3話目 冒険者ギルド
「さて…これからどうしようか。」
手を腰にあててう~んとうなる。こんなにたくさんの子供を連れていくとなると嫌でも目立つ。しかも私も子供だから変な集団になってしまう。
私がうなっていると、
「あの……。」
「ん?どうした?」
一番前にいた男の子がおずおずと口を開いた。
「「冒険者ギルド」ってものがこの町にあるらしくて…そこで依頼を達成したらお金が貰えるとかなんとか聞いたことがあるんですけど……。」
「それだ!」
思わず男の子の肩を掴んで揺らす。
冒険者ギルド!冒険者のためにつくられた組織で、モンスター討伐や薬草の採取、町の問題解決など幅広い依頼があり、それをこなすと報酬が貰える。依頼をたくさんこなすとお金が貰えるし、ランクがあがったりするからゲームでよくやってたなぁ。
「じゃあ冒険者ギルドへ行こう!───の前にみんなを隠さなきゃ。」
私は再度、頭を抱えるはめとなった。
───────
「───こんなかに入れる?」
「こ、この中にですか?」
「うん。」
私たちの前には今、真っ暗な丸い空間が立っている。この中は見た目と違って明るいし、広くて快適だから子供たちが入るには良いと思うんだけど……。
ちなみにこの空間には、本当は召喚された魔獣が入っている。召喚魔獣が主人に召喚されていない時には魔獣はそこでくつろいでいるのだ。
1匹の魔獣に1つその空間が用意されている。なので2匹の魔獣を召喚出来る者にはこの空間を2つ出現させることができ、逆に1匹しか召喚出来ない者には1つしかその空間を出現させることができない。
私の場合、謎に5つ空間を出現させられたから、今3つ余っている状態(2つの空間はヴェラディーとヴェラの分)。だからその中に子供たちを入れればいいんじゃないかな、と思ったのだ。
「大丈夫大丈夫!はい、入ってー。」
「信じますよ……。」
おずおずと入っていく子供たち。
よし、全員かな。
「これで君たち、私の召喚魔獣…じゃなくて人間?になっちゃったね。」
そう言い残し空間の入り口を閉じる。
さ、ギルドへ行こう。
───────
「失礼します……。」
キイ、と扉のきしむ音を聞きながら『冒険者ギルド』とでかでかと書かれた看板の建物に入る。
一気ににぎやかな声が耳に届いてくる。
レストランのようにたくさん机の上には料理がのってあり、大人たちが騒ぎ立てていてうるさい。奥にカウンターがあり、数人が立って冒険者らしき人たちと会話をしていた。
ここが、冒険者ギルド……!
さっそく奥のカウンターへ向かう。
「あ?なんだ?嬢ちゃん。こんなところ来て。」
「登録したいんですけど……。」
「嬢ちゃんが?ハハッ。帰りな。」
あっちいけ、と言って私を追い払おうとした受付のおじさん。そう簡単に私は諦めないぞ!ゲームの楽しみの1つでもあったギルドを!
「登録させて!」
「ダメだ」
「何でですか?!」
「幼すぎるだろ。モンスター討伐で死ぬぞ。」
「とにかく!登録だけはさせてください!」
「………はぁ。しょうがねぇな。登録だけだぞ。」
「ありがとうございます!おじさん!」
「おじっ………」
何やら変な顔でこっちを見たおじさんだったが、しぶしぶと奥へ歩いていった。
何かを持って帰ってくる。
「はい。これに嬢ちゃんの名前を書きな。」
小さな紙とペンを手渡してくる。受け取り、自分の名前を書く前に、
「日本語でいいですか?」
一応聞いてみる。
「ニホンゴ?何だそりゃ。」
紙に「ヴェラディン」と書き、おじさんに見せる。
「これ。読めますか?」
「ヴェラディン、だろ?大人をからかうな。」
あ、日本語通じるんだ。転生する前のあの声が翻訳してくれたのかな。助かった。
「もう登録は終わったぞ。帰れ帰れ。」
「え」
突然、紙が光り出し、宙に浮いた。そして、私の体の中へとゆっくり入っていく。おお、すごいな。これで完了か。
「嬢ちゃんストレージボックスってどれくらいの大きさだ?嬢ちゃん、絶対なにか依頼をくださいって言いに来るだろ。ストレージボックスの大きさで依頼が変わるからな。一応確認しといてやるぜ。」
「ストレージボックス?」
私は首を傾げた。ストレージボックスって、アイテムボックスのことかな?
