第一章1   『メリークリスマス』

時は2053年のクリスマス。ある老人ホームでクリスマスを記念していた。 そこには高齢者の他にも遊戯会をする子供たちと奉仕団体から来た人々も一緒にいる。 年齢はまちまちだが、みんなが楽しい日を迎えていた。


「メリークリスマスです、山本おじいさん」


「ありがとう、リョウタ君」


「メリークリスマスです、小林さん」


「おいしそうだね— ありがとう、リョウタ君」


「メリークリスマスです、 清水じいさん。 僕が作ったプリンです」


「いつもありがとう、リョウタ君。 ありがたくいただくよ。うん— 本当に甘く、おいしくできたよ」


「あはは、ありがとうございます」


サンタの格好をした15歳の少年リョウタ。清水は体が不自由なのか寝床で横になっている。


「リョウタ君。儂たちには君がこんなに毎度来てくれて本当にありがたく思っているよ。でも、今日のような嬉しい日には孤児院で子供たちと過ごさなければないんじゃないかな?」


「大丈夫です。どうせ夜は一緒ですから。今日は特別な日だからもっと来ないと」


「君は本当に優しすぎるから、むしろ心配になるくらいだよ。たまには自分のことを気遣わないといけないんだぞ?」


同時に笑う二人。 清水を含む老人ホームの他の人々にもリョウタの性格はよく知られている。個人ごとにリョウタに持つ印象は違う。しかし、彼の献身の気持ちは誰もが認めている。


「リョウタくん、今年も残りわずかで、来年は高校生だけど進路は決まったのかな?」


「はい、僕はやっぱりボランティア系だと思います。それでもう進学する学校も決まりました」


「確かにリョウタくんを受け入れてくれないと話にならない。リョウタくんがいけなかったら一体誰が行くんだ」


「あはは、そうですか?」


「ところでリョウタくん」


清水はそれからしばらく悩み始める。2年という時間知り合いのリョウタだが、以前から気になることがあった。しかし、それを聞くには迷った。


「清水おじいさん、どうしたんですか? 言いたいことがあるんじゃないですか?」


「あ、これを聞いてもいいかどうか悩んでいるからね。失礼になるかもしれないからな—」


「大丈夫ですよ、何でも聞いてください」


清水は息を一度飲んだ。


「儂はリョウタくんがここまで他人のためにくれることをすごいと思っている。VR装置DTドリームトラベラーがある今の時代にリョウタ君みたいな人は珍しい。しかし、ある時は強迫観念に見えたりもする。儂はそんなリョウタ君にどんな理由があってこんなことができるのか気になったのさ」


リョウタは黙って聞いていた。自らすら深く考えたことがなかったので、清水の言葉が頭の中に浮かんだ。


「わ、儂が余計なことを言ったようだな。すまない、リョウタ君。気にしなくていいよ」


「いいえ、清水おじいさん。大丈夫です。むしろ僕もなぜ今まで深く考えていなかったのか不思議ですね」


リョウタはしばらく考え込んでから口を開いた。


「僕が幼い時、侵食者が両親を殺害しました。僕はその後、今の孤児院に預けられました。院長の話を聞くには夜にドアの前に座っていたそうです。孤児院にどうやって来たのか覚えていませんが、僕はそうして孤児院のみんなと一緒になることになりました」


「そ、そうなのか・・・ ごめんね、リョウタ君。こんな話をさせて」


「あはは、いいですよ。もう10年は過ぎたことですから。今は両親の顔もあまり浮かびませんが、それでも僕には別の家族ができましたからね。 一時はすべてを諦めたかったのですが、皆が親切にしてくれて僕は立ち直る力を得ました。僕以外にも侵食者に親を亡くした子供たちがたくさんいます。みんなが最初、悲しい顔をして養育院に来ます。僕はそんな子供たちがこれからは笑いながら過ごせたらと願います。僕がもらったものを返してあげたいです。そして未来にはもっと多くの人々を笑わせたいです」


清水はリョウタの言葉を聞いてぼうっとしていた。今年で14歳の少年が言うにはあまりにも大げさな話だった。


「すごい。本当にすごいね、リョウタ君。儂は君がここまで深い考えを持っていたとは知らなかった。こんなによく育ってくれて本当にありがとう。 歪めずに優しく育ってくれて本当にありがとう」


