第98話「山野と大前」
「くっそー、最近は全然視聴者数が伸びねえな!」
山野は舌打ちすると、自宅のベッドに勢いよく寝転がりながら、スマホを床に放り投げる。
「話が違うじゃないか、山野。俺らもっと稼いで人気者になれるんじゃなかったのか!?」
そんな彼に対して大前はイラつきを抑えられず、声を荒げて問いをぶつけた。
彼らの目標は人気ダンジョン配信者になって大金を稼ぎ、女子からモテモテになることだった。
口うるさい親だって大金を見せれば自分たちを見直す。
冷たくあしらってくるクラスで一番可愛い烏山、二番目くらいに可愛い楠田、甲斐谷たちも見る目を変える。
そんな身勝手な夢は一向に実現する気配がないことが、大前には不満だった。
「くっそー、アマテルのせいだ!」
山野も本音は大前と同じだったので、奥底にためていたうっぷんを吐き出す。
「何なんだ、あいつ!?」
彗星のごとく現れて話題をかっさらっていった配信者。
あの圧倒的な強さはさすがの山野と大前にも理解はできるので、実力を疑うようなことは言わない。
「何で俺らが登り調子だったタイミングで出てくんだよ、ふざけんなよ」
だが、抑えられないものは抑えられない。
彼らは客観的に見て下位に属していたのだが、自己評価はかなり高かった。
そのせいでアマテルさえいなければもっと上にいけていたはずだ、と本気で信じている。
「一方で不死川は全然はじめないな、ダンジョン配信。はじめたら笑ってやろうと思ってたのによ」
と山野は舌打ちした。
彼は不死川がきらいである。
さえない陰キャのくせに、なぜか烏山グループ三人と交流があるからだ。
烏山も甲斐谷も山野が勇気を出して話しかけてもそっけないのに、不死川には自分から話しかけているのが納得できない。
「あいつなんて顔も運動も頭も俺より下のはずなのに」
「ほんとだよな」
と大前は全力で同意する。
彼の好みは楠田なので、山野の心情をとても理解できていた。
楠田はほかふたりと違って一応まともな返事くらいはしてくれるのだが、不死川とのあつかいの違いが大きいのは同じである。
「なんであいつだけ!」
とふたりは同調した。
「なあなあ、今度あいつをダンジョンに連れて行ってみないか?」
と山野はいいことを思いついた、と悪い顔をする。
「いや、同意してない奴をダンジョンに連れて行くのは犯罪だろ」
大前は尻込みをした。
ダンジョンは命の危険がある場所なので、許可なく連れ込むのは誰であろうと凶悪犯罪とみなされる。
「同意をとればいいじゃないか」
と山野は何でもない顔をした。
不死川自身さえその気になれば、違法性はない。
あやふやな部分のある制度なのは事実だった。
「そりゃまあそうだけど」
大前も思案顔になる。
もとより不死川に何か仕掛けて溜飲を下げたいという気持ちは持っているのだ。
「じゃあ詰めようぜ」
と山野は言って彼らは悪だくみを練っていく。
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