最終話 男の娘魔法少女ナイト<Knight>

「でけぇ……。これが……魔法少女とワクナーイの起源……」


 超巨大な縦穴が二人を迎え入れた。底が地下だということを忘れそうな程の穴の側面には空っぽの機会が大量に備え付けられていて、そこの方には光る液体と思われるものがたまっていた。


「あの中……って、どうやって行けばいいんだ?」


「ここから下に降りられるはずだ、いこう」


「こっちか、分かった」


 急がなくては、サヨは階段の方に向かって足を進める。はやる気持ちは抑えきれない、サヨが階段に足をかけたその瞬間であった。けたたましいサイレンが鳴り響いて壁から出現した銃口が、サヨを睨んだ。


「! 危ない!」


 激しい音が、サイレンをかき消した。






「って……な、なにが……」


階段から突き飛ばされて、サヨはようやく体のついた踊り場で体を起こす。真っ赤な光が上階から漏れている。


「ぅ……」


「ぇ……?」


 床が、赤い。ソレは、光ではない。


「父さん!! な、! なんで!!!」


 赤の根源、ソレは、残酷にもソウイチが流した血だった。もう助からない。ソウイチの体を抱きかかえたサヨには残酷なほどにそれが分かった。


「……お前が、無事でよかった……」


「なんで! こんな! あぁ! くそ! こんなことって……」


 血の気が引いていくソウイチの顔を見ることしかできない。凄まじい力がありながら、サヨは……。


「サヨ……アサヒ……すまなかった」


「! なんで……なんで謝るんだよ! こんな……これで、最後みたいな!」


 そんなことがあっていいいはずがない。


 サヨは必死にソウイチの体をゆする。


「本当に。勝手な話だが。俺は……お前たちと過ごせて、幸せだった」


「だった……って! なんだよ! これからもだろうが! なぁ! おい!」


 すがり、手を伸ばすほど遠ざかる。サヨは叫んだ。ソウイチの光が消えていく。


「……サヨ。お前は、本当にいい友達に恵まれたな……だから…………」


 消えた。鼓動が。ソウイチの腕が力なく垂れる。サヨの頬を液体が伝って、落ちた。


「……」


 行かなくては。サヨは歩く。


戦う意味なんてあるの?


 冷たい声がサヨの内側で響いた。答えらえない。


家族を失って、この街のみんなは冷たくて、戦う意味なんてあるの? あなただけが傷つく意味が。これ以上あるとは思えない・


 ……答えは……ない。




もうやめてもいいんだよ?


「俺は……」


……


「戦う。あいつらがいるから。兄ちゃんがいるから。父さんがいるから。俺は……一人じゃないから」


……そっか


「あぁ……だから、見ててくれ。俺の、全身全霊を」






 光が満ちていく、サヨは光に飲まれて目を閉じた。










「ぅ……」


 CMタワー広場で三人の魔法少女は息を荒くしたCMタワーの内部に非難した住民たちを守るべく、CMタワー周りを守っていた魔法少女たちであったが数多のアーミーに囲われて、それから降ってくるエンドの攻撃になすすべもなく焼かれれば地面に伏すより他にない。


 しかし、魔法少女たちは諦めない、何故ならば、信じているからだ。友のサヨのことを。


『ゴォォォォォォォォオ!!!』


 空に渦巻く竜のようなエンドが雄たけびを上げた。口ががぱっと開いて攻撃準備、あれを受ければすべてが終わる。魔法少女たちは確信した。何とかしなくては、全身全霊を懸けて。


 カミリアたちは体を起こしてハッとした。


 空は黒に包まれて真っ黒なはずなのにまるで太陽のような光が差したのだ。


 CMタワー、その頂上。


 黒いドレスには星のようなキラキラがちりばめられていて、腕は白い手袋に覆われていた。


 顔をベールで隠したその姿はまるで花嫁衣装。


「ナイト!」「サヨちゃん!」「あいつ……」


 遠目にも三人にはそれが誰かが分かった。


『!!!!』


 空中で、人影を補足したエンドは口を開いてそこから紫色の光を放った。


 禍々しい光は人影を打ち抜いてCMタワーを壊す。という事象は発生しなかった。


 鏡に当たった光が反射するように紫色の光はドラゴンに跳ね返っていく。


「!」


 その人物はフワッと空中に浮かぶと、眩い光の中から巨大な剣を取り出した。数十メートルほどもある剣は滑らかに空中を滑ってエンドを切り裂く。


『ギシャアアアアアアアアアア』


 悲鳴が響く。圧倒的なその姿。まるで騎士のように。


「魔法少女……」


 その光景を見ていた少女は、自分が大好きなヒロインをその人物に重ねた。


「正しく、ナイト(knight)だ」


 ある人物はその姿を物語上の騎士になぞらえた。


「ナイト」「ナイトって」「魔法少女ナイト……?」「敵じゃないのか?」


「違う! あの姿は紛れもなく俺たちの……!」「ナイト!」


 伝播していく、声が。人は。人々は彼を魔法少女ナイトと読んだ。


『!!!』


 エンドが大きく口を開けると、そこに幾千もの光が叩き込まれた。巨大すぎる爆発が巻き起こってエンドはうめく。


 真っ赤な両目に焦りが浮かんだ


「……どうした? ソウジ。支配してやるんだろう? やってみろよ俺を倒して」


 消して声を張り上げているわけではななかったが声は、あたりに響きわたった。ナイトが守ろうとする者たちはその声を聴いて安寧を覚え、それ以外の者たち、エンドとアーミー達はもがき苦しむ。


『ばけ……ものが!!!!』「なんとでもいえ」


『!』


「化け物でも兵器でもいい。誰かを守ることが、できるなら」


 ナイトはゆっくりと腕を掲げた。


「終わりにしよう。これですべてを」


『ぐぁっ!!!』


 腕に集まった黒い光がはじけるようにエンドを襲う。


 ひとつひとつがエンドをしたから押しつぶして弱らせた。


「行け!! サヨ!」


「サヨちゃん!」


「サヨ!!!」


 三人の魔法少女が叫ぶ。ナイトは小さくうなずくと剣を空に掲げた。


『バガナッ……!! お前如きに! 遅れをとるはずが……ッ!!!!!』


「消えろ」


 大きな光が弾けた。


『ガァッァアァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』


 爆発が起きて空を包んでいた真っ黒な渦を消し飛ばす。真っ暗な夜のような暗闇が消えて、そこから人影が落ちる。


 青空のもと、黒い衣装のナイトは輝いているかのようにすら見えた。


 歓声があがった。ナイトはゆっくりと地面に降り立った。


 日が差す。それはまるで、事態の収束を示しているようであった。




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