第4話:社会勉強と言うデート。

日曜日、陽菜は思い切ってハルを誘って買い物に出てみようと思った。

よく考えたら、たぶんみんなハルを見ても何も思わないだろうと思ったからだ。


最近はハロウィンなどの影響もあってコスプレや変わった格好の人が街には

普通に徘徊している。

ハルはコスプレじゃなく本物の猫?だけど、たぶん誰もそうは 思わないだろう

って陽菜は思った。


「なに?僕を誘ってどうしたいの?」


「どうもしないよ、ハルがうちに来てから一度も街に出たことないでしょ」

「だから社会勉強」


「社会勉強?・・・」


「いや?」


「嫌じゃないけど・・・」


「ないけど?・・・なに?」


「街になんか出たことないからね・・・」


陽菜はあまり乗り気じゃなかったハルを連れてバスに乗って街に出た。

バスなんて乗るのが初めてだったハルはめちゃめちゃ、テンション

高かったし、少しだけ緊張もしていた。


案の定、乗客の何人かはハルを珍しそうに見たが、それだけだった。

みんな自分のことで忙しいのだ。

特にサラリーなんやお年寄りなどは猫のマスクを被った男になんか興味がないのだ。


ハルを見て騒いでたのは箸が転んでもおかしい年頃の女の子たちくらいだった。

一緒に写メ撮ってくださいとかって迫ってこられた。

ハルもまんざらじゃなさそうに女の子たちにに愛想をふりまいていた。

横にいた私はその子達からは無視・・・ちょっとしたジェラシー?


「あの子たち賑やかだったね・・・って言うか私も同じ年頃だけど・・・」


「あの子たち、とってもいい匂いしてたよ」


「ハル・・・」


「ただそう思っただけだよ・・・」


「人間の女の子に興味あるんだね」


「だって、女性って麻美さんと陽菜しか知らないんだもん」


「ああ、そうね珍しかったんだ・・・しかたないか・・・」

「あ、街までもうすぐ だからね」


バスを降りて、陽菜はまず商店街を歩いてみることにした。

街はちょうどクリスマス一色。

本当のクリスマスにはまだ一ヶ月早かったけど どこのお店もクリスマスセールで

賑わっていて、 キラキラしたイルミネーションの飾り付けが綺麗だった。


相変わらずこの時期になると、どこからともなく例の曲がどこでも鳴っていた。

ハルには何もかも初めて目にして耳にするものばかりだった。


「ハル・・・そんなに急いで歩かないで・・・」

「もっとゆっくり歩いてよ」


圧倒されそうなビル群、目まぐるしくすれ違う人の群れ。

ハルは案外、こういう雰囲気が嫌いじゃなかった。

と言うか、なぜかこう言う派手な町並みを記憶してる気がした。


やっぱりここでも思った通り猫のマスクを被った男には誰も興味を示さなかった。

ハルは猫の被り物をした人にしか見えないからね。


「あまりキョロキョロしないの・・・変に思われるでしょ」


ハルは明日香に質問攻めだった。

明日香はそのたびに、いちいち説明した。


「ハルは、お昼ご飯、なに食べたい?」

「って言っても、分かんないか・・・」


ハルのことを誰も気にしないと思っても、さすがにレストランとかご飯屋さんに

入るわけにはいかないと思った陽菜は ハンバーガーでも食べることにした。

初めて食べたハンバーガーにハルはびっくりした。


「こんな美味しいもの食べたことない・・・美味しいよ陽菜、ハンバーガー?」


「よかったね、ハルの口に合って」


たぶん今のハルなら、たこ焼きだろうが、お好み焼きだろうがなにを食べても

美味しいっていうだろうなって陽菜は思った。


それから激安の服屋さんに寄って自分たちの服を買った。

陽菜だってお小遣いが多いわけじゃない。

街に出たからって、そんなに贅沢はできない。


でもハルは街に連れ出してくれたことを喜んでくれた。

最初は、ためらってたハルも街に出たことでいい気晴らしになったようだ。


こうやってたまに環境を変えるのはハルのためにもいいことだって陽菜は思った。


「陽菜、また街に連れてきてくれる?」


そう言ってハルは嬉しそうに陽菜の手をつないだ。


「もちろん、時々来ようね」


ハルも楽しかったと思うけど、ほんとは一番楽しかったのは陽菜の方だった。

とってもいい雰囲気だったので、陽菜は自分の気持ち、想いをハルに告げようかと思ったが、この楽しい時間を壊したくなくて口をつぐんだ。


それから学校がお休みのたびに陽菜はハルを街に連れ出した。

たまに美紀も合流したりした。

美紀が来ると余計盛り上がって暗くなるまで街を散策して家に帰った。


楽しい休日だけど陽菜の気持ちは、まだハルには届かずにいた。


つづく。

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