第9話:ハルの思惑。
陽菜のパン屋の話を聞いてハルは、たしかにプレッシャーを感じていた。
(僕に何ができるんだろう)
陽菜が言った「逃げてるだけだよ」って言葉が胸に刺さった。
努力もせずただ、だらだらと桜井家の人たちに甘えてきた。
その恩返しも、何もできていない。
毎日太陽が昇って沈んでいくだけ・・・自分にはそう言う生活だけだと思った。
今の自分には、生きがいも夢すらもない・・・。
唯一、陽菜の気持ちだけが生きがいなのかもしれない。
陽菜の言う通りだった。
陽菜の「逃げても、何も解決しない」と言った言葉がハルを奮い立たせた。
ハルは決心した・・・そしてある朝。
「お父さん・・・話があるんですけど・・・」
「お、ハル・・・なになに、どうしたの・・・ん?話って?」
「実はお願いが・・・」
そして、その次の日からハルは朝早くから出かけるようになった。
毎朝出かけて行って夕方どこからともなく帰ってくる。
規則正しい生活ではあったが、そんなハルを見て陽菜はいぶかしく思った。
最近は陽菜がいなくてもハルは街にひとりでも出かけることが
できるようになっていた。
「まさかとは思うけど、誰かいい人でもできたのかな・・・」
(あやし〜〜〜)
昼間は陽菜は大学に行ってるので気づかないこともあるかもしれないと
思って、お母さんなら何か知ってるかとハルのことを聞いてみたが
「若いんだから、遊びたい年頃でしょ」
「猫は犬と違って自由を求めるのよ・・・もしかしたら発情期なのかもよ」
って、そんな適当な答えしか帰ってこなかった。
麻美さんはいつでも楽天的でポジティブなのだ。
陽菜はハルのことが心配だったが それでも、しばらく様子を見ることにした。
それから三ヶ月たっても状況は変わらず、 相変わらずハルは朝、家を出て
夕方帰ってくる日々を繰り返した。
帰ってきたハルと鉢合わせになってもハルは陽菜と目を合わせなかった。
背中越しに「どこ行ってたの?」 って声をかけても
「ちょっと」って言うばかりだった。
陽菜はこの謎をはっきりさせないと夜も眠れないと思って、夕方帰ってきたハルを
呼び止めて確かめてみた。
「ただいま・・・」
「お帰りハル・・・・あの、ちょっと・・・」
「なに?」
「あのさ、最近冷たくない?」
「そう?、そうかな、いつもと変わんないと思うけど・・・」
そう言ってハルは愛想笑いした、
「なんで、最近昼間いないの?」
「いつもこのくらいの時間に帰ってくるね」
「どこに出かけてるの?」
ハルは黙っていた。
「なんとか言って・・・心配してるのよ」
「今は、何も言えないよ・・・」
「人に言えないようなことしてるの?」
ハルはまた黙った・・・。
「私に言えないようなことをしてるのなら、ハルを信じられなくなるよ」
それでもハルはかたくなだった。
「そうやって、ずっと黙ってるつもり?」
「・・・・・・・・・・」
「ねえ、お願いだから、なんとか言ってよ・・・」
「ただいま〜・・・」
そうこうしてるところに慶彦さんが帰ってきた。
陽菜とハルのただならぬ空気を読んで慶彦さんは何事かとふたりに
問いただした。
「ふたりして何もめてるのかな?」
「ハルが・・ハルが不良になっちゃった・・・」
そう言って陽菜は泣き崩れた。
つづく。
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