第5話:告白。〜僕って何者?〜
ハルは顔は猫だけど、体は人間と変わらない。
歳ももう立派な18歳の男子。
あとで分かった話だが、このあたりからハルの歳の取り方は陽菜と変わらなく
なった。
つまり犬や猫の寿命は人間より早い・・・だけどハルは違った。
18歳を境にして成人して人間と同じペースで歳を取るようになったのだ。
だから今は、陽菜と同い年。
普通、誰も猫を可愛いと思うことはあっても愛情を注いだとしても恋の対象には
しない。
お互い別の種族だと認識してるからだし、そもそも人間は人間の異性に愛情を
注ぐのが普通。
でも、いつしか生活を共にするにつれて陽菜はハルを本気で好きになっていた。
恋愛対象としてハルを見るようになっていた。
ハルが普通の猫だったら、そう言うことは起こることもなかっただろう。
ハルは顔以外は、人間そのものなのだ。
それにも増してハルの穏やかさと優しさ。
体から滲み溢れる人を包み込むようなオーラ・・・陽菜は全部好きだった。
男性としての魅力も含めて・・・。
(絶対どうかしてる、相手は猫だよ)
(猫に恋するなんて誰が聞いたって変だよ)
(でも、だってこの気持ち自分でもどうしようもないもの・・・)
最初の頃は、ハルに持った片思いを誰にも伝えないで黙っていようと思った。
両親にもハル自身にも黙っていようと・・・ でもそう言う感情というものは、
次第に大きく膨らんでいくもの。
誰かに今の気持ちを聞いて欲しくて陽菜は、とうとう美紀に打ち明けた。
「変って思うでしょ、こんなこと」
「私、ハルに恋してるんだよ・・・」
「ん〜だけど、私はちっとも変だなんて思わないけどな」
「ハルをね〜・・・少なくとも私は分かるな、陽菜のその気持ち」
「彼、猫の中でも、めちゃイケメンだもん・・・それに優しそうだし・・・」
「いいじゃん・・・相手が猫だって」
「外国人を好きになったと思えば、いいだけのことだよ」
「外国人?・・・まあ・・・たしかに・・・」
「思い切って好きだって言っちゃえば?、片思いのままでいたくないでしょ」
「ハルがどう思ってるか知らないけど、告っちゃえばいいんだよ?」
「もし、ハルにごめん、って言われたら?」
「そうなっちゃう可能性もあるけど、黙ってたって前に進めないでしょ」
「前進あるのみ・・・ほら、しっかりしろ、陽菜」
「待ってたって、悶々とした日々が続くだけだよ」
美紀の後押しもあって、陽菜は自分の気持ちをハルに伝えようと決心した。
自分でも猫を恋愛対象にするなんておかしいと思っていた。
でも頭と心は違うことを求めていた。
二階のベランダにハルを呼び出した陽菜は自分の気持ちをハルに伝えた。
「なに?、陽菜」
「あのね、あの・・・あの・・・え〜と、あの・・・」
「なに?・・・あの、だけじゃ分かんない」
「なに?、僕にそんなに言いにくいことなの?」
「あのね、私・・・」
陽菜は勇気を出してハルに告白した。
「実はね、私ハルのこと、好きになったの・・・」
「好きなのはハルがうちに来たときから好きだったけど・・・ 今は、そのただ
好きってのとちょっと違って・・・なんて言うか・・・」
「恋しちゃったって言うか、ハルは私にとって特別な存在って言うか・・・」
「だからね、私の恋人として付き合ってくれないかなって、思って・・・」
帰ってくる返事に少しの期待を持っていたが 意に反してハルの反応は
現実的なものだった。
「ふ〜ん、そうなんだ」
「陽菜の気持ちはすごく嬉しい・・・でも僕、猫だよ」
「人間と猫の恋愛なんてありえないでしょ」
「生物学的に見てもありえないと思うんだけど・・・」
「あいや〜・・そう言われるとそうなんだけどね」
「でも、私ハルが好きになっちゃったんだもん、しょうがないもん」
「この気持ち、どうしようもないんだもん・・・」
「僕も陽菜のこと好きだよ」
「愛しいって思ってる・・・家族としてね・・・恋人としてじゃなくてさ」
「困ったな・・・」
「私って魅力ない?」
「他に好きな人がいるとか・・・」
「そんなことないよ・・・好きな人なんていなし、それに人間の中では、
陽菜は断然可愛いと思う」
「僕がもし人間なら、ほうっておかないと思うから・・・」
「だったら、何がダメなの?」
「人間と猫だって愛し合えるよ」
「だってハル、絶対普通の猫じゃないもの」
「それは言えてる・・・正体不明の猫だけど・・・」
「あのさ・僕って何者?」
「その答えが出ない限り、僕はうかつに恋なんてできないよ?」
「答えだって見つからないかもしれない・・・」
「この先いつ、なにが起きてどうなるか誰にも分かんないでしょ」
「だからさ、今は、約束もできないし、いいよって言ってあげられない」
「今まで通り家族として仲良くしてたらいいじゃない」
「それじゃダメなの?」
「ただ家族としてなんて、それこそ私にとっては一番辛いことだよ」
「しかたない、じゃあ僕がこの家を出て行くしかないのかな」
「待って・・・待ってよ、ここを出てどこに行くっていうの?」
「それは・・・」
「分かった、そこまでしなくていいよ」
「辛いけど、私がハルを諦めたらいいんだ・・・それでいいでしょ」
「いきなり好きだなんて言ってごめんね」
「・・・さっきのこと忘れて・・・」
「こっちこそ陽菜の気持ちに応えてあげられなくてごめん」
そう言ってハルは明日香を引き寄せ抱きしめた。
(だめじゃん、そんなことされたら、ますます諦めきれないよ)
自分の想いがハルに届かないと知って陽菜は、その晩眠れなかった。
「陽菜・・・まいったな・・・」
ハルには分かっていた。
日頃の自分に対する陽菜の態度を見ていれば・・・。
陽菜の気持ちが自分にあることを・・・。
本当はハルは陽菜の想いに応えあげたかった。
でも今は陽菜に甘えることはできないと思っていた。
それにはハル自身いくつかのハードルを越えなくてはいけなかったからだ。
まだ未熟な自分が恋人を持つなんて、できないって思った。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます