第二十話 ハレノアサヒとハレノソウイチ


「逃げられたようだね。ネオン、いや? アマミヤくんかな?」


「……」


「つれないなぁ、もっと雑談に付き合ってくれてもいいじゃないか」


「すみません。でも……」


「分かっている。君も大変だろう」


 青年は優しく、レイジの肩に手を置いた。青年は重たい口調で続ける。


「それでも君は戦うんだ。平和のために。親友の為に。あのソウイチを除くためにね。そのための力だ」


 青年の言葉に、レイジはピンク色のブレスレットを優しく振れた。


「俺は、今一つあなたのことが分かりません、でも……あいつらのために、やりますよハレノさん」


「ソウジと呼んでくれても構わぬよ」


 青年。ソウジはレイジの背中に優しく話しかける。立ち上がり歩き始めた。レイジの背中には重たいものがのしかかり続けていた。










朝の木漏れ日が窓の外から入って来て、電気すらついていないカフェの店内を照らした。


そして、二階から誰かが下りてくる音に三人は同時に顔をあげる。


「兄ちゃん」


「アサヒさん」「もう大丈夫なのですか?」


「三人とも……うん。大丈夫……ありがとう」


 やわらかい笑顔を浮かべて、下りてきたアサヒは店内を軽く見まわした。


「ソウイチさんは?」


「やることがあると仰って上に行ってしまいました。ご一緒ではなかったのですか?」


「うん……えっと……ソウイチさんから、何処まで聞いたの?」


「ワクナーイの生まれ方……そして初めの魔法少女が兄ちゃんだってこと」


「そこから導き出される結論は……僕たちはワクナーイと似たような力を持つ存在。人が人知を超えた力を持った結果が魔法少女……なんだよね?」


「……うん。そうだよ」


 含みの持った言い方だった。しかしサヨ達はそれに対して消して深くは踏み込まない。




「なぁ、兄ちゃん……お願いがあるんだ」


 少し間をおいて、サヨは口を開く。


「俺たちに、あのすごい力の使い方を教えてくれませんか?」


「恋連乱……同じ魔法少女なら……できるんですよね? 僕らにも」


「……ねぇ、君たちはさ、どうして、そうまでして戦おうとするの?」


「何度も言ったろ? 俺は、この街に生きる人を救いたい」


「僕はサヨ君を守りたいんです」


「俺もツバキと似ています。大切な人の為に、俺は闘っています」


 アサヒは、三人の目をまっすぐと見てからうなずいた。


「わかった。三人に、教えるよ……みんな今からは、無理だろうし、一度しっかり寝てから始めよう」


「いや!」「我々ならばすぐにでも……」


「無理はしない。それに厳しくいくから、せめて今は休んでよ」


 クスッと笑うアサヒの目はどこかわかっていなかった。


 三人は顔を見合わせて生唾を飲み込んで頷いた。








 絶対に守ると、そう誓った。


 あの日、地下施設から逃げ出したあの日、サヨを弟として育て、死んでも守りぬくと誓った。


 アサヒは、自分で入れたコーヒーの中を見つめてから目を閉じた。


「起きてきてたんだ」


「ソウイチさん……」


「三人とすれ違ったよ……。なぁ、アサヒ、ちょっといいか?」


「ダメです」


「ダメって……えぇ……」


 普通断るか? と言う声を出すソウイチを横目に、アサヒはコーヒーで口を湿らせた。


「聞きたいことはわかってますから……あの話を、するかどうか……ですよね?」


「……その通りだ」


 ソウイチはカウンター席に座っていたアサヒの隣に座ると深くため息をついた。


「話すべきじゃ、ないですよ……あんな事を話したら、あの子たちのアイデンティティが……根本から……」


「そうか……いや、その通りだ」


 ソウイチがゆっくり頷くと沈黙が訪れる……。


「アサヒ、あと何回戦闘状態になれる……?」


「あと、一回。それが活動限界でしょう……」


「……」


「わかってます……もうあの姿にはなりません」


「なら。いい……」


「はい……」


「すまない、俺が情けないばかりに」


「それ、もう言わないって約束ですよ?」


「あぁ、そうだったな……」


「ソウイチさん」


「? なんだ?」


「僕、感謝してますから……お父さん」


「俺は……」


「何も言わないでくださいね……僕にとっては、お父さんはソウイチさん一人です。だから……」


「だから。負けませんよ。あいつには、少なくとも絶対に……例え自分の命を犠牲にしても……」


「それが、人型NOVU、私に与えられた……唯一の」「唯一、ではないぞ」


 震える声で何とかそんな言葉を絞り出すアサヒの言葉を、ソウイチが遮った。


「お前は、お前たちは俺の家族だ……」


 消えそうなほど小さな声であったがその声はよく響いた。


 誰も知らない二人だけの会話の裏には、知られてはいけない物語がある。二人はもうそれ以上何も言わず時計の秒針が前に進むのを聞いていた。






「ういっす」「ふぁぁああ」「おはようございます。アサヒさん、ソウイチさん」


 そうやって二人が過ごしていて数時間、サヨ達が降りてきた。目元をこすり体を伸ばす三人は体をならしながらテーブル席に着いた。


「起きてきたね。三人とも……」


 カウンター席から三人を見てアサヒは息を吐いた。


 彼らに隠し事をしている。しかもそのセリフは……。


 アサヒは脈打つ自分の胸がズキズキと痛むのを感じていた。


「本当に、付いてくる覚悟はあるの?」


 彼らをこのまま戦わせてもいいのだろうか? アサヒはそんな施行にとらわれながらも訪ねる。


「もちろんだ」


「やってみせるよ」


「どんなに厳しくてもついていきます」


 三人が順番にうなずくのを見てアサヒもまた覚悟を決める。いざという時は……自分が……。


「まず、魔法少女の力とは、自分の思いによるものなんだ」


 それからアサヒはゆっくり語り始める。アサヒの力の極意を……。時間をかけて、まるで、遺言でも残しているかのように……。

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