第一章2 『みんなの分まで』
「ゴホン、ゴホン... 一体何が起こったんだ··· あ、アユム!」
リョウタは慌ててアユムのもとに行き、様子を確認した。ほこりをかぶったが、表向きには大きな怪我はなさそうだ。
「大丈夫か? 目は開けれる?」
「リョウタ…」
「痛いところはない? 動けれそうか?」
「うん、大丈夫・・・ リョウタは・・・?」
「僕は大丈夫、 それにしても一体何が起こったんだ…」
「…リョウタあっち見て…」
アユムが手を指したところは孤児院だった。 リョウタが振り向くと、孤児院は完全に崩壊した。そして周辺一帯の建物までまともなところがなかった。 炎による暑ささえ感じられた。
「あ...あぁぁぁぁぁ!!!!」
リョウタは孤児院に駆けつけ、残骸を一つずつ掘り出した。 しかし、残骸は重く、多いため簡単ではなかった。
「どうか…どうか…、 一人だけでも、一人だけでも···」
心の中ではもう遅いことを認知している。それでも自分の考えが間違っていると証明したくて掘り続ける。けど大きな進展はなかった。
「一体なんでこんなことがずっと…、ずっと起きるんだよ…?僕はもう… 何も残っていない…」
過去に経験した悲劇が現在と交差する。自分ではどうにもならない理不尽さ。そして自分の無力さを感じるリョウタ。両目から涙が流れ出る。
「…リョウタ」
いつの間にかアユムが隣に座っていた。アユムも涙を流していた。今にも泣き出したがるが、必死に我慢しているようだった。そしてリョウタの流れる涙を手で拭いた。
「…アユム」
「もう行こう、リョウタ、みんなの分まで生きていこう、それが私たちにできることだよ」
リョウタはまだアユムという大切な家族が残っていることに気づいた。そしてポケットの中に入れたネックレスとオマモリを取り出した。
「僕…みんなの分まで… 一生懸命生きていくよ・・・」
そして二つを結んで一つにした。 再びポケットに入れてアユムの手を握ると、リョウタの指先が輝いた。
「リョウタ、それは…」
「大丈夫、こういう時に使うための能力だよ。そしてありがとう、アユム」
アユムが持っていた不安感、恐怖感が一時的に消えた。 恐怖感がなくなったため、アユムは以前より落ち着いてきた。 代わりにリョウタがアユムの感情を背負うことになった。
「・・・行こう」
「う、うん!」
リョウタはアユムの手を握って現場から抜け出すために走った。 しかし、走っても走っても廃墟は変わらなかった。
「一体どれだけ大きな被害が発生したんだ? 走ってもこの風景が全然終わらない!」
「爆弾みたいなもので攻撃したのかな・・? 一瞬にしてものすごい衝撃が··· これも侵食者の攻撃だよね?」
「そうだろう。こんなことをするやつらはあいつらしかいない。 僕と、アユム、そして養育員のみんなに一生の傷を負わせたやつらだからな!」
そのように走り続け、アユムが疲れた様子を見せた。リョウタもかなり疲れていた。すでに相当な距離を走っているため、当然の結果だった。
「リョウタ…、ちょっと待って…、ちょっとだけ休もう」
「そうだな…、僕も疲れた」
しばらく立ち止まって息を整える二人。少し落ち着いて周辺一帯を見回した。 清水じいさんのいる老人ホームも崩れているのが見えた。
「…清水おじいさん」
リョウタは清水からもらったお守りをポケットから取り出して眺めた。悲しい表情でそれを眺めてた後、再びポケットに入れる。
「…そろそろ行こうか」
「うん…、行こう」
リョウタが能力でアユムの感情を解消したが、あまりにも大きな悲劇が発生したため、再び悲しみが訪れた。リョウタはそれに気づいた。
「アユム、突然だけど、ここから出たら何からしたい?」
「やっぱりお風呂から入りたい。そして温かい味噌汁と鮭のある朝ごはんを食べたい···いや、正直に言うと生き残れるか不安だよ...」
「僕たちは生き残る。きっとそうだ。そしてお風呂に入って美味しいご飯も食べよう」
「うん、そうしよう」
その時だった。二人の前にスーツを着た怪しい男が現れた。 身体的には平凡だったが、顔には黒い模様があった。
「これは本当に可愛くて感動的なペアだね? 私、こういうのが前から大好きなので」
男はゆっくりと二人のそばに近づいた。 リョウタとアユムは本能的に危険を直感した。逃げたかったが、恐怖で動けなかった。
「リョウタ… 私、怖い…」
「大丈夫、アユムは僕が必ず守る」
男は二人の姿が面白いのか、さらににやにやした。そして顔を間近に見て隅々まで見始めた。
「そうなんだ、君の名前はリョウタ。そしてお嬢さんの名前はアユムか··· お互い家族かな? でも、家族にしては似てない··· 二人とも幼いんだけど···恋人かな? 確かに愛に年齢は関係ないし」
「大切な家族です、血は繋がってないけど」
「ああ、血がつながっていない家族か… 何の事情かは分からないけど、そういうこともある。家族は大切な存在だからなー―、 でもどうせなら恋人関係だったらもっといいのになあ—— 悲劇的な愛の逃避みたいでいいじゃない? 私はシェイクスピアのファンなんだ」
「いったい何を言っているのかわかりません。そして今、この状況をただ遊びだと思っているんですか? あなたたちが起こしたことではないですか?」
「そうそう、私を含む同僚たちがこれを企画した、どう? 一生忘れられないクリスマスになっただろ?」
リョウタは彼の反応に驚愕した。これほどの大型テロと殺傷を起こし、何の罪悪感も持たないことができるのか疑問だった。常識の線はすでに人間の境地を越えたように見えた。
