4話目 ランカウ討伐
わあああっ
おじさんたちの歓声が静かな町に響き渡る。
「嬢ちゃんすげぇな!口だけじゃなかったんだな!」
「口だけ、って失礼ですね。」
私にギルドで絡んできたおじさんが嬉しくない褒め言葉を投げかけてきた。
「はぁ……。じゃあ私はギルドに戻りますね。」
と言って人混みをかき分けながら路地へと向かう。
今戦いモードがまだ続いているから、早速モンスター討伐系の依頼を受けようかな。そろそろあの子たちに食料をあげなければいけないし。
─────あ、そういやあの子たちあの空間に入っちゃったんだよね。
なら食料は今私が持っている。
「サモン!」
私の前に真っ黒な空間が現れ、中から子供たちが雪崩のように転がりながら姿を現した。
「わあっ」
「おもい〜〜」
口々に愚痴りだしたが、私の姿を見るとすぐに口を閉ざし姿勢を整えた。
まだ幼稚園くらいの年なのにこんなこと出来るんだ。凄いな。
「お腹すいた人ー。手、上げて。」
とみんなに呼びかけると、ちらほらと手が上がっていって、終いには全員の手が上がっていた。
みんなお腹すいてたんだな。
「じゃあ、はい。これ食べて。」
魔力を大量に出してみんなの手にのせる。
全員目を見開いて、それぞれの手にのった私の魔力を凝視する。
「こ、これは何でしょうか?」
「それは私の魔力。あの空間に入ったあなた達は私の魔力が食べれるようになったんだよ。」
「本当ですか?」
「うん。毒はないし、味はヴェラとヴェラディーが保証するから安心して。」
私は自分の魔力が食べれないので味について口出しはできないが、ヴェラに魔力を渡すとあんなルンルン顔で帰っていくんだから、きっと美味しいはず!きっと。
複雑そうな表情で私の魔力を見つめていた子供たちは、しばらくして、ゆっくりと魔力を口に近づけた。
そして────目を輝かせた。
その反応ってことは………!
「どお?!」
「甘い、です。黒砂糖みたいな味がします。」
「すごく濃厚です。でも飽きないような味です。」
「こんな濃いもの食べたことないよぉ…甘すぎ…おいしい……。」
「俺、甘いもん苦手なんだけど……。うまいな。」
「お腹にたまらなそうなのに、結構お腹いっぱいになりますね。心なしか体もあったかいです。」
感想を口々に言ってくれた。みんなの意見からまとめると、私のどす黒くて見るからに不味そうな魔力は、甘くて濃厚で美味しいらしい。「体が温かい」のは、私の魔力が子供たちの体に吸収されたからだろうか。黒砂糖みたいな味(らしい)でこのふわふわとした見た目と言うことは───つまり「黒い綿菓子」ってこと?!な、なんだか私も食べたくなっちゃった。私、実は綿菓子が大好きなの。夏祭りに行くときは欠かさず買っていたし。
涎が垂れそうになり、慌てて口の周りをを乱暴に拭う。そして、目の前で美味しそうに
最後の一口を名残惜しそうに頬張る子供たち。もうみんな食べ終わったかな。
「じゃあ帰ろっか?はい。入り口用意しとくね。」
と言って空間を生み出す。
子供たちは一言ずつお礼の言葉を口にして空間に入る。
いい子たちだ……!
よし。これからもう一度ギルドに行こう。
───────
「失礼しまぁす。」
なんとなくそう言って扉を開ける。
ギルド内が突然静まり返る。
え?どうしたの?なんか視線が私に集まってきて気まずいんですけれども……。
「ボス!こんにちは!」
「ボスの席開けといたぜ!」
「なんか食べたいもんあるか?ボス!」
「は?!ボス?!」
なんで私の呼び名が「ボス」になった?!
