第十五話 その名前は魔法少女ネオン

 土煙が立ち込める。何があったか、何が起きたか。理解ができない。


「警戒を緩めんな!」


 ナイトが叫んだ。後ろで二人が武器を握りなおした気配がした後で少し遅れて笛の音色が響く、ユウマだろう。優しい風が生まれて煙が晴れる。




 小柄な影が立っていた。唐突な乱入者にだれもが驚愕する。


「魔法少女」


 誰かが、小さな声でつぶやいた。


 小さな体、桃色のローファー、白いフリルがあしらわれたピンク色のスカートがふわっと揺れる。


 細くて白いおなかは丸出しで、胸と首元をリボンとフリル山盛りの衣服が覆っている。腕を白い布で隠し、目元は意志の強そうな釣り目だが幼い雰囲気が残る。ピンク色の髪の毛はツインテールでそれがさらに幼さに拍車をかけている。


 ナイトたちと同一の存在。魔法少女。その姿を端的に表すならばまさに魔法少女。ショーやアニメ、漫画などで姿を見る魔法少女そのものだ。


「……」


『なんだ? てめぇは』


 その魔法少女は三人を一瞥するとアーミーたちをにらんだ。


 細い腕が掲げられてピンクのブレスレットが光を受けて瞬いた。


 ピンク色の大きな光の塊が空中に表れてそこから生まれた光がアーミーたちを打ち抜く。


「!」


「これって……」


「味方なのか……俺たちの」


 ツインテールは光を使って襲い掛かってきているアーミーたちを倒している。月光を浴びながら戦うその姿は、まさに正義のヒーロー。


「滅茶苦茶つえぇ! よし! 今なら行ける!」


「見てるだけじゃありません! 俺たちも!」


 プレイヤーが叫ぶ。その瞬間、プレイヤーの体を小さなこぶしが射抜いた。


「あがッ!」


 プレイヤーの体がアーミーの隙間を潜り抜けて壁にたたきつけられた。


「なに!?」


「どうして!」


 体勢を立て直そうとするツインテールにカミリアがレイピアを突き立てる。


 空気を何かが切る。レイピアが、吹き飛ばされたのだと認識するのにはしばしの時間を要した。


「いっ」


 けり上げられた腕を抑えるカミリアをツインテールがつかんでなけ飛ばした。なすすべもなく吹き飛ばされたカミリアが屋根の向こうに飛んでいく。


「カミリア! クッソ! お前! 何が目的なんだ!」


 叫ぶナイトに、ツインテールが詰め寄って押し倒した。


「そこでみてろ」


 鈴のような少女の声、思わず聞きほれてしまうような声が、どこかで聞いたような口調で話す。


「まさか……!」


 ナイトの気付き、その間、とびかかってきたアーミーをツインテールが殴って叩き潰した。


 その魔法少女の力で、アーミーの数は半分ほどまでに減っていた。


「私は戦う。たった一つのために」


『ふざけるな! お前! なんなんだ!』


「魔法少女ネオンそれが私の名前」


 リボンの飾られた胸の前に手を置いて、名乗る少女の声は、とても穏やかで、軽やかだった。


 鋭く、冷たい瞳がアーミーを打ち抜く。


『ふざけるな! 行くぞ!』


「おい! お前!」


 ポンっと肩に置かれたナイトの手を振り払って、ネオンはアーミーの群れに突っこんでいく。


 黒い影が爆裂して霧散した。あっという間にアーミーの軍団を片付けて。ネオンはゆっくりと振り向いた。


「お、おまえ……」


「ハレノサヨ」


 弾むような、アイドルのような可愛らしい声だった。しかしそれでいてその語り口調は恐ろしく平坦で、その矛盾がサヨの心を逆なでする。


「……」


 生唾を飲み込み、言葉の続きを待つ。


「お前の時代は終わりだ」


「何が言いたい」


「お前達にはもう魔法少女はやらせない。さもなければここで……」


「ナイト!」


「大丈夫!?」


 遠くから声が飛んできて、足音が近づいてくる、二人の魔法少女が戦線に復帰しようとしている。


「今日はここまで……じゃあね」


 ネオがゆっくりと後ろに下がって飛んだ。


「大丈夫ですか?」


「あの子……」


 カミリアとプレイヤーが隣に並ぶ。


「魔法少女同士で?」「複数人の魔法少女が?」


 あたりから声が聞こえる。熱は冷め、あたりから疑念の声が飛んだ。






「素晴らしいよ、今はネオンと呼んだ方がいいかな?」


 薄暗い部屋で、青年は手をたたいた。


「大げさだ。私は。ただ……」


「ハレノサヨ。彼のためだったね」


「……」


「大丈夫、コレは彼らのためなんだ。ユキムラ君、クモリ君、ハレノ君やこの街の、世界の、アマミヤ君のためになる」


「私は……」


「健闘を祈るよ、ネオン」


 青年が、ネオンの背中を叩く。


「全ては、平和のために。だ」


 青年の言葉が、静かに反響した。






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