第34話 食事会の前に会談

その日の夜、食事会に参加する事になった。ゾーイさんは不参加。貴族の様な服に着替えさせられたという事は、そんな人物が来るという事だろう。迎えに馬車が来たのもそれを裏付けている。上級貴族以外は馬車は禁止だったよな。

幸田こうださんと自分で馬車に乗り、何処かへ向かっている。

幸田こうださん、この馬車は何処へ・・・」

幸田こうださんは、黙って口元に人差し指を当てる。これは、行先を聞くなという事だろう。

「そう言えば、勝喜かつきさんのお父さんも参加されるんですよね。」

「今日は用事があって不参加になってね・・・余計な事しゃべりそうなんで、黙っておくね。」

幸田こうださんと目が合う。あまりここでは話さない方が良さそうだな。


静かな車内は、目的地へ進む。


馬車がついた場所は、コームで一番大きい屋敷だった。

佐藤さとうさん、ここはコームの領主様のお屋敷です。えらい人なので、そのつもりで対応の程を。」

いや、急に連れてこられて、無理ですよ。顔に出ていたのか、幸田こうださんは苦笑いして「自分もですよ」という顔をしていた。行ってみないと分からないし、今更逃げられない。覚悟を決めよう。


二人は、執事に案内され、食事をするダイニングルームへ。部屋に入ると、中央に領主様がすでに居た。髭があるからなのか、それとも白髪だからか、幸田こうださんよりも年配だと思うが、背筋が伸び、身体も厚みもすごい。とても貫禄がある人物だ。執事は、自分達が来た事を領主に告げ、席を外す。周りを見ると、メイドさん等、誰もいない三人だけだ。

「まぁ近くに座ってくれ。食事の前に話しがしたい。」

二人は失礼しますと、領主様近くに座る。

ひさし、案内させてすまない。」

「いえ、とんでもありません。」

幸田こうださんが立ち上がり、頭を下げる。

「それと、君が佐藤公彦さとうきみひこだな。私はこのコーム領主であるコーム=リュージルだ。」

自分も立ちあがり、頭を下げる。

「このたびは、私を助けて頂きまして、ありがとうございました。領主様。」

コーム領主様は、手をあげ「楽にしてくれ」と座る様、促す。

「今回はな、ひさしから報告があってな、公彦きみひこ、ここから話す事は他言無用になる。契約魔法を結びたいがいいか?」

・・・契約魔法ってなんだ?

その様子を見ていた幸田こうださんが補足してくれる。

佐藤さとうさん、契約魔法というのは、これからする話しを他者に伝えられない様にする魔法の事だね。」

でも、ここで拒否は出来そうもない。強制なんだろうな。

「はい、契約魔法をお願いします。」

そう言うと、コーム領主様は隣室に控えていた執事に声をかけた。一人の人物が部屋に入ってきて、魔法を唱える。

「×××××××××」

幸田こうださんと自分の喉の周りに、光がまとわりついた。これが契約魔法か。

「終わりました。」の声と共に、光は消え、契約魔法をかけた人物が部屋を出る。

コーム領主様は三人しかいない事を確認する為、部屋を見る。確認後、懐から平べったくて丸いよく分からない道具を取り出した。コーム領主様からこの道具に触れる様に言われて触ると、しゃべっていないのに、お互いの声が聞こえる様になった。

「これは、盗聴防止の道具でな。口にしなくても、お互いの頭の中でしゃべれる。」

こんな道具もあるんだな。

佐藤さとうさん、「こんな道具もあるんだな」と頭で思わないで下さい。聞こえてますよ。」

「すみません。失礼いたしました、領主様。」

二人は、うなずく。


「では、魔道士リンデンから話をしていこう。」

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