第一章9 『まだ悲鳴を上げるには早いです』
侵食者の手首を折ったリョウタ。 侵食者は苦痛に悲鳴を上げた。 体の傷は再生されるが、侵食者によって速度は差がある。 その上、苦痛は平凡な人々と同じように感じる。 リョウタは彼の姿をただ淡々と見ていた。
「こ、こいつ…、よくも!」
「まだ悲鳴を上げるには早いです」
リョウタは右手に力を入れて侵食者の顔を攻撃した。 その後、左手で攻撃したら、侵食者の体の方向が再びリョウタに戻った。 彼は戻ってきた侵食者の髪をつかみ、ニーキックで腹を攻撃した。
「カハッ!」
姿勢が崩れそうな侵食者。 位置が自分より低くなったのを見たリョウタは右腕で侵食者の首筋を攻撃した。 すっかり地面に倒れる侵食者。 それでもリョウタは見逃さず侵食者の顔を足で踏んだ。 このすべての動作はわずか5秒しかかからなかった。 侵食者を冷静な視線で見下ろすリョウタ。 一抹の慈悲もなさそうな目つきだった。リョウタは振り返らずに口を開いた。
「君たちはあそこの部屋でちょっと待っていて。子供たちが見るには良くないからさ」
子供たちは急いである部屋のドアを開けてその中に入った。 リョウタは自分の姿を見せたくなかったので、わざと振り返らなかった。 今の自分の姿は完全な侵食者だからだ。 だから子供たちが怖がらないことを望んだ。子供たちが部屋に入るのを確認したリョウタは、侵食者を何度も踏んだ。 しかし、すぐに侵食者が反撃の姿勢を取った。
「俺を甘く見るなっ!」
倒れたままキックをする侵食者。 急な蹴りで後ろに譲り受けるリョウタ。 侵食者は彼に拳を振り回し始めた。 リョウタは見事にかわした。 しかし、侵食者が瞬間的にフェイクを混ぜた。 それにだまされたリョウタは一発殴られてしまった。
「うぅ…!」
今まで殴られたどんな拳よりも強かった。 侵食者の手は灰色に変わっていた。 どうやら鋼鉄に見える何かに手の性質を変えたようだ。 骨折した部位も鋼鉄に変えることで拳を握ることができた。 当たった部分を掴むリョウタ。 傷は再生されるが、打撃を受けた時の衝撃は頭の中にそのまま伝わったことを感じた。 侵食者は彼の顔を見ながら口を開いた。
「お前…今見たら侵食者だな。 もともと侵食者だったのか? それとも今侵食されたのか?」
「…そうですね。どうでしょうか?」
「腹の傷はもう治ったのか? 体の傷は大多数が再生済み。なんでそんなに早いんだ?」
「正直に言いますと、僕も分かりません。 そもそも望んで侵食者になったわけではありません」
侵食者はリョウタの言葉を聞いて不思議そうな表情をした。
「望んでなかったって? これは祝福であり自由だ。 誰にでもなれるわけではない。 侵食は結局巨大で純粋な欲望の証。 欲望は野望につながる。 野望のある人間はない人間に比べてさらに発展できるんだ」
「純粋な欲望ですか? 僕が今まで見た侵食者は皆悪い人たちでした。 一人一人が何を望んでいるかはわかりませんが、その方法は破壊と犯罪だけです。 そのような行為に一体何の意味があるんですか? 結局野望ではなく虚しい妄想ではないですか?」
侵食者はリョウタの言葉を聞いて悔しいが、何の反論もできなかった。 結局、社会的に認められない欲望の結晶体が侵食者だ。 その事実は本人も誰よりもよく知っていた。 侵食者は怒りを感じながら同時に諦めていた。
「はぁ…まったく話はうまいんだな————、 しかし」
侵食者がリョウタに向かって突進した。 そして拳で攻撃し始めた。 瞬間的な接近に戸惑ったリョウタは手で止めた。 しかし、能力によって普通の拳よりはるかに強かった。 まるで骨が折れる感じを受けた。
「ううぅぅぅ!」
「結局、お前も侵食者じゃないか! お前の話によると、お前も、俺も結局醜悪な欲望の結果だ! 他人に言う前にまず自分から振り向いてみろ!」
