第一章3 『怪物の境界線』
リョウタを貫通した手を抜いたサトウ。リョウタはもう耐えられず倒れた。
「リョウタ! リョウタ——————!!!」
アユムはリョウタの状態を確認したが、生命の気配が消えていくのが感じられた。 瞳孔にはすでに焦点がなかった。
「なんで…なんで約束を守らないのよ!! ここまでする必要ないじゃん! 一体なぜあなたたちはすべてを奪うのよ...」
「お嬢さん、さっきも言ったけど理解しようとするな。 私はもうこの社会の怪物だよ。怪物に理解してほしいのか?」
「たったそれだけの理由? あなたも一時は人だったじゃないですか!」
「ふむ、それはそうだけど、 でもお嬢さん」
サトウはアユムに顔を近づけた。
「私が侵食者のことを忘れたみたいだな…、 私が決心していたら、君たちはすでに死体になっていた。こんな会話さえできなかったんだぞ」
「あ、ああ…」
アユムは後ろに体を慎重に奪うが、サトウは楽しそうに見守った。 そして手でアユムの首をつかんだ。
「まあ、十分楽しかったから、もう楽にしてあげる。次の生涯は喜劇の主人公になることを願うよ」
「リョウ…リョウタ…助けて…」
一方、リョウタは地面に倒れた時点から考え込んでいた。
‛僕.. このまま本当に死ぬのか? このまま本当に虚しく? 両親も殺された。 孤児院のみんなも殺された。 多分清水おじいさんもやられたかもしれない.. みんなの命が虫のように潰された。 そしてもうすぐ僕も死ぬ。まだやりたいこともたくさんあるのに… なぜ彼らはいつも奪ってばかりいるのか? 悔しい、悔しくてたまらない。 復讐したい。 彼らに同じように苦痛を与えたい。 僕がやられた分、同じようにしてあげたい! いや、違う.. 違う!復讐は僕がしたいことじゃない.. これは僕じゃない··· 僕はただこの世界がもっと優しくなってほしいだけ···’
その瞬間、リョウタの体から再び力が注がれた。 負傷は急速に回復し始めた。瞳孔は充血したように赤くなり、顔には黒い模様ができた。サトウは瞬間的に物凄い殺気を感じた。
「…その手を離してください」
リョウタの言葉はいつもより落ち着いていたが、威圧感が漂っていた。
「リョ…ウタ…?」
「うん?これはどういう状況だ?」
サトウはアユムから手を離してリョウタを振り返った。サトウは楽しそうに微笑んだ。
「ハハ、何だよ、 その間に侵食者になったのか? 生きたいという欲望が、それとも私への怒りが刺激になったのかな? 何であれ、かなりの侵食になるなんて、君は才能があるに違いない。私と一緒に行こう。君をもっと面白い世界に案内してあげる」
「そんなことには全く興味がありません。もう僕とアユムを放してください。お願いします」
「うーん?私が予想した答えじゃないな——? 人によって違うけど、普通は侵食されると自分の欲望にだんだん素直になるはずなのに、さっきと全然変わらないじゃないか?」
サトウはリョウタが信じられないような表情をしたが、すぐに再び微笑んだ。
「それでは科学実験をしなければならないな!少しずつ刺激を与えれば何か変化があるだろう」
サトウは手を伸ばしてリョウタをつかみ、がれきが集まっているところに投げつけた。
「お嬢さんはどこか安全なところで見守っていろ。侵食者がこんなに慈悲を与えることはほとんどないぞ?」
「わかりました。あと、リョウタは、リョウタはあなたに必ず勝ちます。そして私たちはまた日常に戻ります」
「果たしてどうだろうかな————、 君も気にならないか? あの少年がどこまで変わるか。多分この戦いが終わったらお嬢さんが知っていたリョウタじゃないと思うけど」