「こんなに多くの被害を出して人を殺して、この状況が面白いですか? どうしてこんなことを平然とできますか? 何の罪悪感も感じませんか? あなたたちは人間ではなく怪物です!」
「それは私たちもよく知っている。 君たちは私たちが平凡な人間に見えるのか? ほら、見ろ」
男の頭から角ができ、腕からとげが出た。
「私も最初はこの姿が好きじゃなかった。 正直に言って、醜いじゃない? しかし、侵食すればするほど人間の理性が消えていく気がした。 私の姿がだんだん怪物に近づくほど、私はもっと自由を感じるようになった。 もちろん私も最初は私の行動を抑制しようとした。 しかし、時間が経つほど私を制御する性格と過去が記憶の中から消える気分になった。だからもっと行動に迷いがなくなったんだ」
「それでは一体どうして、 どうしてこんなことをしたんですか? 何が目的なのであえてこんなに多くの人を殺す必要があるんですか!」
「ふむ…そうだな…単純な娯楽? クリスマスじゃん。 何かポン!って派手なのが似合うんじゃない? ちょうど雪も降るからロマンチックじゃないか? さっきも言ったように、私たちが怪物であることは誰よりもよく知っている。 だからただの本能だよ。 大げさな目的を持ったやつも多いだろうが、私のように単純快楽のために生きているやつも多い。 まあ、今回のことの総責任者は何か目的があるようが··· 詳しいことは私はよく分からない。関心もないし」
平気そうに言うが、内容はそれこそ正常ではない。 リョウタは何も考えられなかった。 目の前の狂った男は自分たちをいくらでも殺すことができ、この状況を抜け出す方法さえなかったからだ。 アユムはすでにパニックに陥っている。
「…僕たちを殺すんですか?」
「殺してもいいし。 生かしてもいいし。 どうしようかな…? 実は私もずっと悩んでいた。 殺すには二人の姿が可愛くてさあ——、 さっきも言ったように、こういうのが好きなんだよ」
「アユムでも生かしてください、 お願いいたします、 代わりに僕が何でもします」
「リョウタ!何言ってるの! 私は大丈夫だから···リョウタが皆のために生きて…」
「おお、そうだ、これだよ、これ。 私はこういうのを待ってたんだよ! 幼いけどロマンチックなペアだな——、 じゃあ、こうしよう、 面白い勇者遊び」
「…勇者遊び?」
男の手が瞬間的に長くなり、その手で周辺一帯を整理した。 いつの間にか周辺は円形のように空間ができた。 空間の中には彼ら以外は何もなかった。
「どう?きれいでいいでしょ? この空間の中で君が私を相手に2分間耐えれば勝利。君が勝ったら二人とも放してあげよう。 代わりに失敗すれば、二人とも殺す。 どう? 面白そうだろ? 文字通り勇者遊びだ」
「それさえすれば···、 本当に生かしててくれるんですか?」
「本当だよ、約束する、代わりに…」
男の手が長くなると、アユムを指差した。
「このお嬢さんが逃げたら、すぐに二人とも死ぬ。ご覧の通り、こういう能力だから逃げるやつを捕まえるのはかなり上手だぞ?」
「に、逃げませんよ!! 私はリョウタと一緒に最後まで残ります! 私を侮らないでください!」
「あらあら、これは私が失礼を犯した。 謝るよ、お嬢さん。じゃあ、そろそろ始めてみようか?」
アユムは円形の外で待機し、リョウタと男は真ん中で向き合った。 男はにやりと笑いながらリョウタを眺めた。しかし、目はまるでカエルを今にも飲み込む蛇のように冷たかった。
「じゃあ始めるぞ! 正確に2分だ! 君を相手にする私の名前は佐藤だ!」
サトウという男はリョウタに向かって攻撃を開始した。しかし、サトウの攻撃は本気ではなかった。あくまで遊戯の目的だけで攻撃をしている。
‛はー、速い…! 今まで何秒経った? こんな攻撃を2分も耐えろって?’
サトウは本気ではなかったが、それでもリョウタには手に負えなかった。10秒が10分に感じられるほど長く感じられた。
「1分くらい経ったかな? 結構やるな——、じゃあ、これはどうかな」
サトウは両腕を伸ばし、真ん中を中心に円を描くように手で回転しながら攻撃した。 リョウタは瞬間的に姿勢を低くして見事にかわした。そのような過程を経て、ついに2分というスタートが過ぎた。
「2分!2分経ちました! もうやめてください!」
最後を告げたのはアユムだった。 アユムは切ない気持ちで時間を数えてた。
「おや、楽しい時間が終わっちゃった。 どう? 君も楽しかったか?」
リョウタは答えることさえできなかった。 リョウタの体には傷がいっぱいだった。 体のあちこちに打撲傷がいっぱいで、出血さえあった。すでに精神的にも身体的にも限界に近かった。
「あはは、答えられないのは当然だな、正直驚いた、せいぜい中学生にしか見えないのに予想以上だよ、君は」
その時、アユムがリョウタのそばに来た。
「も、もう行ってもいいですよね? リョウタはあなたの賭けに見事に勝ちましたからね!」
「そうだな——、 まあ、しかしねぇ..」
サトウの手がリョウタの腹を貫いた。 リョウタは口から血を吐いた。アユムはその光景が信じられなかった。サトウは自分の約束を守らないにもかかわらず、あまりにも平気な表情で口を開いた。
「やっぱり勇者は最後に犠牲した方が、物語がもっと面白くなるんじゃない?」
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