侵食者がリョウタに拳を振り始めた。 リョウタは彼の攻撃に危険性を感じ、避けることに集中した。 そうするうちに侵食者の拳が外れ、壁に刺さった。 素手でも壁を壊せる威力。 侵食者が口を開いた。
「おい、避けただけでは何にもならないぞ! さっきのように行動で証明しろ!」
「お望みでしたら、そうしましょう。 僕はあなたのような侵食者。 それは認めます。 だからこそ、侵食者である僕が人々を救うことができることを証明します!!」
侵食者はにやりと笑いながら拳を飛ばした。リョウタも同じように拳を振り回した。 二人の拳は触れ合ったが、リョウタの拳がむしろ衝撃によって打ち砕かれてしまった。
「ああっ————!!!」
「ハハハ、かなり痛そうだ。 それがお前の証明か?」
侵食者の拳は次にリョウタの顔を攻撃した。 彼の顔の下部はすっかりなくなった。 ものすごい苦痛に気を失いそうなリョウタ。だが、それにもかかわらず、彼の視線は再び侵食者に向けた。 侵食者の拳が再び来ようとしたとき、リョウタは身をかがめた。 そして左手で侵食者のあごにアッパーカットを放った。
「うっ!」
リョウタは休まず左手で侵食者の頭の後ろをつかんだ。 そして自分の頭で頭突きをした。 侵食者の鼻から鼻血が出た。
「カハッ!」
後ろに押し寄され、姿勢を取り戻そうとする侵食者。 リョウタはその隙を逃さず駆け寄った。 そして蹴りで侵食者のお腹を蹴った。 彼は壁の方に押し寄せた。
「こいつ…、生意気にしやがって…!、え?」
すでに侵食者の前にリョウタが来ていた。 彼は右手を後ろに伸ばして攻撃しようとした。 侵食者は瞬間的に防御姿勢をとった。 しかし、それはリョウタのフェイクであり、リョウタの左手は侵食者の頭をつかんだ。 その後、容赦なく壁に数回打ち込んだ。
「今は!悲鳴を!あげても!いいですよ————!!!」
リョウタの手は黒い光で輝いていた。 浸食者はめまいのため対応できなかった。 それからまだ侵食者の頭をつかんで壁を掃いて通り過ぎた。
「うおおお————————!!」
ある程度壁を掃いて浸食者を降ろすリョウタ。 荒れた攻撃の連続で息を切らしていた。 侵食者は顔を完全に血で覆った。 まだ生きているが、リョウタのように息を苦しくしていた。 ようやく立ち上がる侵食者。
「…まだ立ち上がれますか?」
「…お前、さっき何をしたんだ? 瞬間的に気を失ったような気がした」
侵食者の悪魔に近い特徴は少しずつ消えていた。 そしてなぜか戦おうとする意志が薄くなった。
自分に何が起こったのか見当のつかない侵食者。 ただ無数の連打によって気を失いつつあると思っている。 しかし、もう一度ニヤリと笑って。
「認める。お前は結局力まで持っていた。 それでは俺もそれに合う根性と行動を見せるのが正しいだろう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一方、3階では侵食者4人が全員制圧されていた。 隊長と呼ばれた侵食者以外は皆気絶した状態だ。 愛待は彼らを見守りながらさらなる抵抗に備えていた。 隊長が宮脇に口を開いた。
「こんなに強いとは…、 お前ら二人、かなり多くの時間を訓練したのか」
「お前たちと戦うためには、単純に身体鍛錬だけでは足りない。 逆にお前たちのような侵食者たちは自分の身体と能力だけを過信する傾向がある。 それが敗北の理由だ」
隊長はやがて気絶した。 宮脇は彼の姿を確認し、耳にあるインナーイヤー無線機で支援を要請した。
「警察官さん、騎士団です。 現在3階にいた侵食者4人を制圧しました。 彼らの護送をお願いします」
無線を切った宮脇は服の中から小さなチョコレートを取り出し、包装紙を破った。 そして愛待に口を開いた。
「お前も食べるか? ところで、上に上がっていたアイユーブが遅いなぁ」
