第二十一話 ナイトとネオンぶつかる二人

「「「恋連乱!」」」


 三人の声が重なって黄金の光線が夜空に向かって飛んで、ほどけるように弾けて消えた。


「く」


「はぁはぁ……」


「ダメか!」


 三人はスズラン市から離れた原っぱの上に着陸して、息を荒くした。


 アサヒの使う恋連乱の取得は、三人で協力して行うこととなった。


 三人がそれぞれに力を流し、エネルギーの循環によって果てしなき力を生み出す。三人の魔法少女の究極の奥義。


「息はあっているはずなのですが……」


「何かが足りないんだな……」


 プレイヤーの言葉にナイトが答えた。ほほを伝う汗を拭ってカミリアは荒くなった呼吸を整えた。


「でも、着実にできるようになってきてる……」


「えぇ、そうですね、次はきっと!」


 三人は顔を見合わせて、その時ハッとした。


「この気配……」


「ワクナーイッ、いや、もっと重たい、この感覚は……」


「魔法少女アーミー……」


 カミリアが重々しく呟いた。同じ魔法少女として、わかる。一つではない。いくつもの気配が重なって感じる。三人は顔を見合わせて頷いた。


「いくしかない」


「未完成で、ですか?」


「だったら」


 プレイヤーの言葉をカミリアが遮って、三人は同時に笑った。


「「「実践で完成させる」」」


 声が重なって、三人は駆け出した。魔法少女として自身の力を示すために。






『ようやく来たぜ!』


『逃げたんじゃなかったんだな!』


『ハハハ! 性懲りもなくきあがった!』


 三人が広場に駆け付けるとアーミー達がケタケタと笑いながら出迎えた。先程まで玉のようににじんでいた汗はもう引いている。


 虚空から剣を抜いて、ナイトは宣言する。


「今までの俺たちとはちょっと違うぜ?」


「全員まとめて倒すから!」


「あなたたちを除いてこの街を救う……!」


『ハハハ! 馬鹿が!!』


『お前らが俺たちにかなうかよ! 行くぞ!』


 アーミー達が雄たけびを上げた。


 三人の魔法少女を十数人の軍団が叶う。ピりつく空気の中、まるで波のように三人が動いた。




 至る所で爆発音がなる。


 アーミーが生み出す黒い軍団の波の中でピンクの、藍色の、赤い光がはじけアーミー達が吹き飛ばされる。


「すげぇ! 対処できて来てる!」


 ナイトがアーミーとのつばぜり合いを制して、アーミーを蹴り飛ばしてから叫んだ。


「えぇ! 行ける! これならやれます!」


 プレイヤーや笛を吹いて雷を落とす。ドラゴンのようにうねる雷撃がアーミーをうがった。


「すごい……二人がすぐ隣に感じる。コレはトレーニングのおかげ?」


 疑惑を感じながらもカミリアはレイピアで旋風を巻き起こした。


 かまいたちがアーミーを退けてカミリアは自分の腕を見た。


「今ならやれる! 一気にせん滅するぞ!」


 ナイトの合図で、三人は同時に飛び上がった。アーミー達が空を見上げて、三人は空中で手をつないだ。


(二人を……隣よりも近く感じる……)


「行くぞ!!」


 銀色の光が束ねられていく。


「「「恋連乱!!」」」


 三人の声が重なって、銀色の光線が放たれた。音もなく放たれた光の束は地面を揺らして空気を焦がす。


 魔法少女軍団が煙となって消え失せる。三人は、十秒以上も空中に静止して、ゆっくりと無傷の広場に着地した。三人が力を込めてはなった力はアーミー立ち飲みを薙ぎ払い完全に世界を浄化した。




「……強くなったつもり?」


 鈴のような声がして、三人はその方向を見た。


 ツインテールの魔法少女……ネオン。


「……レイジ」


「ネオンだ」


 ナイトが一歩前に出て、二人はにらみ合った。


「二人は……下がっていてくれ、あいつとは……俺一人でやりたい」


「昔ならともかく、今のあんたが私に勝てるとでも?」


「やってみなきゃわからない」


 風が吹いて、二人はしばし見つめ合った。


「今ここで、貴方を倒す」


 空気が張り詰めたように静かになった……。


 明確な合図があったわけではない、しかし、二人は同時に地面をけった。






「「はぁあああああ!!!」」


 黒とピンクの軌跡を引いて、拳がぶつかった。


「ネオンッ!!」


「ナイトォ……!」


 爆発のような音が響いて二人は同時に距離を取る。ネオンが腕を掲げるとピンク色の光がナイトに襲い掛かる、それをナイトは虚空から取り出した剣で叩き落して、剣を振りかぶって地面をける。