そして清水はリョウタの手を取り、赤いお守りを渡した。お守りは少し古い気がする。


「ごめんな、儂があげられるのはこれだけだから。これはうちの家が代々受け継いだもの。元々は家族にあげる予定だったが、侵食者の襲撃でみんな命を落とした。唯一生き残った孫娘は現在、病院でいつ目を覚ますか分からない状況だからさ— こんな儂にとってリョウタ君は家族以上の存在。だからつまらないけどこれをぜひ受け取ってほしい」


「あ、ありがとうございます。こんなに大切な物を、僕がもらってもいいのか・・・」


「リョウタ君以外にあげられる人はいない。これは本気だよ」


リョウタはお守りを両手で大事に取った。


「恥知らずだけど、これからもたくさん来てくれ。リョウタ君はいつも歓迎だからね」


「もちろんですよ、清水おじいさん。これからもたびたび訪問します」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 




雪が降っている街を通って孤児院に戻ったリョウタ。 片手にはケーキを持っていて、もう片手にはチキンを持っている。 時間はもう夜7時を指していた。


「ただいま」


「リョウタお兄ちゃん!」


「リョウタだ!」


孤児院に着くと、子供たちがリョウタを迎えてくれる。 皆、リョウタが手に持っているケーキとチキンに目を離せなかった。


「リョウタ、何のケーキ?早く食べてみてもいい?」


「みんなで分けて食べて。 あ、みんなで分けるのは難しいのかな— 人がこんなに多いから」


子供たちはケーキとチキンを急いで食卓に持っていく。 20人近い子供たちが恐ろしい速度で食べ物を味わい始める。 食卓にはリョウタが持ってきた食べ物以外にも他の食べ物がたくさん用意されている。


「ほら、みんなリョウタに感謝の言葉はしたの?」


「あはは、大丈夫です、先生。 僕でも早く食べたいと思います」


先生の名前は青木。 20代後半の年齢に印象的な女性だ。 リョウタとはもう長い時間を共にしている。


「ケーキは自分で買ってきたの? 高いはずなのに言えばよかったのに。 一緒に行って選べばよかったじゃん」


「いや、老人ホームに行ってきて、しばらくケーキ販売のアルバイトをしました。 そこでもらって・・・」


「今日のような日は、少しゆっくり過ごせたらいいのに。 まあ、それがリョウタ君らしいよね」


リョウタとアオキは、子供たちが食べ物に夢中になっている姿を嬉しそうに見守っていた。


「リョウタくんも行って早く食べて。 食事はまだじゃないの?」


「はい。でも、みんなが食べ終わったら ゆっくり食べようと思います。 先生は召し上がりましたか? 先に召し上がってください」


「そんなこと言わないで早く行って食べなさいよ。 先生は大丈夫だから」


「あはは、分かりました」


リョウタは子供たちの間で食事をし始めた。 ケーキやチキンの他にもポテト、パイ、パスタ、寿司など多様な食べ物がいっぱいだった。 リョウタがおいしく食べている間、隣に一人の少女が座った。


