悪魔少年は救いを望む ~僕に与えられた再生力と能力吸収で世界を救います

ワタポメ

第一章 『正義の行方』

プロローグ 『悲しみの少年』

人通りの少ない暗い路地にある若い男が頭を掴んでぶつぶつ独り言を言っている。 そして白い制服を着た一人の少年が現れる。 少年の名前は長谷川良太ハセガワ・リョウタ。 端正にまとめた黒髪に黒い瞳孔をしたどこにでもありそうな印象だ。 顔は仮面で隠している。


「ターゲットを見つけました。 コードネーム 【アイユーブ】、 まもなく交戦に突入します」


「確認した。一人で大丈夫か?支援要請をしたので、そちらにすぐ行くぞ」


「分かりました。一人でも大丈夫です。 何かあったら連絡します」


リョウタは深い呼吸を吸い込んだ。 服の内側のポケットに入れていたネックレスを取り出して眺める。 決心するように目を閉じて再びポケットに入れた。 そして頭を掴んでいる男に近づく。


「おとなしく投降してください。 余計な戦闘はしたくないです」


男はリョウタの言葉を聞いて後ろを振り返る。 顔の半分は平凡だが、残りの半分は獣、あるいは悪魔に近い姿をしていた。よく見ると、袖の外に出た手も正常ではなかった。


「今俺に言ってるのか? どうして投降しろって言うんだ? まるで今すぐにでも俺を制圧できるように言うんだな」


田中朝日タナカアサヒ、 あなたの侵食はかなり進んでいます。 実際、無実の人を殺害した疑いもあります。 だからもっと被害を与える前にこの辺でやめましょう」


「そう、実際に俺の侵食はかなり進んだ。でも、知ってるか? 俺は今の自分がそんなに悪いと思う。世の中はとても窮屈、俺は今になってようやく自由を得た気分だ。そんな俺に自由を奪うなら徒では済まないぞ!」


アサヒはリョウタに飛びついた。 そして獣のような手を振り回す。 リョウタは必死に避ける。 しかし、アサヒの速度はリョウタよりはるかに速かった。そうするうちにアサヒの手がリョウタの胸を大きく切ってしまい、衝撃で倒れた。


「何だ!一人で来たからすごいやつだと思ったら大した奴じゃなかったじゃん! 能力も使う必要なさそうだ。 よし、早く処理してここを離れないと」


そしてアサヒは心臓を狙いながら手を伸ばす。 その瞬間、リョウタはアサヒの手を掴む。 そしてリョウタの指先が黒い光を放って輝く。アサヒは突然訪れためまいにリョウタの手を放すことができなかった。


「こいつ何をしているんだ!」


ようやく気が付き、リョウタの手を放す。その過程でリョウタの仮面も剥がれた。アサヒは素早く距離をとる。アサヒの手が徐々にに人の形に戻っていく。


「こ、これは一体何だ?なんで忘れてた記憶が・・・? ああ、俺は仕方なかった! 俺が悪いわけじゃない!! お前一体何をしたんだ?!」


アサヒの手が再び徐々に獣に近い形に変化していた。 そしてリョウタに向かって攻撃を仕掛けるが、リョウタがさらに速いスピードでアサヒを攻撃した。


「クッ!」


続く攻撃にアサヒは遠くへ飛ばされた。 アサヒが目を開けてリョウタを見たら、彼の姿はかなり変わっていた。 顔には血痕が現れており、瞳孔は赤色を帯びている。 手もアサヒのように獣に近い。


「ハハ、何だよ。お前も侵食者だったのか? それとも今さっき変わったのか? 何であれ、結局お前も欲望に忠実なやつだった! ところでその白い制服にその姿は本当に似合わないな。俺を攻撃したことは許してあげるから一緒に楽しもうぜ。欲望に自分を任せろよ」


「この辺でやめましょう。 僕もこれ以上は戦いたくありません。これ以上だったら僕もどうなるか分かりません」


「はぁ…分かった。そんなに死にたければ仕方ないな」


アサヒは手に軽い風を吹き、やがて風が手を包むように鋭い形になった。手を後ろに伸ばすと、さっきよりずっと速いスピードでリョウタに近づいた。 リョウタは瞬間的に手で防御姿勢をとった。しかし、アサヒの攻撃によってリョウタの左手が切断された。


「クッ…!!」


リョウタは右手でアサヒを攻撃した。 その後、蹴りでアサヒを蹴った。アサヒが目を開けて再び姿勢をとると、リョウタの切断された左手が飛んできた。


「これは何…え?」


アサヒが左手に気を取られている間、リョウタがすでに近づいており、タックルでアサヒを倒した。そして両手でアサヒを無差別的に乱打する。その姿は無慈悲な悪魔に近かった。


‛もう左手が再生されたのか?なんで再生力がこんなに速いんだ!このままじゃ本当に危ない、気が飛んでいきそうだ…’


アサヒは侵食によってある程度身体能力が強化なったが、リョウタも強化された筋力で攻撃するので無駄だった。


「す、すまない!俺が悪かった! 俺が負けた。 だ、だからもうやめてくれ」


「だから!最初から! そうすればよかったじゃないですか! 一体なんで!なんで! 血を見なければならないんですか!」


リョウタは最後の攻撃をわざと外した。そして怒りと悲しみが共存したまますすり泣いた。 アサヒはようやく目を開けその姿を見た。リョウタは片手をアサヒの頭に乗せたら、指先から黒い光が出始めた。アサヒの体が徐々に平凡な人間に戻った。ある程度進んだ頃、リョウタは立ち上がる。 そして苦しいように頭をつかむ。


「くぅ、くぅ… ああああああああ!!!! つらい!悔しい!! 僕は一体どうしてこんな風に!!!」


両目から涙が流れるリョウタ。 そうして数分すすり泣く。 徐々に落ち着きを取り戻し始める。 姿も徐々に正常な姿を取り戻す。


「···ここはコードネーム、アイユーブ。目標を制圧しました」


「お疲れ。大きな怪我や特異事項はないか?」


「はい、どちらもありません」


「分かった。上部に報告しておく。そっちに行く仲間と復帰できるように」


「はい、分かりました」


リョウタは近くの床に座り、アサヒをチェックした。アサヒはすでに気絶していた。リョウタは自分の手についた血を見る。


「どうしてこうなったんだろう…」


リョウタはその後、ネックレスを再び取り出して眺める。周りは何の音もなく静かだった。

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