8話目 アイテムボックスとストレージボックス
「ロデフさん家は……一体どこなんだろう?」
現在、迷子中です。
ついさっきからエシュレメントの商店街をずっと歩き回っている。
ゲームではギルドで会計できたのに!なんでこの世界ではわざわざ依頼人のお宅まで向かわないといけないんだ!
ともかく、そこらへんの人に道筋を聞いたほうがいいかな。
「すみません。ロデフさん家って何処か知ってますか?」
「え?ロ、ロデフの家ですか?でしたらこっちです。」
辿々しくそう言い、その男性は歩き出した。
ふう、良かった!一番はじめに話しかけた人がロデフさんの家を知ってる人で!
しかも口で案内するんじゃなくて足を運んでくれるんだぁ。親切だな。この人。
「ロデフに用でもあるんですか?」
男の人がそう尋ねた。
「ロデフさんの依頼をこなしてギルドに行ったら、家まで行けと言われたんです。」
「そうなんですね────って、え?!」
うんうん、と頷いた後、男の人は大きな声をあげ驚いた。
何をそんなに驚くことがあったんだろう。
男の人は混乱したような顔で足を止め、頭を抱えた。
「いや、そんな訳ないよな……この美人なお嬢さんはロデフを騙すつもりなのか……?」
何やらボソボソと呟いているが全く聞こえない。
「何て言いましたか?」
「独り言です。」
いい笑顔で即答された。
何て言っていたのかは正直とても気になるが、答えてもらえないようだ。
再び足を進めだした男の人に小走りでついていくこと数分。
「ここです。」
といい、男の人が足を止め、目の前の建物を見つめた。
そこには物語に登場するようなお城のような建物が堂々と立っていた。
所々に金の素材が使われていて、見るからに高そうな建物だ。
こんな所にロデフさんは住んでるの?!
気遅れしている私を見つめ、男の人は聞いた。
「あの…貴方が狩ってきたランカウを見せてくれませんか?」
「あぁはい。いいですよ。」
ロデフさんの家を見ているとなんだか吸い込まれそうなので視線を外し、アイテムボックスを開いた。
「これは…ストレージボックスですか?」
「?いえ、アイテムボックスですよ?」
「?!ア、イテムボックス……?!」
と男の人が驚く横で私はランカウを掴んで引き出した。
出来るだけ傷がつかないように、ランカウを軽く抱き上げる。
「これです。」
「ランカウを持……?!重くないんですか?」
「いや?あんま重くないですよ?持ってみます?」
「え、遠慮します……」
男の人は驚いたり呆然としたりと色々な表情を見せる。何か大変そうだな。
「ありがとうございました。すみません…こんな街中でそんな魔獣持たせちゃって……」
男の人はそう言い、私を興味深そうに見る人達に視線を向け、そして申し訳無さそうに項垂れた。
「全然大丈夫ですよ!ラスボスの時より視線が柔らかいし温かいので……」
最後だけ声を小さくし、ボソッと呟いた。
ラスボスの時の方が、多分人々の視線、痛いから。こんなの比べ物にならないくらい。
神妙に微笑む。
「あの…どうしました?」
「いえ、何でもありません。案内ありがとうございました。」
「あ、はい。では僕はこれで……」
男の人が去っていくのを見届けた後、ランカウをアイテムボックスにしまい、ロデフさん家に入ろうと、豪奢な門に立っている門番に話しかけた。
「すみません。ロデフさんに会いたいんですけれど……」
「ご用件は?」
「ロデフさんがギルドに出した依頼を達成したので報告をしにきました。」
そう言うと、門番は目を丸くして驚きの表情を浮かべた。
さっきから何でそんなに驚くんだろう────って、あぁそうか。驚くのも当たり前だよね。だってランクFの冒険者が、ランクCでやっと普通に倒せるくらいになる敵を、倒しちゃったんだもんね。
そりゃあ
「───主様の御部屋まで御案内します。ついてきてください。」
門番が重たそうな門を押し開き、中へ入っていった。
なんかすんなり納得してくれたな。ラッキー!