「リョウタ、おいしく食べてるね」


「あ、アユム」


「すみません—、アユムで終わりですか? もう少し歓迎してくれませんか 」


「どうせ毎日見てるの・・・」


彼女の名前は橋本はしもとアユム。 肩まで来る茶色の短髪に茶色の瞳孔をした可愛い印象の少女だ。


「以前は私が何を言っても聞いてくれるリョウタだったけど、いつからか肌寒くなってさ— あぁ、悲しい」


「そりゃ、お前も再来年なら高校生なのにいつまでも甘えてやるわけにはいかないだろ? 僕ももうすぐここから出るし、 お前もそろそろ責任感を持つ必要があるんだぞ」


「ああ— また出てきた、小言。リョウタこそまだ中学生なのに大人のふりをするのが早いよ···そして出るって言わなくてもいいじゃん。 誰もが知ってるのに」


アユム少し悲しそうな表情を浮かべている。 リョウタはアユムの表情に気づいた。 そしてケーキ一切れをアユムの皿にのせた。


「僕が持ってきた。 食べて」


「私にこうする必要ないって」


「食べないの? それでは持って行くよ」


「違う、違う!食べるよ!」


必死にケーキを死守するアユナ。 リョウタはそれを見てにやりと笑った。


「僕がここから出てもよく来るから、 だから心配するな」


「まったく、誰が気にすると言った? 勝手にしてください」


そう言ったけど、薄い笑みを浮かべながらケーキを食べるアユム。 みんなが食事を終える頃に青木先生が口を開いた。


「さあ、みんな注目。 食事はおいしくした? みんなある程度食べたみたいだから、そろそろプレゼントを開けてみようと思うの。いいでしょ?」


「はい—!!」


自治体からのさまざまな贈り物を持ってくる青木。 子供たちが一斉に駆け寄り、プレゼントを開け始めた。中にはおもちゃや人形のように子供たちへのプレゼントが入っていた。


「アユムは行かなくてもいいの?」


「私はもうおもちゃで遊ぶ年は過ぎたから」


「そうかな」


「そうかなんて!私ももうすぐ高校生なのに当然のこと」


「それでもおもちゃ以外にも 使うものがあるかもしれないじゃん」


「みんなが選んだ後に行っても遅くないから」


そうしてひとしきり子供たちがプレゼントを選び、青木が口を開いた。


「みんな、それぞれプレゼントは選んだ?じゃあ、みんなで集まって。リョウタは前に出てきなさい」


「ん?僕が?」


子供たちが集まって座り、その前にリョウタと青木が立った。 リョウタはいまだに何が起こっているのか分からない様子だ。


そして青木は包装されている小さな箱をリョウタに渡す。


「これは何ですか?」


「早く開けてみて」


箱の中にはワタポメのネックレスが入っていた。ワタポメはポメラニアンをモチーフにしたキャラクターで、多くの人気を博している。


「ありがとうございます。とても可愛いですね」


「ネックレスを手に持ってメモリーと言ってみて」


リョウタはネックレスを手に取ってメモリーだと言った。 そしたらネックレスからビームプロジェクターのように映像を流し始めた。


「リョウタお兄ちゃん、いつもありがとう!」


「リョウタ、これからもたくさん来てね!」


「いつも応援してる!」


子供たちがみんなで参加した映像が出て、リョウタはそれを黙って見ていた。 映像が終わり、リョウタは涙を流し始めた。


「リョウタ、大丈夫?」


「はい、もちろんです。 なんで涙が出るんだろう?」


「さぁ、これで涙を拭いて。 リョウタがいない間にみんなで撮影しておいた。 プレゼントにはいいよね?」


「もちろんです。最高のプレゼントです。 ありがとうございます。そして、みんなありがとう」


「じゃあ、みんな来て リョウタを抱きしめてあげよう」


子供たちが来てリョウタを抱きしめて、リョウタも子供たちの頭を撫でる。


「ありがとう、みんな。本当にありがとう」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



プレゼント交換が終わり、それぞれプレゼントされたおもちゃで遊んでいる。 リョウタは窓の外に降る雪を見ている。


青木は外に行く準備をしていた。


「先生、どこに行くつもりですか?」


「牛乳でも買ってこようと思って。 さっき皆が飲んで落ちてね」


「じゃあ、僕が行ってきます」


「リョウタくんは休んでいても大丈夫よ」


「いいえ、僕が行きます」


「ありがとう、リョウタくん。 じゃあ頼むよ」


リョウタがコートを羽織って出ようとしたとき、いつのまにかがそばアユムがいた。


「アユムも行くのか?」


「まあ、雪でも見たらいいじゃん」


「そうだな、一緒に行こう」


ドアを出てゆっくりと入り口を歩いていく二人。 アユムはリョウタと適当な距離を保ちながら歩いている。


「きれい・・・」


「そうだな、ホワイトクリスマスだ」


しばらく立ち止まって雪を見上げる二人。 美しい光景に寒ささえ感じられなかった。 リョウタにとっては一年の終わり、そして保育園生活の終わりを感じさせる冬の天気だった。 そのように目を眺めていた時だった。


激しい爆発音とともに保育園を含む周辺一帯が衝撃で崩れた。 他の家や建物も崩れ、炎が激しくあがる。 空から降る雪は火を止めてくれなかった。 それはまるで戦争廃墟ようだ。


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