「だってアイツに勝ったんですよ?この町じゃあアイツが一番強かったので、アイツに勝ったあなたは、もうこの町のボスです!」
あのおじさんが一番強かったのか……!あの人が強いとは思わなかったけどな……。
まぁ理由はなんとか納得できたのだが……。「ボス」という呼び名が気に入らない。だって「ボス」だよ?!私が転生したのはゲーム内でいつか「ボス」になる魔王だよ?!なんかゲームの展開みたい……。
その呼び名はどうしても変わらないようなので、諦めて依頼を受けにカウンターへ向かう。
カウンターには5人ほど人がいたが、ほぼ全員が他の冒険者と会話をしており、空いていたのは1人だけだった。しかもその人は私が冒険者に登録したときのおじさんだ。
うげぇ。と思いつつ、すぐに依頼を受けたかったので、しょうがなくそのおじさんに話しかける。
「おじさーん。依頼下さいー。」
「おお。ボスか。登録の時はすまんな!何の依頼がいいんだ?」
「おじさんもボスって呼ぶんですね……。ま、いいや。討伐系の依頼ありませんか?」
私がこんなに討伐系の依頼を受けたい理由はもう1つある。
「あー。Fランクじゃあそういう依頼は少ないんだが……。これはどうだ?」
「どれですかっ?!」
「うおっ急に近づくな。ビビるじゃねぇか。これだ。これ。」
そう言っておじさんは一枚の紙を見せてきた。
『ランカウ討伐
ランカウ1匹につき1000フィル(通貨)
部位を全て残したまま、即死させること。』
「ランカウはランパント草原にしか出現しないCランクモンスターだ。しかも即死させてそのまま連れてこい、とは面倒くせぇ。あと訳が分からないのは、その依頼をFランクの冒険者にやらせるところだ。冒険者が慌てふためくところが見てぇのか?」
おじさんがブツブツと文句を言っている。
そんな中で私は一人興奮していた。
私が討伐系の依頼を受けたい理由は、「おじさんを倒した直後で戦いモードだから」というのもあるが、これが本望だ。
ランカウ討伐。それは主人公が最初に受けられる依頼のうちの1つ。そして金が楽に集められる依頼の1つでもある。「即死」なので一発で倒す必要があり、はじめにその依頼を受けておいて、中盤でクリアするような依頼だ。私もおじさんのようにこの依頼をした人に疑問を持っていた。が、大金を貰うことが出来たので全ての周回でこの依頼を受けていた。
ちなみにランカウとは真っ赤で牛のような見た目をしたモンスターで、即死したそいつの肉は最高に上手いらしい。この依頼をした人はきっとランカウの肉が食べたかったのだろう。
「喜んで受けさせて頂きます!」
「おお、そうか。ほい。そこの地図やるからくれぐれも死なないようにな。」
「はーい。じゃあねおじさん!」
「いい加減おじさんって呼ぶのやめてくれ…………。」
───────
「ヴェラディー、そこらへんで止まって。」「ヒヒン」
ヴェラディーが静かに地面に足をつける。
魔力をあげてヴェラディーを帰らせる。
そして私はランパント草原を見まわした。
そこにはどこまでも続きそうな野原が広がっていた。
太陽の光を反射して緑が綺麗に輝いており、モンスターがいなければ人気になる場所だろうというところだ。
「さ。ランカウいっぱい倒すぞー!」
ドダダダダダ
私の気合の声はランパント草原にいるモンスター達の足音でかき消される。
さすがランパント草原。うるさい。
「ランパント」とは「暴れる」という意味。なのでこの草原には、突進攻撃を中心とする素早さがかなり高いモンスターで溢れていた。
早速「ランパントラビット」が突進してくる。
「サモン」
そう呟いた瞬間、闇のオーラで包まれた、邪悪で巨大な剣が何もないところから出現した。
それを両手で構え、力任せに振り下ろす。
「はあっ!」
「ギャギュッ」
一瞬でランパントラビットが粉々になった。残骸を見つめ、剣を振り下ろしたままの姿勢で硬直する私。
「…………魔王の証、凄……。」
「魔王の証」とはこの剣の名称だ。魔王の痣があり、なおかつ魔王の才能があるものしか扱えない魔剣で、条件に当てはまっていない者が「魔王の証」を持とうとしても、重すぎてびくともしないらしい。私にはとても軽く感じられるのだが。
この魔剣でランカウを倒すのはやめておこう。ランパントラビットほどではないが、きっと粉々になってしまう。
どうやって倒そう、と悩んでいた途端、私の体が金色に輝きだした。
「え?!なに?!」
と慌てていたら、目の前に自動でステータスが現れた。
『ヴェラディン 呪いの子 Lv.1 → Lv.6
HP 200 → 300
MP 110 → 150
STR 60 → 70
ATK 50 → 60
INT 360 → 400
RES 360 → 400
DEF 170 → 200
闇属性の攻撃だと、2.6倍のダメージを与えられる。
《スキル》
『アディアタック』
冒険者ギルド Fランク』
「レベルの上がる速度おかしくない?!」
驚きで思わず叫ぶ。
体が金色に光ったのはレベルアップしたからだったのか。Cランクのモンスターを倒したからか一気にレベルが6になったな。ここのモンスターを倒しまくったら結構なレベルいくんじゃないか?
よし。ランカウのついでにここらへんのモンスターを倒していくぞ!
───────
「ふう………。大分倒したかな。」
額ににじんだ汗を拭い、確認のためステータスを開く。
『ヴェラディン 呪いの子 Lv.46
HP 1400
MP 700
STR 326
ATK 316
INT 890
RES 890
DEF 571
闇属性の攻撃だと、通常の6.6倍のダメージを与えられる。
《スキル》
『アディアタック』『能力値透視』『思念伝達』『知力上昇』『攻撃力上昇』『能力値偽装』『身体偽装』『闇の呪い』『魔王の威厳』『ブラックホールブレード』『闇の吹雪』
冒険者ギルド Fランク』
………なんか急激に強くなったなぁ。一撃で倒しちゃってたから全体攻撃しすぎたことが原因なんだろうけど。
ランカウは
ランカウ以外のモンスターを合わせたら、合計で200匹ほど倒したのだろうか。
モンスターのランクが高いだけあってレベルがぐんぐん上がるし、あらかた倒して戻ってきたら、自然と敵が再出現していてくれたお陰でたくさんランカウを倒すことが出来たので、まさに一石二鳥だ。
見上げると空が茜色に染まり始めていた。
「そろそろルルフェンに戻ろうかな……。」
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