「ッ!」「はぁッ!」


 ピンク色の薄い壁と、黒い剣がぶつかって火花が飛び散る。二人は壁越しにしばらくにらみ合って、同時に同じ方向に飛んだ。


 ナイトは剣を手放して拳を、ネオンはバリアの範囲から出て足を上げる。


 蹴りと突きが空中で交差して、再び二色の光が弾けた。


 双方吹き飛ばされて、二人はそのまま後退する。肩で息をしながらにらみ合う。


「さっさとくたばれよ! ナイト……いや! サヨ!」


「ふざけんな! お前の心中もわかんねぇまま死ねるか!」


「前線から退けってんだ!」


 ネオンは激情を押せて叫ぶ間も攻撃の手を緩めない。勿論ナイトもそれに答えながらも反撃をやめない。


「それが何でかわかんねぇからできねぇんだろ!」


「それを言ったら意味がないだろ!!」


 ハートをかたどった杖と、黒い剣がぶつかった。二人の顔が一気に近づく。


「ふざけんな! 自分勝手なことばっかり言いあがって! そもそも!」


「なんだ!? あ? 似合わないってか!」


 ネオンの声にさらに強い感情が、怒りが込められる。


「俺の! 私の思いも知らないで!」


 ネオンは剣をはじいてナイトを押し倒して馬乗りになった。


「ぐぅ……ッ!」


「俺がかわいいものにあこがれちゃだめかよ! このッ! デリカシー皆無野郎が!」


「……」


 ネオンはナイトの顔を思いっきり殴った。


「私だって……お前たちみたいに!」


 今度は、逆のほほを殴る。


「魔法少女になりたかった! 可愛く……ありたかった! でも! 無理だろうが! 怪しいと思っててもこうでもしないと!」


 小さな、それでいて兵器にも等しい力の乗った拳が何度も何度も、何度も何度もナイトを穿つ。


「それに……俺はッ!」


 怒りの声は震えた弱弱しいものに変わっていく。最後に振り下ろされた腕は、あっさりと片手で受け止められた。


「ふざ……けんなッ!」


「!」


 ネオンの体が腕を起点にたたきつけられて形成が逆転する。


「勝手に抱え込むなッ!」


 今度は、ナイトがネオンに馬乗りになった。


「魔法少女になりたいって願望も……、お前がまだ何か隠してる秘密も……! 全部俺に相談すりゃあいいだろ!」


「それができないから! こうやってお前らの心折に来てるんだろうが!」


 ネオンはナイトの足をつかむとそのまま立ち上がって地面にたたきつけて、そのまま首を締めあげた。


「あぐぅ……!」


「できるわけないだろ! 好きなものも! あのことも! 話せるはずがない! 関係が変わるのが怖いから! 変にみられるのは怖いから……! お前らが大切だから!」


「くぅ……なら……!」


 腕がつかまれてゆっくりと持ち上げられる。


「な!」


 ばねのようにナイトの体が動いて持ち上がったネオンの腹に足が鋭く突き刺さって、ネオンは地面を転がった。


「ならなおさら……話しあがれ! 友達が大切なのは……お前だけだとでも!?」


「黙れッ……!!!」


 肩で息をしながら、二人は駆け出した。


「お前の在り方を……あんな方法で俺は否定……されたくないんだッ!」


 ネオンがナイトの頬を鋭く殴った。二発目は腕によって阻まれる。


「何があったか! 何を隠してるのかは知らねぇが! どっちにしても! 抱え! 込むな!」


 次はナイトがネオンの頬を殴った。激し音が響いてネオンはよろめく。それにさらに追撃して逆のほほを殴る。


「俺がかわいくなりたいって相談したところでお前に何ができた! それと同じことだ!!」


 ネオンはよろめいたところから再びナイトを殴る。腹部を強く殴られて、ナイトは顔をゆがめた。


「わかんねぇ……」


「は?」


「何ができたかなんてわかるはずないだろ! だけどなぁ! そうやってダメだって腐るよりよっぽどいいだろ!」


「きれいごとだ!!」


「何が悪い!」


「きれいごとじゃあ当事者は救えない! サヨ! テメェじゃテメェは救えないんだよ!」


「じゃあお前らが救ってくれよ!」


「なに?」


「お前たちに支えてくれって言ってるんだ!」


「……なんだよそれ……そんなの。めちゃくちゃだ……でもお前は、そういうやつだよな……」


 ネオンはあきれたように、そして過去を懐かしむようにそう言った。


「茶化すなよ」


「茶化してねぇよ……」


 顔を合わせて、笑って、頷く、でもそれは直ぐに真剣なものに変わる。


((ここですべてを……ぶつけきる!))


「サヨォオオオオオオオオオ!!!」


「レイジィィィィイイイイイ!!!」


 二人の拳が真っ直ぐ伸びて互いのほほを打ち抜いた。二人は同時に倒れこんで。次の瞬間そこではレイジとサヨが肩で息をしていた……


「……」


「……」


「ふ……ははは」


「ハハ……」


 少しの無言が過ぎた後、二人は同時に笑い出す


「「アハハハハハハハッ!」」


 それは大きくなっていき二人は大声で笑った。


「こう言うのを友情っていうのかな?」


 遠くで見ていたカミリアが、となりのプレイヤーに尋ねたが、プレイヤーは肩をすくめると鼻で笑った。


「いいえ……ただおバカなだけでしょうよ」


 しかし、その目は優しく、何の意味もなく笑う彼らを二人は少し離れたところから見ていた。




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