第二十六話 ワクナーイの真実

「なぁ、父さん……」


「なんだ?」


 暗い廊下を、懐中電灯の光のみを頼りに二人は歩く。


「なんで、ワクナーイを作ったんだ?」


「……。人類の貢献のためだ。元々NOVU、ワクナーイは人の役に立てるために作った。ソレは作業に役立てるためであり、その再生成を使って医療に役立てるためであり……人を、幸せにするために弟と共に生み出したものだった」


「人の、幸せのために? それが、なぜ?」


「そう思っていたのは、俺だけだったからだ。弟は、ソウジは違った。全てはNOVUを兵器に転用するためだった……奴の目的はこの世界の支配だ」


「幼稚だな、そんなのが俺の叔父かよ」


 くだらない、とサヨは一蹴して鼻で笑った。まさかとは思っていたが本当にその程度しかないのか?


「おれもそう思った。だから……逃げた。アサヒと共に。お前を連れて」


「父さん」


「言いたいことは数多あるだろう……受けるべき誹りは後で受ける……今は」


「……反抗期の親子喧嘩は一種に帰ってからだ。今は、ともかく奥に行こう」


「あぁ……」


 大きく、長い廊下だった。しかしながら薄暗い部屋は狭さを感じる。懐中電灯の明かりだけが照らす空間は息をのむほどに静かだ。


「サヨ」


「どうした?」


「ありがとう。お前が、お前たちが俺の息子で本当に良かった」


「……な、なんだよ、い、いきなり……よせよ……別に」


「……照れてるのか?」


「うー! うるせ! いいだろうが……てか、いいだろ……俺もおんなじ気もちだし……」


「それは……」


「あぁ!! この話あとにしようぜ! 早く行くぞ!」


「あぁ」


 恥ずかしそうに素早く歩くサヨの後ろで、ソウイチは小さく頷いて、歩くその瞳は


決意に満ちていた。






「ここは」


 大きな壁にしか見えない扉が、そこにある。サヨの視界の端でソウイチが機械を操作すると扉が音を立てて開いた。


「行こう」


 ソウイチがそう言って、サヨはこくんと頷いた。








  その頃


「マジカルストライク!」


 街を闊歩するアーミーの軍団をカミリアは白い魔法で吹き飛ばした。


「早くあっちへ!」


 暴れるアーミーによって地獄絵図と化した街で人を誘導しカミリアは駆け回っていた。


「ッ!」


 カミリアは、目の前に突如飛び込んできた光景を見てハッとした。目の前で襲われているのは自分の叔父。その光景に、かつてのウォーターパークでの出来事がフラッシュバックした。


「……マジカルストライク!!」


 白い閃光がアーミーを穿つ。見捨てるという選択はカミリア、ツバキにはもうなかった。しかし、一瞬だけ叔父と目が合ったカミリアであったが、それに目もくれず駆け出す。


 カミリアにとって、もう彼らだけが世界ではない。今はもう、守りたいものがあるから。




「ネオン!」


「わかった!」


 カミリアが戦う場所から少し離れた場所で、ネオンとプレイヤーはアーミーの軍勢に囲まれて、戦っていた。


 襲い来るアーミーを投げ飛ばし、殴り飛ばし退けていくが無限にも思える程にアーミー達は湧き出てくる。


「クッソ! キリがない!」


「? 待って下さい、何の音ですか……?」


 何か、燃えるような音が近づいてくる。ゴォォォォオウ。と言う音が『降って』くる。


「上だ!」


 ネオンの叫びでプレイヤーが遅れて空を見た瞬間にはもう空が真っ赤に染まっていて、それが、弾けた。


 爆風のような熱風に二人は防御のような姿勢をとった。


「だれだ!」


「……」


 煙の中から、シルエットが二人を見つめた。その人物は真っ赤な髪をしていた。恐らくはただだらしないだけの寝ぐせだらけの髪も、その少年の美しい顔立ちには敢えてそうしているかのように合っている。


 髪と同じ真っ赤な瞳をした少年の身長は百六十程だろうか? 大きなズボンの裾はブーツの中にしまわれていて、腰には細長い棒が装備されている。何よりもその言及すべき点は腕から背中にかけてを覆う機会であろう。


 真っ赤で滑らかな腕を覆う機会は左腕のみが大きくなっていて背中にはタンクのようなパーツが付いていた。


 腕を機械で覆った奇妙な少年。明らかに普通ではない。しかし、只者ではないことは二人の目から見ても明らかであった。


「……」


 赤毛の少年は首を鳴らしてアーミーの軍団に向かい合う。


「何をしているのですか!」


 プレイヤーが叫ぶと少年の体に真っ赤な炎がほとばしった。普通じゃない。それが、確信に変わった瞬間であった。そもそも空から降ってきた少年がまともであるハズもない。その少年は機械の両腕を大きく広げてアーミーの軍団の一人を突如ぶん殴った。


『がは!』


「ふん」


 数秒。たった数秒の合間にアーミーの一人が壁にたたきつけられた。


『く! やっちまえ!!』


 アーミーが続けて少年に襲い掛かる。しかし、燃え上がる炎が少年に触れる事すらを許容しない。


 爆発、爆裂が響き渡ってアーミーの数が減っていく。


『ち! ふざけるなよ……!』


 アーミー達が手をつなぎ、形がゆがみ大きくなった。それが、濃くなり固まっていき、黒いコートをまとったアーミーが建言する。


「……見てる場合か?」


 少年の言葉に二人はハッとした。ここは俺が引き受ける。そう言っているのだろう。


「ありがとうございます!」


「私たちはあっちに!」


 実力も行動も、不審な点は見当たらない。出自を訪ねるのは後でいい。二人はうなずいて駆け出した。


『テメェ……さっきまでと同じで済むと思うなよ!』


「どうでもいい。早くかかって来いよ。それともお前は口だけか?」


『ほざいてられるのは今のうちだ!』


 アーミーが拳を振り上げたがソレはあっさりと受け止められた。右手でアーミーを受け止めて、左手から炎が放たれた。


『ガァ!』


 炎に包まれてのけぞるアーミーに少年は続けて拳を当てた。白い頬を機械の拳が横から殴ってゆっくりと地面に叩き付ける。


 ズガンと言う音がして、アーミーの体が叩き付けられた。


「たてよ。運動にもならんだろうが」


『ぐぅう……ゴミッが!!!』


 アーミーが立ち上がって吠える。腕を掲げると黒いエネルギーが集約していき、少年に向かって放たれる。


「話にならないな」


 少年はあきれたように腰から棒を抜く。棒が炎をかたどったような形の剣に変質して、それが降られると放たれたものは真っ二つに切り裂かれた。


『なに!?』


「終わらせてやるよ」


 少年が剣を握ってアーミー向かって降るがアーミーは腕に黒いものを纏って防御する。


 つばぜり合い、しかし、アーミーは徐々に追い詰められて行き。


『ガァッ!!!!!!!!』


 真っ二つに切り捨てられた。吹き飛ぶアーミーに背中を向けて叫ぶアーミーに目もむけず、少年は宣言した。


「ここがお前のピリオドだ」


 ジュウと音を立てて真っ黒な爆煙をまき散らしてアーミーは消失した。黒い煙に包まれて、少年は空を見上げた。


「……」


 ため息をついて少年は歩き出した。


 空でうごめくものを一瞥して少年はぼやいた。


「くそみたいな観光地だな。ま、あいつらは悪くないが……」


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