第二十二話 魔法少女の真実
「だ、だれだ!」
振り向きながらナイトが叫んだ。異様な状況ではあったが、経験を積んだカミリアとプレイヤーも衝撃を受けるのはそこそこにすぐさま臨戦態勢を取る。
「ご苦労だったよ! お陰で実に……実に良質なデータが取れた! 君たちには感謝しなくては!」
「何を……言っているんだ!」
レイジが叫んだ。怒りと不安のこもった声。二人の間で二秒ほどの視線が交わされる。
「よく働いてくれた。感謝しようレイジ。しかし、だ……もうそれは必要亡くなった」
「何が言いたい!」
(二人は知り合い?)
サヨは考えながら、ある言葉を思い出した。
そうだ。ソウイチは、確かこういった、俺は開発者の一人だと……。
その言葉の後にこのような光景を見せられて、悟ることができないほど三人は愚かではない。
「ワクナーイの開発者……? もう一人の?」
「その様な呼び方はやめてくれたまえよ。彼等はNOVUノーヴ。俺の作品たちだ」
「俺のって! だってそれを作ったのは!」
「噓さ。そんなものは、君に働いてもらうための」
「……ソレは、全部。か?」
「まさか。一部は本当さ……人類は、馬鹿で愚かで、弱い……俺が支配してやった方がいいに決まっている! だから作ったのさ! お!」
ナイトたちを置いてけぼりにしながら交わされた会話は、突如断ち切られた。ネオンがとびかかったからだ。
ネオンが地面をけった音と青年の付近で光がほとばしったのは殆ど同時であった。
「何が起きてるんだ!」
「分かりません! ですが!」
「僕たちも……」
続くべき。ネオンの攻撃に、そう思って構えた三人は光が消えた先にあった光景を見て啞然とした。
青年は無傷で、ただリモコンのような機械をその手に掲げて立っていた。
ネオン、いや、レイジはその場を転がっていた。
ウサギの耳をあしらったパーカーにスカート。あおむけの状態ではそれしか確認できなかったが、その二つはナイトたちを驚愕させて思考を止めるのには十分な事であった。
「ぐ、ぅう」
「ハハハハハ!!! 実にバカな! 男だ! 筋肉達磨の割にかわいいもの好きのクソカマがぁ! 正義気取ってんじゃねぇよ! かわいくなれて嬉しいだけのくそ雄が! キメェんだよ!」
背年の下品な笑い声が響く。
何が何だかは分からない。しかし、そんなナイトでも
「おい!」
「ぁ……?」
「俺の親友を足蹴にするんじゃねぇ!」
黒い剣を構えたナイトが一瞬にして青年にとびかかる。
許せない。そんな感情がナイトの心を満たした。
何があったのかは分からない。二人がどういう関係かはしらない。でも、いや、だからこそ。
親友を踏みにじられたこと、笑われたこと、何よりも、彼を馬鹿にされたことがナイトの逆鱗に触れた。
「!」
黒い剣が空中で制止する。まるで時が止まってしまったかのようにナイトの体が動かなくなる。
「何を……!」
「お前も同じくらい馬鹿だ! 俺と同じ細胞から作られたとは思えないくらいにな!」
「まて! それは言わないって!」
「お前は黙ってろ!」
「ぐ!」
レイジは蹴とばされて転がる、しかし、カミリアがそれを受け止めた。
「ワクナーイと魔法少女の正体を教えてやろう……」
青年は口元に邪悪な笑みを浮かべてレイジを一瞥した。
「頼む! ソウジを止めてくれ!!」
悲痛な声に言われるがまま、二人は駆け出した。
笛の音色が響いてカミリアのレイピアに雷がまとわれていく。
「「プレイカミリアフルサンダー!」」
雷が、生き物のようにうねりつつ青年、ソウジに向かって飛んでいく。
ガチャ……という音がして、アーミーたちの構える銃口がカミリアを睨んだ。
「!」
けたたましい音が響いてカミリアはハチの巣にされる。硝煙の中から光が漏れて、ツバキが地面に落とされた。
「はぁ! はぁッ!」
「カミリア! よくも……!」
プレイヤーは笛を構えたが時はすでに遅い。
「な!」
気が付いた時には彼はアーミーの軍団に包囲されていた、殴られ、切れられ、蹂躙されて、ユウマはアーミーたちに腕を拘束される。
ツバキも同様だ。震えながらアーミーに縛られて視線だけはナイトの下に向かおうとしていた。
「マジカルチェンジ!」
レイジの声が響いて……しかし何も起こらなかった。
「……君はつくづく馬鹿だな。それの開発者は俺だ。ブロックをかけたに決まっているだろ……それとも。化け物の親友の脳みそは畜生サイズか?」
「なにが……言いたい!」
「やめろ!!!」
悲痛な声が響いた。しかし、ソウジは止まらない。
「ワクナーイは……俺の細胞とスズラン市地下の特殊資源から作られた生物型兵器、正式名称をNOVU……。そしてサヨ、アサヒ……君たち二人は……人型兵器初めての成功例だ」
「ぇ……?」
「やめてくれ……」
「お前は……自分たちは特別で、NOVUを倒すべき敵だと認識していたようだがとんでもない。お前たちこそ、倒されるべき敵……人の形をした化け物! 倒してきた敵と何も違わない! それがお前たちだ!」
「ぉ……おれが……? ワクナーイ……と」
「アハハハっハハハハハっ!!!!!!!!! ツバキィ! お前もそうだ! 俺が引き起こした事故で死にかけたお前に、こいつらの細胞を投与して動かされている生きる死体! ユウマァ! お前は皮膚呼吸で徐々に成分を吸収し続けて、人の理から外れた怪物! 笑えるよなぁ!! この街を守るヒーローの正体は生物兵器に動く死体に怪物! あいつらとは違う。そうやって気取ってたお前たちは奴らと何ら変わらない化け物なんだよ!!!」
「お、俺……」
サヨの体がガクンと地面い落ちた。宇学用になった自分の両手を、彼はまじまじと見つめた。
「サ……ヨ……」
「ハハハハハ! 何を落ち込んでいるんだ? お父さんに話してみなぁ?」
「お、と……」
「だぁって! そうだろ!? お前は俺の細胞から作られた存在! お前の兄もそうだ! お前たちは……俺に作られた破壊兵器なんだよ……」
男は、がくがくと震えるサヨの髪をつかみ上げると、頬を思いっきり殴った。
「ぐ!」
「はは! 兵器は殴り心地が悪いなぁ!」
ソウジはサヨの頭を踏みにじりながら笑う。
空に暗雲が立ち込め始めて、ぽつぽつと雨が落ち始めた。
「兵器には何も守れない。いずれお前はそれを知ることになる」
地面に倒れたままのサヨを蹴り飛ばして、ソウジは叫ぶ。
「いずれまた会おう、人型破壊兵器諸君」
げたげたと笑いソウジは去っていく。ぞろぞろと去っていくアーミーの軍団を、四人はただ見つめるしかなかった。
空から降ってきた水滴が、腫れたサヨのほほを叩いた……。
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