それにしても……この家、内装まで立派だな……。
見るからに高そうな壺。巨大な絵画。床に敷いてある踏み心地の良いカーペット。
全てが高級品で歩くのにも気を使ってしまう。こんなところにずっといたら肩がこりそうだ。ロデフさんは凄いなぁ。
「ロデフ様。来客がおりますので失礼致してもよろしいでしょうか?」
「良いぞ。」
「失礼します……」
私は何故か、面接されている時のような緊張感で、ロデフさんの部屋に入った。
ロデフさんは、傲慢な貴族ではなく、田舎の優しいおじいちゃんのような雰囲気を漂わせていた。
おかげで、肩の力を抜いて会話ができそうだ。
「何の用かね?」
「あ、あのっロデフさんがギルドに出した依頼の報告に来ましたっ」
一息で一気に喋る。
すると、ロデフさんは細めていた目を少しだけ丸くした。
「ほう…?見せてくれるかい?」
「はいっ」
ロボットの様な動きでアイテムボックスを開く。
「それは…まさか、アイテムボックス…?!」
「アイテムボックスってそんなに珍しいものなんですか?」
みんなアイテムボックスを見ると驚いた反応をするけれど、正直言って価値がよく分からない。
ゲームでも、イベントとかでアイテムボックスを開くととても驚かれるが、ただそれだけだった。
希少な魔法なのだろうか。
「珍しいなんてものじゃないよ。100万人のうち、1人でもその魔法を持っていたらとても運が良い、と言われるくらいなんだ。アイテムボックス持ちの人は、国宝として認定されるくらい、アイテムボックスは伝説級なんだよ。」
「えっ!?そんなに希少なんですか?!」
初めて知る事実に驚愕する。
でも…
「アイテムボックスがなきゃ、物を収納するの大変じゃないですか?」
前世のようにバックなどに収納するのも手だが、この世界では、ギルドの依頼などでモンスターなどの死骸を入れることだってあるはず。
「そうなんだ。だからアイテムボックスから派生する、「ストレージボックス」というものをつくったんだよ。」
「へえ…そうなんですね。でも、ストレージボックスができたなら、アイテムボックスなんて大切じゃないんじゃ……」
「いや。性能が全く違うんだよ」
「性能?」
私が首を傾げると、ロデフさんはうん、と頷き、私をソファへ誘導し、話を続けた。
「まず、アイテムボックスはいくらでも物が入るだろう?でも、ストレージボックスは自分の
「えっそれは面倒ですね」
「だから君のアイテムボックスは気安く他人に見せない方がいい。危険な目に合うかもしれないからな。」
確かに、金として利用されることがあるかもしれない。
「はい!気をつけます!」
でも私、今結構強いから、そこら辺のチンピラくらいだったら素手で倒せそう。
……というか、なんでロデフさんは私がアイテムボックス持ちだってことが分かったんだろう?
「あの、ロデフさん。なんで私がアイテムボックスを持っているって分かったんですか?」
「色だよ。」
「色……?」
そう言うと、ロデフさんは誰かの名を呼んだ。10秒も経たぬ間に綺麗な女の人が入ってくる。
「っ…?!」
その女性は、私を見て、何故か目を見開き驚いた。
私が眉をひそめると、その人は我に返ったように一瞬震え、何もなかったように真顔になった。
(………?)
「御用でしょうか。ロデフ様。」
「ストレージボックスを開いてくれ。」
「承知。」
女の人はそう言い、アイテムボックスのようなものを開いた。
……アイテムボックスじゃない。何かが違う。
違う所……色だ。
アイテムボックスは輝く純白だが、ストレージボックスは濃いめのベージュのような色をしていた。
これがストレージボックス!…ってゲームにこんなのあったっけ?
そんなの記憶にないな…。あんま重視してなかったんだな。主人公もアイテムボックス持ちだったからかもしれない。
「どうだい?違いが分かっただろう?」
「はい。色が違うからロデフさんは一目で分かったんですね!」
ロデフさんは満足度に微笑み、
「ご苦労さん。もう帰っていいよ。」
と言って女の人を退出させた。
そして、座り直し、こちらを向いて微笑みながら言った。
「随分長い間別の話をしてしまってすまんな。ではランカウを見せてもらおうか。」
「はい。……えっと、ここで出すと部屋が埋まっちゃうんですけど…。」
ランカウが大きくて多すぎて…。
「───そうなのか。では私のアイテムボックスに直接移してくれるかね?」
「はい!」
やっと一文無しじゃなくなりそうだよ……!
───────
約30分後。
「…何匹狩ってきたのかね?君は……これじゃあ本当に狩ってきたのか不安になってしまうではないか。」
「ギルドのランクはFですけど、一応レベルは50近いので。疑わないでください。」
「君が嘘をついていないのかは目を見ればわかる。これでも社交を繰り返した貴族なのでな。そういうのは敏感だ。」
「とても安心しました。あ、もう終わりますよ。この一匹が最後です。」
よいしょ、と最後の一匹をロデフさんのアイテムボックスに入れる。
───というか、今更だけど、ロデフさんってアイテムボックス持ちだったんだ。だからあんなにお金持ちなのかなぁ。アイテムボックスって怖い。
「───報酬の額を言おうか。」
「な、何フィルですか……?」
「予想の遥か上を行ってとても驚いているよ。報酬額は───」
顔を引きつらせながら、ロデフさんは告げた。
「───150000フィルだ。」
「じゅうごっ…?!」
えっと、宿屋一泊が大体50フィルだから……
「ええええええええっっ?!」
ゲームの「魔王」にいつの間にか転生してたので運命に抗います。 なつふゆ @natuhuyu
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