに必ず同行しなければならない。 そのため、あまりにも自然に愛待と約束をした。


「それにしても、これ、デ、デートなんだよな?」


愛待は学校で有名な美少女だった。 リョウタもそれをよく知っていた。 自分とは全く縁がなさそうだった人。 リョウタは今までデートをしたことがなかった。 もちろん、ミウとアユムと市内を何度も行ったが、ただ家族としか思わなかった。 初めてのデートを愛待とする事実がリョウタをときめかせた。


「考えてみれば、愛待とそんなに多くの会話をしたことがなかった。 せいぜい僕が隔離室にいる時、そして今日作戦する時以外は..」


ある意味,彼女はニコラス,宮脇と共に騎士団で最も長い付き合いをしている。 しかし、リョウタは彼女と多くの会話をしたことがない。 知っているのはただ学校で聞いた噂だけだった。


「騎士団の事を除いて会うのは初めて…、 愛待は何が好きなんだろう…、 デートはどうすればいいんだろう… そして、なんでこんなに緊張するんだろう」


緊張、ときめき、心配など数多くの考えがリョウタの頭にいっぱいだった。 なんとなく戦闘の疲れが消えたような気分。 一週間後の約束でもなく、明日あることだ。 しかし、リョウタは最も重要なことを忘れていた。 外出にあたって最も必須な要素を。


「そうだった。僕、私服がなかった」

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