第十九話 始まりの魔法少女
破滅の光が三人に向かって飛んでくる。ソレは、三人を射殺す
ことはなかった。
「!」「だ。だれだ……?」
三人の前に、何者かが立っていた。
青い髪が風に揺れる。黒い服にミニスカート。シスターのコスプレを思わせるその恰好には明らかな既視感がある。
片腕を掲げて光の槍を弾き飛ばす人知を超えた力その力。
「魔法少女……?」
「恋連乱!」
光の槍がはじけて消えて、続いて光がネオンを吹き飛ばした。地面を転がったネオンが叫ぶ
「誰だ!」
月明かりに顔が照らされる。
「!」
見覚えがあるその顔にナイトの頭はいよいよをもってキャパシティーの限界を超えた。
見覚えのない魔法少女が三人を素早く持ち上げて飛んだ。
魔法少女たちが消えたのち、一人残されたネオンはその後姿を見つめてから、夜の闇の中に消えた……。
スズラン市、人目につかない場所にあるカフェの前に三人は少し強引になげだされた。
「う」「っ」「いた。」
三人はカフェを背中に、シスター服の魔法少女を見上げて、サヨが真っ先に立ち上がった。
「兄ちゃん……だよな?」
ナイトよりも少し大きい影を見上げて尋ねる。
初めは視線をそらしていたその魔法少女はあきらめたように指を鳴らした。
青い光が彼の体を包んでそこに立っていたのはサヨの兄。アサヒだった。
「やっぱりにいちゃ」
「!」
[兄ちゃん!]
まるで貧血のように倒れそうになったアサヒをサヨは支えた。
「大丈夫ですか?」
「きゅ、救急車……とか」
後ろであわてて、ツバキとユウマが駆け寄った。
辛そうに浅い息を繰り返すアサヒにどう対処すればいいかわからない。
「それに関しては。俺から話そう」
カフェの扉が開いた。
スキンヘッドの大男。
「ソウイチさん?」
ツバキがその名前を呼んで、三人はようやくそこがどこであるか気が付いた。
「サヨの家のカフェ、そうですか、いつの間にか随分と遠くに飛んだのですね」
「……レイジくん以外は全員揃ってるか」
ソウイチは四人を見回すと頭の後ろに手をやって頷いた。
「三人とも座ってなよ。俺はアサヒを上に連れて行くからさ」
「俺も手伝う」
「いや、サヨはお茶でも入れてやってくれ」
「わ、分かった」
ソウイチは両手でアサヒを抱えると三人の後から店に入っていった。混乱し続ける頭はうまく機能しない。
サヨが入れたお茶から上がる湯気を三人はぼんやりと眺めていた。
「アサヒは……お前たちのいうところの初めての魔法少女ってやつだ」
三人の向かい側に座ったソウイチはゆっくりと口を開いた。
暖色系の明かりの下、重たい口調で語り始める。空調の音が妙に大きく聞こえる。
「愛の魔法少女ラブ。ある一定の条件を満たした者は、人知を超えた力をふるうことができる。それが、魔法少女だ」
「一定の、条件とは?」
ユウマが気になったことを尋ねた。三人の視線がソウイチに集まる。
「……ダメだそれは言えない」
「どうして!」
勢い良く立ち上がったツバキが刃物を突き付けるような厳しい口調で尋ねた。
「すまない……。私の……覚悟不足だ。魔法少女の、世間の呼ぶワクナーイの『起源』を知りながら、それを伝えることができない……無力な俺を、どうか……」
ソウイチは座ったまま深々と頭を下げた。
「お、おい、よしてくれよ……」
「わかりました。でしたら質問を変えます。ツバキもそれでいいですね?」
「……わかった。ごめんなさい、ちょっと、あつくなって」
サヨを見てからツバキも頭を下げた。
「では、聞きますが……ワクナーイとは何ですか? スズラン市にある、『水』に関係が?」
「水?」「……?」
「ユウマ君は、そこまで知ってるんだね」
「お、おい、何の話だ?」
「スズラン市、CMタワーの地下には、不思議な液体が存在する。不思議な作用がある液体。その実験によって生み出された生物型兵器。それがワクナーイ……だ」
衝撃の真実が告げられて、サヨたちは言葉を失った。
「生物型兵器。兵器というくらいには開発者がいるはずです」
ワクナーイの事実を知る人物と、ワクナーイの開発者。答えは明確であった。しかしサヨの理性は、その事実を容認することを拒む。
「な、なぁ……」「俺は、その兵器の開発者の一人だった。元は、別の目的だった。その過程で生まれたのが」
「魔法少女……兄ちゃんってことか」
徐々に点がつながっていき、本筋が浮き彫りになっていく。
「あぁ」
「ワクナーイ。いや、特殊な液体から生まれる生物型兵器、そしてその過程で生まれた魔法少女。ですか」
静まりを打ち破ったのはサヨだった。椅子を鳴らしてそのまま立ち上がり後頭部をかくサヨはうつむいたまま口を開く。
「悪い。頭冷やしてくる」
「サヨ……」
「……」
後ろにソウイチの声を聴きながら、サヨは店の外に出た。
「夜は冷えるな……」
いくら熱くなり始めたとはいっても夜はさすがに寒い。
海辺ということも無論あるであろうがやはり日の光がない夜は冷え込む。
体を伸ばしてサヨは歩き出した。
「サヨちゃん!」
「ツバキ」
ツバキに後ろから声をかけられて、サヨは振り向いた。
「ユウマもか」
「はは、酷いですね。俺はついでですか?」
「冗談だ。悪いな……追いかけてきてくれたのか」
「そんな余裕があるなら大丈夫そうだね」
ユウマとツバキが笑って、それにつられてサヨも笑った。
「俺さ、一瞬思ったんだ。もしかしたら、俺って、俺たちって、ワクナーイと、何も変わらないのかなって」
「……」
「でも」「違う。そうでしょう?」
ユウマはそう言ってニ歩ほど前に進み出てサヨの顔を覗き込んだ。
「あぁ、俺達は」「あいつらとは違う! こうやって正しいことに力を使ってる時点でね!」
今度はツバキが後ろからサヨに飛びつく。
「なんだよ。言いたいところもって行きあがって。でも、その通りだ。俺達は特殊な力を使う兵器なんかじゃないからな」
そのアイデンティティが揺らぐ事は無い。三人はそう信じて。笑っていた。
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