第2話:ハルって何者?。
土曜日、陽菜はハルを連れて動物病院へ行った。
以前は飼い猫だったかもしれないけど、一応野良だったわけだから、
病気や体調のこともあるし、診てもらっておいたほうが安心と思った。
医者の見立てでは少し栄養失調気味だけど、いたって健康って診断だった。
しばらくはこれを食べさせてあげなさいと言って病院のキャットフードを
勧められた。
キャットフードの含めて診断料7,000円取られた。
お小遣いが減った・・・保険が利かない動物病院もバカにならないって陽菜は
思った。
でもそれ以上に陽菜は桜井家にハルが来たことが嬉しくて、お父さん運転の
車でペットショップに行ってキャットフードを入れるフードボウルと
キャットタワーと爪研ぎを買った。
でも、せっかく買ったキャットタワーだったが、ハルのお気に入りは
段ボールだった。
部屋に置いてあった段ボールがハルの一番のお気に入りになった。
そしてハルが桜井家に来て三ヶ月が経とうとしていた。
人間の歳で言うと10歳くらい。
猫の成長は早い・・・。
その頃のハルは昼間、精力的に外に遊びに出た。
一度、近所のどこかの猫と喧嘩をしてきたらしく胸のところの皮が裂けて
帰ってきたことがあった。
皮が破れてただけで出血とかはなかった。
でもハルの回復力は半端なく速かった。
病院へ連れていこうと思ってる暇もなく、一週間も立たないうちに完治した。
もちろんその間、陽菜はハル傷の手当てを毎日した。
薬を塗って、体の包帯を巻いて・・・。
しばらくは包帯を巻いていたせいで、ご近所では包帯を巻いた猫って有名になった。
家に帰ってきた時には包帯はいつもどこかに無くしていた。
そんなハラハラしたこともあった・・・そしてハルが来て半年・・・。
ハルは15歳になった。
そして一番驚いたのは、顔から下の体毛が全部抜け落ちてなくなったことだった。 まるで人間が頭に猫の被り物をしてるみたいな感じ。
頭は猫、体は人間の男子。
手足の指も伸びて、人間と同じ形に。
その変化には陽菜も動揺を隠せなかった。
ハルってほんとに猫?・・・それとも突然変異・・・この子いったい何者?
ハルは普通の猫にしては、よその猫より大きかった。
大きかったというより、背筋も伸びて身長が高くなっていた。
つまり、いつからか普通に直立歩行するようになった。
そんなだから、陽菜は年頃の男の子が着る服を買いに行く羽目になった。
ハルは成長するにつれ外に出ることは、あまりしなくなった。
子猫の時よりは穏やかな猫になっていった。
陽菜の中ではハルは地球上の生き物じゃないって疑念が生まれ始めていた。
正体は分からない・・・でもハルはここにいる。
誰がハルを公園のベンチに捨てて行ったんだろう?
まさか宇宙人?、エイリアン?、それとも異次元からやってきた?
猫に似ているけど、ハルは猫じゃない。
決定的だったのはハルが陽菜の名を呼んだことだった。
たしかに「ひな」って呼んだ。
空耳なんかじゃなく「ひな」って・・・。
陽菜は信じられなくて、自分の耳を疑った。
「ちょ、ちょ、ちょ、まって、まって」
「今、ひな、って言った?」
「陽菜・・・そう言ったよ」
「うそ〜ハルがしゃべってる〜?・・・猫が普通に歩いて、しかも喋ってる・・・」
「なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ・・・」
「絶対、ありえないからね・・・」
結局、ハルがしゃべることは両親にも知れることになった。
ハルを閉じ込めて置くわけにはいかないから、とうぜん両親にバレるのは時間の
問題だった。
最初、両親共にハルが二足歩行していることでさえ驚いたのに、
しゃべることを間のあたりにして、これはただ事じゃないってビビっていた。
たしかに現実にハルはいる・・・真実と受け止めざるを得なかった。
バレると言えば・・・
陽菜にはひとり、親友と呼べる「
たまにしか陽菜の家には遊びに来ないが、いずれハルのことは美紀にもバレる
だろうなって思った。
それから一週間と経たないうちに ハルはふつうに人間と同じように歩いて
日本語をしゃべっていた。
背もぐんぐん伸びていった。
桜井家に思春期の男の子の養子を迎えたようだった。
それは非常に奇妙な光景だった。
猫がふつうに服を着て部屋を歩いて「おはよう」とかってしゃべってるんだから。
瞳が吸い込まれそうなブルーで、姿勢は正しく、しなやかで優雅な動きに、
ハルの気品に満ちた顔立ちから、どこかの国の王子様のようだった。
いつしか桜井家に猫顔のイケメン男子がひとり増えたのだった。
つづく。
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