「そんなはずありません! リョウタは..絶対にあなたたちのような怪物にはなりません!」
「まあ、それは見守ればわかるだろう。 もうここを離れよ」
アユムは慌てて身をかわした。 がれきの山からリョウタが飛び出した。サトウは長く伸ばした手で再び攻撃した。リョウタは攻撃を受けたが、サトウの手が戻る前に捕まえた。
「うぅ、あぁぁぁ————————!!!!!!」
リョウタはサトウの手を握り、ひっくり返すように持ち上げた。
「な、何という怪力だ!!」
リョウタの指先が輝き始めた。サトウは反撃しようとしたが、リョウタの能力によって一瞬めまいを感じた。
「うわあああ—————!!!!」
リョウタは全力を積んでサトウを地面に放り投げた。
サトウはめまいがまだ消えないうちに空から宙返りを打って地面に刺さった。長く伸びた手によって高さが相当だった。立ち上がるサトウの顔から模様が少し消えていた。
「…一体これは何だ、なんで、なんで忘れてた記憶が浮かびだすんだ? …お前、いったい何をしたんだ?!」
「言わないといけない義務でもありますか————!!」
リョウタの右手が長く伸びてサトウを攻撃した。サトウは再び地面に倒れた。
「明らかに私の能力…! どう見てもそれは私の能力じゃないか! とんでもない、こんな経験は生まれて初めてだ。 他人の能力を吸収するのか?」
しかし、リョウタは答えず、もう一度拳を放った。サトウは避け、リョウタに反撃した。
「しかし、熟練度と経験は劣るなぁ——、 まあ当たり前なのか? 私もずいぶん浅く見えたな。リョウタ、これからは本気で行くぞ」
【バラのとげ】
サトウの腕は完全な野獣の形をしており、数多くのとげが生えている。そして一帯を中心に無差別に攻撃し始めた。ただでさえとげのある腕が速いスピードで動くため、リョウタが捕まりにくかった。
「ハハハ、もう終わりかな? 君ならもっと面白いことを見せられると思ったのに」
リョウタはサトウの腕に無差別に攻撃された。傷は再生されるが、精神的な疲労度はどんどん積もっていった。リョウタは隙を狙って右腕を伸ばし、サトウに攻撃を放った。
「まだこんな単純な攻撃が通じると思うのか? 手を伸ばしたことを後悔させてあげるよ。今までにない痛みだろう」
サトウは両腕でリョウタの右腕を巻きつけてつねった。 腕の神経全体がリョウタに多大な苦痛を知らせた。今すぐにでも気絶しそうだが、リョウタはかろうじて持ちこたえている。
「アアアッ——————!!」
しかし、サトウがリョウタの右腕に集中している間、リョウタが直接飛びついた。
「なるほど、右腕は囮だったのか!」
サトウが再び腕を回収するには時間が十分ではなかった。リョウタは左手にすべての力を集めた。
「くらえ——————!!!」
リョウタの左手がサトウの顔を殴った。床に強く倒れるサトウ。
「くはっ!」
サトウの手が元の場所に戻ろうとする。 リョウタはそれに気づき、サトウの顔を片手でつかんで持ち上げた。そしてまた床に強く打ち込んだ。サトウの手は外部からの刺激によってさまよった。
「こ、こいつが…!!」
サトウの腕が方向を見つけ、再び体の方に戻ろうとする。その時、リョウタはサトウの腕を足で踏んで、片手でサトウの腕を一本ずつ切ってしまった。
「人々を苦しめた悪い腕が、これですか————!!」
「うわあああ—————!!!」
サトウが物凄い苦痛に悲鳴を上げているとき、リョウタはサトウの体に乗り込んだ。そして拳で殴り始めた。 右腕はすでに再生済みだった。
「あなた達のせいで、お前らのせいで!! 罪のない人々が…、一生懸命生きていく人たちが死んでいく!!」
‛右腕がもう再生したのか? こいつ一体何者だ? 悪魔に愛されているのか?'
リョウタが攻撃をするたびに周りに血が散った。サトウはリョウタの攻撃によってますます気を失っていった。すでに戦意を失ったようだ。
「わ、私が悪かった。 完璧な私の負けだ···、だからもう…、許して···」
「許せだと・・? 怪物と言ったくせに今さら人間のふりをするんですか? 人々が助けてくれと命を祈る時、あなたたちは大目に見ましたか? 逆にやられてみてどうですか? うん? どうですか!!!」
勝負はついたが、攻撃は続いた。リョウタの攻撃からはすでに狂気さえ感じられた。
「リョウタ!」
見守っていたアユムがリョウタを呼んだ。 両目からは涙が流れていた。体も震えてた。
「リョウタ…、もうやめよう。 その人は.. もう負けたよ。このまま続ければリョウタもその人たちと同じになる… だからもうやめよう…?」
「…アユム」
リョウタはその時になってようやくサトウの状態を確認することができた。サトウはすでに気を失っていた。リョウタの手にはたくさんの血がついていた。
「僕は…、僕はいったい何を…、 僕も本当に怪物になったのか…?」
リョウタに突然ひどい頭痛がした。アユムはゆっくりリョウタに近づいた。
「く、来るなっ―!! このままじゃ僕が…、僕が何をするか分からない」
アユムは驚いたが、それでも近づいてきた。
「来るなって!!」
アユムはリョウタのもとに来て、凶悪な手を握った。
「リョウタは、怪物じゃない…、 リョウタはそのままだよ。 どんなにつらいことがあってもみんなにいつも親切なリョウタだよ。だから、もう、大丈夫だから…」
「・・・アユム」
リョウタの目から涙が出始めた。 頭のけがから血が出ている。 それで右目では血の涙を流しているように見えた。 二人はそのように黙って眺めた。 リョウタの顔から黒い紋様が徐々に消えていった。すると突然リョウタに向かって誰かが蹴りを放った。
「くっ!」
リョウタはどういう状況なのか全く把握できなかった。しかし、脅威を受けたことに対する本能で姿が再び変わっていった。
「そこにいる侵食者、死にたくなければ無駄な抵抗をせず、素直に投降しろ」
ある男の声が聞こえてきた。リョウタはその音に振り向くと、顔を隠して白い制服を着た二人が立っていた。体型から見て若い男と女に見えた。
「ちょっと待ってください。 僕は何の…あ…」
リョウタは倒れているサトウが見えた。そして変形している自分の手も。弁解の余地がなかった。
「何の言い訳をするか分からないけど、お前は間違いない侵食者だ」
「待ってください!リョウタには何の罪もありません! ここに横になっている人も侵食者なんですよ! リョウタは、 リョウタは私を救うために侵食されました… 侵食者だからといって、みんな同じ侵食者ではないんですよ!」
「・・・アユム」
アユムも侵食者によって両親を失ったため、簡単に吐き出すことが難しい発言だった。リョウタはそれを知っているので、深く感謝した。しかし同時に申し訳ない気持ちも感じた。
「侵食者たちは欲望に従って行動するが、普段はその姿を隠して生きている奴らが多い。あの少年が果たして今回侵食されたのだろうか? その前からだったかもしれないぞ」
リョウタは怒り、悔しさ、生存への脅威によって闘争心が生まれる気がした。
「あり得ないです! 私の知っているリョウタはそんなはずがありません! そもそもあなたたちが早く来たらこんなこともなかったんですよ! なんでいつも遅れて現れるんですか!」
制服を着た二人は静かに聞いていた。そして小さく話を交わした。男の方がまた口を開いた。
「申し訳ないけど、ルールはルールだ。 その少年が攻撃する意志が全くなくても、俺たちは連れて行かなければならない義務がある。 元々は即決処刑も許されるのは知ってるよな?」
「そ、そんな・・・」
リョウタは今からでもすぐに攻撃したいという欲求があった。 しかし、自分のために一生懸命弁護してくれるアユムを見て、やっと本能を我慢している。 そして孤児院の子供たち、清水など今まで縁を結んだ人々が浮び上がった。リョウタの怒りは徐々に収まった。
「…従います」
「なんだと?」
「素直に従います。 代わりにアユムも安全なところに連れて行ってください」
「リョウタ!あの人たちが何をするか分からないのにそんなこと言わないで!」
リョウタはアユムを眺めた。アユムの顔には相変らず涙が流れていた。リョウタの目からも涙が少しずつ出た。 そして微笑んだ。
「ごめん、アユム…、一緒に味噌汁を食べれなくて」
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