第99話「そんなことも知らないのか」
山野と大前は休み時間に不死川に話しかける。
「なあなあ、いっしょにダンジョンへ行ってみないか?」
と山野が珍しく人のいい笑顔で話しかけた。
「ダンジョン?」
不死川はきょとんとしている。
「ああ。何なら俺と大前で教えて面倒見てやるよ。キャリーってわかる?」
という山野の言葉に彼はゆっくりうなずく。
鈍感でウスノロだな、と山野は内心不死川をバカにするが、言葉には出さない。
教室内には同級生たちの目があるので、疑いを持たれるような発言はひかえなければならなかった。
すでに甲斐谷や烏山に疑われている、と山野は夢にも思っていない。
「ダンジョンで稼いだら女子たちにモテモテになろうぜ」
山野と大前はかわるがわる不死川に言う。
「何で不死川なんだ?」
近くで話を聞いていた村上が疑問を口にする。
場合によっては止めるべきかと思案している表情で。
「何となくだよ。ひとりじゃ心細いならつき合ってやろうかなって」
と山野が「余計なことを」という感情を殺し切れていない顔で答える。
「俺はべつにかまわないけど」
と不死川は周囲の予想に反して、何でもなさそうに言った。
「じゃあ決まりだな!」
山野と大前は一瞬だけ意外な顔をしたものの、すぐに話をまとめにかかる。
村上以外の人間に横やりを入れられたくなかったからだ。
放課後、山野と大前と不死川は三人で学校からそんなに離れていない『須賀川ダンジョン』に向かう。
近くにダンジョン管理局の支部が存在している、初心者向きの場所だ。
「へー、ダンジョン管理局もあるんだ」
と不死川が感心すると、山野と大前が笑う。
「お前、そんなことも知らないのかよ」
「ダンジョン管理局が近くにないと不便だし、危険も大きいだろ。いざってときの救援が来ない」
山野と大前は知らなかった。
ダンジョン管理局があるのは危険が低いダンジョンの近くにあるだけだと。
トップ層が命がけで挑む上級者向けには無縁な世界なのだと。
「なるほどー」
不死川が「俺が知ってるのは救援が来ないタイプのダンジョンか」と納得する。
自分の知らないパターンのダンジョンがあるのは新鮮で素直に驚く。
「何も知らないんだな。俺らが教えてやるから安心しろよ」
と山野と大前はニヤニヤして言う。
彼らはべつに不死川を死にそうな目に遭わせようとは思っていない。
陰キャならきっと戦力1のザコモンスターにビビって、醜態をさらすはず。
そんな無様で情けない様子を笑ってやろう。
何なら顔以外の部分を撮影するのも悪くない。
というのがふたりの企みだった。
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