「私は大丈夫です。 それより上の階で何かが起こったのではないでしょうか?」
愛待も宮脇も体に傷があり、制服は毀損されている。 愛待はリョウタのことが少し心配だった。 宮脇が再び口を開いた。
「ルナ、お前が上に上がって確認してきてくれ。ここにいる侵食者たちは俺が見守っているから」
「分かりました」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うおおおおお————————!!」
「ふあああああ————————!!」
リョウタと侵食者は互いに拳が行き交う戦いを続けていた。 特別な技術や武器なしにひたすら拳と足だけで戦う戦闘。 その空間には人間にとって最も原始的な暴力だけがあった。
「ハハハハ!楽しいなぁ―!楽しいぜ————! 優劣はこうやって決めるんだ!」
リョウタに拳を振る侵食者。 彼の拳を同じように拳で叩きながら被害を最小限に抑えている。 リョウタの手も侵食者のように鋼鉄のような性質に変わっていた。 お互いの拳は拳だけで相殺できる。 そのため、手以外の部位に当たれば相当な苦痛を感じるしかない。 しかし、リョウタは熟練度が低いため、侵食者よりもダメージが累積していた。
「他人の能力を吸収するのか? それはどう見ても俺の能力だ」
お互い息を切らしながら相手が動くのを待った。 リョウタの傷もいつの間にか再生が終わっていた。 侵食者はそれが全く信じられなかった。
「お前、再生速度が本当に速や過ぎる。 侵食者ごとに再生速度は違うというが、お前のように速いやつは初めて見た。 一体理由が何だ? 普通貫通したら20分はかかるんだぞ」
「良い情報ありがとうございます。 それでは更に攻撃します」
「隙あり」
侵食者はリョウタの攻撃を避け、拳をリョウタの腹に的中させた。 骨の折れる音が鮮明に聞こえた。
「再生速度だけを信じていつまでも戦えないぞ!」
「カハッ!」
壁際に飛ぶリョウタ。 彼が再び目を開けようとしたとき、侵食者の膝が目の前にあった。 彼の膝はリョウタの顔に的中した。 もう一度膝で攻撃しようとしたとき、リョウタは顔を横に避けた。 後ろが壁なので拳を伸ばせないリョウタ。 そのため、肘で侵食者の太ももを攻撃した。
「うっ!」
侵食者は反対側の足でリョウタにサッカーキックをしようとした。 リョウタは侵食者の足の間を掘り下げた。 その後、侵食者の足裏関節を拳で攻撃した。 侵食者の左足の靭帯が切れた。
「クアアアッ————!!!」
靭帯の負傷により姿勢が崩れる侵食者。 リョウタは侵食者を後ろから抱きかかえて床に投げた。 真横になった侵食者。 リョウタは彼の顔を拳で攻撃した。 強い衝撃によって顔の下部がなくなった侵食者。 リョウタはそれで次は胸を攻撃した。 侵食者は最後の力でリョウタのわき腹を攻撃した。
「ゴホッ!」
血を吐くリョウタ。 強い衝撃によって一瞬姿勢が崩れた。 だが、それにもかかわらず、彼の赤い虹彩は再び侵食者をにらみながら攻撃を続けた。 侵食者は彼の姿に恐怖を感じた。
‛いくらダメージを受けても全然ひるまない! 再生が早いと言っても苦痛はあるものだ。 こいつはまったく自分の体を気にしない..! まるで悪魔のような戦い方’
侵食者は話したかったが、口がなかったので話せなかった。 そしてリョウタの攻撃は続いた。 侵食者が完全に気絶していることを確認したリョウタは立ち上がった。 周りを見回すと、あらゆる場所に血がついていた。 衝撃によって破損した壁と床もあった。 リョウタが一人で息を整えているとき、非常階段のドアが開いた。 そこには愛待が立っていた。 残酷な現場を見て驚いた愛待。 そして一人だけ聞こえるほど小さく囁いた。
「長谷川くん…」
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