「これですか?」
片手を出す。その上に召喚する時のような空間が現れる。
その空間と違うところは、色や入れられるものなどだ。
アイテムボックスは白く輝いていて、まぁ、なんでも入れられる。生物なども入れられる。この中に子供たちを入れても良かったのだが、多分あっちのほうが居心地はいいと思う。なぜかというと、この中にギルドの依頼でよくモンスターの死骸を入れたりしているからだ。この中に子供たちを入れたら、死骸と一緒の空間にいさせることになってしまう。
「ストレージボックスじゃない気もするが……まあいいか。どのくらい入る?」
「えっと……この町にいる人全員入れられるくらいだと思います。」
本当はいくらでも入るけど。
さらっと告げると、おじさんは怪訝そうな目を向けてきた。
「絶対嘘だな。」
「いやいや。本当ですよ。」
「そんな嘘ついてもランクは昇級しないぞー。」
「嘘じゃありません!もういいです。また来ますね。」
「来るなよ。俺の勤務日には。」
「来ませんよ。」
そう吐き捨てる。このおじさんいけ好かないな。今度ギルドに来たときは別の受付に行こう。
そっぽを向いて出口へと歩き出す。
「嬢ちゃん。ここになにしにきたんだ?」
突然、真横から話しかけられた。横を向くと、熊のようなおじさんが立っている。
あぁ、絡まれるやつね。これ。面倒くさいなぁ。
「登録しにきただけなんですけど。なんか文句でもあるんですか?」
つい強い口調で言ってしまった。
すると、突然おじさんが笑い出した。
「ハハハ!!嬢ちゃん、死ぬ気か?そんなちっこい体じゃあスライムだけでも死ぬぞ?」
うわ。このおじさん、カウンターにいたおじさんと同じこと言うじゃん。ストレスたまるなぁ。
「どうすれば私のこと信じてくれますかね?」
冷ややかな視線をおじさんに向ける。
「んぁ〜。そうだ!こいつの召喚魔獣倒せたら信じてやってもいいぜ。」
おじさんが隣にいるもう一人のおじさんの首に腕をまわした。
ギルド内が笑いで包まれる。
「アイツの召喚魔獣は誰にも負けたことねーんだぞ。あんなガキが勝てるかってんだ!!」
バカにするような笑い声を出す人たちに、私の
バァンッとそこらへんにあった机を叩く。
ギルド内が急に静かになった。みんな動きを止め、私を見ている。
「その魔獣とやらと戦ってやりますよ。場所は?広場でいいね。」
シーンと静まり返るギルドを背に、私はやや乱暴に扉を開け、外に出た。
───────
「戦う、とは言ったけどさ、あれ結構無意識だったんだけど……。」
はぁ、とため息をついて周りを見回す。私とこれから戦う相手を囲むように広場に人が並んでいる。ギルドの4倍くらいの人がいるんだけど?!どういうことだろうか。
「さぁ、始めよっか。君が死んじゃっても知らないからね?」
ニヤニヤとしながらスタート位置まで歩いていくおじさん。頬を引きつらせながらも、
「こっちも、アンタが死んだとしても放っておくからね。」
と返す。嫌な雰囲気が二人を纏った。
向こうは私を舐めている。それを利用しよう。
「嬢ちゃん、武器は?」
私たちを囲んでいる人たちの1人が聞いてきた。
「私は魔法を使うので。武器はいりません。」
「MP尽きないようにな!」
そう観衆が言い、広場が笑いの嵐に包まれる。
この人たち全員嫌いだわ。あとで1人1人ボコボコにしたい。
「すぐ尽きるほどMP少なくないぞ!」
と言ったあと、ある事実に気がついた。
───私、今の自分のステータス知らない。
だから私のMPがどのくらいあるのかも分からない。
ステータスが見たいのに見方が分からない。
すると、私の前にモニターが現れた。そこには、
『ヴェラディン 呪いの子 Lv.1
HP 200
MP 110
STR 60
ATK 50
INT 360
RES 360
DEF 170
闇属性の攻撃だと、2倍のダメージを与えられる。
冒険者ギルド Fランク』
と、私の情報がかいてあった。
これ、ステータスじゃね?レベル1なのに桁がおかしいんですけど。とくに攻撃魔力とか。チートすぎない?魔王って凄い。
「そろそろ始めるぞ!」
誰かの声で、急いで私のステータスがかいてあるモニターをなんとか消す。
「始めっ」
その合図で早速おじさんが魔獣を召喚した。
真っ黒な空間から飛び出てきた魔獣。
真っ白な狼だ。体は人間ほどの大きさで、牙を剥き出している。
私、このモンスターと戦ったことある。ゲームで。じゃあ楽勝だ。
「大きいだろう?こいつはな───」
「ウィッチウルフ、でしょ。」
「───よく知ってんな。その通り。こいつはウィッチウルフだ。」
召喚魔獣の中では珍しい魔法を使って戦う魔獣。でも、魔法を使うときは自分がピンチになったときのみ。それ以外はほぼ牙で攻撃してくる、という中々厄介な敵ではあるが……
「いけ!ウィッチウルフ!」
グルァァアッッ
吠えながら突っ込んでくる。
常人ならあまりの速さにウィッチウルフの姿を見失い、為す術もなく噛み殺されているところだろう。
けど私は、魔王の力を濃く受け継いだ者だ。常人ではない。
「フィジアビリーアップ」
赤い蒸気がふき出す。ウィッチウルフを軽々と飛び越え、空中で1回転をして着地。
ドゴォンンン……
ウィッチウルフが止まることができずにそのまま観衆に体当たりをした。悲鳴があちこちから聞こえてくる。
そんな悲鳴は気にせずに、私はウィッチウルフを召喚したおじさんの目の前へ、一瞬で移動した。正確に言えば走っただけ。でも「フィジアビリーアップ」で身体能力を上げておいたお陰で、瞬間移動しているかのように速い。
「うおっ────」
「アンタが死んでも放っておくからね、って言ったこと、覚えてる?」
私は真顔のまま言った。
私の言葉を理解したのか、おじさんの顔が青ざめる。
「待て!待ってくれ!」
「待ちたくないね。」
「コンシャスディプ」で気絶させても良かったのだが、それではいまいち倒した感がないので、思いっきり飛び上がった。
そのまま飛び蹴りをおじさんにかます。
ドォンッと爆発のような音と共におじさんが崩れ落ちるように倒れる。
「ごはっ─────」
私はぴくりとも動かなくなったおじさんをしばらく見下ろしていた。
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